あしたはあした

「なぁ、おんぷちゃん」

 ‥‥ふぅ。

「なぁなぁ、おんぷちゃんて」

 歩いてるわたしの腰のベルトに、ちっちゃな手がしがみついてる。

「おーい、おんぷちゃーん」

 目だけちらっと横向けた。どう見たって‥‥

「こらぁ!無視しなや!?」

 ‥‥5歳児よねぇ、あいちゃん。

 あぁ、なんでこんなことになっちゃったんだろ。

 最初は‥‥そう、わたしの誕生日。今年は平日だし、あいちゃんも2月にこっちに来たばかり。だからせめて、MAHO堂でおめでとうだけ言ってくれる、ってことだったのよね。

 美空町と、アメリカと、あと大阪にもあったMAHO堂。その奥にある、ホントは魔女界につながってたとびら。 半年前、ハナちゃんがとびら同士つなげちゃってから、声だけ大阪とアメリカに届くようになっちゃった。

 みんな週に一度はそれぞれのMAHO堂に集まって、おしゃべりしてたわ。だから、いつもの通り集まって、いつもの通り声だけの乾杯して。 今日は誕生日とひな祭りだから、って、みんなで持ってきた飲み物も飲んで――それが、いけなかったのよね‥‥

「ねぇねぇ、このとびらってさ、ホントに開かないのかな?」

 とびらの向こう、美空町のMAHO堂から聞こえてきたんは、どれみちゃんの声やった。


 大阪のMAHO堂。奥のとびらによっかかって、おんぷちゃんの誕生日パーティ。

 目の前にはだーれもおらへんけど、 あたしが作ったひなあられと、ももちゃんのケーキ、それにどれみちゃんたちからの飲み物。 あられポリポリつまみながら、 背中の向こうとしゃべってるだけで、美空町にいるみたいな気分や。

「開かんと思うけどなぁ。前、マジョリードさん言うてたで。『女王様くらいの魔力がないと、無理には開かへん』て」

 大阪のMAHO堂は、あいかわらずがらーんとしてるわ。ええかげん慣れたけど、趣味渋すぎやな、マジョリードさん。

「う〜ん‥‥でもさ、それ聞いてから、もう半年も経ってるじゃん。ちょーっとゆるくなっちゃったとかって、ね?」

 ね? て言われてもなぁ。

「よし、開けてみよ‥‥ヒャッ」

 ん? なんやいまの。まさか‥‥

「あ〜ぁたしが、いま開けたげっから。ヒッ」

 ちょ、ちょいちょい!!

「こ、こら、ちょい待ちやどれみちゃん! 壊れたら、あたしらには直せへんで!?」

「だーいじょぶ、だーって。壊れたときには、とびらは開いてるってば」

 ‥‥さっきから言うことおかし思てたけど、こら酔うてんな?

「はづきちゃん、おんぷちゃん! その酔っぱらい押さえてぇな!!」

「だ、だめ。ふたりとも引きずられちゃうわ!」

 おんぷちゃんの声が上ずっとる。こら、シャレにならんで。

「だぁレ、酔わせたノ!?」

 あああ、とびらの向こうで、何やってるんやぁ‥‥

「あ」

 へ?

「あの、サ。ケーキの箱、見てくれル? はづきチャンに頼まれてたもの、一緒に送ったンだけど」

 ももちゃんの声、なんや怯えてるみたいや。

「ケーキの?‥‥あ。お菓子用の、チェリーブランデー、からっぽ」


 ‥‥


「あほぉ〜ッッ!!」

「ごめんなさ〜い」

 あぁ、とびらの向こうから、へらへら笑てる声が近づいて来てん。

 あかん。このままやと、ほんまに壊されてまうかも‥‥せや!

「ももちゃん、聞こえるか? ふたりでよっかかって、とびらまもるんや。せぇ、のっ!!」

「よいショ!!‥‥あ、うあわぁアァ!?」

 背中がとびらに当たったとたん、そこがすぅっとなくなって、そのまま天井が遠なって‥‥!



 あててて。‥‥いきなり開くなんて思うてへんから、思いきり突っ込んでもぅたやんか。

 目ぇ開けたら、おんぷちゃんとはづきちゃんの顔が見えた。

 なんや、変な顔であたし見てるなぁ。後ろでどれみちゃんが踊てるけど、関係ないみたいやし‥‥ああ、そか。

「痛いは痛いけど、心配せんでええよ。おんぷちゃんの誕生日に来れたんやから、こんくらいどうっちゅうこと‥‥」

 ん? まだ変な顔しとんなぁ。それによぉ見たら、心配してる顔やない。どないしたんや?

「おーい、ふたりとも、どないして‥‥え!?」

 振った手ぇが、えらいちっちゃいわ。まるで‥‥

「Unbelievable‥‥」

 背中から聞こえてきた、ぼーっとしたももちゃんの声に振り向いたら、子供がおった。どう見ても、会ぅたばっかのぽっぷちゃんくらいの。

 って、ことは。まさか!

 立ち上がっても、おんぷちゃんの顔に届かへん。やっぱりや。

「ち、縮んでもぅた!?」

「ふーん、こないなとこにスーパーあるんかぁ」

 結局、どれみちゃんは酔っぱらったままだし、ふたりをそのままにしとく、ってわけにもいかないから、 治せそうな人に会いに行くことになったのよね。

 小さなももちゃんには、はづきちゃん。小さなあいちゃんには、わたしがいっしょについて。

「おんぷちゃんと買出し、っちゅうのも、久しぶりやなぁ」

 ええと、たしかあの奥だったわね。

「ん? 何買うんや?」

 あぁ、あったあった。じゃ、粉ミルクと‥‥

「へ?」

 ベビーパウダーもね。

「ちょい待ちや?」

 あと、紙オム‥‥

「‥‥おんぷちゃん?」

 手を伸ばしたまま、あいちゃんの方向いたら、

「いまやったら、まだシャレで済むで?」

 うわ、笑顔だけどすごく低い声。ちょっとやりすぎたかしら。

「ごめんごめん。わかってるってば」

 手をちょっと横にずらして、手に取った。となりにあった、高級な紙オム‥‥

「もう、やめっちゅうに!!」

 手を振り回してぽかぽか叩いてくるあいちゃん見て、ちょっと安心した。まだ、ほんとに笑えるみたい。

 それにしても、このまま、ってわけにはいかないわよね。

 いろいろ棚に戻したあと、 おんぷちゃんがスーパーで買うたんは、アメ玉一袋やった。

 なんや、あたしからかうために入ったようなもんやな。せやけど、アメひとつなめてるだけで怒る気にもならへん。‥‥まさか、頭ン中まで5歳になってもうたんちゃうやろなぁ?

 ううう。考えたら寒ぅなってしもたわ。

「なぁ、これから、どうすんねや?」

 おんぷちゃんの顔、上向かんと見られへん。‥‥あかんあかん。悪いこと考えてても、しゃあないやん。

「そう、ね。とりあえず、何か知ってそうな人に会いましょ」

 うん。そらわかるんや。そやけど。

「はづきちゃんは、ゆき先生んとこ行ったんやろ? あたしら一緒せんでええんか?」

「ん? うん。私たちは別の人に会いに行くのよ」

 別の人やて? 魔法がわかる人なんて、ゆき先生のほかに誰かおったか?

「あ、ちょっと待っててね。電話かけてくから」

 言いながら、その辺きょろきょろ探し回ってる。

「携帯使わへんの?」

「携帯使うと、残っちゃうでしょ? この番号は、わたししか知らないから‥‥あ、あった」

 携帯に番号残せへん、て‥‥ほんまわからんわ。そんなん、いったい誰や??

「お待たせ。じゃ、行きましょ」

 こども料金のきっぷなんて、一年ぶりやなぁ。ま、この体も悪いことばかりやないか。

 美空町から電車で40分。降りたんは、あたしの知らない駅やった。

 美空町より都会やけど、あんまゴミゴミしてへん。なんとなく品のええ町や。歩いてる人かて上品な‥‥

「あら、おんぷちゃん。妹さん?」

 その上品なおばあちゃんに、いきなり声かけられてもぅた。おんぷちゃん、ちゃんと変装してるんに、よぉわかったなぁ。

 あ、おんぷちゃんがぺこって頭さげてん。知り合いなんかな?

「友達の妹なんです」

 ああ、あたしも頭さげとこか。

「誕生日のプレゼントに妹が欲しいな。って言ったら、一日貸してくれたんですよ」

「そう‥‥あなた、おんぷちゃん好き?」

 あはは。まるっきり幼稚園児や思てるな? それやったら‥‥

「うん。あたし、おんぷちゃん、大好っきゃ

 声ちょい高くしたったら、ええ感じになったわ。

 おばちゃんはにこにこ笑てんし、おんぷちゃんは真っ赤になってんし。くくく。

「そ、それじゃ、失礼します」

「はいはい。またね」



「‥‥あいちゃん!」

 おんぷちゃん、あたし抱えてビルのかげまで走ったったわ。もとの大きさやったら考えられへんな。

「ん? もっかい言うてほしいんか?」

 あ、ま〜た赤くなってん。かわええなぁ

「‥‥もう。行くわよ!」

 ピンポーン‥‥


 駅出たときは知らんとこや思てたけど、ちゃうわ。 ここはビルの4階にある、芸能プロのドアの前。

 しっかし、変わってへんなぁ。もう4年も経ってるっちゅうのに。 看板までおなじやんか。

「いいよ、奥に入って」

 へ?

 中から聞こえてきたんは、なんや妙に聞いたことある声やった。 ‥‥まさか?

「げ!」

 奥のとびら開けたとたん、目の前にでて来たんは、あの顔や。

「なにが、『げ!』だい?」

 いや、そらさすがに失礼やろけど、せやけど。

「ちょ、ちょい待ちや? なんでマジョルカが、まだここにおるんや!?」

「なんで、って‥‥そりゃここの社長だからに決まってるだろ?
 芸能プロダクションの社長が、そんなにコロコロ変わったらまずいじゃないか。‥‥あぁ、女王様には、ちゃんと断ってあるよ」

 はぁ。よぉ考えたら、ゆき先生やリリカおばあちゃんかて、まだこっちおるんやったわ。マジョルカがいたかて、おかしないんかもしれへん。けどなぁ。

「それより、お前はどうしたんだね、その姿?」

 あぁ、相談できる人って、マジョルカやったんか。そら電話番号も残せへんわ。

 さーて、どう説明しよか思てたら、おんぷちゃんが前に出た。

「ね、マジョルカ。MAHO堂のとびらのことって、知ってる?」

「な、なんのことだい?」

 ‥‥いきなりどもってるやん。あやしなぁ。

「ふぅん。‥‥ヘヘ、いる?」

「なぁによぉ」

 奥の戸棚が、パカンっと開いて、チョコ色の妖精がふわふわこっち向かって来てん。いつもは、あんなとこに隠れとったんか。

 おんぷちゃん、にやっと笑てる。

「昨日の現場で、口紅もらったんだけどな〜」

 あ、ヘヘの目ぇが光っとるわ。

「春の新色よ。発売は4月だから、まだだーれもつけてないんだ〜」

「え!? 使うっ! 貸して貸して

 すんごい勢いでおんぷちゃんに突っ込んでったら、出てきた本にどーんと体当たりや。

「いったーいっ!! なーにすんのっ!」

 おんぷちゃん、また、にやーって笑てるわ。なんや、ちょい怖いなぁ。

「でね、MAHO堂のとびらのこと、知ってる?」

 おんぷちゃんが背中に隠した口紅見ようとして、ぴょんぴょん飛び回ってたけど、あきらめたみたいや。

「ん〜。新しい女王さまが遊んでてつないじゃったって、あれのこと?」

「そうそう。あれ、変な副作用があるんだって?」

「そーよ。なんでもね、無理に開けようとするとおかしなことになるんだってさ」

 おんぷちゃんのまわり、くるくる回ってる。ときどき、ちらっと手の方見てるけど、おんぷちゃんがうまく隠してるわ。

「へぇ‥‥で、治し方は?」

「しらなーい‥‥あぁん!」

 ヘヘがそっぽ向いたとこ、おんぷちゃんが口紅チラチラさせとん。ははは、ちょいえげつないなぁ。

「で?」

「しょおがないなぁ‥‥ それ、マジョルカが作った罠だよ」

 ワナやて?

「はぁ‥‥」

 背中のほうで、おっきなため息や。振り向いたら、マジョルカがイスの背もたれに頭乗せとった。

「そりゃ罠もつけるさ。あのとびらは、魔女界にもつながってるんだからねぇ。‥‥

 間違って誰か入っちまったら大変じゃないか」

「それでさー、マジョルカったら、無理にあけると赤ちゃんになっちゃう魔法かけといたんだー」

 マジョルカが、ぶんっ、て手ぇ振ったった。けどヘヘ、平気な顔でひょいひょい避けとるわ。 ええコンビやなぁ‥‥あ、あかん。見てる場合やなかった。

「あたしら、そんな無茶なことしてへんで?」

「二人でとびらにぶつかったんだろ? 多分、無理に開けたと勘違いしちまったんだよ」

 あたしらの方、見もしてへんし。

「でも、赤ちゃんになっちゃうんじゃ‥‥」

「二人だから、効果も半分になっちまったんじゃないかねぇ」

 ひとごとみたいに言いよってからに。このッ!

「マジョルカ!!」

 び、びっくりしたわ。 あたしより先に、おんぷちゃんが思い切りどなってるんやから。

 マジョルカも、ため息つきながら立ち上がったわ。

「‥‥わかってるって。ちょっと調べようかね」

「そういや、おんぷ。ここに来る前、環さんに会わなかったかい?」

 ヘヘのいた戸棚からクッキーもろて食べてたら、魔法の事典めくりながら、マジョルカが訊いてきた。

「仁科さん?さっき、駅の近くで会ったわよ」

 駅の近くて‥‥あぁ、あの品のええおばあちゃんやな。仁科さん、ちゅうのか。

「ああ。じゃ、聞いたかい? 向こうはいつでもいいそうだよ。おんぷの準備さえできれば‥‥」

「ちょ、ちょっと! あいちゃんもいるのよ。その話なら、後にして!!」

「なんだ、まだ言ってないのかい?」

 そう言うて、チラッとあたしの顔見てるわ。なんの話や? あたしに聞かせたないことみたいやけど。

「いいから! とにかく、あいちゃんを元に戻すのが先よ。‥‥ちょっとお化粧行ってくるから、帰ってくるまでに調べないと、もう仕事しないわよ!!」

 バタン!って、大きな音たてて事務所出ていってもうた。えらい剣幕や。

 それにしても、や。

「マジョルカぁ、仁科さんの話って、何なんや?」

「あたしゃ言わないよ。言ったら仕事しない、なんて言われちゃね」

 ありゃ。そっぽ向いてもうたわ。

「せやけど、気になんなぁ。あたしらに言えへんこと、て」

 そっぽ向いたまんま、目ぇ閉じて黙ってもうた。こら、どうしても言わんつもりやなぁ。はぁ。

「星ってのはね、窓の外で輝くもんさ」

 へ? なんや、いきなり?

「そら、いったい‥‥?」

 言いかけたところで、目の前にひらひら手ぇ振られた。

「ひとり言さ。それくらい、言ったっていいだろ?
 ‥‥いっくら大事な星だって、窓の中に仕舞っとこうってのは間違いだよ。無理に閉じ込めといちゃ、輝きが消えちまうさ。
 まして、自分で輝きたい、って言ってんだよ。窓の中にいるあたしらが、それ止めてどうするってんだい?」

 窓の外の、星――ちゅうことは、や‥‥

「仁科さん、っちゅう人、ひょっとして、外国に住んでるんやないか?」

「そうさ。もう引退しちまったけど、アメリカ中わたり歩いた、すごい舞台女優だよ」

 そっか。そやったんか

 誕生日や、っちゅうんに、昼間っからあたしらとMAHO堂おったり。小さくなったあたし、からこうてみたり‥‥ったく。

 あたしは、ひとつ息吸った。

「あたしも、それで星が輝くんやったら‥‥それやったら、窓の外に行くべきや、思うわ」

 素直に言えたわ。うん。自分の気持ち、なんもごまかしてへん。

 そやから、マジョルカが開けた目ぇ見ても、あたしは驚かへんかった。

「そうかい。ありがとうよ」

 おかあちゃんみたいな、あったかい目。あたしも、同じ目ぇできたら、ええな。

「マジョルカ、わかった?」

 事務所のドアが開いたかと思たら、いきなりこうや。

 あたしは、なんやおかしなって、くすくす笑てしもた。

「?‥‥ まさか、何か変なこと聞いたの!?」

「いんや。ただ、星の話してただけや。な」

 あたしは、マジョルカと目ぇ見合わせた。ウソはひとつも言うてへんからな。

「ああ。で、元に戻す方法だけどね。まぁ、多分ってとこまではわかったよ」

「じゃ、急がないと。夜になっても帰れなかったら、あいちゃんのママが心配するわ」

 言われて外見たら、もう暗くなってんわ。夕飯のしたく、サボってしもたな‥‥あん?


 ぴよ ぴよ ぴよ‥‥


 なんや、この音は?

「あら?メールみたい。はづきちゃんの番号だけど‥‥あ、ゆき先生からだわ。 『マジョルカをつれてMAHO堂に来なさい』だって」

 はぁ、さっすがゆき先生。あたしらがここに来てんの、わかってるんやなぁ。

「先代女王様のお呼びなら、直通で行くとしようかね。ふたりとも、こっちおいで」

「よ‥‥しょ、っと」

 事務所の物置から暗い道歩いて、出てきたのはMAHO堂の暖炉の中やった。また、えらいとこつなげたもんや。使てたら灰だらけになるとこやんか。

「あ、はづきちゃん‥‥あれ?」

 MAHO堂にいたんは、はづきちゃんだけ‥‥と思たら、足元に小さなももちゃんと、酔っぱらってるどれみちゃんが一緒んなって眠ってん。

「どないなってんのや?」

「ゆき先生、いままでいたんだけど‥‥どこかに行っちゃったみたい。ももちゃんも、さっきまで起きたたんだけど、ね」

 そういや、アメリカはもう明け方なんやったな。無理あらへんわ。‥‥酔っぱらいの方はともかく。

「まったく、ゆき先生も無責任ねぇ」

 腰に手ぇ当てて、おんぷちゃんが怒ってる。

「そりゃそうさ。本来、人間界に影響を与える魔法なんて許されないんだからね」

「マジョルカ?」

 マジョルカが、なんやひらひらさせながら、こっちやってきた。メモやろか?

「先代女王様からだよ。この件は、あたしに任せる、ってさ。ほら、そっちの子を起こして、二人ともとびらに背中くっつけな」

 あたしが起こしたったら、ももちゃん寝ぼけてしがみついてきたわ。しゃあないから、抱えたまんまでとびらンとこ行って、一緒によっかかった。

「いいかい。これから、あたしが扉にかけた罠を逆に働かせるから。二人とも、もといた場所に転がり出ることになるから、気をつけるんだよ」

 おんぷちゃんとはづきちゃんが、心配そうに見てるわ。けど、あたしは安心して目ぇつむった。

 さっきのマジョルカ。あの、おかあちゃんの目ぇできるマジョルカやったら、信じられるわ。うん。

「とびらもまた閉まっちまうからね、今度は、無理に開けんじゃないよ‥‥さぁ、いくよ!」

 とびらの向こうで、はづきちゃんたちが帰ってく音がする。あたしは大阪のMAHO堂で、とびらによっかかってその音聞いてた。

 ちょい、っと手ぇ伸ばしたら、ちゃんとドアノブつかめる。あぁ、やっぱこの体の方が楽やな。

「あいちゃん、まだいる?」

 MAHO堂のとびらに寄っかかってんの、あたしとおんぷちゃんだけになってもうたみたいや。

「あぁ。‥‥しっかし、ろくでもない誕生日になってもうたなぁ」

「そう? わたしは楽しかったけど」

 よう言うわ。あんだけどなりまくっといて‥‥あぁ、そっか。

「そら、一日妹がプレゼントに行ったんやからな。楽しなかったら困んで」

 あはは、くすくす笑てんわ。あぁ、昼間の顔、思い出してまうなぁ。

「また、声だけンなってもうたなぁ」

 あたしが言うたとたん、おんぷちゃんの声が、ちょっと低なって

「やっぱり、顔見ないと耐えられなくなっちゃうのかな‥‥?」

 あたしに聞こえないようにしたんやろうけど、まる聞こえやで、ちっちゃなため息。

 もう‥‥しょぉないなぁ。

「おんぷちゃん、好っきゃ

「え!?」

 あ、声戻ったわ。

「おんぷちゃん、大好きやでー

「な、なによ、いきなり」

 くくく。また、あの真っ赤な顔が見えるみたいや。‥‥けど、楽しんでる場合やないな。

「マジョルカが言うてたで。星いうんは、窓の外で輝くもんや、て」

 せや、後悔するおんぷちゃんなんて、見たないわ。

「あたしが好きなんは、輝いてるおんぷちゃんや せやから、遠慮せんと、なんでも言いや」

 なに言われたかて、変わらへん。あたしは、いつでも、いつまでも。な。

「‥‥まだ、言えないわ。待っててくれる?」

 おんぷちゃんの頭が、とびらにコツン、て当たる音がした。うん。今はええわ、そう言うてくれるだけで。

 あたしも、とびらに頭もたれた。あったかいんは、つながってるんは、とびら越しやない。

「ゆっくり考えてええよ。あしたは、あしたや」

『小説?小噺?』へ戻る