キス・きす・KISS

 あったかい春の日。あたしたち妖精にとっては天国みたいな午後。

 でも、のんびりとしてもいられない。だって‥‥

「こりゃ、ララ!ごろごろしとらんで、キャンディの仕込みでもせんかい!!」

 ‥‥ほ〜らね。あたしの持ち主はホント妖精使いが荒いんだから。

「どれみたちはまだ学校よ。あたしたちだけでどうするつもり?」

「もうじき来るじゃろ。わしらはこの体じゃから、準備だけはドドたちが来る前にしておかんとな」

 はいはい。やっぱりいつも通り、忙しい日になりそうだわ。

「こんにちは〜☆」

 チョコとキャンディの準備を済ませて一息ついたころ、扉からふたり飛び込んできた。

「あ、どれみ。‥‥あら、あいちゃんとおんぷちゃんは?」

「おんぷちゃんは夕方までお仕事だって」

 ドドがやれやれ、って感じのポーズをとったから、あたしは頭を軽く叩いた。 おんぷちゃんだって、なかなか来れないの気にしてるものね。

「あいちゃんはおんぷちゃんの代わりに掃除当番やってるわ。

 わたしもやるって言ったんだけど、マジョリカがまたうるさいからって‥‥」

「うるさくて悪かったの」

 ああ、ふたりとも固まっちゃった。二年もつきあってると、変なところで息が合うわね。

「げ、マジョリカ!」

「ばかも〜ん!師匠に向かって『げ』とはなにごとじゃい!!」

「だぁ〜ってさ。マジョリカ師匠らしいことなんてしてないじゃん。最近はとくにさ」

「お、ま、え、ら!」

 ま、いつも通りか。それにしても‥‥ふふ。結構いいとこ突いてるじゃない。

「まぁまぁ。普段の行いってものでしょ。‥‥で、どれみ、ももちゃんとは今日も別なの?」

「うん。関先生がなにか聞きたがってるんだって。すぐにくると思うけど」

 マジョリカがちらっとこっちを見てる。しばらくは仕方ないんでしょうけど、ねぇ‥‥

「Hello☆コニチハ。すぐ着替えるネ」

 どれみたちの着替えが終わって粉の準備をしているころ、元気な声が入ってきた。

「おお、来たかもも。これで妖精四人じゃからキャンディ作りがはかどるわい」

 マジョリカとあたしはニニをつれて、キャンディ作りのほうに向かおうとした。 けど、な〜んかももちゃん、いつもより動き方が派手ねぇ。

 はづきちゃんはももちゃんの着替えがまちきれないみたい。奥にしまったランドセルから本を取り出して、

「あ、ももちゃん。今日はクッキー作りよね。はいこれ、ママにお菓子作りの本借りてきたわ」

「Oh ありがとはづきチャン」

 着替えたももちゃんがぱっと抱きついて‥‥


 チュッ


「え!?}

 次の瞬間、あたしたちの時間が凍った。


 はづきちゃんの口元から、ももちゃんが離れる。‥‥けど、はづきちゃんが動かない。

 あらら、完全に固まっちゃってるわ。

「は、はづきちゃん!?」

 どれみがあわてるのはいつものことだけど、今日はとびっきりね。

「モ、ももちゃん、はづきちゃんにあやまって」

「Why?関先生、あまり緊張しないで、普通にしててイイ、言ってた。何がいけないノ?」

「なにがって‥‥あそっか、ももちゃんアメリカにいたから‥‥!」

 そうよねぇ、ももちゃんには普通なんだけど。よりによって、いちばん敏感な人のとこにいっちゃったわねぇ。

「うっ‥‥」

 あ、まず。はづきちゃん泣きそうだわ。しょうがない。あたしがフォローに‥‥って、何でマジョリカが目の前に!?

「マジョリカ!!」

 抗議しようとしたあたしを、マジョリカがじろっと睨んだ。‥‥たまにあるのよねぇ、こういうこと。


「う、うぁぁぁああん」

「はづきちゃん!待って!!」

 ああ、ほら、はづきちゃんが飛び出して行っちゃった。どれみも追っかけていっちゃったし、 残ったのは落ち込んでるももちゃんだけじゃない!

 あたしは恨みを込めた目でマジョリカを睨みつけた。けど、そんなのをまるっきり無視して、 マジョリカはももちゃんの手の上に乗っかっていった。

「ももや」

 しばらくももちゃんの手の上でじっと顔を見上げてたマジョリカが、ふっと口を開いた。

「お説教なんてしないデ。
 わたしは結局アメリカの子なのヨ。みんな、私のことなんかわからないワ」

「誰もそんなこと言っとりゃせんわい。
 もも、おまえははづきがどうして泣いたか、わかるか?」

 ふるふる。眉間にたてジワつけながら首を振ってる。あ〜あ、これは時間かかりそうねぇ。

 そう思っていたら、マジョリカの目がやさしくなった。

「ももや、魔女見習い試験1級の課題はなんじゃったかの?」

 ももちゃんはきょとん、とした顔で

「え? えっと‥‥魔法を使ってThank youって言ってもらうコト‥‥」

「それも、自分が使ったとは言わずに、じゃな。どれみたちと同じ課題じゃ。
 おまえは、その試験にうかったんじゃろ?だったら、はづきのことも わかるんじゃないかの」

「‥‥え?」

 マジョリカがあたしに手招きした。あたしはニニと一緒にいつものちり取りを抱えていく。

「人の気持ち、動物の気持ちがわかること。わからなくてもわかろうとすること。それがなければ1級試験になんぞうかるわけないわい」

 ももちゃんの目の前まで運んでいったちり取りに、マジョリカが飛び乗ってきた。‥‥もう。あとで なにかおごってもらわなきゃ!

「そんなの、考えてなかっタ。わたしは、ただマジョモンローを‥‥」

 涙ぐんじゃってるももちゃんの言葉を、マジョリカが引き取った。

「‥‥もとに戻したい一心だったのじゃろ。じゃがな、きっとその方はこう言うぞい。
 『そんなことより、おまえが成長していくのを見られるのが嬉しい』と、な」

 ももちゃんの大きな目が突然まんまるになって、じっとマジョリカを見つめてるわ。

「どうしたの、ももちゃん?」

「Why?いま、マジョリカがマジョモンローに見えタ」

 マジョリカは後ろを向いちゃってる。ほんとに、照れ屋なんだから。

「師匠というのはな、もも。弟子に教わって育っていくものなんじゃよ。
 弟子だったおまえを見れば、マジョモンローが、わしの聞いてるうわさなんぞよりずっと素晴らしい魔女だったことがよぉっくわかるわい」

「マジョリカ‥‥?」

「わしもな、あの四人の弟子たちに色々教えられて、育てられて師匠になってるんじゃ。
 さっきのわしがマジョモンローに似ていたというなら、あの子たちも信じてやってくれんかの」

 ニニがあたしの顔を覗き込んでる。あたしはニニの背中をそっと押してあげた。

 ももちゃんの手のひらに飛んでいったニニが、ももちゃんを心配そうに見つめてる。

「‥‥」

「まぁ、もちょっと働いてゆけ。そのうち戻って来るじゃろ」

ももちゃんはニニの頭をそっとなでてあげてる。

「来る‥‥かナ」

「来る。あやつらは間違いなく来る」

「ちょっとマジョリカ!それじゃ怪獣よ」

 重々しい口ぶりなんかされたら、わざとやっててもツッコミたくなるじゃない。

「似たよぅなもんじゃい。
 もも、覚悟するんじゃぞ。どれみは体当たりしか知らんヤツじゃからな」

 キィィ‥‥

 ドアのきしむ音に続いて赤いだんごが飛び込んできた。

「もも!逃げるんじゃ!!」

「モ〜モちゃん☆」

「うわあぁぁア!」


 むちゅぅ〜っ!!


 ジャンプして来たどれみが、ももちゃんのほっぺたに音がするくらい吸い付いた。

 マジョリカはあたしの前で頭を抱えてる。

「‥‥本当に体当たりしおってからに‥‥」

 あはは。まぁ、どれみだものね。

「ももちゃ〜ん

「ひゃぁうァ!!」

 はづきちゃんがももちゃんの背中からきゅっと抱き付いて、左のほっぺたに唇を寄せた。

 ‥‥って、はづきちゃんも!?

 こ、これは予想外だわ。ももちゃんも首を縮めて椅子にへたり込んじゃったし。

「も〜も〜‥‥ちゃん!」

 へろへろのももちゃんの頭の上から、あいちゃんまでおでこに向かって突進してるし。

「なにナニなにナニ〜!?」

 あ〜あ、ももちゃんもう泣きそう。

「ぶわっかも〜〜ん!!
 何をやっとる!ももがおびえているではないか」

 ももちゃんの頭にマジョリカがあわてて飛び乗っていったけど、ちょっと遅かったわね。

「え?あ、ごめんね。ちょっとハデだったかな?」

 ハデって‥‥そういう問題じゃないと思うんだけど。

「わたしたち、話し合ってみたのよ。ももちゃんアメリカぐらしが長いから、すぐにやめて、って言っても難しいんじゃないかしら、って」

「でね、キスしてくるももちゃんを、ハナちゃんだと思うことにしたの」

「な‥‥なんで、ハナなんじゃ?」

 うんうん。それはあたしも聞きたいわ。

「ハナちゃんやったら、みんなしてチュッチュチュッチュやってたやないか。
 ももちゃんも同じと思たら別に気にすることないんやないか〜てな」

 3秒くらいあっけにとられてたと思う。あたしも、マジョリカも。

「そのかわり、今度からはあたしたちもするから」

 どれみたちの目が輝いているように見えるのは、あたしの見まちがい‥‥よね。きっと。

「え!?‥‥三人で、ナノ?」

 椅子ごとずりずり後退するももちゃん。おびえてる。間違いなくおびえてる。 となりのニニまでおびえてる。

ドドたちにじりじりと迫られて、ニニが涙目になってる。

「だ〜いじょぶ。おんぷちゃんにも連絡するから、あしたからは四人だよ

 あらら。ももちゃんってば、ちり取りのうえのマジョリカにしがみついちゃった。まるで最初に会ったときみたいに‥‥でも、

「マジョリカァ〜」

「じゃから言ったじゃろ、『覚悟せい』と」

「みんなマジョリカのお弟子サンでしょォ〜!!」

「安心せい。‥‥おまえも、その仲間じゃ」

 うん。いい顔してるわよ。マジョリカ


「なかま、嬉しいけど‥‥いヤ〜〜!!」

その夜のMAHO堂(後日談)

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