ふるさとのさき

 セミの声がしなくなって、もう半月くらいになるかしら。

 海からの風も、うっかりすると冷たいくらい。ついこの間まで残暑なんて言っていたのが、うそのようね。

 お日さまも少し西の方に傾いてきたわ。さぁ、ペンションの入り口にお休みの札をかけて、中に入りましょうか。

 きょうの夜には、おおきな笑うお月さまが昇ってくるはずね。

 

 いつも部屋の隅に用意してる、ほうきに小さな旅行かばん。一泊だから、中身はそんなに要らないわね。‥‥あらら、ぼうしはどこに置いたかしら?‥‥ああ、そうね。お洋服は魔法で出せばいいのだったわ。

 ええと、魔法で出せない忘れ物は‥‥あ、そうそう、机の上のはがき。これを忘れちゃいけないわね。一週間前に届いたはがきは、楽しそうなパーティのお知らせ。受け取りの名前は『リリカおばあちゃん』。

 あの子たちに、また会いに行けるのは楽しみね。

 ギ、ギイィィ‥‥

 ずいぶん重いわねぇ。やっぱり、使わないと錆びついちゃうのかしら?こんど直しておかないと。

 そう考えながら、ドアの向こうに足を踏み入れると、ふわっと香りがやってくるわ。なつかしいふるさと、魔女界の匂いが。

「まだだいぶ時間があるわね。‥‥ちょっと、寄っていこうかしら?」

 ハートやミラーは元気かしら?リードには、マジョリカちゃんがお世話になっているのだから、一度はご挨拶に行かないとね。あとは‥‥そうそう、魔法博物館でスローンに会うのもいいわね。問屋にはドンがまだいるのかしら?

 懐かしい顔が、ひとつひとつ浮かんでくるわ。みんな、このひろい空のどこかにいる。でも‥‥

「モンローはもういないのねぇ‥‥」

 口に出したら、寂しさが迫ってきた。そう、モンローだけじゃないわ。ジュリーやサリーも、もういない。だんだん、ひとりになってゆくのね。

 わたしは、しばらくぶりの魔女界を歩いてみることにした。ほうきで飛んでいくなんて、なんだかもったいないような気がしたから。

「どうぞ‥‥おぉ、マジョリリカ!」

 小さな病院の小さな診療室。勝手知ったるでノックしてみると、昔と変わらない顔が驚きながらよろこんでいた。

「おひさしぶり、マジョハート。元気にお仕事している?」

 彼女は白衣の真ん中を、ぽん、っとたたいて、

「私が不養生しては、新しい母親たちに示しがつかないからね」

 あいかわらず、自信たっぷりだわ。よかった、昔のままで。

「そうね。あなたは立派に母親を育てているわ」

 ハートは苦笑いしながら、わきの椅子を勧めてくれてる。

「もっとも、今年は赤ん坊が少なくて、あたしは開店休業だけどね」

 わたしがちょい、と腰かけると、バラの絵柄のティーカップが、ポットと一緒にやってきた。

「看護婦のバイトも今年は取っていないし、ま、ひとりでのんびりやっているさ」

 器用な手つきで、紅茶が注がれてる。懐かしいわねぇ、ハートのローズティ。赤ちゃんが産まれたときにこぼれた花びらだけを集めた、ハートにしか作れないお茶だものね。

「あんたの方はどうしたんだい?魔女界へ戻る気にでもなったのかい?」

 わたしが横に首を振ったら、ハートったらとても困った顔をしているわ。

「マジョリカちゃんにお呼ばれしちゃってねぇ。時間が余ったから、ちょっと寄っただけなのよ」

 手元のカップをじっと見つめてから、彼女は心配そうにわたしを見て、

「帰ってくれば、みんな歓迎するよ?」

 ふふふ。心配性なところも変わってないわね。

「ふるさとはいいわねぇ‥‥懐かしい匂い、懐かしい風景。そして、懐かしい顔‥‥でもね」

 ‥‥ふぅ。それじゃ、心配を解いてあげましょうか。

「でも、それだけ。新しいなにかがあるわけじゃないわ。
 わたしはね、たとえずうっと一人でも、なにかのある人間界で過ごしたいの。 もちろん、人間とつきあうことができれば、ずっといいけれど。‥‥あぁ、モンローやマジョリカちゃんが羨ましいわ!!」

 ほんと、どれみちゃんやももちゃんや、みんなを育てることができたなら、どんなに素敵かしら。

「その言葉、昔の私なら笑って済ましてただろうね。けど、今ならわかるよ。‥‥ああ、なんだかマジョランに言われているようだね」

 ハートったら苦笑いしながら、ちょっと下を向いちゃったわ。‥‥あんまり思い出させるのも、悪いかもしれないわね。それじゃ、あ、そうそう。

「ハート、今の魔女界に、おみやげ物のお店ってあるのかしら?」

「なに!?」

 ああ、起きてくれたわ。

「いえね、何かのお祝いだそうだから、おみやげを持っていこうと思うのだけど。実はまだ選んでないのよ」

 言い終わる前に、ハートが手近の缶を開けた。からっぽの缶に、ローズティをいっぱい詰め込んで、

「あたしの贈り物と言えば、このくらいだね。あとは‥‥まぁ、ちょっと声かけてみようか」

 ふよふよっと、なんとかほうきをあやつりながら飛んでいると、大きな大きな魔女ガエルの形が見えてきたわ。ハートの言うとおり、ここを見つけるのは上からのほうが楽ね。

 さて、目標は魔女ガエル村の真ん中、のぼりが立っているところ。ずいぶんと懐かしいわぁ、魔女ガエル村の集会所なんて。

 降りようとしてほうきを下に向けたら、手から滑り落ちてそのまま飛んでいっちゃったわ。あらあら、これじゃ落ちちゃうわねぇ。

 そう思っていた私の体が、ふわっとなにかに包まれた。大きな大きな綿のかたまりに、背中から落ちていってるんだわ。

すっかり止まったところで、綿がぽんっ、と消えた。目の前に立っていたのは‥‥ああ、いつまでも変わらない 仮面の魔女だわ。

「マジョハートから連絡があったから、用意しておいたのだが‥‥あまりに予想通りの登場というのも何だな」

 ぶすっ、とした声も変わってないわね。思わず頬がゆるんでしまうわ。

「ひさしぶりね、マジョリード。うちのマジョリカちゃんのお世話してくれて、ありがとうね」

 でも、わたしの手をひいて起こしてくれる。

「‥‥礼を言われる理由がわからないが?」

 そして、わたしの背中のほこりを払ってくれる、やっぱりぶすっ、て声のままで、ね。

「私はマジョガエルになってしまった魔女たちみなの居場所を作るのが役目だ。 誰かを特に世話したりなどはしない」

 そうして、集会場の方をちらっ、と見てる。そこには魔女ガエルさんたちがいて、みんなくつろいだり、笑ったり、なにか仕事をしてたりするわ。

「そうだったわね。でも、ありがとうね」

 リードが軽くうなずいた。これが彼女の誇りね。

「‥‥マジョリカたちのところへ行くのか?」

 あら?珍しいわね。リードが人のことを気にするなんて。

「ええ。パーティにお呼ばれしているのよ」

「そうか‥‥なら礼代わりと思って、これを持って行ってはくれぬか?」

 懐から、紙の箱が出てきたわ。

「なぁに、これ?」

「マジョガエル村の新銘菓を考案したのでな。感想を聞かせて欲しい‥‥できれば、モモコの声が聞きたいな」

 モモコ?ええと‥‥

「‥‥ああ、ももちゃんね。モンローが育てた子ね」

「そうだ。彼女ならば、正しい判断ができるだう」

 まぁまぁ。リードがこんなに人を褒めるなんて、昔なら考られないわね。

 思わずにこにこしていると、うるさそうにそっぽ向いてしまったわ。だけど、手は紙の箱を持ったまま、真っ直ぐわたしの前に出している。

「いい子に育っているのね、あの子。ひょっとしたら、モンローの2代目になるのかしら?」

 そっと箱を取って、かばんの中にしまいながらそう言ったら、リードは顔を上げて空を見つめたわ。

「‥‥いいや。彼女は2代目などではない。初代のモモコだ」

 傷つきやすい分愛情が深いのはむかしからだけど、ここまではっきり言わせるなんてねぇ。

 やっぱり、わたしはモンローが羨ましいわ。

 魔女ガエル村から今度は歩いてずうっと奥へ。深い深い森は、上から見なくてもすぐにわかるわ。薄暗くて細い道。のんびり歩いていても誰にも会わない。昔はこんなじゃなかったのにねぇ。

 場所が同じなら、もうそろそろだけど‥‥ああ、あったわ。

 小さなおうちのまわりに、手織りのカーペットやタペストリがいっぱい。それじゃ、昔のまんまでいってみましょうか♪

「クロスぅ〜、いるぅ〜?」

 できるだけ明るく、大きな声で。‥‥ん〜、まだ足りないかしら?

「やっほぉ〜、クぅロスぅ〜」

 少し声を高くしてみたら、目の前のドアがバンッ、と開いて、

「ええい!その気の抜けた声はやめんかッ!!」

 はいはい。作戦成功☆

 クロスったら、わたしを見つけたとたんに、しわがのびるくらい目を見開いちゃってるわ。

「お前、マジョリリカか!?」

 わたしはかばんを置いて、ぴょん、っと首に抱きついた。

「懐かしいわぁ、クロス。あれからもう何百年経ったのかしら?」

 ぎゅっ、としがみついたけれど、

「ずいぶん、軽くなったな」

 応えは、無愛想な一言だけ。もう抱き返してはくれないのね。

「お互いさまでしょ?」

 しかたないから、そう言って離れてあげた。そう、お互いもう、昔のままではいられないのよね。

「いったい、いつ帰ってきたんだ?」

「帰ったわけじゃないわ。ちょっと寄り道しただけよ。帰るのなら、あなたに知らせないはずないじゃない

 軽くウィンクしたわたしを見て、クロスが口をぽかぁん、と開けた。なにかしら、と思ったら

「きょ、今日来たのかい!?まだ上弦過ぎたばかりじゃないか。お前、また無理やりとびら開けたね!?」

 あら?たしかきょうは笑う満月の日じゃなかったかしら?たしか手帳にそう書いて‥‥あ。

「あぁ、おととしと勘違いしてたわ。どうりで扉が重いはずね」

 クロスが私の肩につかまって、がっくりうなだれてる。普通の魔女じゃ開かないだのぶつぶつ言ってるわ。やぁねぇ。いつものことじゃない

「頼むから、この家のとなりにヘンなもの建てたりしないでおくれよ」

 あらら、予想済みなのねぇ。魔女界に帰るときにはお隣さんになろうと思っていたのに。

「‥‥もういい。また人間界に戻るなら、そこのひざ掛けでも持ってゆけ。冬は魔女界より寒い」

 起き上がって、家に戻ろうとするクロスのくびを、わたしはちょい、っとつまんだ。

「あなたも、わたしと一緒に来ない?」

「バカを言うな。私はここで機を織り続ける。そう決めたのだ」

 わたしの手をこぶしで振り払った。痛いわね。

「それじゃ、どれみちゃんたちには、ちょくちょく来てくれるように言わないとね」

 相手をこぶしで振り払う必要なんてないのよ。嫌なら『離して』って言えばそれで十分。

「人と触れあうのは、とても楽しいことよ」

「‥‥人間となら、先々代女王様のお孫様と十分触れあったさ。眠りにつかれた今、もう触れあう気も、意味もない」

 ぶっきらぼうに言いながら、家の扉を閉めようとしてる。けど『離して』って言わなかったわ。それなら‥‥まだ希望はあるわ。

「そう。それじゃ、もう少ししたらまた来るわね」

 ゆっくり閉まってゆく扉が、途中で止まったわ。

「もうすぐあの子たちが、先々代女王様の目を覚ませて差し上げるわ。そのときには‥‥きっと人間界に連れてゆくわよ。クロス

 ふた呼吸くらいしてから、扉がぱたん、と閉まった。

 しかたないわね。わたしはちょっとだけ息をはいて、ひざ掛けを腕にかけた。

 そのまま振り向いたわたしの耳に、小さなつぶやきが届いてきたわ。

「目覚めてくださるのなら‥‥あたしはどこへだって、ついて行ってやるさ」

 わたしは頬がほころぶのを感じながら、ゆっくり家の周りをながめてみた。

 

 庭に干してある、色とりどりの織物。見てただけで、ふっと口からこぼれてくる。

「待ってなさい。あなたたちもそのうち、みんなの許へゆけますよ」

 シャララン‥シャララン‥

 

 クロスのいる森を抜けたら、あたりに聞き覚えのある音が響いてきたわ。

 これは、たしか‥‥

 上を向いたら、ゆっくりと馬車が降りてくる。ああ、そうだわ。この音、女王様の馬車じゃない。

 これを見るの、彼女が女王様になって以来だわね。

「マジョリリカ様でいらっしゃいますか?」

 当時のことを思い出していたら、御者をしている、まだ若い魔女さんが声をかけてきたわ。

「ええ、そうよ。女王様もいらっしゃるの?」

 御者さんは左右に首を振ってる。なんだか、お人形さんのような動き方ね。

「私は近衛のマジョリンと申します。女王様より、城へお連れするようにとのご命令を受けてまいりました」

「まぁ、困ったわねぇ‥‥」

 マジョリンさんが、けげんな顔でみてるわ。なんだか、むかしのハートを見ているみたい。う〜ん、どうやって説明しようかしら?

「いえね、女王様のとこ行くと長くなっちゃうから、最後にしようと思ってたのよ。まだロクサーヌにもサリバンにも、まぁ、バニラにさえ会ってないわ。
 いまじゃモンローの話ができるなんて、ももちゃんかバニラしかいないんですもの。この機会を逃すわけにいかないでしょう?」

 降りてきた馬車が、目の前の地面に乗っかった。すぐそばに降りたのに、ちょっとも揺れないわ。素晴らしい御者ぶりだわね。

「失礼ながら、女王様の招聘です。お乗りください」

 手綱を握った手に力が入ってるのが見てるだけでわかるわ。若いわねぇ‥‥でも、そろそろかわいそうかしら?

「はいはい。決まりに従わないなんて言いませんよ。私はただのおばあちゃんなんですから」

 ほほほ、っと笑いながら、私は馬車に乗った。久しぶりにふかふかシートのすわり心地を楽しんでいたら、いつのまにか空にうかんでいるわ。

女王様もいい魔女に恵まれているわね。でも‥‥

「マジョリリカ!よく来てくれました」

 マジョリンさんに連れてこられたのは、謁見の間じゃなくて、女王様の私室の方。立ち上がった女王様の前で、わたしが片膝をついて礼をしたら、

「どうしたのです?顔を上げてください」

 しゃがみこみそうになったから、わたしはよいしょ、っと立ち上がって、マジョリンさんをちらっと見た。

「いえね、この方の顔も立ててあげないといけないかしら、って思ってたのよ」

 視線の先で、困った顔が咳払いしているわ。まぁ、このくらいにしてあげましょうか。

「久しぶりねぇ、マジョ‥‥っとと。今は名前で呼んじゃいけないんだったわね」

 ヴェールの下の目がちょっと伏せられてしまったけど、わたしがそのままテーブルのほうに向かうと、向かいの椅子をすすめてくれた。

「ではマジョリン、先ほど言ったとおりにお願いしますよ」

 椅子に腰掛けながらの言葉に、マジョリンさんが一礼して立ち去っていく。おしごと忙しいのかしらね?

「それにしても、本当によく戻ってくれましたね」

 はぁ。仰々しい言葉だわね。仰々しすぎて、ちょっと吹き出しそうになっちゃったくらい。

「いいえ、戻ったわけではないのよ。ただ、ちょっと寄っただけ」

「そう‥‥ですか。あなたならば、魔女界のどこでも歓迎されるでしょうに」

 ああ、もう! 耐え切れなくって、笑っちゃったじゃない。

「もう、口がうまくなったわねぇ。こんなおばあちゃんおだてて、どうするつもり?」

 テーブルがなかったら、肩を叩きたかったくらい。だけど、彼女はやっぱり明るい顔になってくれないわ。

「マジョリリカ‥‥正直に言います。 マジョハートから、わたくしの許へも連絡が来ました。どれみちゃんたちのパーティに呼ばれているのだと。
 わたくしは、あなたが羨ましい‥‥」

 しゃべり方が硬くなっちゃったわねぇ。わたしは、彼女のハキハキした口調が好きだったのにね。

「だから言ったでしょう?『女王なんて堅苦しいだけよ』って。あなたはホントに意地っ張りなんだから」

 女王様はしばらくうつむいて黙っていた。

 ここには、わたしたち二人きり。立場を離れてくれれば、きっと、むかしのような軽口が聞ける。そう思っていたのだけど。

「そう‥‥そうかもしれませんね」

 ‥‥とうとう、わたしにもそういう言葉でしか話せなくなったのね。仕方ないのだけど、やっぱり、ちょっとさびしいわね。

 立場はわかっていても、やっぱり息苦しいわ。なんとかおいとましようとしたところで、マジョリンさんの声がかかった。

「女王様、ただいま詰めおわりました」

 それを聞いた女王様、ようやく顔をあげてくれたわ。

「ご苦労さま。‥‥マジョリリカ、魔女達から色々と届いていますよ。あなたが贈りものを探しているという知らせは、あちこちに広まっていましたからね」

 あらまぁ。ハートも律儀なんだから。ドンやバニラにでも頼んだのかしら?ロクサーヌだと、リードのお菓子と重なっちゃうわね。

「私からは‥‥差し上げるわけにはいきませんが、これをお貸ししましょう。どんなものでも小さく収めてしまう、王室用の魔法小物入れです」

 マジョリンさんから小箱を受け取って、なんとなく重さを確かめてみる。箱の重さしか感じないわ。これなら、かばんに入れておいても大丈夫ね。

「それでは、今日は失礼しますね。小箱をお返しするときにでも、またお話ししましょ」

 そのときには、もっと軽い話ができるといいわね。わたしは、部屋から立ち去りながら、そう心の中だけでつぶやいてた。

 心の別のところから、無理だという声が響いてくるのだけれど、それでも‥‥

「ああ、やっとついたわ」

 ちょっと寄り道が過ぎたみたいね。MAHO堂のドアを見つけるのに、こんなにかかるなんて。

 さて、ドアをあけて、と。アクセサリー屋さんの匂いは、ガラスの匂いね。ああ、また来たんだわ。

「ね、いま奥のドアの音しなかった?」

 ずぅっと奥から聞こえてくる。あ、これ、どれみちゃんの声だわ。

「ひょっとしてさ‥‥あ、やっぱり」

 お店の方に行ったら、ももちゃんとハナちゃんが飛び出してきたわ。

「リリカおばあちゃん、いらっしゃい」

 あぁ、本当にまた来たんだわねぇ。ふたりの顔を見て、ようやく実感が湧いてきたわ。

「はい、こんにちは。‥‥もうこんばんは、かしらね? すっかり遅くなってしまったわ」

 ふたりに引っ張られながら、テーブルの前へ。みんなの顔を、ひとりひとり確かめてみて‥‥変わってないわね、って思わず考えてしまったわ。あたりまえね。百年経ってるわけじゃないんだから。

「ご招待ありがと。パーティのお呼ばれなんて、何百年ぶりかしらね。‥‥あ、そうそう。みんなへのプレゼント、先に渡しちゃおうかしらね」

 かばんをテーブルに置いて、まずひとつ目。

「ももちゃんには、これね。マジョリードからよ」

「わァ。新しいお菓子だネ」

「ええ。食べて感想を教えてあげてね」

 あら?最初は喜んでいたのに、なんか複雑な顔してるわ。変ねぇ‥‥まぁ、次いきましょう。これは、っと。

「こっちはマジョハートから。赤ちゃんを産んだバラのお茶‥‥まぁ。青い花もはいっているわねぇ。きっと、ハナちゃんのバラよ」

「ハナちゃんの? うわぁ、ありがと!」

 ハナちゃんは、にこにこ笑って受け取っているわ。うん、よかった。

「わたしじゃなくて、ハートに言ってあげて。きっと喜ぶわ。あとのみんなの分は、ええと‥‥」

 かばんの中にしまったはずなのに? やっぱり、急いで出てきちゃったからかしら。

「あれ?リリカおばあちゃん、これは?」

 どれみちゃんの声に振り向いたら、ああ、別の袋にまぎれちゃったのね。

「それそれ。遅れそうになっちゃったから、みんなからのおみやげ、マジョリンさんに詰めてもらったのよ」

 って、顔を上げたら、あらら。みんな、ももちゃんと同じ、妙な顔してるわね?

「えっと、あの‥‥」

「ひょっとして、今日がなんの日か知らへんのやろか?」

 なんの日って、あら? 今日はなにか特別な日だったかしら?

「リリカママは、そういうことに疎くてのぉ。わしも気付くべきじゃったわい」

「今日は、敬老の日。おばあちゃんに感謝する日なんです」

「なのに、あたしたちにばっかりプレゼントなんて」

 あらあら。みんなして、そんな顔しないでちょうだい。わたしがいまどんなに嬉しいか、わからないかしら?

「なに言ってるの。どれみちゃんたちからのプレゼントなら、ここにあるじゃない」

 かばんの中から、はがきを取り出して見せたけど、みんなきょとん、とした顔。そう、ね。わからないかもしれないわね。

「MAHO堂に、マジョリカちゃんやみんながいて、わたしはその中にお呼ばれしてもらえるのよ?こんな幸せな魔女なんてめったにいないわ」

 ハートより、リードより、クロスより、女王様より。そして、モンローと同じくらい、ね。

 ああ、ハナちゃんが抱きついてきちゃったわ。みんなも、また笑ってくれてる。それじゃ、

「あとのプレゼントも、あけちゃいましょうか」

「あとは誰からのプレゼントなの?」

 どれみちゃんに小箱を手渡してあげた。みんなが囲んで覗きこんでいるわ。

「さぁ、わたしも聞いてないわ。ハートが声をかけてくれて、集まったものを全部、いくらでも入る小箱に詰めてもらったのだけど‥‥」

「なんじゃとぉ!?」

 まぁ、びっくりした。マジョリカちゃん、お行儀悪いわねぇ。なぁに、いきなり?

「どれみ、それを開けるな!!」

「え?なんで??」

「なに言うてんねや?箱開けな、中身取り出せへんやんか」

「おまえらは、リリカママの人気を知らんからそう言う‥‥ああぁッ!いいから早く離れろぉッ!!」

「え‥‥うわぁぁ!!!」

 

 ボンッッ!!

 

 チリトリに乗って浮いていくマジョリカちゃんのところへ、ほうきで上がろうとしたそのとたん。

大きな音と一緒に、ものすごい勢いでなにか足元を走り抜けていったわ。

「きゅぅぅぅ‥‥」

「い、いったい、なんやったんやぁ‥‥?」

 あらあら、たいへん。どれみちゃんたち、壁の方に押しつけられちゃった。ハナちゃんなんか、頭から埋まっちゃってるわ。

 よく見たら、MAHO堂いっぱいにプレゼントがあふれてる。お菓子に本にアクセサリー‥‥見ただけで、誰からのものか全部わかるわ。

 わたしは心の中で感謝ながら、ハナちゃんを掘り出しはじめた。

 

 ひとりづつ、上の階にひっぱり上げて、と。ふぅ。最後にどれみちゃんを降ろしたころには、ひとつわかったことがあるわ。

 なるほどね。女王様が最後までしゅん、としてたのは、おしばいだったってわけ、か。

「‥‥さぁて、女王様に小箱お返しするときには、ちゃぁんとお礼をつけてあげなくっちゃ♪」

 どれみちゃんたちがこっちを見てるわ。なんだかみんな、げっそりした顔で。

 やぁねぇ。別に、あなたたちにやったりしないわよ。それじゃ、久しぶりにお相手して差し上げましょ。

「たぁっぷり、ね

「お見送りご苦労様でした、マジョリン」

 城に戻った私を、女王様が出迎えてくださった。珍しいことだ。彼女はそれほど大切な方なのだろうか。だが、それにしては‥‥

「女王様。ご命令通り、あの小箱にすべて詰め込んでお渡ししましたが‥‥あれでよろしかったのでしょうか?」

 女王様はちょっと部屋の天井を見上げられてから、

「それでよいのです。
 それよりマジョリン、今後マジョリリカから届いたものは、城の中へは持ち込まないように。開けるときは、わたくしも立ち会います。いいですね?」

 ヴェールの下の笑顔が、少しいじわるくなったように見えたのは、気のせいだろうか?

「さぁ、どんな手で来るのかしら?うふふ♪」

 私は何も見てない。そういうことにしておこう。うむ。

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