なつのえんがわ

「ハナちゃん、えんがわ欲しいの!!」
 

 MAHO堂のドアが、ばん、って開いて、なんやろ思て見た瞬間、頭にひびく、ごっつい大声。
いきなりやったんで、みんなその場で固まってしもた。
 

 ハナちゃんはそのままこっちに走ってくる。

「えんがわ?」

 リボンフラワーほどきながら言うてるはづきちゃんの脇、通り抜けて、

「ベランダならあるじゃん」

 ヒをあさっての方に放り投げながら言うてるどれみちゃんの横、駆け抜けて、

 ハナちゃんは、首を思っきり横に振りながらこっちに向かってきてる。

「縁側じゃないとだめなの?」

 おんぷちゃんが言うてるそばに走り込んだ と思たら、横に立ってたあたしに、 そのまま頭から突っ込んできてしもた。

 ‥‥くぅ〜!!あいかわらず手かげんなしやなぁ、ハナちゃんは‥‥
 

 あたしがゲホゲホやってると、ハナちゃんは笑いながら顔上げて、

「うん えんがわに、おみず入ったバケツ持ってきて、花火するの♪」

 聞いたみんなが、あたしと一緒にため息ついた。 こら、まぁた誰かにいらんこと吹き込まれたんやな。ったく、誰や?

「Yes 日本ノ夏は、縁側で花火だヨネ!」

 開きっぱなしのドアから聞こえてきたんは、いつもの弾んだ声 ‥‥なんや、ももちゃんかいな。

 はぁ‥‥そやけど、縁側ちゅうてもなぁ。

「あ、だったら私の家に来れば‥‥」

 すぐそばで、はづきちゃんの声。いつの間にかハナちゃんの背中なでてる。

「そうじゃないの!ハナちゃん、MAHO堂にえんがわ欲しいの!!」

「そうソウ、MAHO堂の縁側♪ ワタシたちだけデ花火

 ありゃ、ももちゃんまで来とる。

「ん〜」

 縁側かぁ。ハナちゃんのお願いやから、魔法なんかで出したないしなぁ‥‥

「ねぇねぇ、あ〜いこいいでしょ?」

 って、ハナちゃんが抱きついてくるんはともかく、

「ねぇねぇ、あいチャンいいでショ?」

 ももちゃんまで、すな、っちゅうに。 だいたい、なんでみんなあたしに言うんや?

 困ったなぁ思てると、

「よぉし、作っちゃおう!」

 どれみちゃんがこっち来ながら言うた。

 ‥‥不思議なもんや。どれみちゃんにそう言われると、なんでも出来るような気ぃになるわ。

「そやなぁ。縁側言うからごっついもんと思うけど、要するに、スノコに足はやしたらええだけやん。板と柱あったら、なんとかいけるんやないか‥‥?」

 作りかた考えながらちょこっと言うたら、いきなり首根っこにしがみ付かれてしもた。

「うわはホント!? あ〜いこ、えんがわ作ってくれるの?」

 あはは‥‥体は小6なんやから、もぅちぃと加減してくれへんかなぁ。

 マジョリカに見つからんように、そっとMAHO堂の裏庭に出てみた。MAHO堂はもちろん洋風やけど、暗いところにスノコ置けば、それなりに見えんこともないなぁ。ただ‥‥

「ああは言うたけど‥‥ 材料どないしょ?」

 花火はええとしても、材木買う〜、なんてマジョリカが承知せんやろなぁ。

「あの、あいちゃん?あれ‥‥」

 はづきちゃんにつつかれて振り向いたら、‥‥うぁ。

「こらぁ‥‥なんや?」

 庭のすみ、板と柱が山んなってる。

「マジョリカじゃない?」

 おんぷちゃん、冷静やな。

「なんか最近、親バカに磨きがかかってきたね」

 どれみちゃんが、ため息まじりにぼそっと言うてる。あたしもあたま痛なってきたけど、

「ま、まぁええわ。よぉし、夜までにちゃっちゃと作ったろ。

 ももちゃんとハナちゃんは、花火買うてきてや」

 は〜い、っちゅう声が、MAHO堂に消えてくんを見送ってから、どれみちゃんが、

「それじゃ、はづきちゃん、あいちゃん、はじめよ」

 よっしゃ!、それじゃまず、大工道具持ってきて‥‥

「あら、わたしは?」

「え、あ、そっか。おんぷちゃんは、え〜っと‥‥」

 あかん、あたしも忘れてたわ。ももちゃんたち、もう買い物行ってしもたし‥‥

「おんぷちゃん、手伝ってくれるの?」

「なに、それ!?」

 ああ、ヘソ曲げかけてるやん。はづきちゃんもなに不思議そうに言うてんのや、もう!

「おんぷちゃんは、あたしの手伝いや。納戸行って、大工道具探そな、な?」

「‥‥ええ、まぁ。いいけど」

 はづきちゃんが描いた縁側の絵見ながら、あたしが板をゴリゴリ切ってる横。さっきっから、おんぷちゃんがだまって立ってる。

 はぁ、失敗してもうたなぁ。

「そないむくれんと、な?」

 おんぷちゃんの目をちらちら見ながら、またノコ動かして。最後の1枚切り終わったところで、隣のとんがった口から言葉が出てきた。

「わたしはただ、普通にしていたいだけよ」

 あ〜あ、そのままぷい、って横向いてしまいよった。しゃあないなぁ。

「はづきちゃんやて悪気あったわけやない、てわかるやろ? 最近、仕事忙しそうやから、みんな気ぃ遣うてん‥‥」

 言うてる途中で、いきなりばっ、と振り向いてきた。げ、にらんどるぅ。

「だから! それが‥‥!!」

「お〜い、あいちゃん! スノコって、どうやって作るんだっけ??」

 ああ、どれみちゃん。天の助けやぁ〜。

「あ、いま行くわぁ!‥‥おんぷちゃん、じゃ、普通でええから手伝ぅてや。たのむで」

 時間置いて、気ぃも落ち着くとええんやけどなぁ‥‥あたしは、そんなこと考えながら、どれみちゃんの方に走ってった。

「あいちゃん、ここ、どうするの?」

 どれみちゃんに、板の打ち方説明して戻ってきたら、今度ははづきちゃんに呼び止められた。 ノコ持って、柱を何本か組み合わせて‥‥ああ、足の組み方やな。

「あ〜、そこな。ちょいとホゾ彫って、つないだったら‥‥」

「あら、はづきちゃんもノコギリ使うんだ?」

 ぎく。‥‥あかん、おんぷちゃんの声にビクビクなんてしたないんやけど。

「なんだか不思議。はづきちゃんって、こういうことしないように見えるのに」

 はづきちゃんの顔、きょとん、ってな感じから、いきなり苦笑いになって、

「う〜ん‥‥そうね。MAHO堂に来なかったら、きっとしなかったと思うわ」

 ああ、そっか。最初があれやったからなぁ。

「こんなん、最初にMAHO堂を改装したときに比べたら、大したことあらへんて」

 あたしが言うたら、はづきちゃん、笑いながら大っきくうなづいてん。

「そうよね。あのときはもう、MAHO堂まるごと直しちゃったんだもの」

 はづきちゃんが話しながらコリコリ、っとホゾ彫ってくれた材木、あたしが仮組みして。スノコ持ち上げようとしたら、 どれみちゃんがもう片方の足つけてた。

「そうそう、看板も、ドアも、レジだって作りなおしちゃったんだもん」

 どれみちゃんも話しながら釘打ってる。

「あれ考えたら、こんなのへっちゃらだよね」

 ほんまや。へっちゃら、っちゅうより、楽しいくらいやな。
 

「‥‥へぇ、そうなんだ」

 おんぷちゃん、やっと落ち着いたみたいや。はぁ、どうなることか思たけど‥‥

「‥‥ あ、わたし上の板にニス塗っちゃうわね」

 へ?ニス?? んなもんあったんか。そやけどあれ、においキツいし、手につくと荒れてまうしなぁ。おんぷちゃんにやってもらうんはちょっと‥‥

「あ、おっとと」

 ああ、ニスの缶に振り回されてるやん!やっぱあかんわ。

「も、もうええて、おんぷちゃん。白木の縁側ちゅうのも、それなりにええもんやし‥‥」

 言いながらニスを戻そうとしたら、ぐん、っと引っ張られた。

「なによ!あいちゃん、いいかげんにして!!」

「えええぇ!?」

「What's happen!?」

 なんやMAHO堂の方でごちょごちょ言うてんけど、もう関係ないわ。だあぁぁ!こおぅのわからんちんがあぁぁ!!

「そやから、さっきから言うてんやろが!

 おんぷちゃんの手ぇが荒れるから、やめ、言うとるんが‥‥」

「そんなこと言ってるんじゃないわ! わたしの言うことちゃんと聞かないで、自分ばっかり喋ろうとするから‥‥!!」

 ったく、もぉう〜!! なに言うても聞かんのはどっちや!!

 頭カッカきて思わずこぶし握りしめたそのとき、
 

「‥‥にぃ〜なれぇ〜♪」

 ハナちゃんの声!? 振り向いたそのとたん、体がふわっと軽ぅなった。

「だいたい、あいちゃんは‥‥え?」

「な、なんや、なんやぁ〜!?」

 いきなり浮いたと思たら、あたりがぱっとまっくらになってしもた。

 じ〜っと、目をこらしてみる。‥‥おかしなぁ。まわり見えてもええはずなんやけど。

 しかもなんや、やたらきゅうくつやな。

 頭ちょい、っと動かしたら、すぐ何かにぶつかってまう。ごろん、て転がろ思ても、腕や足が固いもんにぶつかってまうし‥‥

 おんや?下だけちょい柔らかいなぁ。なんやろこれ?どこかでさわったような気ぃすんのゃけど‥‥

「あいちゃん、重いんだけど」

 あぁ!? そや、この感じ、おんぷちゃんや。

「ご、ごめんなぁ‥‥痛ッ!!」

 思わず飛び上がったら、あたま思いっきりぶつけてしもた。

「った〜!!」

 う〜。手で押さえることもでけへんで、痛いのがまんしてると、下からくすくす笑い声。

「ハナちゃんの魔法で、どこかに閉じ込められちゃったみたいね」

 さっきハナちゃんの声聞こえたし、きっとそやろな。しっかし、

「はぁ。こんな狭いと、魔法使えへんなぁ」

 ふふふ‥‥

 おんぷちゃんが、また小さく笑てる。

「さっきっから、なに笑ぅてんのや?」

「ハナちゃんの魔法、なにしたかったのかな、って考えてたのよ。ね、なにをお願いしたんだと思う?」

 そら、ハナちゃんのことやから‥‥

「あたしらが、仲良うなるように、かいなぁ」

「うん。わたしもそう思う」

 またくすくす笑てる。はぁ。なんやほっとするわ。いまやったら、話聞いてくれるかもしれんなぁ。

「な、おんぷちゃん。おんぷちゃんと会う前のあたしら、ほんま全部手作りやったんや」

「うん」

「せやからな、ノコとか持ってくると、どうしても昔のこと思い出してまうんや。おんぷちゃん仲間はずれなんて、誰も思てへんで」

「わかってる」

 なんや、えらいすなおやな? ‥‥どうせ顔見えへんのや、ええい、最後まで言うたれ!

「だいたい、考えてみぃや。 おんぷちゃんが来てからの方が、もう長いねんで?
 ちょっとくらい思い出ちごたって、どうってことないやん。これから作る思い出の方が、ずっと、ず〜っと大切やんかー」

「‥‥あいちゃん?」

「んー?」

「そんなこと、よく真顔で言えるわね」

 ぐっ。‥‥あ〜ん〜なぁぁぁ! ひとがまじめに言うてんのに!!

「わたしには、とてもまねできないわ」

 はぁ、そうやった。なかなか言葉で言うてくれへんからなぁ。そやけど、あたしは‥‥

「あたしは、おんぷちゃんがなに思てるんか、いつでも考えてんでー」

 あはは。顔見えへんと、なんでも言えるもんやなぁ。

「それじゃ、きょうわたしが一番うらやましかったこと、なんだかわかる?」

 一番かぁ、なんやろなぁ、って考えてたら、
 

 ぎゅっ
 

 首におんぷちゃんの手が回ってきて、ほっぺたがくっついてきてん。

「ハナちゃんだったら、いつでもできるのにね」

 顔は見えへんけど、あたしにはわかった。おんぷちゃんもきっと、あたしとおんなじ顔してる、て。

「お〜い、もしも〜し」

 ん?

 どれみちゃんの声や。近くにおるんやな?

 おんぷちゃんの腕が、いきなり首からどいた。

「どれみちゃん、そこにおるんか? 助けてぇな」

「え?なに??」

「助けて、って言ってるみたい」

 はづきちゃんもいるんか。でも、声は届いてないみたいや? よぉし、それなら大きな口パクで、た・す・け・て!!

「いや、助けてもなにも‥‥」

「どうして出てこないの?」

 へ??

 ふわっと、なにかさわったような感じがしたあと、いきなりまわりが見えるようになった。

 頭の上には、スノコ板。板のすきまから、お月さんとどれみちゃんたちがのぞいてる。

「ってことは‥‥ここ縁側の下かぁ!?」

「‥‥ひょっとして、外からはずっと見えてた、なんて言わないわよね?」

「ずぅっと見てたわよ

 はづきちゃんのめがねが光ってる。それはええけど‥‥そのは、なんや?

「やっと声聞こえたわ。ふたりでなにしてたの?」

「な、なんでもあらへんて」

「そ、それより、もう夜よ。花火は‥‥?」

 あたしを押し上げてるおんぷちゃんがそう言うたら、みんなあたしらから目ぇそらした。

「あ、あはは‥‥いや〜、ほら、花火よりさ、あいちゃんたち見てる方が面白くなっちゃって。で、気がついたら‥‥」

「ハナちゃん、ももといっしょに、花火ぜ〜んぶやっちゃった!」

「んなあほな!!」
 

パキッ
 

へ?『パキッ』??

 思わず起き上がったら、脇の柱が折れてしもた。さっきはビクともせんかったのに。

「あ〜! あ〜いこが、こわしたぁ!!」

「わぁた、わぁたって。あたしらがあとで直したるから。な、おんぷちゃん」

 半分になってしもた縁側しょって手ぇ貸してたら、両手でしっかり握りながらおんぷちゃんが言うた。

「‥‥うん♪」

『小説?小噺?』へ戻る