きれるのどっち?

 トントントン‥‥


 いやぁ〜、いつ聞いてもいいなぁ‥‥


 チャッチャッチャッ‥‥


 そうそう、このリズムがきれいなんだよねぇ☆


 ジュジュジュゥ‥‥


 うぉぁはひゃは☆ ん〜、いい匂い!

「あんなぁ、どれみちゃん?」

 あ、え?

「手伝わんのやったら、後ろでゴソゴソせんといてや」

 ナプキンで髪しばったあいちゃんが、むーっ、て顔で振り向いた。

 あたしんちの台所で、フライパンをコンロからおろしながら。

「あ、あははは。ごめんごめん。とりあえず、お皿洗っとくね」

 洗っとく、っていうか、ふいとく、っていうか。戸だなの中にあるお皿って、みんなホコリまみれだもんね。

「‥‥なぁ、何度も聞くけど、ほんまにこんなんでええんか?」

 後ろから、ホントに困った声が聞こえてきた。

「誕生日やんか? いっくら急にこっち来たからて、プレゼントがわりに料理っちゅうのも‥‥」

 心配性だなぁ、あいちゃんも。これで5回目だよ。

「いいに決まってんじゃん。あたしが好きなんだからさ」

 ‥‥あ、赤くなってる。くふふふ。

「よ、よぉ言うわ。あたしが味付けすると、すぅぐ『うすい〜、うすい〜』てグチくれよるくせに」

 あはは。コンロの方むいちゃった。

「まぁそう言わずにさ。今日はあいちゃんの料理、食べたいんだよ」

 ホント、おいしいもんね。どれ、ひとつ、っと。

「ま、まぁ、そうまで言われたら悪い気せぇへんけど‥‥あ、こら! つまみ食いするんやない!!」

 あてて。手たたかれちゃった。

「ったく‥‥さぁて、あと何作ったろかなぁ。ええ粉あるし、タコあったら焼いたるんやけど‥‥」

 うん。ほんとはその方がいいんだけど、でも。

「たこ焼きは、目の前で焼かないと、ね」

「あぁ、まぁそやな」

 またコンロに向き直っちゃったあいちゃんの背中、あたしはなんとなく見つめてた。

 ちょっと、おっきくなったかな?

 もうキロも揚げたかな、っちゅうくらいのとり肉、さめてもええように塩多目に振って‥‥と。ふぅ。これで揚げもん、ひと段落や。

 まぁ、こんだけでも、パーティはできるやろけど‥‥にしても。

「しっかしなぁ。あたしが来なかったら、料理どないするつもりやったん?」

 使い慣れてへんコショウ挽き回しながら、ちろっと後ろ見たった。どれみちゃん、舌出して頭かいてるわ。

「お母さん、急に出かけることになっちゃったんだよ。お父さんも、ぽっぷもね。あたしだけ居残りだよ」

 へ? なんやそれは。

 あたしが思わず振り返ったら、どれみちゃん、両手の人さし指目の前でこねくりながら、

「商店街のくじで当ったんだってさ。よりによって、今日から3日間だけ有効の温泉ご招待券」

 あぁ、そういうことかいな。

「みんな呼んじゃったし、あたし抜きでパーティできないじゃん」

 どうりで、あたしが来たとき、いきなり抱きついてきたはずや。

「そっか。今日はだれもおれへんのかぁ‥‥」

 あたしが泊まれたらええんやけど、学校の行事やからなぁ。夕方には旅館行かなならんし。

「だから‥‥いけないこと、する?」

 ‥‥


 パッコ〜ン!


「いった〜い! おたまでぶたないでよ!!」

 ったく。そら先週のドラマで、おんぷちゃんが言うてたセリフやないか。

「マジな声でアホなことぬかすからや。そぉいうセリフは、おんぷちゃんやないと似合わへんで」

「ひ、ひどいわ! わたし、なにもかも捧げ‥‥」

 ‥‥ひと呼吸して、と。

「さぁて、次は熱っついのいったろかなぁ」

 あたしが目の前にフライパン掲げたら、どれみちゃん飛びのいてった。

「うわぁ! ‥‥ごめ〜ん。反省しまぁす」

 笑いながら、両手合わせてるわ。まぁ、気にするな、っちゅうことやな。

 よっしゃ。あたしは、あたしにできること、ちゃんとやったるわ。

「そういえば、どれみちゃん?」

 台所のテーブルの上が料理でいっぱいになったころ、あいちゃんが言った。

 あたしは、とっさに口の中のから揚げ飲み込んで‥‥あぁ、あいちゃんが困った顔して頭かいてるよ。ごめ〜ん。

「ま、そらええとして‥‥ケーキがないみたいなんやけど?」

 え? あ、そっか。

「それがさ‥‥ももちゃんが送ってくれる、って言ってたから、用意しなかったんだよ。でも、まだ届かなくってさ」

 思わず苦笑いになっちゃった。アメリカからだから、遅れてもしかたないよね。

 あれ、あいちゃん冷蔵庫の中ゴソゴソやってる。‥‥あ、そっか。

「クリームもないんだよ。実は」

 冷蔵庫閉めて立ち上がったあいちゃん、すっごく困った顔してた。

「あっちゃぁ。クリームなしやと、まともなケーキ作れへんわ」

 そだね。今から買いに行ってても、あいちゃん帰るまでに間に合わないし。

「ま、いいよ。誰か持ってくるかもしれないしさ」

 あたしはなんとか笑ってみたけど、あいちゃん困った顔のままだよ。

「ごめんなぁ。ももちゃんやったら、なんとかできるんやろうけど‥‥」

「いいって」

「せやけどなぁ、あの白いんがないと、ど〜も誕生日っちゅう感じがせぇへんし‥‥」

 あぁ、考えこんじゃったよ。あいちゃんのせいじゃないし、別にいいのに‥‥ん〜と、そうだなぁ。

「あたしはどっちかっていうと、ケーキよりステーキが欲しかったかな〜」

 あははは、って笑って言ってみた。

「ん? さっき見たら、冷蔵庫に肉あったやん」

 あぁ、よかった。普通の顔に戻ったよ。

「誕生日できないかわり、って買ってくれたんだけど‥‥なんか、安ぅ〜い肉らしくてさ。スジだらけで、ステーキには使えないんだって」

「ふぅん。そやったら、料理はしてええんやな?」

 あいちゃん、『白いもん』とかぶつぶつ言ってる。なんだかわかんないけど、料理だったらおまかせだよね。

「うん。いいよ。あいちゃんの好きにして」

「そやったら‥‥なぁ、彫刻刀持ってへん? もう使ぅてへんのがええんやけど」

 彫刻刀? なんに使うんだろ??

 プチッ、プチッ、プチッ


 あいちゃんの手元、さっきから、なんかヘンな音してる。 なんだろな〜ってのぞこうとすると、隠しちゃうんだもん。なにやってんだろ?

「しっかし、どれみちゃんもよぉわからんなぁ」

「へ?」

 いきなり言われたんで、声が裏返っちゃったよ。

「ももちゃん並みっちゅうわけやないけど、お菓子けっこうやってたやんか?」

「うん。で?」

「それやのに、なんで料理が上手(うま)ならんのかなぁ、思てな}

 普通の声でさらっと言われると、余計ぐさっとくるなぁ。もう。

「ぶぅ。ほっといてよ」

「や、ほっとくんはええけど。どれみちゃん、惚れっぽいし、惚れるといっしょけんめいやるんに、なんでやろかな〜思て」

「だから!こうやって、あいちゃん見てるんじゃん」

「見てても上達せぇへんで〜。手ぇ動かさな」

 そう言ってから、しばらくプチプチやってたけど、またぽそっと聞こえてきた。

「‥‥やっぱ、だれかに惚れてるときやないと、上手くならへんのやろかなぁ?」

 もう! そこまで言わなくてもいいじゃんか!!

「そ〜ゆ〜こと言うんだったら見てなよ。いま作ったげるから!」

 ふ〜んだ。あたしだって、カレーくらいは作れるんだから。


 にんじん切って‥‥あ、あれ?なんか、転がっちゃうな。 ‥‥いいや、ハサミつかっちゃお。おとうさん言ってたもんね。キャンプじゃ、ハサミでなんでもやっちゃうんだ、って。

「ハサミぃ!? なにアホやってんねん。料理やったらそこの包丁で、ちゃっちゃとやったり」

 べ〜だ。あいちゃんも、彫刻刀なんてヘンなもの使ってるじゃん。ハサミだって、ちゃんと料理できるんだもんね〜だ。

 ほら、こうやって。にんじんでしょ、じゃがいもでしょ、とり肉だって‥‥あいたっ!

「いたっ、いたたたっ!!」

「あほぉ!」

 切った指の先、あいちゃんの両手がかぶさった。

「いたいっ、いたいよあいちゃん!!」

 そのまま、押しつぶすみたいに‥‥あ〜っ!!

「ええから黙っときっ!!」

 痛い!痛い!痛い! 指つぶれるぅ〜っっ!!

 あいちゃんの手が、そぉっとどいた。

「ふぅ。なんとか、血ぃ止まったみたいやな。そやけど‥‥」

 こっち向いたあいちゃん、目がこわい。

「こッッの‥‥どあほぅ!!」

「そんな言わないでよぉ。ごめん、ごめんってば」

 あいちゃん、血がしみ出してる指に、おっきなバンソコ貼ってくれて。それからため息ついた。

 ‥‥まだ、怒ってるね。

「ハサミっちゅうんはな、きれいに切れへんねゃ」

 え?

「包丁やったら、スパッときれいに切れるわ。そやから、くっつけたらすぐ治るんや。 けど、ハサミはそういかへん。ヘタすると、もう縫うしかあらへんねゃ」

 そっか。あいちゃん、いじわる言ってたんじゃないんだ。あたしがあぶないから止めてたんだね。

 だめだなぁ。たった半年離れてただけだってのに。

「あたしもどあほぅや。変なこと言うて、ごめんなぁ」

 あいちゃんが、ケガしたあたしの手、両手でにぎった。すっごくやわらかい手。さっき、つぶされそうに思ったのがうそみたいだよ。

「どれみちゃんはな、なんでもできるねん。あたしなんかよりずっと、ず〜っとや。ほんまやで?
 せやから、料理も覚えてほしいねん。ちゃんとな」

 パーティの会場は、うちのリビング。

 痛い指かばいながら、料理をテーブルにのせてって。ちょっと頭上げたら、目の前であいちゃんが止まってた。

「ひの、ふの‥‥ん〜、8つがええとこかぁ」

 え?なんのこと?

「取り皿いくつ乗っかるかな〜思てな。せやけど、こんな少なくてええの?」

 あぁ、そういうことか。

「まぁね。ももちゃんいないし、あいちゃんも来ないと思ってたし、はづきちゃんとおんぷちゃんは遅くなるって言ってたしさ」

 それで矢田くんが代わりに来る、っていうのが、あのふたりらしい(・・・)けどね。

「中学の友だちは? 呼ばんの?」

「まぁ‥‥狭いもんね」

 あれれ、あいちゃんいきなり、くすくす、って、笑いだしちゃった。

 なんだろう、ってあたしが目を見たら、

「ん? あぁ。MAHO堂使(つこ)たら、おおぜい呼べるんになぁ。どれみちゃん()、やっぱ使わんのやなぁ、思てな」

 あたし『()』、か。そだね。

「そりゃぁ‥‥ねぇ?」

 あたしはポケットに手を突っ込んで、指にあたった硬いものにぎった。

 あいちゃんも、ジーンズのポケットからひょいっ、と取り出した。

 おんなじ、金色のカギ。

「ゆき先生からカギもらったの、あたしたち5人だけだもんね。ぽっぷだって持ってないんだから‥‥他の人は、入れたくないよ。友だちでもさ」

「‥‥そか」

「はづきちゃんも、矢田くん入れたことないみたいだしね。きっと、みんなおんなじだよ」

 カギをポケットにしまってたら、あいちゃんの笑い声がした。くすくすって。

「どれみちゃん。はづきちゃんが矢田くんに話したかて、『裏切りもの〜』なんて言うたらあかんで?」

 ‥‥うん。あいちゃんの顔みながら、あたしはうなずいた。そうだね。言いたくなっちゃうかもしれないけど、ね。

「まだ早いかもしれへんけど、ふたりきりになりたい〜っちゅうこともあるやろしな」

 ふたりきり、かぁ。はづきちゃんたちの、ふたりきり、ねぇ。

「そのときは‥‥」

「そんときは?」

「裏からのぞくっ!」


 シャンッ!!


 あたたたたっ!

「ッたぁく! そんなんやったら、あたしがこっちで監視せなあかんやないか」

 もぉぅ、痛ったいなぁ。泡だて器なんてどこに持ってたんだよぉ!

「それに、はづきちゃんだけやないで?  どれみちゃんかて、いつそうなるやわからへんわ」

 言われた瞬間、目の前に浮かんできちゃった。

 MAHO堂の中で抱き合ってるとこ。あたしと‥‥うあぁぁぁっ!

「え? あ、いや、ん〜‥‥え!?」

 あ〜、顔が熱くなってる。言葉がでてこないよ。‥‥あぁ、あいちゃん歯で笑ってるし。

「よう言うやろ? 人の恋路を邪魔するヤツは‥‥ってな?」

 う〜。遊ばれてるなぁ、あたし。

 料理を並べなおしながら熱くなった顔さましてたら、あいちゃんの笑い声がやんだ。あれっ、と思って振り返ったら、あいちゃん、テーブルの向こう側見てるよ。

「MAHO堂は、 大切な思い出の場所やけど‥‥せやけど、ほんまの思い出は、あそこにあるんやない。あたしはそう思うわ」

 ぽつん、って話してるあいちゃんの顔見上げて、あたしは思った。

 やっぱり、おっきくなってるんだなぁ、って。

 ぽーん、ぽーん‥‥


 時計の音で、いっしょに振り向いた。 あぁ、もう4時かぁ。

「‥‥ほな、そろそろやな」

 あいちゃんが、頭のナプキンとエプロンとって、台所のイスにかけてる。

「せめて、あと一時間いてくれたらな‥‥ せっかく来たのに、あたしとしか会えないんじゃさ‥‥」

 あと、しばらく言葉にならなかった。

「まぁ、みんなに会える時間ないんは、わかってたことやからな」

 うん‥‥ しかたないのはわかってるんだ。けど、ね。

 ちょっと沈んでたら、肩にぽんぽんって当たった。

「ま、3ヶ月ちょいたったら、会いに来たってや」

 3ヶ月? あぁ、あいちゃんの誕生日か。

 あたしは、思いっきりうなずいた。がんばって、お小遣いためなきゃ。


 おっきなバッグ持って、あいちゃんが玄関出た。あたしはあとから‥‥ぶっ!

「あぁ、あかん。言い忘れてたわ」

 ‥‥いきなり立ち止まんないでよ。背中にぶつかっちゃったじゃん。

「まだ焼いてるんがひとつ、オーブンにあるんや。悪いけど、パーティの最後あたりで出しといてくれへん?」

 え?あぁ、そういえば‥‥そっか、あたしがケガしちゃったから、間に合わなかったんだ。

「白くて丸いし、ろうそく立てれるようにしといたから。‥‥ほな、またな!」

 最後まで、あいちゃんらしいや。よぉっし!

「そんじゃ、3ヶ月後にね!」

 5時すぎ、来てくれたみんなからプレゼントもらってから、あたしはいい気分で料理取り分けた。

 今日は、もひとつ楽しみがあるんだよね〜♪

「わ、すっごくおいしい」

「うめぇじゃん、これ」

「これ、みんなどれみちゃんが作ったの?」

「そんなわけないじゃん」

 さぁって、誰が最初にわかるかな?

「‥‥妹尾、来てたのか」

 おぉ。矢田くん、鋭い。

「だから、その程度で済んだのか」

 って、目線があたしの手に‥‥みんなじ〜っと見て、

 あ〜あ。爆笑されちゃった。もう‥‥ま、いいか。

「あら? ケーキはないんですの?」

 あ、そうだった。

「あいちゃんから言われてたんだよ。白くて丸いの焼いてるから、出しといて、って。いま持ってくるね」

 あたしは両手に手袋はめて、オーブンに向かった



 オーブンから出してきたもの、テーブルの上に置いたら、周りがしーんとなった。

「‥‥白くて、丸い、ね」

 うん。

「でも‥‥ざらざら、だよね」

 うん。

「なんか、しょっぱいぜ?」

 うん‥‥

「おまえ、妹尾に嫌われてんじゃねぇの?」

 ‥‥ん〜?


「‥‥いってぇ〜! なんで俺だけ殴るんだよ!?」

 うっさいなー、小竹は。

 あぁ、みんな心配そうな顔してるよ。しょうがないなぁ‥‥ふぅ。

「まぁ、あいちゃんにだって失敗はある、ってことだよ。ほら、ろうそく立てるとこもあるし、食べられないけど、ケーキ代わりに使っちゃお?」



 それから1時間くらい、みんなと話して、ゲームして‥‥みんなを見送ったときには、もう7時近くになってた。

 でも、その間になに話したんだか、あたしぜんぜん覚えてないや。

「おまたせ‥‥もう、終わっちゃったわよ、ね」

 みんなが出てったあと、リビングでぼーっとしてたら、 開いたドアからぴょこっ、と髪の毛が出てきた。あ、おんぷちゃんだ。

「ごめんなさい。遅くなっちゃって‥‥」

 後ろからはづきちゃんも顔だした。

 おめでとう、って言葉といっしょに、ふたつのプレゼントが目の前に出てきた。

 うん。せっかく来てくれたんだもん。いつまでもぼーっとしてちゃだめだよね。

「まだ料理もあるよ。食べて食べて

 ふたりをテーブルに連れてって、新しい取り皿あげて。 もっかい、笑顔になってみよう。うん。

「そう?じゃ、いただくわね」

 ふたりとも、残ったから揚げぱくっ、と口に入れて‥‥あはは。おんぷちゃんったら、もくもくと食べてるよ。

「どう?」

「どれみちゃん、ずるい! 来るなんて、わたし聞いてないわよ!?」

 え〜と、そんなこと言われたって‥‥

「学校の行事で、急に来ることになったんだって。あたしも知らなかったんだよ。‥‥もう、旅館に行っちゃったけど」

 おんぷちゃん、まだぶつぶつ言ってるよ。あとで電話で文句言いそうだなぁ。あたし知〜らない。

「あら?これ‥‥」

 はづきちゃんは、あの白くて丸いかたまり、じっと見てる。‥‥あぁ、また説明しなくちゃいけないのかぁ。

「それ、あいちゃんの失敗作。だーれもケーキ持ってきてくれないから、あいちゃんにはちょっと期待したんだけどな〜」

 やだなぁ。はづきちゃんだけじゃなくて、おんぷちゃんもじっと見てるよ。

「‥‥ケーキじゃないわね」

 うう。あらためて言われるとつらいなぁ。

「お肉買ってもらっても、結局ステーキ食べれなかったし。やっぱりあたし、今年も不幸なのかなぁ」

 えへへ、って笑いながら言ったら、ふたりが顔みあわせた。ん?

「‥‥どれみちゃん、ひょっとして安いお肉だからステーキにできない、とか、あいちゃんに言ってない?」

「う、うん。なんでわかるの??」

 あれれ?ふたりして笑ってる?

「ふふ。じゃ、これがあいちゃんのプレゼントね」

 おんぷちゃんがそう言って、白いかたまりを台所持って行った。



「まな板の上に乗せて、と‥‥どれみちゃん、木づちない?」

 木づち?‥‥って、木のトンカチだよね。そういえば、さっきあいちゃんが使ってたな。

「あ、それそれ。じゃ、いくわよ。よいっ、しょ!」


 ゴンッ!


 白くて丸いかたまりに、ひびがはいった。


 コン、コンコン


 ひびが、だんだん大きくなって‥‥あれれ?中に、なにかあんの?

「もう、いいかな?」

 白いかけらをはがしてったら、中に黒っぽいものが見えた。‥‥って、これ!

「ステーキ!?」

 あみ目もようの焦げ目がついた、厚切りのステーキが何枚も! で、でも。

「ステーキ用の肉なんて、なかったはずだよ!?」

 ‥‥あ、またふたりして笑ってる。もう!

「いいから、食べてみて」

 なんか、納得いかないなぁ‥‥ま、いっか。ぱくっ、と。うん!

「あぁ〜、本物のステェキだぁ

「あいちゃんらしいわね。焦げ目つけてから、お塩で固めて蒸し焼きにしたのよ。それに、ほら」

 おんぷちゃんが指さしたとこ、三日月のへこみがある。

「スジみんな切って、ね」

 ってことは、これって‥‥

「あのスジだらけの肉ぅ!?」

 うそだよ、信じらんない。いっくらあいちゃんだって、こんな‥‥

「すごいわ。ほとんどスジ感じないもの。でも、どうやったのかしら? 包丁じゃないみたい‥‥」

 はづきちゃんに言われて、あっ、と思った。

 そっか。彫刻刀に木づちって、これだったんだ。

「でも、全部は間に合わなかったみたいね。これスジ残って‥‥あ」

 あたしは、おんぷちゃんがつついてた肉つかまえて、丸ごと口に入れた。

「どれみちゃん、ちょっと、それ‥‥」

 口の中で、ごりっ、ごりっ、ってかみ切れないスジ。

 こんな固いスジ、ぜんぶ切ったんだ。ひとつひとつ見つけて、プチップチッ、って。


 あたしの背中、ふたりが両側から抱きかかえてくれた。‥‥そうだね。いつだって大親友だもん。 ごめんね、あいちゃん。


 そのあいちゃんが、言ってくれたんだ。あたしだってうまくなれるって。

 よぉし、あいちゃんの誕生日には、料理作りにいっちゃおう。きっとあいちゃん、驚かせちゃうから!


「ところでどれみちゃん、にんじんの切りくずいっぱいあるけど、なんなの?」

 ら、来年の誕生日には、きっと‥‥

「にんじんだけじゃないわ。じゃがいもに、お肉‥‥そっか、飼育係になったのよね?」

 ‥‥その前に、包丁の練習しよ。うん。

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