とびらのむこうに

 コートにマフラー巻いてても、立ち止まるときゅうっ、と寒い、冬の朝。 わたしは学校と逆のほうに歩いてた。

 なんども通った坂を歩いてくと、道路から一段低くなったところに、古いお店が見える。 赤い朝日の中に、ぽっ、と浮かぶみたいに。

 もう、看板もなにもなくなっちゃったけど。

「ふぅ‥‥」

 息をはいたら、メガネがまっ白くなっちゃった。

 コートをちょっとめくって、スカートのポケット を探ったら、なにかに当たった。取り出した手の中には、ハンカチに包まれた、ちっちゃくて硬いもの。

 わたしはメガネを拭いて、よく見てみた。なんど見てもおんなじなんだけど。見るたびに思い出すわ。

 金色のカギ。ももちゃんがアメリカに行く日、ゆき先生にお願いして、みんなでもらったMAHO堂の合いカギ。

 ゆき先生、しょうがないわね、って顔してた。『ほんとは閉じなきゃいけないんだけど』って言いながら。思い出すと、いまでもつい笑っちゃう。



 合いカギで開けたMAHO堂は、あいかわらずがらーんとしてた。

 魔法がかかっているのかしら? いつ来てもイスやテーブルにほこりはついてない。でも、それでかえって寂しい感じになってるわ。

 もっと奥に行ってみる。カギのかかったとびら。ポケットの金のカギでは開かないとびら。 むかしは、ここから魔女界に行ったんだわ。いまでは、もう開かないのだけど。

 わたしはカバンをわきに置いて、ゆかにすわっちゃう。とびらにもたれて目をつむると、向こうの気配が伝わってくる気がするの。

 しん、としたMAHO堂だけど、ちっとも怖くない。もうじき来てくれるの、わかっているから。

 コンコン


 しばらくしたら、背中のほうから音が聞こえてきた。

「Hello‥‥ お〜い、いるゥ?」

 ちょっと、まのびした声。

「いるわよ」

 わたしはちょっと背筋のばして、も一度とびらにもたれた。

「あ、はづきチャン。Mornin'」

 とびらの向こうは、アメリカのMAHO堂。このあいだハナちゃんが一度つなげちゃってから、ずぅっとそのままになってるみたい。

 開けることはできないけれど、でも、電話よりずっと近くに感じられるわ。

「こんにちは、ももちゃん。ニューヨークって、いま夕方だったわよね?」

「夏ならネ。冬だから、もう夜だヨ」

 背中があったかくなってきた。ももちゃんも、とびらにもたれてるのかしら?

 あら? ももちゃん、ふぅ、って息ついてるわ。‥‥あぁ、そっか。

「今日も、クリスマスの準備?」

「うン あと四日だもんネ」

 そっか。アメリカはクリスマス休暇のほうが長いんだったわ。ももちゃんの学校、もうお休みなのね。

「わたしの方は、イブまで授業なの」

 そうじゃなかったら、もっと遅い時間でも来られるのにね。

「そっかァ‥‥それデ、きのうの話、結局どうなったノ?」

 あ‥‥そうね、やっぱり訊かれるわよね。うん。

 カレン女学院の、クリスマス・パーティ。

 12月25日のパーティには、みんな一人づつ、男性と一緒に参加する決まりになってる。 なんか変だけど、むかしからそういう規則なんだって。

 木曜日に風邪で休んでいたら説明があったみたいで、わたしがそれを聞いたのは次の日の金曜日。クラスの話題は、もうこればっかり。

 みんな、特別な友だちに来てもらうとか言ってたな。ただの友達はあまり呼ばないみたい。パーティだけじゃなくて、その前の礼拝から一緒にいないといけないから。男の子は、退屈しちゃうわよね。

 わたしは仕方ないからパパにお願いするつもりだったんだけど、その日はお仕事でいないって言われて、それで、MAHO堂でちょっと考えてたのが昨日のこと。ちょうど、とびらの向こうに来てたももちゃんに、思わず泣きついちゃったのよね。

 それにしても。

「‥‥もともとは、玉木さんがいけないのよ。
 『あら、藤原さんには、ちゃあんとお相手がおりますのよ』なんて言うから」

 それ聞いて、クラスのみんな、調査に行くなんて言い出すんだもの。

 これじゃぁ、河原へまさるくんに会いに行くこともできないわ。

「そう言わないノ」

 ももちゃんの声が聞こえてきた。なんだか、口の中だけで笑ってるみたい。苦笑い‥‥かしら?

 でも、玉木さんって、むかしから‥‥

「玉木さんのChristmas Cardってネ、みんなより先ニ届いたんだヨ」

 え?玉木さんが!?

「きっト、はづきチャンにBoy Friendなんているわけない、ッテ決め付けられてるの、見てられなかったんダヨ」

 あ‥‥!

「ご、ごめんなさいっ」

「いいヨ。むかしはいろんなことあったっテ、聞いてるから」

 あぁ。なんだかすごく恥ずかしい。そうよね。玉木さんだって、同じ美空小出身の仲間なんだもの。

「ネ、はづきチャン」

 あら? なんだかいきなり真剣な声だわ。

「なに?」

「わたしモ友だちだけどサ、どれみチャンが近くにいルじゃナイ。なんで相談しないノ?」

 そう、ね。それは、そう思うわよね。

「‥‥カレン女学院の子はね、礼拝とパーティで、25日が―― クリスマスがつぶれちゃうのよ。どれみちゃんの方のパーティにも行かないくせに、わたしたちのパーティの相談なんて‥‥」

「そっかァ」


 ポーン‥‥


 柱時計のチャイムが鳴った。あぁ、もうこんな時間だわ。

「ももちゃん、ごめんね。わたし、もう学校行かなきゃ」

「うん。それじゃア、また明日ネ」

 とびらの向こうで、トコトコって足音が遠くなってく。さぁ、わたしも立ち上がって、行かなくちゃ。


 でも、MAHO堂のとびらにカギをかけてたら、つい口からこぼれちゃった。

「明日には、なにか変わってるといいな‥‥」

 夜のMAHO堂。マジョモンローの写真だけが、わたしを見てる。


 とびらの向こうにはづきちゃんの気配がしなくなってからも、わたしはとびらの前にすわってた。

 まだ、人が来るんだもんね。


 コンコン


 ほら、来た来た。

「どれみチャン?」

「うん。でさぁ‥‥どうだった?」

 パタン


「ふぅ」

 自分の部屋に入ってとびら閉めたら、おもわずその場にぺたん、って座り込んじゃった。


 きょうも一日、いろいろ言われたな。


 やっぱり、どうしても誰か誘わなくちゃいけないみたい。どうしたらいいんだろう? お願いできる男の子なんて、まさるくんしかいないわ。幼なじみだもの。

 ‥‥そ、そうよ。幼なじみなのよ。いっしょにパーティ行ったって、おかしくないわ。幼なじみなんだから。当たり前じゃない!

 ‥‥でも、まさるくんは? わたしの学校のパーティに来て、なんて言ったら、どう思うかしら?


 なんとか立ち上がって服を脱ごうとしたら、ポケットに細長いものがある。 わたしはそれを鏡台の上に置いて、また着替えを続けた。

 でも、目のすみっこにあれ(・・)が映ると、とたんに言われたこと、思い出しちゃうわ。

『な〜に、まだ誘えてないの?』

 制服ぬいで、ハンガーにかけて。

『もう、オクテなんだから‥‥そうだ! だったら、これあげる』

 普段着やめて、もうパジャマ着て。

『あんまりハデじゃないけど、はづきちゃんなら、ちょうどいい感じになるわよ?』

 脱いだ制服にブラシをかけて。

『ホラ、それでさ、上目づかいで誘ってみたら?』

 それでも、やっぱり目がはなせない。


 鏡台の前にすわって、それを手に取ってみる。うすいピンクのリップクリーム。

 ちょっと手の甲につけてみたら‥‥うん。ほとんど色ないわ。じゃ、ちょっとためしてみようかな?


 くちびるの端から、リップをすっ、とつけてみた。べったりつかないように、そぉっと、そぉっと‥‥うん。

 鏡を見たら、なんだかそこだけ少し光ってる。

 わたしの顔のなかで、くちびるだけが目立っちゃう。近くで見たくなるかな? そしたら顔が近づいて、そして‥‥

 え?あの?ええと‥‥やだ、もう!

「わたし、変なのかしら?」

 次の日は23日で、学校はお休み。希望者のみの補講も午後からだけど、やっぱり朝からMAHO堂に来て‥‥恥ずかしいけど、きのうのこと、ももちゃんに話してみた。

 こういうときは、とびらが開かなくってよかった、って思うわ。

「変じゃないト思うヨ、べつに‥‥」

 あら?言ってる途中で、クスクス笑いだしちゃったわ。なに?

「あ、ゴメンネ。『べつに』っテ、矢田クンの口ぐせだったナ、って思っテ。はづきチャンは、『べつに』の意味、わかるんでショ?」

「意味?」

 何のことかしら。意味、って言われても‥‥

「矢田クンって口数少ないケド、はづきチャンはなんだかわかってるみたいだかラ」

 そう‥‥そうね。

「長い付き合いだから、なんとなく感じるのよ」

 ホントに『なんとなく』としか言えないんだけど。

「まるで、こうやって話してるみたいだネ」

 ももちゃん、またクスクス笑ってる。

「見えないケド、はづきチャンの顔、なんとなくわかるモン。はづきチャンと矢田クンも、そんな感じなんだよ。きっト」

「そ、そうかしら?」

 そうなのかもしれないわ。むかしから、ずぅっとだから。しゃべらなくても、なんとなく‥‥そう、なんとなく、でいつも通じちゃうから。


 カタン、 パタパタ‥‥


 軽い音がしたと思ったら、とびらの向こうでももちゃんが立ち上がる気配がした。

「‥‥あ、ゴメン。ベスが来たみたい。 それじゃ、また明日ネ」

 わたしは小声でまたね、って言って、そのままじっとしてた。音たてちゃいけないものね。

 とびらの向こうに、ももちゃんの気配がなくなっても、わたしはしばらくそのまますわってた。

「べつに、かぁ‥‥」

 そう、ね。いろんな『べつに』があるわ。なんだか、わたし以外の人はわからないみたいだけど。

「べつに‥‥べつにぃ‥‥べっつに‥‥」

 言いかたまねてみたけど、なんか違う。まさるくんの『べつに』

「‥‥」

 背中のクッション、なんとなく目の前に持って来た。

 じ〜っと見てたけど、軽く、きゅっ、って抱きしめてみる。‥‥あ、だんだん、あったかくなってきたわ。

「ひとだったら、抱きしめたときからあったかいのよね‥‥」

 あら?や、やだ!なに言ってるのよ、わたしったらっっ!?

 ぶんぶん振った手がなんだか軽いな、って思って見てみたら、クッションがぺったんこになってた。 中のスポンジ、ぜんぶまわりに飛び散ってる。

「あ〜ぁ‥‥補講行こう。もう」

 ふぁ‥‥ねみぃ。

 冬休みだってのに、なんで朝っぱらから、散歩なんてしてなきゃいけねぇんだ?

 『いつも夕方にペット吹いててダメなんだから、朝吹いてみなよ』って、まったく単純なヤツだよ。そんなもんで、自分の曲ができたら苦労しねぇや。

 ‥‥まぁ、結局あいつの言う通りにしてんだから、おれも人のこと言えねぇか。

 しっかし、こんな時間に家の近くでペット吹くわけにもいかねぇし、やることねぇなぁ。 ‥‥ん?あれ、巻機山んち――MAHO堂って言ったっけな――引っ越して空き家になったはずなのに、明かりついてるぞ?

 ‥‥あぁ、消えた。だれか出てくるみたいだな。いつの間に戻って来たん‥‥なに!?


 驚いたの気づかれないように、なんどか深く息吸ってから、おれは声かけた。

「よぉ、藤原ぁ」

 その瞬間、ビクッ、てこっち向き直った。近くまで来てたのに、気づいてなかったのか。

「ま、まさるくん!?」

 なんだ、こいつ。赤い顔して、目玉こぼれるくらいに見開きやがって。

「お、おは、おはよう」

「どうか、したのか?」

 おれが言ったとたん、思いっきり首振りながら、

「う、ううん、なんでもないの。じゃ‥‥」

 そう言うなり、走って行きやがった。コート姿に重そうなカバン持って、何度もコケそうになってやがる。

「なんだ、あいつ?」

 そういや、ここんとこ河原にも来なくなっちまったっけ。てっきり忙しくなっただけだと思ってたけど。でも。

「あいつ、また笑ってねぇな‥‥」

 パタン‥‥ドサッ


 部屋のとびら閉めたとたん、カバンが手から落ちちゃった。なんだか、いつもより重いわ。

「あ〜あ。補講なんて行くんじゃなかったわ」

 制服のままベッドのすみに腰をおろして、ちょっと顔上げたら、バイオリンのケースが目に入った。‥‥そうね。ちょっと引いたら、気分も変わるかも。

 ケースから出してる間も、やっぱりみんなの言葉、思い出しちゃう。

『藤原さんのお相手、意外だったわよ』

 わたしは頭振った。いけないいけない。これじゃきのうと同じだわ。

 バイオリン構えて、弦を調節して。

『なんか、つまんなそうな顔だったわよね?』

 あぁ、だめだめ。バイオリンに集中しなくちゃ。

 弓をそっとあてて、さん、はい。

『そうそう。トランペット持ったまんま、河原歩いていたわ。なんだか、ヘンな人よねぇ‥‥』

 バイオリンに、集中‥‥っ!

「みんな、なんにもわかってないんだからぁっ!!」


 キュポンッ!


 え?あ〜あ。おんぷちゃんが送ってくれたシャンメリーに弓が当たって、栓あいちゃった。‥‥もう、なにやってるのよ、わたしったら。


 手近にあったタオルであたり拭いたけど、ビンの中にまだ半分以上残ってるわ。 しょうがないわね。一日早いけど、飲んじゃおうかな。

 水差しのコップにこぽこぽ、って注いで、くいっと飲んでみた。きれいだけど、パーティの飲み物だから、ひとりっきりだとさみしいわね。 ‥‥あ、でもなんだか、あったかくなってきたわ。

 ラベル見てみたら‥‥ふふ☆ ちょっとだけ、おさけ入ってたみたい。

 ふぅ〜。きもちいい。パパが酔っ払っちゃうの、ちょっとだけわかる気がするな。

「まさるく〜ん。はい、一杯、って‥‥ きゃぁ! ちがうのちがうの!そうじゃなくってっ!!」

 あぁ、もう!

 わたしったら、なに言ってるのよっっ!!!

 一日たって、また、朝が来た。

「ふぁ‥‥ううぅ。さみぃ」

 口あけるだけで、体がふるえちまう。

 こんな時間に、あいつがひとりで公園に行ってるだってぇ? なに考えてやがんだ。

 昨日の夜に来たメールには、なんだかいろいろ書いてあった。 カレンのクリスマスパーティのこととか、このままだと、クラスの中であいつだけ、ひとりで行かなきゃならないとか。

 ‥‥あぁ、ったく! どうしておれが悩まなきゃいけねぇんだよ。

 だいたい、あいつが笑わねぇからいけねぇんだ。 考えごとすると、昨日のあの顔うかんじまって、曲に集中なんてできやしねぇ。まったく。

「はぁ‥‥やっぱ 、ちょっと行ってみっか」

「やっぱり、わたし変! 絶対、変!!」

 この何日か、なに考えてても、しばらくすると変なことになっちゃう。もう、どうすればいいのか、ぜんぜんわかんないっ!

「だから、変じゃナイってバ」

 だまって聞いてくれてたももちゃんが、ぼそっと言った。‥‥ごめんね。ももちゃんに言ってもしょうがないのに。

「幼なじみっテわたしにはいないケド、いちばん古い友だちでショ? バカにされたラ、怒るの当たり前だヨ」

 それは‥‥うん、それは、そうなんだけど。

「でも、だからっていきなりヘンなこと考えちゃうなんて‥‥」

「近くにいたラ、ホントにおシャクしてあげられるのにネ」

 え?

「ネ、はづきチャン?」

 ももちゃんが、すぅっと息すって言った。

「やっパリ、はづきチャンと矢田クンって、とびらの両側にいルんだと思うヨ」

 とびら? そういえば、きのうもそんなこと言ってたわね。

「とびらの両側デ、み〜んなわかっちゃうのもいいけどサ。ちょっトとびら開けたら、もっとよくわかるんじゃないかナ?」

 とびらを、開ける? わたしと、まさるくんの、とびら‥‥

「そんなの、どうしたらいいのかしら‥‥」

 わたしには、まるっきりわらかないわ。まさるくんとの間にとびらがあるなんて。まして、ひらくだなんて。

「カンタンだよ。笑ったらいいだけだモン」

 え!?

「はづきちゃんっテ、うわべダケで笑えないから。笑ったらキット、みんながわかってくれるヨ」

 そう‥‥かしら? ももちゃんの思い込みじゃないかな? なんか最近、あいそ笑いばっかりの気がするわ。わたし。

「そういえばサ、はづきチャン、ここのトコずっとMAHO堂にばかり来てるじゃナイ?」

 え!?あ、そ、そうね。いけない。話の途中なのに、考え込んじゃってたみたい。

「相談にはいつでも乗るケド、ちょっと外の空気吸ってみたラ? たしか、町を見渡せる公園(・・)ってあったよネ。あそこなんてドウ?」

 そう、たしかにそうだわ。ももちゃんと話してても考え込んじゃうなんて‥‥ちょっと、行ってみよう。

 パタン、って表のドアを閉めた音がしたけど、もうちょっと待ってみた。はづきちゃんに気づかれちゃ、いけないもんね。

「おーい、もういいよぉ!」

 あ。とびらの向こうに、元気な声。どれみちゃんだ。

「はづきちゃん、もう行ったんか?」

 あれ?また新しい声。聞いてたんだ。

「あいチャン、Hello」

「あいちゃんも来てたんだ。ひさしぶりー」

 トン、って音がして、背中がまたあったかくなった。あいちゃんが、とびらにもたれたんだ。大阪にある、マジョリードさんがむかし作ったMAHO堂で。

「ももちゃん演技派やなぁ。あれやったら、あたしかて公園いってまうで」

 へへへ。それはもう、おんぷちゃん直伝だもんね。

「んで、矢田くんの方は?」

「も、バッチリだよ。いまごろ公園ついてるころ」

 うん。さっすが、はづきちゃんの幼なじみ♪

「そっか。ほな、おんぷちゃんのシャンメリーで乾杯や。本人は来られへんから三人やけど‥‥まぁ、ええやろ」

 わたしは思わず吹き出しちゃった。そういうあいちゃんが、いちばん残念そうだよ。

「それジャ、いくヨ! はづきチャン公認カップル作戦の成功を祝っテェ、せぇ、ノ!」

 ポーンッ! っていい音が、とびらのむこうからも響いてきた。

「「「メリー・クリスマス!」」」

 MAHO堂から出て、わたしは公園にやってきた。

 ‥‥うん。ももちゃんの言う通りだわ。高いところから見ると、ほんとに気分がよくなる。ちょこっとだけでも。

 とびらを、開ける‥‥かぁ。

 これでいいのかわからないけど、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、やってみようかな?

 わたしは、すぅっと息を吸って、思い切り声に出してみた。

「やだまさるの、ばかぁ〜っ!」

 うん。もちょっとだけ。せぇ、の。

「『べつに』だけで、なんでも通じるなんて、思うな〜っ!!」

 ふぅ。なんだか、心が少し軽くなったみたい。‥‥でも、これが精いっぱいね。今のわたしには――

「ふじわらはづきの、あほー」

 え!?

「言いたいことあんなら、逃げねぇで言ってみろー」

 この声、後ろ?

 振り向いたら、トランペット持ったまさるくんが立ってた。

「ほら、言ってみろよ。ちゃんと聞いてやるから」

 え?あの‥‥よ、よぉっし!

「あした、わたしに付き合ってくれないっっ!?」

 両手をおもいっきり握りしめて、全身の力で、なんとか、言えたぁ。はぁ。もう、あとどうなってもいいわ。

「‥‥そんなでけぇ声出さなくても聞こえてるよ。 わかった」

 え?

「カレン女学院のパーティだろ? いっしょに行ってやるよ」

 行く、行くって‥‥

「い、いいの?礼拝も出なくちゃいけないのよ?」

「誕生日を祝いもしねぇで騒がれたら、そりゃキリストだって気分悪ぃよな」

「み、みんなから見られるのよ?」

「見たけりゃ見ればいいさ。悪いことしてるわけじゃねぇし」

「でも、でもっ‥‥」

「いっしょに行きたくない、なら‥‥べつに」

 あ、この『べつに』‥‥

「ううん、ううん、いやじゃないわ!」

 行きたいんだ。『行ってくれる』んじゃなくて、わたしと行きたいんだわ! うん。もう、自信過剰って言われてもいい!!

「わたしは、まさるくんがいいの! いっしょに行って。お願いっ!!」

 うなずいてるまさるくん 見てたら、本当にとびらが開いたみたい。自然に笑顔になってきちゃう。

 ももちゃんの言ってた、うわべじゃない笑顔。 伝わるかしら?‥‥伝わるわよね。まさるくんなら。

 おんぷちゃんが送ってくれた シャンメリー。なんや、ちょい酒はいってるみたいやなぁ。飲んでたらあったこぅなってきたわ。

「えぇっ!? ってことは、クラス全員共犯なのぉ?」

 ん? どれみちゃん、なに驚いてんのや?

「クラスどこやないで。学校丸ごと共犯やて」

 最初に聞きつけたんは、おんぷちゃんやったからなぁ。どれみちゃんには隠しとったんかな。

「カレンでは、毎年だれか一組選んデ、くっつけてるみたいだヨ」

 はは。知らんかったんは、どれみちゃんだけや。まぁ、しゃあないか。

「ペアの相手、ホントは女の子でもいい、なんて知ったら、はづきちゃん怒るよねぇ‥‥」

 ほんま、頭のええ学校はやることわからんわ。先生まで公認やて。ミッション系の学校なんに、ええんやろか?

「終わりよけれバ、すべてOK。ネ

 ももちゃんが、けらけら笑ぅてる。なんや、いつもよりテンション高いなぁ。

「でもネ、玉木サンの手紙に書いてあったヨ‥‥ヒャッ」

 ‥‥ほんまは酒やないやろな、これ?

 手の中のシャンメリー、匂いかいでたら、ももちゃんが嬉しそうに言うてた。


「選ばれたカップル、絶対こわれないんだっテ

 まさるくんに、あしたの時間のこと話してたら、いきなりトランペット吹きはじめた。

 てっきり、いつものキラキラ星だと思ったんだけど、違うわ。

 音を試しながら、すっごく短かったけど。でも、あったかくなる曲。

「なぁに、その曲?」

 トランペットをおろして、まだピストン押してる。なんだか、驚いてるみたい。

「ん。顔見てたら、なんか、吹きたくなったんだ」

 顔って、わたしの? ‥‥あ、しまった、って顔して、むこう向いちゃったわ。

「なぁ、たまにでいいから、河原来てくれよ」

 そっぽ向いたまま、まさるくんが言った。すぅ、っと息吸って。

「できたら、そばで笑っててほしいんだ。
 おれの、ために。さ」

 うん、って大きくうなずいたら、真っ赤な顔がうしろ向いた。



 まさるくんのとびらも開いたんだ、なんて思ったら‥‥うぬぼれすぎ、かな?

『小説?小噺?』へ戻る