ピーマン・だんす

 カチャカチャカチャ‥‥薄い黄色がボールの中で踊ってる。 となりにはふるった薄力粉に砂糖、ちょん、って押すと指がすぅっと入ってくバター。

 カチャカチャカチャ‥‥よぉし、OK。

「たまご泡立ったヨ」

 わたしが声をかけたら、 返事はMAHO堂の奥のほうから返ってきた。

「ちょい待ちやぁ、ももちゃん。ハナちゃんも〜ちょっとでおねむやんなー」

 まだハナちゃんと遊んでたんだ。にんじんケーキ食べさせてあげるだけ、って言ってたのに。

「こぉラ〜!みんな、おしごとおしごト!」

 遊びたいのはわかるけど、お菓子屋さんなんだからちゃんとやらなきゃ。

「あ、あたし代わるよ。あいちゃん、手伝ってあげて」

「そうね。どれみちゃんよりあいちゃんのほうが、ケーキ生地作るの上手だものね」

「ぶぅ!悪かったね。あたしはクッキーの方がとくいなの!」

 あ〜あ、また楽しんじゃってる。しょうがないなぁ、もう。

「ちょっト!だれでもいいから手伝ってよォ!!」

「だって‥‥」

「そのへんにんしとき。
 かんにんなぁ、ももちゃん。いま行くで」

 パタパタ、あいちゃんの足音が近くまで来たとき、

 カランカラン‥‥

 ドアベルが鳴って、だれか入ってきた。

「あ、すんません。いま準備中‥‥なんや、おんぷちゃんか」

 ああ、おんぷちゃん来ちゃったら、またおしゃべりはじめちゃうぅぅ。

 わたしはあいちゃんをむかえに、キッチンを出た。

「もう、手伝ってってバ!」

 あれ?クッキーケースの向こうで、おんぷちゃんがぽつん、と立ってる。 にっこり笑ってはいたけど、なんか元気なさそう。

「‥‥どうしたノ?顔色わるいヨ」

 あいちゃんも近くで、なんか声かけにくそう。

「うん。じつはね、あさっての土曜日『もぐもぐ☆ポン』に出演が決まったんだけど‥‥」

「『もぐもぐ☆ポン』?‥‥きゃ!」

 奥のほうから出てきたはづきちゃんの上から、どれみちゃんが飛び出してきた。

「あたし知ってる!ゲストどうし、相手の好きな材料で料理作ってあげるんでしょ?あたしだったら、そりゃぜぇったい‥‥」

「お肉選んだからってステーキとは限らないわよ、どれみちゃん」

 あはは。はづきちゃん、つっこみきびしいわ。

「要するに、お料理番組でお料理作らなきゃいけないのネ」

 こっくり。おんぷちゃん、考え込んだままでうなづいてる。

「でも、それでどうして?おんぷちゃん料理苦手じゃないじゃない」

「材料が、ね‥‥」

「材料?」

 4人でハモった。けど、まだおんぷちゃん、下向いてる。

「‥‥そう」

「材料って、なに??」

「それが‥‥ピーマン、なの」

 みんな、いっきにため息ついた。そっか、それなら落ち込むわよね。

「どうしても出たいの。デビューの時からあこがれてた先輩といっしょだから。でも‥‥」

「やめとき」

「え!?」

 みんなが声の方を見た。あいちゃんが目をつぶって腕組みしてる。

「気絶しながら料理する気ぃかいな」

「さ、さわるだけなら大丈夫よ!」

「そんで?味見もせんと、あこがれのひとに料理食わすっちゅうんか?」

 あ、あ、そんなこと言ったら‥‥

 ほら、おんぷちゃん、両手ぎゅっ、て握って、あいちゃんにらんでるよ。

「なによ!あいちゃんがそんな薄情だなんて思わなかったわ。あたし、帰る!!」

 あ〜あ、止めるひまもないじゃない。

「なにやってルのよ」

 あいちゃんは、だまってそのままキッチンに行っちゃった。

 結局、そのあとあいちゃんは、ずっと沈んだ顔でケーキ作ってた。

 けど帰るとき、ちっちゃくぽつん、って言ったの、わたしには聞こえてた。

『‥‥まぁた、言ぅてしもたな』って。

 家に帰ったあと、わたしはあいちゃんの家に行ってみた。

 やっぱり気になる。どれみちゃんもはづきちゃんも、だいじょうぶ、って言うんだけど。

「だぁ〜ッ!なんやこりゃ!!」

 び、びっくりした。これ、あいちゃんのパパの声だ。

「なんやって‥‥夕ご飯に決まってるやん」

 キッチンの窓からそーっと覗いてみたら、なんかテーブルの上がみどりいろだった。

「緑のプリンに、ケーキに‥‥こんなんが夕飯かいな!?」

「あたしは!あたしは‥‥ただピーマン食ぅて欲しいだけや」

 うしろ姿しか見えないけど‥‥

「嫌いなもん、無理に食わせるんが目的かいな?」

「そやない!」

 こんなに小さく見えるあいちゃん、はじめて。

「それにな、あいこ。俺が言うのもナンやけどな、こんなんピーマンちゃうわ。そやないか?」

 あいちゃん、ずっと下向いてだまってる。

「もぉええ。今日は外で食うわ。それ、ちゃんと片しや」

 あいちゃんが顔上げたのは、あいちゃんのパパが出てってからだった。

「あれ、ももちゃん?」

「えへ。こんばんは〜☆」

 目がはなせなくて、じっと窓からのぞいていたら、あいちゃんと目があっちゃった。

「あ‥‥見られてしもたんかー」

「Sorry ごめんね」

 あたまかいて謝ったら、ちっちゃなため息がひとつ、聞こえた。

「しゃあないわ。玄関から入り」

 中に入ったわたしは、一直線にプリンをめざした。みどり色のおもしろいプリン。あいちゃんがスプーン渡してくれたから、ひとくち‥‥うん☆

「わりとおいしい。ハナちゃんに作ってあげようヨ」

「うん。ハナちゃんにはええんやけど‥‥お父ちゃんの言う通りや。こんなん、ピーマンやないわ」

 あは☆やっぱり、気になってたんだ。

「おんぷちゃんだネ。でも、だったラいっしょに考えてあげればいいノニ」

 しばらく、あいちゃん下向いてだまってて‥‥大きく息をすってから、静かに言った。

「なにがあっても、おんぷちゃんは泣かへんのや」

「え?」

「けどな、泣いてんのわかんねん。なみだなくても、声出さんでも、心のなかで泣いてんのわかるねん」

 きょうのおんぷちゃん、わたしには、元気ない、としか見えなかった。でもあいちゃんには、泣いてるように見えるんだ。

「あと二日や。いっしょに泣いててもしゃあないわ。おんぷちゃんには、はよ自分の弱いとこ気ぃ付いてくれへんと‥‥」

「だったラ、それちゃんと話せばいいじゃナイ」

 相手の気持ちも大事だけど、気付いて欲しいならちゃんと言わなきゃダメなはず、だよね。

 でも、あいちゃんは首を横に振ってた。

「‥‥あかん」

「なんで?」

「それが、おんぷちゃんだからや」

 恥ずかしそうに、テレたように笑って言うあいちゃんを見てたら、 わたしも反対したくなくなっちゃった。

「MAHO堂行こ、あいチャン」

 MAHO堂の看板はCLOSE。今日のハナちゃん係、はづきちゃんも帰っちゃったあと。

「あいチャン、料理思いついタ?」

「いくつかはな〜。それはええねんけど‥‥材料どないしょ」

「そうネ‥‥」

 言いながら二人でパティシエ服に着替え。ずいぶん慣れちゃって、今じゃ話しながらでもできちゃう。

 先に着替え終わったわたしは、そのままキッチンへ。入ったとたん、目の前が、みどり。

「なんや、このピーマンの山は!?」

 あとから入ってきたあいちゃんが大声あげた。

「あ、来た来た」

 ピーマンの影から出てきたのは‥‥ララ?

「明日はMAHO堂お休みよ。キッチンと、この材料みーんな使っていいわ」

「どないしたんや、これ?」

 よく見ると、ピーマンだけじゃないわ。他の野菜やお肉、チーズにおトーフ‥‥10人分くらい、なにか作れそう。

「ふふ‥‥いいから使いなさい。マジョリカがお金出すなんてこと、めったにないんだから」

 マジョリカがお金を、っていうのもびっくりだけど、

「どうして‥‥」

 そう、どうして、あいちゃんが戻ってくるの、わかったんだろう?

「どれみと、はづきちゃんよ。『あいちゃんは絶対キッチン借りに来る』って言ってね。マジョリカおがみ倒しちゃったの。
 ああ、マジョリカ探しても無駄よ。明日までハナちゃんのめんどう見てるから」

 奥のほうに行こうとしてたあいちゃんが、振り向いて、ぺこっておじぎ。

「‥‥マジョリカに伝えたってな。『おおきに』って」

 ララが笑って、

「それじゃミミ、ニニ、手分けしてレシピ日記で調べましょ。あたしも手伝うわ☆」

「あ、ああ、それはええねん」

「え?」

 ララが振り返った。わたしもわからない。てっきり、使えそうなレシピを探すのかと思ったのに。

「あれはハナちゃんのや。他に使ぅたらあかん」

「せっかくあるのに、使わないノもったいナイ!」

 わたしの横で、ララがうなづいてる。そのうしろから、 ミミとニニがレシピ日記持ってきた。

「ミミ。なんや?」

 ミミがあいちゃんに飛んでいって、インカムにドンドン体当たりしてる。

「ミミもレシピ日記使え言うんか‥‥」

 あいちゃん、ミミを両手でそっと抱えてから、わたしたちみんなを見回して、

「みんな、おおきに。せやけど‥‥」

 言いながら、ミミを目の前に持ってきた。

「せやけどあたしはな、自分で作りたいんや」

 言いたいこと、わかる。けど二日しかない、って言ったの、あいちゃんだよね。

 ‥‥なんて声かけようか考えてたら、じっと聞いてたララが、とつぜん、

「あ〜ん、また負けちゃったわね〜」

 って残念そうに言った。なに?

「はい、これ」

 テーブルの下から、ララがメモ取り出した。

「きっとそう言うから、って。はづきちゃんよ。おんぷちゃんのよく食べるものとか、他に嫌いなものとか、いろいろ書いてあるわ」

 あいちゃん、ぼーっとしてる。手の中のミミが代わりにメモ受け取って目の前で見せても、やっぱり、ぼ〜っと。

 ‥‥ちがう。嬉しいんだ。わたしにも、あいちゃんの心の中、わかる。

「これも使わない、な〜んて言ったら、わたしも承知しないわよ☆」

「あ〜、もう!!‥‥あかん。ぜんぜんダメや」

 二階にハナちゃんの様子を見に行ってから降りてきたら、ピーマンの山の中、あいちゃんが突っ伏してた。

「どうしたノ?」

「ああ、ももちゃんか。いま、なに作ろか考えてたんやけどな。
 はづきちゃんのメモとかも使ぅて、料理のアイディアはいくつかできたんやけど‥‥それでほんとにええんか、わからへんねや」

 そっか。わたしたちがおいしくても、しょうがないんだっけ。

「うん。せっかく作ってモ、おんぷチャン食べられなかったら意味ないネ」

「やっぱあたしがピーマン好っきゃからかなー」

 わたしも、ピーマン嫌いじゃないから、よくわからないし‥‥

「ピーマン嫌い、って、どこが嫌いなのカナ?」

「う〜ん‥‥大阪でピーマン嫌いやった子ぉは、匂いがイヤや言うてたなー」

「匂い?」

「そや。青くさいんがイヤやて」

 テーブルの上のピーマンひとつ取って、匂いをかいでみた。‥‥う〜ん。

「なんとな〜くなら匂うけど、これ?」

 あいちゃんはうで組みしながら、こっくりうなづいてた。

「あたしらには平気なんやけどなぁ」

 そうだよね。でも魔法でおんぷちゃんになっても、ピーマン嫌いになるわけじゃないし‥‥あ、そっか。

「だったら☆」

 両手をパンパン、っと叩いて‥‥

「えぇ?ももちゃん、なに着替えてんねん!?」

 ピーマンに向けて、ポロンを振り回して!

「ペルゥタン・ペットン‥‥ピーマンよ、思いっきリ青くさく、なァれ!!」

 ボフッ‥‥

 まわりが全部みどりになって、消えた。けど‥‥

「げ!なんやこの匂いは!!」

 わたしはちょっと声出せなかった。青くさい、ってこんなのだったっけ!?

「気持ち、わるイィ〜」

「こぉら、いくらあたしでも、かなんわぁ」

 思わずキッチン飛び出して、何度か大きく息を吸い込んで。はぁ、もうイヤになりそう。‥‥でも、これでよぉくわかった。

「これが、おんぷチャンが感じてる『ピーマン』なんダ‥‥」

 振り返ったら、あいちゃん、まだキッチンで匂いかいでた。目をつぶって。

「やったる」

 え、なに?

「やったるわ。見とれよ、この匂いあしたの放課後までに全部消したる!!」

 握りこぶしでテーブルばんっ、て叩いてるあいちゃん見てたら、またあの匂いが攻めてきた。 思わず、窓をあけてみたら‥‥

「あれ、おんぷチャン?」

 窓にぺったりくっついてたあの髪型が、ささっ、と消えた。

「あいチャン、わたしちょっと出てくるゥ」

「ああ、遅いからきょうはもうええで。またあしたなー」

 あいちゃんがこっち向かずに手を振ってるのを見て、わたしはMAHO堂を飛び出してった。

「待っテ、おんぷチャン!」

 MAHO堂からおんぷちゃんの家への通り道。小さな公園のわきでなんとか追いついた。はぁ、けっこう足速いんだ。

「あいチャン、頑張ってるヨ。おんぷチャンも、いっしょ頑張ろ?」

 そうしたらおんぷちゃん、笑いながらくるって振り向いた。

「あいちゃんが頑張ってるなら、わたしのやることは決まってるわ」

「What?」

「わたしは、わたしにしかできないことをするの。
 あいちゃんの言うとおりよ。いくらおいしい料理のレシピがあっても、わたしが料理できなかったら、なにんもならないもの」

 あ、おんぷちゃん、泣いてる。

 あいちゃんの言ってた通りだわ。わたしにもわかった。おんぷちゃんは、なみだ見せないで泣くんだ。

「だいじょうぶ。レシピは絶対できるから。わたしはただ、ピーマンをさわれるようになればいいだけ。
 それじゃ、あしたね」

 そう言っておんぷちゃん、また駆け足で帰っていった。

 きっとうまくいく。あたしは、そう思った。

「あしたの帰り、MAHO堂に来テ!きっと、きっとあいちゃん待ってるカラ!!」

 手を振ってるおんぷちゃん、もう泣いてない。顔は変わってないけど、わたしにはわかった。

「おんぷちゃん来たヨォ」

 金曜日の放課後、MAHO堂。あいちゃんはミミに学校行ってもらって、ずっとこもってたみたい。

「わたしに見せたいものって、なに?」

 おんぷちゃんが厳しい顔であいちゃん見てる。どれみちゃんとはづきちゃんが、緊張した顔で見守ってる。けど、わたしはちょっと笑っちゃった。

 だっておんぷちゃん、ノート持って一直線にキッチンに行くんだもん。あいちゃん、まだなんにも言ってないのに。

 あいちゃんはおんぷちゃんの後からキッチンに入って、クッキングストーブの前でくるっと振り向いた。

「さぁて、これから実演したるから、よぅ見て覚えるんやで」

 ストーブの上には、あっためたフライパン。近くには、きざんだり中くりぬいたりしたピーマンが置いてある。

「いいわよ」

「まずは洋食。『肉づめピーマンのトマトソースがけ』や。 ええか、ピーマンちゅうんは火ぃ通すと甘くなんのや。せやから、塩きかせて引き立たせるんが基本や」

 おんぷちゃんはだまってうなづいてる。目はあいちゃんの手元をじ〜っと見て。

「この場合はトマトがすっぱ味あるから、塩はちょいおさえてるけどな〜‥‥ほい、上がり!」

 テーブルに、赤いソースのかかったピーマンが置かれた。おんぷちゃんはナイフでひと口分切って、ぱく。

「あ、おんぷちゃん、食べてる‥‥!!」

 どれみちゃんが、ぼーっとした声で言った。わたしも、気が付かないうちにこぶしを握ってた。みんな『がんばれ』って言ってる。心の中で。

「‥‥うん。わかった」

「続いて中華。『細切りピーマンと牛肉炒め』なんやけど‥‥どわ!」

 いきなり目の前を通り過ぎていったのは、どれみちゃん!

「牛肉!ぎゅうにくぅ〜‥‥あれ?」

 ボゥルの中身見て、どれみちゃんが首かしげてる。

「なんやけど、って言うたやんか。いらちやなぁ‥‥ほんまは牛肉使うんやけどな、ないから今日は豚肉や」

 ためいきつきながら戻ってきたどれみちゃんの頭を、はづきちゃんがぽんぽん、ってたたいてる。

「しゃぁないなぁ‥‥まあええ、続きいくで。
 ピーマンのええとこはもう一つ。パリッとした歯ごたえや。これなくしたらピーマン食べる意味あらへん。そやから‥‥」

 おんぷちゃん、真剣だわ。なにも見落とさないように、しっかり目開いてる。

「ほい、これで二つやな」

 おんぷちゃん、ピーマンとお肉をぱくぱく口の中に入れて‥‥ちょっと口すぼめちゃったけど、それでも食べてた。

「おんぷちゃん、食べてる。食べてるよ!!」

「うん‥‥うん

 どれみちゃん、はづきちゃん。ふたりともほんとに嬉しそう。

 そうだね。みんな信じてたもんね。

「最後は和食。『ピーマンのから揚げ』や」

「え!?」

「つめた〜く冷やしたピーマンに、香りつきのカタクリ粉つけて揚げるんやけどな」

 まわりの空気が止まった。あいちゃんだけがひとり動いてる。だって‥‥だってそれって!

「そ、それって‥‥ただピーマン揚げただけ!?」

「『だけ』言うけどな、ピーマンちゅうのは皮のほう揚げると、すぅぐしわくちゃンなってまうんや。
 せやから一つづつ箸でつまんで、中のほうだけじっくり揚げる。皮のほうは途中でちょっとだけ油かけて‥‥ほい、出来上がりや」

 目の前に出てきたお皿。キッチンペーパーの上のピーマンを見ながら、おんぷちゃんが息をのんでる。

「さぁ、食べ」

「た、食べてあげるわよ」

 目を閉じて、思いっきり口を開いてピーマン放り込んで‥‥2回かんだところで、ぱっと顔が明るくなった。

「‥‥おいしい」

「そやろ?中はあま〜くて、まわりはパリッ!これがほんまのピーマンや。 香りづけに使ぅたもんはあとで教えたるわ〜☆」

 すご〜い、あいちゃん。本当にピーマン食べさせちゃった。どれみちゃんたちなんか、もう抱きあって喜んでる。

「あ、そっか‥‥『魔法のもと』使ったんでしょ?」

 あ、おんぷちゃんの目が、いつもみたいにいたずらっぽくなってる。

「使ぅてへんよ」

「使ってるわよ。ただピーマン揚げただけでこんなにおいしくなるなんて、変だもの」

 ああ、せっかくいい感じになってたのにぃ〜。

「使ぅてへんて!だれがそんなもん使うかいな」

 あ、おんぷちゃん、ちょっとむっとしてる。

「なによ、あいちゃんてそんな人だったの?はっきり言えばいいのに」

「ええかげんにしぃや!使ぅてへん言うたら使ぅてへん!」

「使ってる!!」

 テーブルごしに、二人の顔がだんだん近づいてる。

「使ぅてへん!!あたしが使ぅたんは‥‥」

 ちゅっ♪

「‥‥これだけや」

 わぁおんぷちゃんの鼻にちょん、ってキスして、あいちゃんそのままストーブの前に逃げちゃった。

「‥‥くちびる、入れたの?」

 ‥‥けど、むくわれないわ。あいちゃん、ストーブの前で脱力しちゃってるじゃない。

「ええわ。もっかい作ったる‥‥あちっ!!」

 ああ!油がうでにはねちゃってる!わたしがぬれたふきんを持って、あいちゃんのうでを拭こうとしたら、

「ああ、だいじょぶだいじょぶ」

 って言って追い返されちゃった。あいちゃん、箸を離したくなかったみたい。

 ‥‥よく見たら、あいちゃんのうで、ちっちゃなやけどがいっぱい!!

「つめた〜いピーマン揚げるし、油ハネるんはしゃあないやん。せやから、これはおまけや。テレビなんかでやったらあかんで」

 揚げ終わったあいちゃんが、さっきのやけどのあとを拭いてるあいだ、おんぷちゃんは、ただじっとあいちゃんのうでを見てた。

「みんな急いデ、始まっちゃうヨ!」

 土曜日、わたしたちは学校から直接MAHO堂に直行した。

 もちろん、お目当てはおんぷちゃんの出てる『もぐもぐ☆ポン』。

「マジョリカ、テレビ、テレビ!!」

「遅いぞおまえら。おんぷはもう二品も作りおわっとるわい」

 たぶん魔法で出したと思う大きなテレビの前で、マジョリカがチリトリに乗ってる。

「なぁんや。ほな、もう見ることあらへん。さ、しごとしごと」

 そう言いながら、あいちゃんが着替え始めた。

「待って‥‥おんぷちゃん、まだ作るみたいよ」

「え?でも、『もぐもぐ☆ポン』で作る料理って二つじゃ‥‥」

「しっ!」

 テレビの中のおんぷちゃんは、もうひとりのゲストにぺこっ、て頭を下げてた。

『ほんとはこれで終わりだけど、もう一つ、作らせてください』

「なんや?作れるようになったから言うて調子に乗って、失敗しても知らんで」

 後ろでパティシエ服に着替えおわったあいちゃんの声がした。テレビの中では、冷蔵庫からお皿取り出してる。

『つめたく冷やしたピーマンに、コロモを薄くつけて‥‥』

 がばっ、と音がしそうなくらいの勢いで、あいちゃんが振り返った。

「なんやて!?」

「ワォ!まさカ!」

 あいちゃんそのまま、わたしの背中に飛びついてきた。けど、わたしもそんなの気にしてられない。まさか、あいちゃんだって失敗したのに‥‥

『‥‥高温の油で、中のほうだけじっくり揚げるの。
 ‥‥あち!』

 油がはねて、おんぷちゃんの腕が赤くなった。

「あぁぁ‥‥!!」

 飛び出してったあいちゃん、テレビに貼りついちゃってる。

「あいちゃん、見えないって」

「ごめん。せやけど‥‥」

 む〜っ、としてるどれみちゃんを見て、あいちゃんはイスに座りなおした。

 テレビの中のおんぷちゃんは、舌を出して笑ってる。箸はまだピーマンを油に浮かべたまんま。熱くても、離さなかったんだ。

『ハネちゃった。えへへ☆みんなはもっと気をつけてね』

「そやから、やめ、言うたんに‥‥」

 机の上で頭かかえてるあいちゃんを、わたしはぽんぽん、ってなでてあげた。

 テレビでは揚げ終わったおんぷちゃんのところへ、司会者の人がマイク持ってきてる。

『おんぷちゃん、大丈夫ですか?』

『ええ、このくらい‥‥えへ☆』

 ダンッ! って、すごい音がした。あいちゃんがテーブルなぐりつけてる。

「『えへ』やないやろ!!なんであたしの言うたことが‥‥!!」

『実はこの料理、あたしが考えたんじゃないんです。
 考えてくれた人のやけどは、もっと、ずっと多かった‥‥
 だから、わたしも平気です

 あいちゃんは、しばらくじっとテレビのなかのおんぷちゃんを見つめてたけど、

「‥‥あほやなぁ‥‥」

 ぽつん、と言ってそのままMAHO堂から出ていった。着替えもしないで。

「あ、あいチャン‥‥?」

 思わず追いかけようとしたわたしの前に、どれみちゃんがいた。

「ひとりにしといてあげよ」

「そうそう。あいちゃんって、すっごいテレ屋さんなんだから」

 はづきちゃんも、後ろからわたしの肩に手を置いてた。そっか、きっとあいちゃん‥‥

「嬉しくて、泣きそう?」

 二人とも、にっこりうなずいてる。わたしは、それが嬉しかった。

「あれ、あいちゃんいないの?」

 少したってから、おんぷちゃんが入ってきた。平気な顔してるけど、ほっぺたのはしっこに汗かいてる。きっと走ってきたんだ。

「あいちゃん、さっき出てったヨ。まだ追いツク」

「別にいいのよ。どう、ちゃんとできたでしょ」

 そんな残念そうな顔して言われても、ねぇ。みんな、くすくす笑ってるし。

「そうだね。おんぷちゃん、もうピーマン好きになったでしょ?」

「わたし?ううん、嫌いよ。ピーマンなんて」

 みんな、こらえてる。吹き出す前に言わなきゃ。

「あいちゃんのピーマン以外は、でショ

 大爆笑のなか、真っ赤な顔が舌を出してた。

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