ちっちゃなかくれんぼ

 ほっ、ほっ、ほっ


 みっつ出した息が、目の前でちょっとだけ白く丸ぅなって消えてく。まだまだぬくいなぁ思てたけど、もう冬が近いんやな。


 金曜日の帰り、ちょい寒いげた箱の前。右手のかばんをよいこらしょ、っと置いて上履きしまってんと、パンパンのかばんがつんつん、てつつかれてん。

「お〜い、あいちゃ〜ん。ホンマにパーティやらんでええのかぁ〜? 今ならまだまにあうで〜?」

 リスみたいな丸メガネが、置いたかばんのほう見てる。 同じクラスの咲ちゃんや。しゃがんで、あたしのかばんに呼びかけながら、また指でつんつん、て。

「こぉら! そないつついたら、止め金はずれてまうやんか」

 メガネが、キランッて光ったような気ぃしたんで、あたしは思わずかばん引っつかんで背中に隠した。

 ‥‥ちぇ、なんて言いながら、あたし見上げてるわ。

 ふぅ。はづきちゃんたちで慣れてなかったら、間に合わへんとこや。ほんま。

「も〜。誕生日になんの用意もせんと、プレゼント全部もろたりするからやんかぁ。
 みんな、パーティで渡そぅ言うてたんやで?」

 そない言うたかて、なぁ。

「誕生日やいうても、こないもらえるなんて思わへんで、普通」

 口とんがらかして、じとーっちゅう目ぇしてる咲ちゃん見てたら、思わず吹き出してしもた。ん〜‥‥しゃあないか。

「それになぁ、その‥‥あたし、ずっとお母ちゃんと離れてた、て言うたやろ? 久しぶりに、いっしょの誕生日したいんや。かんにんな」

 咲ちゃん、ちょいあたしの目ぇ見てたけど、息ひとつはいて立ち上がった。

「そっかぁ‥‥ん。ほな、来年はぱ〜っとやるで。もういらん、ちゅうくらいに!」

 目の前で両手広げてん。はは‥‥咲ちゃんのことやから、本当にやりかねへんな。

「そんときは、よろしゅうな。ほな、あたし先帰るわ」

 言うてる途中、男の子が目の端に入ったんで、あたしはちゃっちゃと靴はいて、かばん持った。

「え〜? もうちょっとくらい‥‥」

 重いかばんの止め金もっかい押してから、

「うしろ見てみぃ。田辺、待ってんで」

 咲ちゃんが振り向いた先、カマキリみたいな男の子がこっち見てる。あたしらだけやと 絶対声かけて来ぃへんヤツやからなぁ。あたしも気ぃ使うわ。

「しゃあないなぁ‥‥ほな、来週なぁ」

 そのまま小走りで走ってく咲ちゃん見送って、あたしは校舎出ていった。あいかわらず、からかってええのか悪いのかわからんなぁ、て思いながら。

「誕生日かぁ‥‥」

 学校出て、商店街に行く道歩いてるとき、あたしは思わず思うてること口に出てしもた。

 ふくれたかばんの外側のポケット、手ぇ突っ込んだらはがきがある。4枚の、バースディカードや。


 みんな、来たがってたなぁ。


 今年の誕生日は金曜やから、そのまま泊まってこうなんて考えてたみたいやけど。

 はづきちゃんは、テストが近いから、てみんなで止めたったみたいやし。

 どれみちゃんも、あたしン家に迷惑やて、お母ちゃんに怒られた言うてたな。

 ももちゃんはカードと、あと手作りのお菓子、冷凍で送ってくれたな。‥‥ちょっと早く着きすぎて、もうぜんぶ食べてもうたけど。

 最後まで粘ったんは、やっぱおんぷちゃんやったなぁ。金曜昼の仕事から、そのまま飛行機で来るとか言うてたけど、土曜の朝に歌番組が入ってもうて‥‥あぁ、あんときは電話口で泣きそうやったなぁ。なだめんのに1時間もかかって。あはははは、はは‥‥ふぅ。


 ま、ええわ。みんなこの空の下で元気にやってんのや。また来年もあるんやし、今年はお母ちゃんと。それでええやんか。

 あたしはバースディカード、かばんに戻して、ジッパーしめた。


 来年まで、このまま持っとこか。

 みんなのこと考えながら商店街の入り口まで歩っとったら、いきなり目の前に影ができた。

 なんやろ、思て見上げんと、美人のお姉さんが立ってん。 和服なんやけど、町で見るようなんとちゃう。これで髪の毛結ぅたら、まんま時代劇の町娘や。

「あ、あの〜?」

 目の前に突っ立ったままあたし見てるんで、軽く声かけたら、いきなりあたしは肩に手ぇ置かれた。

「しばらくぶりでおすなぁ」

 いぃっ?

「どないしはりましたたの?」

 な、なんやこのけったいな言葉は‥‥!?

 あたしが口開けんでいたら、お姉さんの顔がぎゅっ、と締まって、

「‥‥本当にわからないようだな。では、これでどうだ」

 着物のふところからなんか取り出して、あたしの目の前に、ずいっ、て押し出してきたわ。

 お面みたいな‥‥あれ? なんや、見覚えあるなぁ。このお面‥‥あ!

「ひょっとして、マジョリードさんですか?」

 顔上げて言うたら、お姉さんがにやって笑ぅた。

「そぅどす。このあたり来たことある魔女は、うちしかおらへんよって‥‥」

 そういやマジョリードさん、昔はこのへん来てた言うてたっけなぁ。それにしても‥‥あぁ、もう! どこのなまり(・・・)か知らんけどっ!!

「どうでもええけど、その言葉やめてください!
それやったら、東京弁の方がよっぽど目立ちませんわ!」

 あぁ、思わずどなり気味に言うてもうた。ちろっと見上げたけど、マジョリードさんちょっと考えてるだけや、別に気にしてないみたいやな。

「そうか。もう何百年も来ていなかったからな」

 そういう問題ちゃう思うんやけど‥‥まぁええわ。

「そんで、あたしに何か用ですか?」

 服のことも、きっと言うても無駄なんやろうなぁ、思いながら、あたしは半分投げやりに聞いてみた。これでくだらない理由やったら、どないしたろか‥‥

「うむ。それがな‥‥」

 ‥‥なんや? あごに指あてて。えらい言いにくそうやな。

「それが‥‥ 女王様が、逃げ出した」

 え!?

 あたしは一瞬、目の前真っ白になってもうた。いまの女王さま、っちゅうと‥‥


「ハナちゃんが逃げたやて!?」

「おととっ‥‥」

 家に帰って部屋にかばん放り込んでたら、足がなんか引っかかった。

 なんやろ、て見てみたら‥‥あぁ、ふとん出しっぱなしやないか。今朝のあたし、なに焦っとったんやろなぁ。

「さぁて、どないしょかー」

 マジョリードさん待っとるし、もうじき夕方やし‥‥うん。

 あたしはちゃっちゃと着替えてから、商店街むかって走り出した。とりあえず、寝るまでふとんは見なかったことにしよ。

 商店街の入り口、待ってたマジョリードさんに手ぇ振ったら、なんやジロジロあたし見ながら近づいて来てん。 なんやろ、思てたらそばに来るなり、

「その服は、汚れてもいいものか?」

 ‥‥はぁ?

「え、ええ。そら普段着やから、別にかましませんけど‥‥?」

 まだじーっと見てたけど、ひとつうなづいて、

「そうか。それならいいんだが」

 よぉ見ると、マジョリードさんの着物、ほこりがいっぱいついてるわ。ちゅうことは、汚いとこでも行くんかいな?

 考えとったら、そのままあたしに背中向けて歩きだしてん。あたしは急いであと追いかけてった。



 マジョリードさんについてしばらく歩いてく。

 最初は、商店街まっすぐ歩いとったんやけど、途中でひょい、っと脇の小道に入って。 あとは細い道をひょいひょい、っと‥‥なんちゅうか、この町にこんなとこあったんかー、ちゅうとこ通ってたら、いきなり前が開けた。

 あぁ、ここむかしは街道やった、ちゅう道や。今は大きな道できてもうて、あんま通らへんとこやな。

「ここだ」

 うぉっとっと‥‥いきなり止まるから、ぶつかりそうになってもうたやんか。

 えぇと、ここやて? はぁ、大きな家やなぁ‥‥けどかなり古いわ。こら、汚れるっちゅうより、倒れるほう心配せんとあかんのやないかぁ‥‥?

「心配ない。魔法がかかっているからな。古くても壊れたりはしない」

 あたしはびっくりして見上げてしもた。あいかわらずむすーっとした顔やけど、元老院いうんはダテやないんやな。

 それにしても、なんで中入らへんのやろ? 屋根のほうじーっと見てるけど‥‥

「ここはな、魔法堂になるはずだった家だ」

 へ?

 いきなりやったから、あたしは目ぇパチクリしてもうた。

「私が日本に残っていたなら、な‥‥
 いや、くだらぬ話だ。すまない」

 頭ふってそのまま家に入ってった けど、あたしはそのままは少しだけ、家の上のほう見てた。


 古いかわら屋根に、「MAHO堂」の看板が見えるような気ぃしたんや。

 家に入ると、マジョリードさんはすぐ奥の方に歩いてった。

 覚悟はしてたけど、やっぱほこりだらけやな。

「これだけは、どうにもな。‥‥さぁ、ここだ」

 目の前に、これだけ洋風のとびらがあった。MAHO堂にあったんとおんなじや。

「開けるぞ」

 マジョリードさん見て、あたしはうなずいた。 とびらが音たてて開いてって‥‥

「ん‥‥ん?」

 てっきり、魔女界につながってる思たんに、見えたんは普通のろうかやった。

 せやけど、なんや見覚えあんなぁ‥‥ ありゃ? 妙に見慣れたもんもあるし。まぁるいもんが、ぴょこぴょこ‥‥って!?

「あああぁぁあっッ!!」

 ぴょこぴょこ動いとった丸いだんごが、ひょいっと遠くに下がった。

「いったいなぁ、もう。そんな大声ださなくてもいいじゃん!」

 ほこり払いながら立ち上がってきたんは‥‥あぁ、間違いないわ。

「どれみちゃんやないか!?」

「そうだよ。こっちはMAHO堂なんだけど、あいちゃん魔女界にいるの?」

 ぜんぜん変わってへんなぁ。まぁ、まえ会ぅてから数ヶ月やけどな。

「そうやない。マジョリードさんが、むかし大阪に作ったMAHO堂や」

 あはは。目ぇまんまるにしとるわ。そらそうやろな。

「そっかぁ‥‥ぶわっ!?」

 いきなりどれみちゃん吹っ飛ばされて、丸いメガネがせまってきた。

「あいちゃん! ハナちゃんは!?」

 ありゃ。先に訊かれてしもた。あたしは頭ふって、

「‥‥っちゅうことは、そっちも行ってへんのかぁ」

 あぁ、はづきちゃんが肩おとしてもうた。

 ん〜弱ったわ。ハナちゃんなら、きっとどれみちゃんとこやと思たんやけどなぁ。 そやけど、

「だいたい、なんでハナちゃん逃げ出したんやろなぁ」

 あたしが言うたら、はづきちゃんがばっと顔上げた。えっ? ちゅう顔や。

「それは‥‥」

 なんやろ、思たけど、

「またマジョリカが余計なこと言うたんかな?」

 そのとたん、目の前が真っ黒になった。

「わしがそんなことするかぁっ!」

 うわっ! いたんかい。

 こっち来ようとしてるんを、どれみちゃんたちが引き戻してるわ。

今回は(・・・)マジョリカのせいじゃないみたいよ」

「うん。今回は(・・・)ね」

 背中でマジョリードさんがため息ついてるわ。

「お、お前ら‥‥」

 マジョリカの肩で、ララがけらけら笑ぅてるし。

「っていうかさぁ、逃げたのきょうってことは、理由は決まってんじゃん」

 マジョリカ背中でおさえながら、どれみちゃんが言うてる。 ん〜。それは考えたんやけど‥‥

「あたし、かぁ?」

 向こうのMAHO堂で、マジョリカ以外みんなうなずいてる。けど、なんか引っかかるんや。 なんで、あたし(・・・)なんやろ‥‥?

「こちらの可能性が高い、ということか?」

 あたしの横から、マジョリードさんが顔出した。とびらの向こうのどれみちゃん、ちょい首かしげてん。

「でもハナちゃん、大阪のあいちゃんの家、わからないんじゃないかなぁ?」

「それは‥‥」

 ん? マジョリカとマジョリードさんが、顔見合わせて言いにくそうにしてんなぁ。

「実はな、先代の女王様が、お前たちの引越し後の地図を描き置いていたんじゃ。道順つきでな」

 先代っちゅうと‥‥あぁ、ゆき先生か。 あの人、天然やからな〜。やっても不思議やないかぁ。

「それじゃ、とりあえず家までの道、探そっか?」

 どれみちゃんが、くたびれたような声で言うた。そやな。がっくりしてる場合やないわ。

「そうね。じゃああいちゃん、またあとでね」

「ん。じゃ、またなぁ」

 言うて、とびら閉めようとしたら、はづきちゃんが振り返った。どれみちゃんも、コケながらこっち戻ってきてん。

「ど、どないしたん?」

 あたしが驚いてたら、ふたりでちょいと顔見合わせてから、

「「ハッピーバースディ、あいちゃん」」

 どれみちゃんたちが、笑いながらハモってる。

 背中向けたマジョリカが、手だけひらひら振ってる。

 その上で、ララが笑てる。



 とびらが閉まってから、あたしの両肩に手が乗ってきた。 マジョリードさん、口元だけ笑ぅてる。

「お前は、恵まれているな」

 あたしは、思っきりうなずいた。絶対自信あんねん、これだけは。

 マジョリードさんといっしょに、家まで戻ってみよ言うてたあたしの背中に、声が聞こえた。

「お待ちなさい」

 後ろ向いたら、とびらが光ってる。なんやろ思てると、勝手にとびらが開いた。

 とびらの向こうは、明るぅて広い場所。白い階段の上に、豪勢なイスがある‥‥って、これ、女王様に会うとこやないか!?

「先代女王様!」

 マジョリードさんが、となりでひざついた。あたしもそうせなあかんかなぁ、思たけど、とびらの向こう見てて、その気うせてもた。

 女王様、メガネに白衣のまんま立ってるんやから。

「えぇと、女王様? なにやって‥‥」

「あいちゃん、私はもう女王ではありません。ゆきでよいのですよ。
 マジョリード、あなたも立ってください」

 となりで立ち上がるん見てから、あたしは一呼吸して、

「はぁ。ほな、ゆき先生。そこでなにやってんですか?」

 あぁ、ゆき先生の顔が、女王様の顔になったわ。

「ハナちゃんの行方を探していたのですが‥‥」

 こら、えらいことになったんかな?

「行き先ってねぇ、アメリカかもしれないの」

 あたしは思わず壁に手ぇついてしもた。い、いきなりゆき先生にならんでも‥‥あぁ、もう!

「ええですから、ゆき先生か女王様か、しゃべり方どっちかにしてください! ややこしゅぅてかないませんわ!!」

「あ、やっぱり? じゃあ、こっちにしておくわね。
 さっき来てから、ず〜っと調べてるんだけどね〜。こっちから開けた扉って、実は3つしかないみたいなのよぉ」

 あ、あたま痛いわ。なんや、この軽いしゃべくりは。

「で、その扉、っていうのがね、美空町と大阪と、あとアメリカのももちゃんのとこにあるMAHO堂なわけ。だからねぇ、ひょっとするとそっちかもしれないのよ」

 女王様や思うからあかんのや。これはゆき先生、ゆき先生、ゆき先生‥‥よっしゃ。

「これから、その扉をアメリカのMAHO堂につなげるから、ちょっと見てくれない?」

 あたしは、わかりました言いながら、急いでとびら閉めた。

 ふぅ、てため息が、マジョリードさんと重なってもた。続けて、咳払いも聞こえてきてん。‥‥まぁ、まじめな人やし、な。

 すぐとびら開けようとしたけど、ノブが回らへん。

「今は満月に近くないからな。女王様ほどの魔力がないと、扉は開かないのだ」

 はぁ、そういうもんなんかぁ。ほな、待つしかないなぁ。

 キィ‥‥


 しばらくして、勝手にとびらがちょい開いた。マジョリードさんが開けようとしたら、

「まぁまぁ。今度はリードなの?」

 聞こえてきたのは、覚えのあるの〜んびり声、って、

「リリカおばあちゃん!?」

「まぁ、あいちゃんまで。久しぶりねぇ」

 あいかわらず、マイペースな人やなぁ。そやけど、たしかゆき先生、アメリカつなぐて‥‥

「リリカ、いつの間にアメリカに行ったんだ?」

 あたしの頭の上から、マジョリードさんが言うた。ほっぺたぴくぴくしてんわ。

「なに言ってるの、リード。ここは伊豆の、わたしのペンションよ」

 いぃっ!? さっきマジョリードさん、普通やったらとびら開かへんて言うてなかったか?

「リリカ‥‥ また魔力まかせにこじ開けたな?」

「やぁねぇ。そんな、人を化け物みたいに。
 あ、そうそう。ハナちゃんなら来ていないわよ」

 ははは。なんや知らんけど、リリカおばあちゃんて、えらい人やったんやなぁ。マジョリードさん、びびっとるやんか。

「と、とにかく、女王様は伊豆のほうに行ってないのだな? わかった。なら、少なくとも今日は扉を閉めてくれ」

「もぅ〜? せっかくあいちゃんとも会えたのにぃ」

「これ以上ややこしくするな! し・め・ろ!!」

 怒鳴り声に思わず耳ふさいでもうたけど、リリカおばあちゃんはあいかわらずにこにこ笑てるわ。

「まぁ、怖いわねぇ。‥‥それじゃあいちゃん、またね」

 とびらがパタン、て閉まっても、となりから殺気がしてん。そ〜っと見上げてみたら‥‥うぁ、マジョリードさん、どえらい顔でとびらにらんでんわ。

「‥‥ふぅ。私は、あいこの家まで歩きがてら探すとしよう。あいこはここで、情報を集めてくれ」

 あぁ、一気に疲れた顔になってもうたなぁ。やっぱり‥‥

「リリカおばあちゃんて‥‥ふもっ!?」

 言いかけたとこで、リードさんに口ふさがれてしもた。

「リリカのことはもう言わないでくれ。今日いっぱいは。頼むから」

 なんちゅうか‥‥ この人も苦労してんやなぁ。

 マジョリードさんがこの家を出てってから、どんくらいたったんやろ。

まだ夕日があるから、そない遅くはなってへん思うけど‥‥

 あん? なんや、いつの間にかとびらが開いてるやん。また別の場所とつながったみたいやな。

 まわりの色がこっちとちゃうなぁ ‥‥電灯のあかりやろか? むこう、夜なんかな?

「Yoo-hoo!!」

 うぁ! 開いたとびらに近づいたら、声だけ聞こえてきたわ。今度はなんや!?

「あハハ、ひさしぶりィ。あいチャン、元気?」

 ん?‥‥あぁ、この声。

「も、ももちゃんかぁ!?」

「そう。マジョモンローのいたMAHO堂ダヨ。あいチャンのトコ、MAHO堂ジャないネ?」

 はぁ。たしかに、よう見てみたら美空町のより洋風の作りや。作った場所で、雰囲気変わるんやな。

「ここは大阪や。マジョリードさんが、むかしMAHO堂にしようとしてた家やねん」

 クスクス、っちゅう、ももちゃんらしい気持ちええ笑いが響いた。

「へぇ。じゃァ、  和風のMAHO堂ができたカモしれないんだネ」

 ‥‥けど、さっきっから、姿が見えへんなぁ。

「なぁ、ももちゃん。なんで声だけなん?」

「ん? まぁ、いいじゃナ‥‥ ふ、ふあァ‥‥」

 うぁ、ねむそうな声や。

「ももちゃん、そっち何時なんや?」

「ん〜、もうちょっトで夜中の0時ィ‥‥」

 あっちゃあ。そないに時差あるんか。しもたなぁ。

「遅いんやったら、もう寝ぇな」

「や〜だヨ」

 またそうやって意地張るんやからなぁ。

「ええから寝ぇ! これでももちゃん病気になったら、あたしがたまらんわ」

「でモ、も、チョっとだから‥‥あ!」


 ボーン ボーン‥‥


 ももちゃんの後ろにあった柱時計が鳴った。なんやろ、なつかしいっちゅうか‥‥あったかい音やなぁ。

「Happy Birthday あいチャン♪」

 あったかい時計の音に、ももちゃんの声が重なってきた。

 それといっしょに、とびらの脇から、そぉっとケーキが出てきてん。

「へへへ。あいチャンとつながルって、ユキ先生に聞いたから、急いで作ったんダヨ。やっぱり作りたてがイチバンだもんネ!」

 そら嬉しいけど、ケーキだけっちゅうのは‥‥

「ももちゃん、なんで顔見せへんの?」

「‥‥」

 ありゃ? いきなり黙ってしもた。なんなんや??

「お〜い、ももちゃぁ〜ん」

 返事があらへん。

「なんかあったんか? そやったら、あたしがそっち行って‥‥」

「来ちゃダメ!!」

 うぁっ! び、びっくりした。えらい大声や。

「ごめんネ。でも、顔見タラ、そっち‥‥日本に戻りたくなっちゃうヨ。
 ‥‥だかラ、これだけ。ネ?」


 ふぅ‥‥よっし。

「う〜ん、ちょいと取れへんなぁ。悪いけど、もうちょっと押し出してくれへん?」

 声を明るぅして言うてみたら、ももちゃんもほっと息はいたわ。

「そうなノ? じゃ、よい‥‥ショ」

 そう言いながら、ケーキといっしょにすーっと手ぇ伸びてきた。ほな、せぇ、のっ!

「うぁひゃ!?」

 つっかまえたっ そぉれっ!!

「え? ナニ?なにナニ??」


 バンッ!


「ぶわっ!!」

 あ、あっちゃぁ。ももちゃん、顔かべにぶつけてもうた。

「い‥‥いは()いヨ、あい()ゃ〜ん‥‥」

 あ、あはは。やっと顔見せてくれたももちゃん、鼻のあたま押さえてもうてるわ。

「ごめんごめん。‥‥せやけど、みずくさいこと言うからやで?
 来たくなったらいつでも来たらええやん。そんで困るんやったら、あたしも一緒になんとかしたるわ。な?」

 うんうん、てももちゃんうなずいてる。よっしゃ。

「ほな、これはしまいやな。で、ハナちゃんなんやけど‥‥はなし、聞いてるかぁ?」

 目のあたりタオルで拭いてたももちゃんが、ぱっと顔上げた。

「うん。さっき、どれみチャンたちとつながって聞いたヨ。でも‥‥こっちには来てナイ。
 ワタシ、きょうはず〜っとMAHO堂にいたカラ」

 そっかぁ‥‥あ、ありゃ? とびらのところが、波みたいにゆらゆらしてんで?

「な、なんや!?」

 あわててももちゃん見たけど、平気な顔で笑てるわ。

「あぁ、別の場所とつながっちゃうんだヨ。さっきもそうだったカラ。
 それじゃ、あらためテ‥‥Happy Birthday あいチャン♪」

 ゆらゆら姿が消えてっても、ももちゃんの笑顔、しばらく残ってた。

「あ。あいちゃん

 ももちゃんが消えたとびらの波がおさまったと思たら、目の前によぉ知ってる顔があった。変装用のサングラス、頭にはね上げたまんまの‥‥

「おんぷちゃんやないか。お仕事、もう終わったんか?」

「もっちろん♪ どれみちゃんから連絡があったから、お仕事からまっすぐMAHO堂に来たの」

 まわりには誰もおらんみたいや。みんなも、まだ探してるんやな。

「そっかぁ‥‥情けないけど、こっちもまだハナちゃん見つかってへんのや。もう、あとどこ探したらええんやろ」

 あたしは頭かいて、下むいてしもた。あ〜あ。おんぷちゃんにまで、心配かけとうなかったんやけどなぁ。

「そんなことで弱音はくなんて、あいちゃんらしくないわよ。ひとつうひとつ考えていったらどう?」

 ひとつひとつ、かぁ。うん。

 あたしがうなずくと、おんぷちゃん、右手の指を一本立てたわ。

「ハナちゃんがなにかしてるなら、きっとわたしたちにもわかる理由があるはずよね?」

 そらそうや。ハナちゃんが、そないな変なことするわけがあらへん。変に見えるんやったら、なんか訳があるはずや。

「ねぇ、あいちゃん。何か変なことって、ない?」

 考えとったあたしに顔近づけて、おんぷちゃんがあたしの目ぇ覗き込んでるわ。ん〜、

「変、っちゅうたら‥‥そもそも、なんであたしだけなんやろな?」

「そうよね。あいちゃん()、だったら不思議じゃないんだけど、どれみちゃんのときは会いに来てないんだもの。変よね」

 せや。あたしも最初からそう思てた。他になんやあるんやないか、って。

「それでね、ララに聞いてみたのよ。最近、なんでもいいから変わったことがなかったか、って。そしたら‥‥」

 そこで一呼吸してん。なんや? えらいもったいつけんなぁ。

「そしたら?」

 あたしの顔みて、もう一呼吸してから、

「ミミの元気がないんだって」

 ミミ? ‥‥あ!

「ふふふ。さすがあいちゃん。わかったみたいね。
 それじゃ‥‥はい、これ」

 あたしの手ににぎらせてくれたんは、うすい青のろうそく。数えんでも、5本に決まってるわ。

「さぁ、早く‥‥きゃ!」

 あたしは、思わずおんぷちゃんに抱きついて、ぎゅーっとしたった。

「ほら。わたしとは、またこうできるんだから。ね」

 言いながら、おんぷちゃん、あたしの背中なでてくれてん。

 あたしは、もっかいだけぎゅっ、としてから、ももちゃんのケーキ抱えた。

 あたしのろうそく13本と、おんぷちゃんからもろた‥‥ミミの(・・・)のろうそく5本立てて。

「おおきに、おんぷちゃん。ほな、行ってくんで」

 言うたら、おんぷちゃん笑て親指立ててくれた。

「ん。ハッピー・バースディ! がんばって!!」

「ただいまぁ」

 ももちゃんのケーキ壊さんよぅに歩ってきたんで、ちょい遅くなってもうたな。

 あたしは台所のお母ちゃんのよこ、そーっと抜けて、部屋のドア開けた。



「ハナちゃん?」

 部屋に入って、外に響かんようにそぉっと呼んだんやけど、なんも聞こえへん。

「いるんやったら、出てきてや」

 勉強机にケーキ乗せながら、もっかい呼びかけたけど、やっぱ、なんもこたえ帰って来ぃへん。 昼に帰ってきたときやったら、ここであきらめてたやろな。

 せやけど、いまはちゃう。ここにおる、てわかっとるんや。

 部屋のすみ、ぽこぽこ盛り上がってる、たたみ忘れたふとん。 ‥‥いんや、あたしはちゃんとたたんだはずや。

 あたしは、そ〜っとふとんのそばまで寄ってみた。ホンの少しやけど、上下に動いてる。

「み〜つけ‥‥たっ!」

 ぱっ、とめくったふとんの下で、ちっちゃな子供が寝とん。‥‥もっとちっちゃな妖精、右手でなでながら。

「ハナ女王さまは見つかったようだな。ご苦労」

 ハナちゃん両手で抱き上げたちょうどそのとき、窓のほうから声がした。

 着物姿で、無表情な顔の‥‥マジョリードさんや。 あたしの腕の中から、ハナちゃん右手で軽ぅ抱え上げて、

「ふむ?‥‥他にも、なにかいるのか?」

 ‥‥あ。

「いんや、なんもおれへん‥‥ですよ」

 あたしは、とっさにそう言うてもうた。めくれたふとん、足が勝手に直してる。

「そうか」

 心ン中で冷や汗かいとったら、マジョリードさん、ゴホ、ゴホ、って、妙な咳して、

「ああ、そうそう。あの扉だがな」

 とびら、って‥‥ あの、大阪のMAHO堂のことやろか。なんでいきなり‥‥?

「少し壊れてしまったようでな。あと3日ほどは、小さなものなら通れてしまうだろう。玄関のカギをあずけておくから、悪いが戸締りしておいてくれないか?」

 言いながら、あたしの手に銀色のカギ押し込んだ。美空町のMAHO堂と同じもようのカギや。

「ああ、魔女界に戻ったら注意せねばならんな。
 ‥‥特に、妖精には、な」

 ちろっ、と、あたしの後ろ見てから、マジョリードさん、窓の向こうに消えてった。

 最後にウィンクしたように見えたんは、あたしの気のせいやない。きっと。


 あたしは、ふとんのそば寄って、そっと声かけた。



「ま、ゆっくり寝てってや。ミミ」

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