よぞらのたいおんけい

「おはようさんですー。ぃやー、今日も寒いわぁー」

 実習生用のナース服に着替えて、ナースルームに入りながら、あたしは思わずそう言うてしもた。病棟の中なんやから(ぬく)いはずなんやけど、なんとなーくなぁ。

 正月明け一発目のお仕事なんに、こう寒いとなかなか気合いはいらへんなぁ‥‥

妹尾(せのお)さん?」

「うゃっは、はいっっ!!‥‥痛っ!」

 背中からいつもの声が聞こえて、思わず飛び上がったら、脳天に一発くらってもた。

「驚きすぎです。看護学生って言っても、患者さんから見れば『看護の人』なのよ? もっとシャンとする!」

 痛いまんまの頭上げたら、ナース服ビシッと着たいつもの美人さん‥‥婦長さんや。

 この大学附属病院に、もう10年以上勤めてる、っちゅうのに、ずっと東京弁で通してる名物看護師さんなんやけど‥‥あたしとはソリ合わんのやろか? 他にも実習の学生おるんに、あたしばっかりゲンコもらっとる気ぃするなぁ。

 ‥‥いや、ひとのせいにしたらあかん。婦長さんの言うことは、もっともなんや。シャンとせんとな、シャンと。

 あたしはひと息吸って、ノートを見直した。ええと、今朝の最初の仕事は‥‥3階の病室を朝にするんやったな。窓のカーテン開けて、検温と便の様子を聞いて、変わったことあったらメモってナースルームに連絡、と。よし。

 歩きながらやることさらってたら、いつの間にやら301号の病室が目の前や。あたしはもっかい、大きく深呼吸して、病室に飛び込んでった。窓にかかった分厚いカーテン、シャシャッ、と開けて、

 ほな、今日も元気に、いったろかい!


「おはようさん! 検温の時間やで。ちゃっちゃと済まして、朝飯(あさめし)にしよか!」

 あ痛たたたた‥‥ 毎度のことやけど、痛ったいなぁ、婦長さんのゲンコは。

「あーあ。そら妹尾さん、あんたのタイミングが悪いわ。301号の山内さんは午前に検査やから、朝ごはんなしやもんな」

 夜勤上がりで、さっきあたしと交代したばっかの、准看護師の丸井さんが、あたしの肩ぽんぽん、て叩きながらそう言ってくれたけど‥‥ん〜、それだけやない気もするなぁ。

 山内さん、オレもちゃっちゃと検査も済ませて昼飯食いたいわー、言うて(わろ)てくれたしな。


 ま、考えててもしゃあないか。婦長さんの言葉の反対やけど、患者さんからは同じに見えても、あたしは学生なんやから。まず体で覚えんと!

「妹尾さん?」

 って、気合い入れとったんに、背中から声や。なんやろ。

「はいー、婦長。なんでしょうかー‥‥痛っ!」

「語尾を伸ばさない。何度も言わせないで頂戴(ちょうだい)。‥‥妹尾さん、ナースルームにお電話よ。春風さんという方から」

「あ、はいはい。すんません」

 あっちゃあ〜、どれみちゃんかぁ。何度も説明したはずなんに、まだいまいちあたしの仕事理解してへんみたいやなぁ。

 そう思いながら、あたしは早足でナースルームに歩いてった。走るんはもちろんあかん、けどのんびりやっとったら後の仕事がつっかえるし。っと‥‥電話のひとつがぴかぴか光ってん。これやな。

「もしもし、お電話替わりました、妹尾で‥‥」

『あ、あいちゃん? あのね』

 電話の向こう、やっぱ、どれみちゃんや。明るい声は、ひとりぼっちの寮の部屋やったらずっと聞きたいとこやけど‥‥

「あー悪いなぁ、あたしいま仕事中なんや。患者さん待っとんし、寮に帰ってから‥‥」

『わかってる! メール送ったから、必ず今日中に読んでね。そんじゃ!』

 あちっ! 耳に『ブチッ』て音が残ってん。まぁ一応、忙しいのわかってくれてはおるんやな。

 せやけど、メール読めって電話で言うかい。よっぽど信用されてへんのやなぁ、あたし。そらまぁこないだ、実習の仕事が立てこんどるときに、3日もメール読まへんかったて怒られてもうたばっかやけどな‥‥

「妹尾さん! 電話が終わったらお仕事戻って。早く!!」

「は、はいーっ‥‥痛たっ!」

 またや。ちょっと考えてたんはあかんけど、いきなりゲンコやなんて‥‥あ、語尾伸ばしてもうてたか。

「ゲンコツの理由は言わなくてもわかってるわね? さ、仕事よ!」

「あ痛たた‥‥まだ頭のてっぺん、痛いのが引かんわ。今日は何発ゲンコもらったんやろ」


 夕方になって夜勤のひとに引継ぎして、学校の寮に帰った頃は、もう周りみーんな真っ暗やった。

 やっぱ疲れたなぁ思いながら、2階に上がって端から二つめ。ここが、いまのあたしの部屋や。

 ほんまは二人部屋なんやけど、今年は寮に入る人が少ないから、あたしひとりの部屋。そう言うたら、お父ちゃん文句言うてたなぁ。『学生の頃からそないな贅沢しとったら、ロクなもんにならん』やて‥‥まぁお母ちゃんが、あれはあたしが家に居なくなるんがイヤなだけやー、とは言うてたけどな。


 カギを回してドア開けて、誰もいない部屋にただいま言うたら机の上、携帯の着信ランプが迎えてくれたわ。開けて見ると、着信が5件‥‥みんな、どれみちゃんからやな。あたしが仕事中携帯持てないちゅうの、5回も試さんと思い出せんかなぁ。ま、らしいっちゅうたららしいんやけど。

 着信履歴の脇に、メールのマークがひとつあるわ。今日見ろちゅうのは、これのことやな。

「やれやれ、なにやっとんのやろなぁ。ええと、なになに‥‥んな!?」

 思わず、ひとりごとが途中でつっかえてもうたわ。タイトルからしてこれやもん。


 『ユキ先生から伝言・マジカルステージ準備!』

「マジカルステージて‥‥なんや、いったい?」

 どれみちゃんのいたずらかー? ってちょっと思ったけど、そんならわざわざユキ先生の‥‥魔女界の先代女王様の名前なんか出さんやろな。どれみちゃんのいたずらは、いたずら相手以外に迷惑かけるようなもんとちゃうし。

「まぁええか。中身、中身、と。んー‥‥」

    

 『成人の日の夜中の0時、

  よく使う細長い物を手に持って、

  夜空に向かってマジカルステージなさい。

  きっと、よいことが起こりますよ。

                 ユキ』

「ええこと、かぁ‥‥」

 ユキ先生の『ええこと』ちゅうのはちょーっとマユツバやけど‥‥わざわざどれみちゃんが送ってきた、っちゅうことは、きっとみんな(・・・)にも届いてるんやろうな。

 美空小を卒業して、もう8年。全員で顔合わせること、結局なかったしなぁ。中学高校で仲良うなった子もあちこち散らばってもうたし。

「成人式なんて、なんもせんでええ、て思ってたけど‥‥」

 8年ぶりに、みんなと同じことする、かぁ。それも、ええかもしれへんな。なんも起こらんでも、おなじ時間に、みんなでおんなじことするんや。悪くないこっちゃないか。

 そんじゃ、その『細長いもん』探そか。ええと‥‥あれ?

「いつまでに探せばええんやろ? 成人の日の夜中0時‥‥いつやったっけ、成人の日て? ええと、カレンダーは‥‥いぃっ!?」

 机の脇に置いときっぱなしの1月のカレンダー、正月と日曜以外で赤くなってんのがひとつ‥‥

「1月の10日やて!?」

 その真下に、『夜勤代理』て書き込みがあるわ。昨日、あたしが自分で書き込んだもんや。

 あっちゃぁ〜。そこ、どーしても休みたい言うから、クラスの子ぉと代わったったんやった。まさか成人の日やなんて。せっかく8年ぶりやのに‥‥


(今度の祝日の当番は、あいちゃんやて? そら嬉しいなぁ。いつも、元気もろてるからなぁ‥‥)


 どないしょか、て考えてたとき、頭ンなかに声が聞こえたわ。今日のお昼に、山内さんのごはん運んでったとき、言われたこと‥‥

「‥‥よっしゃ、やったろやないか! 病院の上で、マジカルステージやっ!!」

 明日は成人の日。せやけど、あたしは今日も夕方から病院に登院‥‥この言い方も慣れてきたなぁ。最初は何度言うても妙ちくりんな感じやったんにな。

「妹尾さん?」

 ナースルームに入ったら、婦長さんに声かけられたわ。なんでか、あたしが来る日の来る時間には必ずおるなぁ。

「はい、ただいま登院しました」

 語尾は、伸びてへん。よし。

「よろしい。夜勤は2回目ね、ちゃんと働いて、ちゃんと休むこと。いいわね?」

「はいっ!」

「休憩入りますー」

 0時になる、ちょっと前。あたしはナースルームに声かけた。これから30分、あたしの仮眠の時間や。

「院内携帯は持ったわね。それじゃ、休めるだけしっかり休みなさい」

 婦長さんの声に押されながら、あたしはその足で、屋上に上がった。


 誰もいない、真っ暗な屋上。もうすぐ0時やから、だれも見てへん。せやけど‥‥

「結局、身近な細長いもん、ちゅうたらこれしかあらへんかったなぁ」

 細長いケースを開けて、取り出したんは、目盛りがぎょうさんついた、ガラスの棒‥‥とりあえず、すぐには使わんやろな、っちゅう古い体温計。あたしが持ってきたんは、それやった。

 あたしは最新の電池式よりこっちのほうが好っきゃし、マジカルステージに液晶表示なんて似合わへんしな。‥‥まぁ、おんぷちゃんあたりは五十歩百歩やー、て言うかもしれへんけど。


 ‥‥あ、そろそろ0時やな。


 あたしは、空を見上げた。多分いま、どれみちゃんが呪文唱えとるはずや。

 ほな、体温計をしっかり持って‥‥次は、はづきちゃんの番。

 さぁ、あたしや。空に向かってまっすぐ伸ばして‥‥

「パメルク ラルク たからかに!」

 もう8年も前なんに、手を伸ばしたら、ぽろって呪文がこぼれたわ。次はおんぷちゃんやな。

 まぁ、4年もやっとったんやもんなぁ。最後はももちゃん‥‥よっしゃ、仕上げや!


「マジカル‥‥マジカル・ステージっ!!」


 空に向かって放り投げた大声が、そのまま夜空に消えてまう。あたしは、思わず苦笑いしてもうた。

「ま、こんなもんやな。さぁて、ちょい仮眠して、仕事に‥‥ん?」

 降ろそうとした右手が、動かないやて?‥‥あ、体温計が光っとん。

 そう思ったら、すぐにあたしの回り全部が光ってもうたわ。

 ‥‥あん? 光ン中に、ぽわーっとなんや浮かんできたわ。

 あたしの右のほうにフルートと、(はし)。左のほうにはマイクと、泡だて器? なんやろ、なんかわかるような、わからんような‥‥

「なにこれ? マイクに体温計に‥‥全然関連ないじゃん」

 考えとったら、光ン中から声がしたわ。今の声、ひょっとして‥‥

「どれみちゃん、かぁ?」

「え? あいちゃん!?」

「どれみちゃん、あいちゃん。わたしもいるわ。フルートを持ってるの」

 久しぶりの、はづきちゃんの声や。‥‥ちゅうことは。

「なんやゴチャついてるから、整理しよか。

 みんな、今から呼ぶから、返事してや。フルート、はづきちゃん」

 はーい、っちゅう、ちょっとのんびりした声が聞こえてきた。これでひとりやね。

「泡だて器、ももちゃん」

 Yes!っちゅう、元気な声。これでふたりめ。

「マイク、おんぷちゃん」

 いるわよ、ちゅう澄んだ声。さんにんめ、と。

「っちゅうと‥‥箸はやっぱどれみちゃんかぁ」

 最初(はな)っから見当はついてたけど、ついため息出てまうわ。

「ぶー! あいちゃんだって、体温計じゃないさ」

「へへーん、ええやろ?これはあたしの仕事道具や」

 まったく。『ぶー』なんて二十歳(はたち)が言うかぁ?あたしまでつられてもうたやんか。

「こっちだって仕事道具だよ! 腹が減っては‥‥」

「あー、もうええ。聞くだけソンちゅうもんや」

 あーあ、まわりでみんなして(わろ)てるやん。変わらんなぁ、ほんま。

(そろ)ったようじゃな、みんな」

 あたしらが笑い終わったあたりで、別の声が聞こえてきたわ。よぉ覚えとる、このダミ声‥‥

「「「「「マジョリカ!?」」」」」

 びっくり声が5つ重なってもうた。みんな気持ちは同じやな。

「なんでマジョリカなの? ユキ先生は?」

 どれみちゃんが、代表して訊いてくれたら、

「わしじゃ悪いか?」

 その瞬間、まわり中から一斉に声が飛んだったわ。『当たり前でしょ』だの『悪くないけどやっぱり』だの『騙りはよくナイ』だのごちゃごちゃと‥‥

「えぇい、やっかましいぃっ! 先代女王様はお忙しい方なのに、この魔法だけでなく伝言まで残されたんじゃぞ!? 伝えに来ただけ、ありがたいと思わんかい!」

 怒鳴り声がおさまったら、さっきまでがウソや思うくらい静かになったわ。先代女王様、ユキ先生かぁ。何を言うてくれるんやろ‥‥


「おほん! それでは、お言葉を伝えるぞ――

 『みなさん、成人おめでとう。大切なみなさんの力に、ほんの少しでもなりたいと思って、みなさんの道具に魔法をかけました。
 いま、夢見ていること、目指していること、その思いを、その道具を見たとき思い出す魔法です。
 5年後か、10年後か、みなさんが力を発揮したいとき、その道具がほんのちょっとだけ力を添えてくれることを、私は望みます。成人、本当におめでとう』

 ―― 以上じゃ。じゃからな、みんなその道具をいつも大切に持って‥‥」

「そ‥‥」

 誰かの声が聞こえて来た。あたしも口だけ開けて、声が出てこんかったけど、

「ん、なんじゃ?」

 マジョリカの不思議そうな声で、どっか切れてもうたわ!


「そういうことは、最初に言わんか〜〜いっっ!!!」


「は? な、な、なんじゃ??」

 わけわからん、っちゅうマジョリカの声にカチンときて、あたしらまた一斉に声飛ばしたったわ。

「病院の体温計、持ってきてもうたやんか。どないすればええっちゅうんや!?」

「わ、わたし、このフルートって試験でつかうから、目立つの困るぅ〜」

「毎日泡だて器が光ってたら仕事にならないヨ!」

「いつも口元からスポットライトなんて、冗談じゃないわ!!」

「光った箸で食べさせたら子供逃げちゃうじゃん!!ちょっと、マジョリカっ!?」

「い、いや、わしに言われても、その‥‥それは先代女王様の魔法で、な?な?」

 なにが『な?』や。ゴマカされへんで!

 あたしはマジョリカの声がする方向に一歩進んで、

「「「「「ん〜〜!!?」」」」」

 (うな)ったったら、また声が重なったわ。さぁて、どないしたろか‥‥て思てたら、


大丈夫(だいじょぶ)だよ。それ、もうじき光らなくなるから」

 新しい声と一緒に、ぽんっ、と目の前にびん(・・)が出てきた。

「ハナ‥‥ちゃん?」

 最初に声出したんは、どれみちゃんやった。

 せや。目の前のびん、忘れるわけないわ。何度も使ったことあるもんなぁ、この哺乳びん‥‥

「そうだよ。この哺乳びん、どれみたちとの思い出だから持ってきたの。でもこれにも魔法かかっちゃった。新しい赤ちゃんに(ゆず)るつもりだったんだけどな」

 はぁ、ってひとつ、ため息聞こえたと思たら、

「みんなさ、あんまりマジョリカ怒んないであげてよ」

 静かな声が、哺乳びんから聞こえてきたわ。声は同じやけど、ずっと静かにしゃべってん。これ、ほんまハナちゃん‥‥?

「ハナちゃん、知ってるよ。この魔法、マジョリカがユキ先生にお願いしたの」

 へ?マジョリカが?

「まだ会いに行けるほど人間界と近くないけど、せめて人間の成人の記念に、なにか贈りたい、って。なに贈ったら喜んでくれるかわからなくて、3日も徹夜してたんだよ だから、ハナちゃんがユキ先生を呼んであげたの」

 マジョリカの声は聞こえへん。逃げたんやろなぁ。まぁ、こんなんをやさしい声でバラされたら、居心地(いごこち)悪ぅてたまらんやろしな。

 ほんま‥‥声は同じなんに、やさしい言葉や。

「‥‥大きゅうなったんやなぁ、ハナちゃんは」

「へへ。まだまだ、人間界となかよしにできてないけどね」

 まわりから、(あった)かい笑い声が聞こえてきた。みんなきっと、同じこと思ってるんやろなぁ。さっきは変わってない、て思うてたけど‥‥ん?

「‥‥て、そういえば、どれみちゃん。さっきなんや、変なこと言うてたな。『この箸で子供に食べさせる』とか‥‥いま、なにやっとんのやったっけ?」

「え? いやー、へへへ」

 ありゃ?

「えへへ、て。なーにゴマカしてんねや、こら」

 あたしが一歩、箸に近づいて言うたら、マイクから、

「あいちゃん、ちょっと待って」

 て声。おんぷちゃん?

「いい?‥‥この中で、もう夢を(かな)えちゃった人、返事してー!」

 おんぷちゃんの声が響いたとたん、光の中が静かになってもうた。そらそうや、あたしだってまだ看護学生‥‥夢のとっかかりに、ようやくしがみついたばっかやもんな。

「ね、みんなまだでしょ? だったら、いまは根掘り葉掘り聞かなくたっていいじゃない」

 あたしは、握ったまんまの体温計、目の前に持ってきた。きれいに光って、中の温度がちょい読みにくいくらいやけど、

「これ見るたびに夢を思い出すんやったら、(あきら)めるなんてでけへんしなー」

 あたしが言うたら、みんなの声がうなずいてくれてん。言葉は(ちご)てたって‥‥

「そうだよ。ハナちゃんだって、もうこうなったら哺乳びんの女王様を目指しちゃうんだから

 せや、心はひとつやもんな。


 ‥‥あれ? 体温計の目盛り、ちょい読みやすくなったみたいに見えるで?

「あら、光が‥‥」

 はづきちゃんの寂しそうな声で気ぃついた。ほんまや、まわりの光も(よわ)なってきてるわ。

「あぁ、これで、またみんなの声、聞けなくなっちゃうのかしら‥‥」

「終わりじゃないヨ。こんなの、何度もあったじゃナイ!」

「ええ、また今度。今度は、顔を見て話したいわね」

 ゆっくりやけど、光と一緒にみんなの声が小さくなってく。そんな中で、いつもあたしに元気くれる声が響いた。

「そうだね。よっし! そんじゃみんな、夢を叶えたら報告。今度は顔合わせて会おうよ。いいね?」

 消えかけてるどれみちゃんの声に向かって、あたしは叫んだった。

「おーっ!!」


 きっと小さくても、みんなの声は重なってるはずや。大親友なんやから

 まわりから光が消えてから、あたしはシャツのポケット開けた。まだちょっとだけ光ってる体温計、いまだけでも入れとこ、て思たんや。

 きっと、もうすぐ光は消えてまう。ナースルームに戻ったら返さなあかん。せやけど‥‥

「妹尾さん?」

 うわわっ!!

 ギリッギリで声だけは出さんかったけど、い、いきなり背中から、この声‥‥

 あたしは、そーっと後ろ向いてみた。まるでホラー映画の主役にでもなったみたいや。そしたら‥‥

 ああ、やっぱり、婦長さんが腕組みして立ってん。屋上の入り口からの光あびて、表情はわからへんけど、きっと怒ってるんやろなぁ。ちゃんと休め、言われたんに、こんなとこで休み時間ムダしてもうてるんやから‥‥

「妹尾さん」

 静かな声や‥‥まさか、見られたっちゅうことはないやろな?ああ、はづきちゃんやないけど、マジョリカの名前唱えたくなってくるわぁ。

「その体温計、ケースはある?」

 ‥‥て、なんや? ケース?

「はい、ありますけど‥‥」

「ちょっと貸して」

 なんやようわからへん。あ、黙って持ち出したからなんかな?でもそれやったら、中身なしでケースだけっちゅうのは‥‥?

 なんて考えながら、あたしが細長いケース差し出してたら、

「あ痛っ!」

 いきなり手ぇが痛なって、ケース落としてしもた。え、ええっ?手ぇ叩かれた!?


 パキッ!


「あーあー、ダメですよ妹尾さん、体温計を落としたりしちゃあー。もぉー、踏んで壊してしまったじゃないですかぁー」

 へ?

「ま、踏んだのは私ですから、しかたありませんね。破損報告書は書いておきます」

 な、なんや? なにが起こってるんや??

「‥‥もう、ここに体温計はないはずよね?」

 あ‥‥!

「は、はいっ!」

 あたしの手の中で光ってた体温計が、だんだん暗くなってくとこ、婦長さんがじっと見てて‥‥光が消えたらすぐ、屋上の入り口に向き直ったわ。

「夢を思い出すもの、か‥‥ちゃんと、大事になさいね」

 屋上のドアに消えてく婦長さんの背中におもいっきりお辞儀して、体温計をポケットにしまってから、あたしはその後に続いたった。

 さぁ、キツくっても頑張ろか。


 シャツのポケットには、夢が入ってるんやから。

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