とおいそら・ちかいそら

 短かった2月ももうおしまい。ちょっとだけあったかくなってきたMAHO堂で、私たちはいつものようにお菓子を作っていた。

 どれみちゃん、あいちゃん、ももちゃん、そして私。おんぷちゃんは、今日はおしごと。‥‥ううん。今日も、おしごと‥‥

「はづきチャン、手、止まってるヨ」

 あ、いけない。あわてて目の前のボールの中をゴムベラでかき混ぜたけど‥‥あ〜あ。粉がダマになっちゃってるわ。

 そ〜っと目だけ上げてみたら、ももちゃんが、む〜っとした顔で見つめてる。

「ご、ごめんなさい。ちょっと‥‥考えごとしちゃって」

 そう言ったとたん、大きな二つの輪っかが、きらきらの目で身をのりだしてきた。

「はづきちゃんの考えごと?なにナニ?」

 ごまかしたつもりだったのだけど、ももちゃんには逆効果だったみたい。

「実はね‥‥3日のことなんだけど」

「3月3日?‥‥Ohヒナマツリね!ワタシ、初めて!!」

 え?

「去年は引っ越してきたばかりデ、やるヒマなかった。忘年会でいろんなことやったケド、ヒナマツリだけはやらなかったし‥‥やりたい!ね、やろ、やろ

 あの、そうじゃなくて‥‥

「え、ええ‥‥あの、それはいいんだけど‥‥」

「どうしたノ?困った顔して‥‥あ、ひょっとしてヒナマツリ嫌いなの、はづきチャン??」

 ええと、そうじゃなくって‥‥

「え、あ、その、そういうわけじゃ‥‥」

「気にしない、気にしナイ。アメリカでも、ハロウィン嫌いな子、いるし。人それぞれだヨね」

 だからっ‥‥!

「そうじゃなくってっっ!!」

 はっ、と口をおさえたけど遅かった。目の前にはびっくり目玉のももちゃん。どうしようか考えてたら、

「なに?はづきちゃん、どしたの??」

 どれみちゃんが飛び込んできて、ちょっとほっとした。

「ご、ごめんなさい。大きな声だしちゃって。‥‥あのね、ももちゃん。3月3日なんだけど、私たちの場合、ひな祭りだけじゃないのよ」

 ももちゃんの頭の上は?マークだらけ。ええと、なんて言おうかしら‥‥

「3月3日言うたら、おんぷちゃんの誕生日やんか。それが、どないしたん?」

 声の方を向いたら、あいちゃんが、クッキーダネを器用に切りまぜながら立ってた。

「Wowそっか、じゃオマツリふたついっぺんだネ」

 そう。それだけなら楽しく準備すればいいのだけど。でも、

「あれ?だけど、たしか今年の3月3日って‥‥」

「みんな、なにしてるの?」

 キッチンで考えてこんでた私たちは、突然声をかけられてちょっとびくっとした。振り向くと、片側にむすんだ髪が不思議そうにこっちを見てる。

「ああ、おんぷちゃんか。ええとこに来てくれたわ。3月3日って、おんぷちゃんコンサートやったんなぁ?」

 最初に声を出せたのはあいちゃん。私もどれみちゃんたちも、まだ心臓がどきどきいってるみたい。それだけ、みんな考えこんでいたんだわ。

「そうよ。今年はちょうど日曜だから、ってことで、マジョルカがバースディコンサートを企画したの」

 笑いながら、おんぷちゃんがそう言った。けど、

「そっかぁ‥‥」

「困ったワ‥」

 しょんぼりした顔のどれみちゃんとももちゃんを見て、おんぷちゃんが小首をかしげた。

「どうかしたの?」

 そうよね。私だって、わけを知らなかったら不思議に思うし。

「バースディパーティ、どうしようかって言ってたのよ」

 私がそう言うと、おんぷちゃんやっぱりにっこり笑った。アイドルの顔で。

「あ、だったら‥‥はい、これ」

 目の前に出てきたのは、おんぷちゃんのイラストが入った紙。

「コンサートのチケット。関係者用にすこしもらってるの。みんな、来てくれる?」

 みんな、どんな顔したらいいのかわからない顔だった。私も、きっとそう。

「そら行きたいけど‥‥あたしらがもらってもうたら、あべこべやんか」

 あいちゃんも、どう言ったらいいのかわからないみたい。さっきからずっと、口をとがらせてる。

「いいのよ。じゃ、みんなで来てね☆」

 まだちょっと複雑だけど、こう言われたら仕方ないわ。行きたくないわけじゃないし。

 チケットを受け取った私は、みんなに配っていった。どれみちゃんと、あいちゃんと、ももちゃんと、‥‥

「え‥‥と、あら?」

 チケットが、3枚。

「あ‥‥」

 おんぷちゃんが困った顔をしてる。きっと、数まちがえちゃったんだわ。

「えへ♪ごめんなさい、間違えちゃった。‥‥はい、あと1枚ね」

 別のポケットから、くしゃっ、とした封筒が出てきた。おんぷちゃんは中からチケットを取り出して広げながら、

「追加でもらった分だから、ちょっと汚くてごめんね。‥‥はい。じゃ、わたしは打ち合わせだから。またね」

 パタパタ、って駆けだしてくおんぷちゃんと、手の中のチケットを見比べながら、私はなにか変だなぁ、って感じていた。

「おまえたち、おんぷを知らないかい?」

 おんぷちゃんが帰ってしばらくした頃、キッチンの上の方から声がした。

「え?‥‥げ、マジョルカ!!」

「なんでMAHO堂来んねん?!」

 ももちゃんが不思議そうな顔でどれみちゃんを見てる。‥‥いけない。ついついイヤな顔しちゃってるんだわ。いい思い出ないものね、私たちには。

「なにが『げ!』だい!? ‥‥まぁ、いい。おんぷがね、もう打ち合わせの時間だっていうのに来ないんだよ。
 おんぷの母親は別の打ち合わせでね。仕方ないからあたしが探しに来た、ってわけさ。で、おんぷを‥‥ん?」

 マジョルカが、私のことを見てる。私の手もと‥‥チケット?

「おまえ、そのチケットをどうしたんだい!?」

「え‥‥あの、さっきおんぷちゃんにもらったんですけど‥‥」

 マジョルカ‥‥こわい。
 縮こまっていた私の前に、どれみちゃんが出てきてくれた。

「そのチケットが、どうかしたの?」

「それは、おんぷの父親のために特別に用意した席だよ。」

 ええっ!!?
 私はびっくりしてチケットを見なおした。‥‥ほんとう。このチケット、特別席のだわ。

「おんぷちゃんの、お父ちゃんの分‥‥」

 あいちゃんの声でまわりを見たら、みんなが私の手もとを見ていた。

「これ、もらえないよ」

 どれみちゃんの声に、私はただうなずいた。そうよ。これもらっちゃったら、もう友達だなんて言えないわ。

「とにかく、これ返そうヨ」

「せやな。誰が行くかは、あとでクジでも作って決めたったらええねん」

 オホン。と上からセキばらい。

「どうやら、一度ここに来てすぐ出ていったようだね。しかたない、他をあたるとするかね。
じゃ、チケットを返しておくれ。あとでおんぷに渡して‥‥」

 私の目の前に降りてきたマジョルカがそう言いかけたところで、MAHO堂の入り口が爆発した。
 ‥‥ううん。爆発したみたいに思いっきりドア開けたんだわ。
 びっくりして見てみると、ショーケースの向こう側でおんぷちゃんがにらんでる。

「マジョルカ、なにやってるのよ!」

 私はチケットを握りしめて、キッチンを飛び出した。

「あの‥‥おんぷちゃん?これ‥‥」

 差し出したチケットを見て、おんぷちゃんが困った顔してる。なんて言おうか考えていたら、後ろからどれみちゃんが言ってくれた。

「ごめん。聞いちゃったんだぁ。お父さんの分なんでしょ?これ」

 おんぷちゃん、ちょっとだけ下を向いてから、すぐ顔を上げた。

「あ、ああ、そうね。それじゃ、ひとりだけ別の場所になっちゃうわね‥‥マジョルカ、もう一枚持ってない?」

 笑ってる。けど、違う。

「そういう問題じゃないよ!なんで、お父さんにあげないのさ!!」

 どれみちゃんが、体当たりするみたいに迫ってた。けど、

「いいのよ」

 おんぷちゃんは、ただ笑ってる。

「いい、って‥‥」

「もういいの。今年はパパ、休めるはずだったんだけど、急にお仕事入っちゃったんだって」

 やっぱり。おんぷちゃん、心配なことあんまり話してくれない。以前よりは話してくれるけど、どれみちゃんやあいちゃんみたいには、まだ‥‥

「2日の夜行で札幌に行って、戻ってくるのは4日の朝だって。お祝いは1日遅れになっちゃう、って言ってた」

 私のとなりに来たあいちゃんも、同じこと考えてるみたい。とっても心配そうな顔。

「それじゃ♪ ほら、マジョルカ!いくわよ」

 マジョルカを握るようにして出ていったおんぷちゃん。そのあとを、私たちはしばらくじっと見つめていた。
 なにか話そう、としても、うまく言葉が出てこない。どうしようか考えながら、ちょっととなりを見たら、泣きそうな顔のあいちゃんが目に入った。

「あいちゃん‥‥?」

 ももちゃんとどれみちゃんが振り返った。あいちゃんは私たちをひとりひとり、じっと見てから、ちょっとうつむいて、

「‥‥うん。あんな、おんぷちゃん、さっき出てってから戻ってくるまで、何してたんやろなぁ、て考えてん。
 そしたら、そしたらな。なんど考えても、あの線路の上の橋から、電車ながめてる姿しか見えてきぃへんねん‥‥」

 次の日はもう3月。MAHO堂のキッチンでケーキ作りをしてる私たちの中に、おんぷちゃんはやっぱりいない。

「あさって、だネ」

 ももちゃんが、スポンジにクリーム盛りつけながら、ぽつん、と言った。

「おんぷちゃんのお父ちゃん、明日の晩からおれへんねやな‥‥」

 あいちゃんが、クリームの上にイチゴをのせながら、ぽそぽそっ、と言った。

「きょうは学校もお休みしてて、話もできなかったよね‥‥」

 どれみちゃんが、その上から煮とかしたアメをかけながら‥‥え?煮たアメ!?

「あちちちちッ!‥‥くぉら!どれみちゃん何しとんねん!!」

「ごめん、ごめん‥‥って、あいちゃんこそ、イチゴをケーキに押し込んでどうすんのさ」

「えぇっ!?‥‥なんや、ももちゃんがイチゴの上からぬりたくってんやんかぁ」

「ワタシ、順番どおりにやってるジャない。ぬりおわる前に作業するふたりがワルイ!」

 あ、ああ、もう‥‥

「ね、ねぇみんな。そんなツンツンしなくても‥‥」

 って言ったとたん、三人がくるっと振り向いて、

「「「はづきちゃん、さっきから何もしてない!!!」」」

 ハモられちゃった。そういえば、私、ぼ〜っとしてたみたい。

「あ〜ッ!もうやめ、やめや!」

「そうネ。こんなんじゃ、ケーキなんてできないワ」

 ももちゃんはそう言いながら、クリームとアメでゴテゴテしたケーキ台を冷蔵庫に押し込んだ。あいちゃんは手早く道具を片付けてる。私もお皿を受け取って、流しで洗った。

 ゴシゴシ。

 キュッキュ。

 気が付いたら、同じお皿を洗ってはふいて、また洗ってはふいてた。あいちゃんも、ももちゃんも、ごそごそ動き回ってるけど、よく見ると同じことくり返してる。

「ねぇ」

 そんな中、テーブルの上から声がした。いままでつっぷしてた、どれみちゃんだ。

「したいよね、パーティ」

「せやな」

 あいちゃんが、まるで夢見るみたいに言った。

「パーティ、したいよね」

「うン☆」

 ももちゃんが、目をきらきらさせて言った。

 それから、みんなが私を見た。‥‥うん。わかってる。

「私もこの間してもらったわ。おんぷちゃんだけなしなんて、絶対いや!」

 1日ぶりに、みんな笑った。

「せやけど、どないすんねん?おんぷちゃんのコンサート、夕方からや。仕事終わったら夜やで?」

「そうネ。おんぷちゃんの家はもちろんダメだし、MAHO堂で騒いでたら、怒られチャウ」

 またみんなの笑顔がたてジワに代わりそうになったとき、

「夜、か‥‥え?夜!?」

 どれみちゃんが、すっとんきょうな声を上げた。

「ど、どうしたの?」

「はづきちゃん!3日って、月、出る!?」

 いきなり聞かれて、私はとっさにキッチンの奥を見た。

「お月さま?ええと‥‥出るわよ。月齢18だから、満月よりちょっと欠けたのが出るわ」

 MAHO堂のカレンダーには、毎日の月齢がちゃんと書いてある。だって‥‥あ!

「んむ。それなら、なんとか行けるじゃろ」

 見上げた先には、チリトリが浮かんでいた。

「マジョリカ!」

 みんなビクッとした。キッチンでおしゃべりしてるんだもの、すぐカミナリが落ちてくる‥‥はずなのに、今日はなにもなかった。

「行くっテ‥‥あ、ひょっとシテ、魔女界?」

 ももちゃんはマジョリカのカミナリあんまり知らないから、けっこう平気みたい。

 そ〜っとみてみると、マジョリカ、むっつりだまっちゃって、私にはなんか不気味。でも、どれみちゃんはもうすっかりリラックスしちゃってる。

「そう!あそこなら、夜中にさわいでも問題な〜し☆」

「今のおまえらなら無断で行っても問題ないじゃろ。じゃが騒ぐつもりなら話だけは通しとかんといかんな」

 ‥‥なんか、すっっごく不気味。

「な、なんや、珍しなぁ。マジョリカが反対しないなんて」

 あいちゃんも私と同じだったみたい。顔がいやがってるわ。

「仕方ないわい。おんぷに元気がないのでは、売り上げが落ちるんじゃ」

 ぷいっ、て横向いたマジョリカを見て、私にもやっとわかった。 だって、おんぷちゃんほんとに元気がないときは、かえって心配したファンの人が寄ってくれるんだもの。

「‥‥よし。会場はわしがなんとかしよう。その代わり‥‥わかっとるな?」

ジロっとにらまれても、もうへいき。みんな、わかってるから。

「いい、いい!お店はあとでいっぱい頑張っちゃうから!!」

「よっしゃ決まりや!準備、はじめたろ!」

 3月2日。きょう学校はお休み。MAHO堂もお休み。

 すっごく静かなMAHO堂で、私たちは、パーティの準備をしていた。飲みものにお菓子、お皿にお箸にコップにスプーン。それから、それから‥‥あ!!

「いけない!パーティのこと、おんぷちゃんに言ってないわ」

 どうしよう‥‥考えていたら、しきものを探してたどれみちゃんが顔を上げた。

「しょうがないよ。ずっと練習で、会えてないんだから」

 お菓子を作ってるももちゃんも、ゼリー型を洗いながら振り向いた。

「それに、きっといまはコンサートのことであたまイッパイだよ。終わってからにしヨ」

 そ、それもそうね。ちょっと落ち着きましょ。

 ‥‥ああ、本当に静か‥‥すぎるわ、よね。

「それよりさ、マジョリカたち、遅くない?」

 そうそう。マジョリカとララ、きのうの晩に魔女界におでかけして、まだ戻ってないんだわ。

 そう思っていたら、奥のほうから、キィって音がした。二階で探しものしてるあいちゃんが降りてきたのかしら?

「ふぁ‥‥ただぁいまぁぁ〜☆」

 扉の向こうからは眠そうな声。小さな体がふわふわ飛んできた。

「あ、ララ」

「ララ、おかえリィ‥‥あレ?」

 ももちゃんが、不思議そうな顔で扉を覗き込んだ。私も見てみると、ララの後ろから、疲れた顔のマジョリカがゆっくりただよってきてる。

「マジョ‥‥リカ?」

 チリトリの上でチラっと見て、そのままゆっくり二階に‥‥

「ちょ、ちょっとマジョリカ。会場のほうはだいじょぶなの?」

 どれみちゃんの声に、チリトリがすぅっと降りてきた。マジョリカはころん、っとあお向けになって、

「あ〜?うんむ‥‥会場はちゃんと都合つけたわい。そっちはいいんじゃがな‥‥」

 って言ってまま、また浮かびはじめた。そこにちょうど二階から降りてきたあいちゃんが、

「まさか、また余計なことしたんちゃうやろな?」

 言ったとたん、カミナリが落ちた。

「わっしゃそんなことせんわい!デラじゃ、デ・ラ!!」

 キ〜〜ン‥‥

「デラが、どうかしたの?」

 耳が痛い。けど、やっぱり一番つきあいの長いどれみちゃんは立ち直りが早いわ。

「どこで聞き違えたのかは知らんが、『人間の珍しい祭り』なんぞと魔女界中に触れ回りおったんじゃ。 おかげでどこへ行っても、参加したい連中がわんさと押し寄せてのぉ‥‥」

「それやったらコンサートの続きになってまうやないか。おんぷちゃん、疲れてまうで!」

 階段の途中から、あいちゃんがマジョリカをわしづかみにした。おんぷちゃんが嫌がることだと、あいちゃんもこわいわ。

「わぁっとるわい!‥‥じゃが、魔女ガエル村だけならともかく、あろうことか元老の方々にまで、ぜひにという方が出てくる始末じゃ。もうもぅ‥‥」

「最後は女王様にまで泣きついて、代表二人だけ、ってことで、やっとまとまったのよ」

 ララがようやくチリトリまでたどりついて、ふぅ、と腰をおろしてた。こんなに疲れてるララ見るなんて久しぶり。きっと、魔女界はほんとに大混乱だったんだわ。

「どうする?」

 どれみちゃんがみんなの顔を見回した。そうねぇ、知らない人といっしょはあんまり‥‥だけど。

「ん〜‥‥ま、押しかけるんはあたしらの方なんやし、2人くらいならしゃぁないんちゃう?」

 あいちゃんがそう言うと、みんなうなづいた。

「でさ、誰が来るの、マジョリカ?」

「さぁてな。わしが知っているのは、人数が決まったところまでじゃから‥‥もういいじゃろ?わしゃ寝るわぃ‥‥」

 ふわふわ。二階へ昇っていくチリトリの後ろで、ララの小さな手がひらひらゆれていた。

「知ってる魔女さんだといいけど‥‥」

 それを見てたら、つい口から本音がこぼれちゃった。

「決まったのナラ、いま心配してもしょうがないヨ。それより、準備しっかりやらなきゃネ」

 ももちゃんがポンって肩たたいて、その勢いでみんなまた動き出した。さぁ、あと1日!

 3月3日は日曜日。夕方からは、おんぷちゃんのコンサート。でも、私たちはまだMAHO堂にいた。
 作りおきできないお料理だけは、直前につくらなくっちゃ、ね。

 うす〜い、クレープみたいなたまご焼き。一枚づつ、くっつかないようにキッチンペーパーにはさみ込んで、っと。うん。

「できた☆ あいちゃん、どう?」

 私がくるっと振り返って、キッチンの奥を見てみると、あいちゃん、あわてて何かかかえ込んでた。

「あ、あとちょっとや」

 あら?いつもだったら、もう終わってるのに‥‥

「そう‥‥?」

 テーブルの上には、できあがったお料理が並んでる。ええと、私の薄焼きたまごに、おまぜご飯。あとはお海苔に紅しょうが。絹さや、にんじん、うずらの卵‥‥他に足りないものって、あったかしら?

「ん〜、もうちょっとやから。あ、はづきちゃん、それ、包んでてくれへん?」

「いいけど‥‥」

 なんかあいちゃん、様子が変。私に見えないようになにかやってるわ。なにかなぁって、のぞいてみようとしたら、

「あ、はづきちゃん、あいちゃん。お菓子もできたよぉ☆」

 って言いながら、どれみちゃんが飛び込んできた。

「よくわからナイけど、これで、いいノ?」

 その後ろからは、ひなあられ持ったももちゃん。キャンディマシンで作ってたのね‥‥マジョリカに見つかる前におそうじしとかなくちゃ。

「どれどれ?‥‥ん。上出来、上出来!」

 ぱっと飛び出してきたあいちゃんが、ももちゃんのひなあられ食べてる。なんかごまかしてるみたいだけど、私はもう気にしないことにした。‥‥あいちゃんだものね。これがどれみちゃんだったらちょっと心配だけど‥‥

「ねぇ、みんな!」

 どれみちゃんの声に、思わず飛び上がっちゃった。‥‥き、聞かれてなかったわよ、ね?

「どしたの、はづきちゃん?
‥‥ま、いいや。みんなさ、おんぷちゃんへのプレゼント、決めた?」

「そらまぁ、とりあえずやけどな」

 私も、とりあえずよね。うんうん、ってうなずいて横をみたら、ももちゃんがちょっと考えこんでる。

「おんぷチャンへのプレゼントって、難しイ」

 あら?意外だわ。

「ももちゃん、パーティ慣れてるから、きっとプレゼント選ぶのじょうずだと思ったのに‥‥」

 私が言い終わるまえに、ももちゃん軽く首をふった。

「ううん。きっとワタシが何あげても、おんぷチャン笑って受け取ってくれると思うヨ。‥‥でもサ、どうせなら本当によろこんでくれるモノ、あげたいよ。
 おんぷチャンのよろこぶもの、って、なんなのカナ??」

 おんぷちゃんが、本当によろこぶもの、かぁ‥‥

「なんとな〜くなら、わかるんだけどな〜」

 そうね、な〜んとなくだったら、私にも‥‥あら?なんか、コゲくさい?

「あ〜〜っ!キャンディマシンがケムリふいてる!!」

 あ〜あ、やっぱり。

 でも、かけだしてる二人の背中を見てたら、ちょっと不安になった。

 おんぷちゃんの誕生日、ほんとに、これでいいのかな、って。

コンサートが始まった。ステージの上では、おんぷちゃんが歌ってる。

おどりながら。笑いながら。いつもと違う歌をうたってた。

   包み込むようなあったかい笑顔で。

   子リスみたいにちょこちょこと。

   明るく、強く、いっぱい元気に。

   跳ねるみたいにはしゃぎながら。

   そして、いつものいたずらっぽい瞳をおどらせて。

「‥‥なんか、誰かに似てるわ」

 そう、ひょっとするとあの中には、私もいるのかもしれない。

私も、おんぷちゃんの一部にいるのかもしれない。

そう思ったら、なんだか私のほうがプレゼントをもらったような気がした。

 

 長いはずのコンサートも、あっという間にフィナーレ。

 手を振りながら幕の影に消えていくおんぷちゃんを拍手で送りながら、 私は決めた。おんぷちゃんのパパの分まで、めいっぱいお祝いしよう、って。

「よぉし、あとはパーティよ。盛り上げなくちゃ!」

 ‥‥あら?

 『お〜っ!』‥‥って、いつもなら言うのに、何も反応がないわ。

 なぜかしら?って振り向いたら、すぐそばにいたはずのみんながいない。そのかわりにちょっと離れたとこから

「は、はづきちゃんが燃えている‥‥」

 どれみちゃんたちひどいぃぃぃ。引かないでよぉぉぉ。

「そんな泣きそうな顔せんと。さ、ファンの波が引いたら、さそいに行こか」

 あいちゃんに背中押されながら、私たちはおんぷちゃんの家に向かっていった。

「あ、来た来た」

 おんぷちゃんの家のそば。ハムスターになった私たちの前に、いつもの白い車が停まった。

「さ、みんな、行こ!」

 どれみちゃんの合図で、降りてきたおんぷちゃんに近づこうとしたそのとき、

「みんなSto〜〜p!!」

 目の前で両手を広げたももちゃんに、おもいっきりぶつかった。

「な、なに??」

 おでこ、痛い。さすりながらももちゃんを見ると、なにか指さしてる。 その先にはおんぷちゃんの家、そして、その中から出てきた人に、おんぷちゃんが飛びついた。笑顔で。

「おんぷちゃんの、お父ちゃん!?」

 そうだわ。私も会ったことある。でも、たしか今日は帰ってこれないって‥‥

「だれか魔法使ったの??」

 どれみちゃんの声に、私もみんなもふるふる、って首を振った。そうよね。パパのお仕事じゃまするなんて、おんぷちゃんが一番きらうことだもの。

「それじゃあ‥‥」

 みんながおんぷちゃんを見た。パパにだっこされた、おんぷちゃん、コンサートのときとも、MAHO堂にいるときとも違う。まるでちっちゃい子供みたい。

「‥‥ほな、行こか」

 青いハムスターが、くるっと後ろを向いて歩き出した。

「エ?」

 黄色いハムスターが、まるい目でそのうしろ姿を見つめてる。

「会場はおさえちゃったもんね」

 赤いハムスターが、なんか頭をかきながら歩き出した。

「魔女界の代表のひとまで来るんですもの。ちゃんとやらなくちゃ」

 オレンジのハムスター――私――は、うんうん、ってうなずいてから歩き出した。

「そっカ。そだね。それじゃ、ヒナマツリだけでも、みんなでやロ!」

 最後に黄色いハムスターがそう言って、みんなのあとを追いかけた。

 曲がり角の影でもとの姿に戻る前に、もう一度だけおんぷちゃんの顔を見た。

 ‥‥私のお祝いは、もういらないんだわ。そう思えたのがちょっとさびしいけど、でも、なんだかほっとした。

「わぁ 桃の林だぁ」

 マジョリカのあとについて魔女界を飛んでた私たちは、いつの間にかたくさんの桃の木の中にいた。

「ひな祭りは桃の節句じゃからのぉ。どうじゃ?ぴったりじゃろ?」

 私は感激して声が出なかった。どれみちゃんはすっごくはしゃいじゃって、

「うん、すごい、すごいよ、マジョリカ!‥‥でさ、おひなさま、どこ??」

「そっこまで面倒見きれるかぁッ!!」

「‥‥ケチ」

 あ〜あ。ひと言多いのはいつものことだけど、今回はちょっとマジョリカかわいそう。

「ぬわんじゃと!こッの‥‥!!」

「まぁまぁ。おひなさんなら、ちゃ〜んと人数分あんで」

 マジョリカの前に回りこんだあいちゃんが、にこ〜って笑って言った。

「え?人数分??」

 どれみちゃんとももちゃんはきょとんとしてる。そっか、あいちゃんとしか話してなかったからね。

「うふふ。ついてからのお楽しみよ」

 

「お、来たようだね」

 たくさんの桃の花のなかに、おっきなテーブル。そのそばには、見なれた白衣のひとがいた。

「あ、マジョハート先生」

「先生が魔女界の代表なんですか?」

 ほうきから降りた私たちを見渡してから、マジョハート先生がうなずいた。

「まぁね。あと、もう一人‥‥」

「邪魔をするぞ」

 桃の木のかげから、もうひとり。そのとたん、マジョリカが飛び上がっちゃった。

「マ、マジョリードさま!」

 久しぶりに見たわ。緊張してるマジョリカなんて。

「人間界の、それも日本の祭りとあっては、他の者にはゆずれないからな。ま、邪魔する代わりといってはなんだが、手土産をもってきたぞ」

 マジョリードさん、ふろしきをテーブルの上で開いて、中のものを並べはじめた。

「ひし餅に‥‥あられに‥‥甘酒。人間界から持ってきていた本を元に再現してみた。モモコ、これでどうだ?」

 惜しいわ。もうちょっとで完璧だったんだけど。

「あたしも初めテだけど‥‥あいちゃんに教えてもらったのと、ナンカ違う」

「なに?ど、どこだ?どこがちがう??」

 がばって、音がしそうなくらいの勢いで、マジョリードさんがももちゃんの肩をつかんだ。けど、ももちゃん考え込んじゃってる。

「あの、あられだけ、違うんですけど‥‥」

 かわりに私が答えたら、仮面の顔がくるっと振り向いた。

「ひな祭りには、ひなあられじゃないのか?」

「ひなあられは、甘いあられのことなんです。これは、普通のあられ」

「これが、ひなあられです。‥‥どうぞ」

 どれみちゃんが差し出したひなあられを、マジョリードさん、ばつの悪そうな顔で受け取って、

「そ、そうか。うむ、勉強になる。来た甲斐があったというものだ。なぁ、マジョハート」

「‥‥まぁ、そういうことにしておこうかね]

 やれやれ、っていう感じのマジョハート先生が、マジョリードさんから渡されたひなあられを、ぽりぽり。

「なるほど、ほんのり甘くてとても軽い。ふわふわしているけど油も多くない、か‥‥これは離乳食にもよさそうだね。あとで作り方教えとくれ」

 私たちみんな、顔を見合わせておもわず笑っちゃった。マジョハート先生ちっとも変わってない。いつでも子供のことを考えてるのね。

「さぁ、そしたらみんな座ってや。マジョハート先生も、マジョリードさんも座ったってください」

 パン、パン、って手を叩きながら、あいちゃんが声をかけた。私もテーブルのそばにあったお座布団にすわろうとしたとき、 服のすそが、ツンツン、って引っ張られた。振り返るとどれみちゃんが、

「でさ、はづきちゃん。おひなさまは?」

 あ、いけない。

「あ、いま作るから。ちょっとまっててね」

「え?作る??」

 私とあいちゃんは、持ってきた荷物の中から材料を並べて、さいごの仕上げ。おまぜごはんを軽く三角にむすんで、 薄焼きたまごでくるんであげて。甘いにんじんは細く切ってつけて、うずらのたまごは楊枝でとめて、上から紅しょうがでちょん、ちょん、ちょん‥‥

「あ、ひなちらしだ」

 絹さやとお海苔で飾りをつけて‥‥はい、完成。

「Wonderful!おヒナさまオニギリね?」

「おにぎりちゃうねん。ま、あとで食べてみ」

 作ったひなちらしを分けて、っと‥‥

「これがマジョハート先生の分、こっちがマジョリードさん‥‥マジョリカとララは二人で一組ね?あと、どれみちゃん、ももちゃん、あいちゃん、私、と。これで全部ね」

 ふぅ、って息ついて座ろうとしたら、下から小さな声がした。

「ロロ、ロロロロ!ロロロロロ!」

 え?ロロロロ、って‥‥まさか!

「「ロロ!?」」

 思わずあいちゃんとハモっちゃった。

「ロロ、あんたおんぷちゃんといっしょやなかったんか?」

 いつの間にか、あいちゃんと私の間に小さな妖精がいた。あいちゃんの言葉に、こっくり。ちっちゃな体がうなづいてる。

 でも困ったわ。レレも他の妖精たちも、みんな私たちの代わりに寝てもらってるから‥‥そう考えていたら、ロロがふわふわテーブルの上に乗っかって、私のひなちらしを指さした。それからあいちゃんと 私に向かって、なにか話しかけてる。

「ん?なんや??」

「ひなちらしが、どうかしたの?」

 からだを振り回しながら、なにかうったえてる。う〜ん、レレの言ってることならはっきりわかるんだけど、え〜っと‥‥

「なぁに?‥‥『おんぷちゃんの分を‥‥置け』?」

「『置け』って、あんたねぇ」

 となりから、どれみちゃんがつっこんきた。けど、ロロは気にしてない。

「『いいから置け』? わかったわ。材料ないから、あたまの部分がないんだけど‥‥はい、じゃこれ」

 ロロは、うんうん、ってうなずいてから、ひなちらしの前で落ち着いちゃってる。食べるわけでもないみたい。変ねぇ。

「そういえば、一人足りないようだが、どうした? 今日の主役ではないのか?」

 いきなり声がして、ついビクッとしちゃった。マジョリードさんには、やっぱり慣れないわ。

「‥‥それっテ、おんぷチャンのこト?」

 ももちゃんは平気みたい。えっと、なんだっけ。おんぷちゃんがいなくて、今日の主役で‥‥え!?

「なんで知ってるんや??」

 うんうん。おんぷちゃんの誕生日を知ってる魔女なんて、マジョリカとマジョルカくらい‥‥

「一昨日からオヤジーデがうるさくってね。あたしは、てっきり誕生日を兼ねてやるもんだと思ってたんだけど?」

 マジョハート先生が苦笑い。そういえばオヤジーデがいたんだったわ。

「おんぷちゃんのお父さんが帰ってきててさ‥‥」

 どれみちゃん、それだけ言って下向いちゃって。みんなもなんだか言いたくないみたい。 あとは、私、ね。

「おんぷちゃんのパパは忙しいから、いつも、とおいそらの下にいるんです。
 おんぷちゃんのお誕生日に、帰れないはずなのに、ちゃんと帰ってきてて。
 それで、おんぷちゃんのうれしそうな顔見たら ‥‥なんだか、私たち、じゃまみたいな気がして‥‥」

 いけない、って思ってても、やっぱり下向いちゃう。

「そうかい?」

 やさしい声だった。私たちみんな、ぱっと顔を上げたら、とおい目をしたマジョハート先生がいた。

「あたしなら、遠い空にいる子供にいま会えるとしたら‥‥そこでできた友達のことを、邪魔だなんて思わないよ」

 とおい目の先にいるのは、きっとマジョランさん。

「親ってのは子供の幸せを夢見るもんさ。子供は迷惑かもしれないけど、ね」

 そう言って、なんかテレくさそうに、にやにや笑ってた。けど、さっきのマジョハート先生はママだった。
 私たちよりもっと、ずっと、いろんな経験をつんだママだった。

「なに話してるの?」

 後ろからいつもの声がたずねてきた。私はなにも考えずに

「おんぷちゃんのパパのことよ。おんぷちゃ‥‥」

 そこまで言って、あれ、って思った。今の声、だれ?

 振り向いた目の前には、むらさきのブーツ。

「え?‥‥ええぇっ!?」

「夜中なんだから、大きな声出さないで」

 むらさきのスカートにぼうし。片側からぴょん、って飛び出た髪のたば。

「だ、だって、だってだって‥‥なんでおんぷちゃんがここに!?」

 おんぷちゃん、ただにっこり笑って、私のほうに来た。テーブルの上では、ロロがくつろいでる。

「ロロ、ロロロ」

「ありがと、ロロ。そこがわたしの席ね」

 そのまま、私とあいちゃんの間に座った。さっき、『おんぷちゃんの分』って置いたひなちらしの前に。‥‥って、ことは。

「あ〜っっ!ロロ、あんたおんぷちゃん来んの、知っとったんやな!!」

 ロロはおんぷちゃんの肩の上で、あさっての方を向いてる。まちがいないわ。もう。

「わたし抜きでパーティなんてするから、ロロが知らせてくれたのよ。ね、ロロ」

「ロ〜ロ〜♪」

 とぼけた顔しちゃって。

「じゃが、MAHO堂は戸締りしてきたはずじゃ。どうやって??」

「あれよ。あれ」

 おんぷちゃん、上を指さした。見上げてみて‥‥みんなちょっとの間、言葉が出なかった。

「これって‥‥まさか、女王様の、馬車!?」

 どれみちゃんが、なんとか言った。ももちゃんもあいちゃんも、まだ口開けたままだわ。

「そ。MAHO堂まで迎えに来てくれたの。プレゼントはできないから、そのかわりなんだって」

 そっか、女王様がひいきしちゃいけないものね。

「では、我々はこの辺で失礼しよう。マジョリン、乗せてくれ」

 後ろでマジョリードさんの声がしたと思ったら、馬車が降りてきた。

「『ひな祭り』はもうお開きでいいだろう? あいこ、『ひなあられ』の作り方、今度教えとくれ」

 テーブルの近くに降りてきた馬車に、マジョハート先生も乗り込もうとして‥‥片足をかけたまま、ちょっと振り返った。

「ああ、そうそう、おんぷ。遠い空と近い空、どっちが大事だい?」

「え?」

 おんぷちゃん、目をおおきく広げてマジョハート先生を見つめてる。先生はにやにやしながら、私たちみんなを見回してから、またおんぷちゃんに向かって、

「答えておやりよ。じゃあね」

 扉が閉まると同時に馬車が昇っていっちゃって、気がつくと、ここには私たちだけになっていた。

 

 桃の花が、風にゆれてる。

「とおいそらと、ちかいそら、か」

 おんぷちゃんが、私たちのほうを見た。みんな、ひとりづつ見てから、ふぅ、と息をついたと思ったら、いきなり、う〜ん、ってからだを伸ばしてちょっとあくびした。

 やっぱり、疲れてるんじゃないかしら。コンサート終わって、パパやママとパーティして、こんなよる遅くに‥‥

「だいじょぶ、おんぷちゃん?」

 わたしが思わず声をかけたら、

「なにが?」

 からだを伸ばしたまんま、きょとん、って顔で言われて、すぐに答がでなかった。えっと‥‥

「ああ、もうええわ!」

 なにかあきらめたみたいにため息ついてから、あいちゃんはポロンを取り出した。

「パメルクぅ〜、ラルクぅ〜‥‥ふかふかベッドよ、出ろっ!!」

 ボンッ、っとでてきたのは‥‥あいちゃん、なにを参考にしたのかしら。屋根つきのハデなベッド。

「なんか‥‥エッチっぽい‥‥」

 言っちゃってから、はっとしたけど、もう遅かった。

「「「はぁ〜づきちゃぁ〜ん??」」」

 ああ、みんなニラんでる、ニラんでるうぅぅ。

「‥‥ごめんなさい。もう言いません」

 おんぷちゃんがくすくす笑ってる。つられて、みんなが笑った。なんか複雑な気分だけど、わたしも笑った。やっと、みんな普通になったんだもの。

「おんぷちゃん、もう余計なこと言わへんから、きつぅなったら素直に寝ぇや」

 にっこりうなずくおんぷちゃん。それはもう、いつものおんぷちゃんだった。アイドルじゃなくて、いつも私たちといっしょにいるおんぷちゃん。

「それジャ、Let’s Party!」

 ももちゃんが声をあげて、みんなまた席についた。食べ物はまだいっぱい。ケーキはないけど、マジョリードさんのひしもちを真ん中において、ジュースで乾杯しようとしたとき、

「どわぁぁぁ〜っ!」

 どれみちゃんのすごい声がひびいた。

「ど、どないしたんや?」

「プレゼント‥‥」

 あ!

「プレゼント、みんな置いて来ちゃってるよ!!」

 そう、おんぷちゃんが来るなんて、思ってなかったから。でも、

「なに言ってるのよ。プレゼントならいっぱいあるじゃない」

 そう言って、おんぷちゃんはちょっといたずらっぽく笑った。

「たとえば‥‥ほら」

「わ、見たあかん!」

 あいちゃんの席の下から、ひょい、っとなにかを取り出した。食紅で目とくちと、あと片方にくるんとかみの毛を描いたうずらのたまご

「やっぱり。これって、おんぷビナね♪」

「あ、あは、あははははは‥‥いや〜最初はなんの気なしに作ってたんやけどな、いざ出来上がってみると、なんやテレくさなってしもてな〜」

 真っ赤になりながら言うあいちゃんに、

「ん。ありがと」

 っておんぷちゃんが言うと、ますます真っ赤になった。

 みんなが笑ってる。その顔を、ひとつひとつ、おんぷちゃんが見つめてた。

「ね、みんな。とおいそらにいる人の方が、ちかいそらにいる人より、大事かな?」

 あ、マジョハート先生の、言葉。

「わたしはね、とおいそらにも、ちかいそらにも大事な人がいる、って言えるの、ステキだと思う」

 そう言って、ちょっと舌を出した。そっか。うん、そうね。大事だって言える人がいる。それはとってもうれしい。どっちが大事じゃなくって、大事って言えることがうれしい。

 みんなの視線がなんとなく集まった中で、おんぷちゃんはまたおっきなあくび。

「おんぷちゃん、無理したあかんで」

「うん‥‥ちょっと、疲れたかな」

 おんぷちゃん、あいちゃんのひざに、ころん、ってねころんだ。

「ベッドあるやん」

「ここでいいのよ」

「せっかく出したんに‥‥」

 ぶつぶつ言ってるあいちゃんの下で、

「‥‥ここがいいの」

 小さな声が、たしかにした。

 ‥‥とりあえず、聞かないふりしておきましょ☆
 ふたりからそらした目の先で、どれみちゃんとももちゃんがやっぱり赤い顔してた。私が口の前に人さし指をたてたら、ふたりはうんうん、ってうなづいて、そのまま何もなかったみたいにおしゃべりをしはじめた。

「でモ、やっぱりプレゼントないのって、チョット‥‥」

「そうだよね。なにかないかな‥‥?」

 それもそうね。おんぷちゃんが寝てるうちになにか‥‥って、 あいちゃんのひざで寝てる姿見てたら、いいこと思いついちゃった。

「私にまかせて。ハイパイポ〜ンポイ‥‥リボンよ、出てっ!」

 ぽんっ、と出てきたリボンをポロンで動かして‥‥

「え、な、なんや!?」

 こうやって、ここでちょうちょにして‥‥っと、うん。できた♪

「ね、どう?」

「Wow☆」

「ラッピングあいちゃんだ

 大事な人、だものね。

「くぉら!プレゼントって、あたしかい!!」

「「「し〜〜っっ!!」」」

「うるさくしたら、おんぷちゃん起きちゃうよ」

「ッッ!‥‥‥」

 ああ、怒ってる怒ってる。

「ったく‥‥おんぷちゃんが目ぇさます前に消さんと、ほんま承知せぇへんで!」

 みんなでうんうん、ってうなずいた。けど、ふたりとも目があっかんべーしてる。‥‥きっと、私もしてる。ごめんね、あいちゃん。

「いまは、まぁ、ええけどな‥‥」

 くすくす。私もみんなといっしょに笑っちゃった。

 ひざまくらのおんぷちゃんは、いつのまにかあいちゃんのほうに向いて寝てる。

 それに、腕であいちゃんの体かかえて、顔もなんだかうれしそうだし。

 じ〜っと見てたら、声が聞こえてくるような気がして、私はちょっと顔が赤くなった。そう、きっと、聞こえてくるのはこんな声だから。

『うふふ‥‥今日は、わたしの♪』

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