こころペンダント

「それじゃマジョリカ、行ってきまァす♪」

 黄色い見習い服がほうきをもって歩いて行くのを、わしはララと一緒に見送っていたんじゃ。

「気をつけて行くんじゃぞ」

 どれみたちがまた魔女見習いになって何ヶ月か()っとるし、最初は苦笑いで眺めていた大きな見習い服も、4人めともなると見慣れてきたな。

 しかしまさか、ももまで帰ってくるとはのぉ。まぁ、(えん)というのはそういうものかもしれんが。

 それにしても、挨拶(あいさつ)なしでいきなり高校訪問か。どれみもずいぶん(おどろ)くじゃろ‥‥

「‥‥いぃっ?見習い服で行くじゃと!?」

「このほうが早いシ、わたしだ、ってすぐわかってくれるヨ。どれみちゃんなら☆」

 くるっと振り返ったももがそう言うた。

 ま、まぁ、そうかもしれんがな‥‥おおっと、忘れとった。

「もも、出かける前にひとつ、いいかの?」

「へ?なにナニ?」

 近づいてきたももを連れて、わしは店の奥まで歩いていって、

「このペンダントなんじゃがな」

 飾ってあるもの(・・)を指差すと、ももが後ろから覗き込んできた。奇妙な顔でな。

「う〜んと‥‥ハート、かナ?このペンダント。ひょっとして、どれみちゃんが作ったノ?」

 さすがに濃い付き合いだっただけあるのぉ。この形をハートとわかるとは。

「んむ。どれみたちがな、せっかくまた魔法のアクセサリーが作れるようになったのなら、まずは自分たち全員が世話になった人のために作りたい、そう言うて作っておったものじゃ。裏にひとりづつ、名前を彫ってな」

「Yes! じゃ、もももやるヨぉ」

 にこっと笑ってペンダントをとったももが、裏を返して(うなず)いたわい。(さっ)しがいいのぉ。モンローさまのただひとりの弟子、いまだ健在、か。


 ペンダントに名前を彫っているももを眺めながら、わしはそう思ったんじゃ。

 ももがどれみたちの学校に飛んでいって、しばらくした頃。わしとララでは商売にならんから、準備中札を出して新聞でも読んでたのじゃが、

「こんにちは〜」

 カランカラン、とカウベルの音と一緒に、人の気配が入ってきおった。

「なんじゃ、まだ準備中じゃぞ。札に書いておるじゃろうが」

 まったく。昔みたいに必要な人しか寄れない魔法でもかけておけばよかったかの。

「はい。なので、お邪魔しに来ました」

「なんじゃとぉ?‥‥って、な!」

 そこに立ってたのは、若い女性じゃった。

 見覚えがあるぞ。たしか、関先生とか言うたか。

「なんじゃ、教師が。まだ学校は終わっとらん時間じゃろうが。サボったとでも言うのか?」

「はい。マジョリカ(・・・・・)さん」

 にこっと笑ってそう言ったのを聞いて、わしの動きが止まった。目の前の笑顔をじっと見ながら、少しでも口を動かさんと!

「な、なんのことじゃな?うちは、巻機山(まきはたやま)じゃぞ」

「とりあえず、いまだけはいいんですよ。マジョリカ」

 そうしたら、なんとかしらばっくれたわしの声の向こうから、また聞いたことのある声が響いてきたんじゃ。こ、この声は‥‥

「じょ、女王様!?」

 服装は白いワンピースじゃが、間違いない。女王様が、なんでじゃ?ここをスィートハウスにするために、魔女界からおいでになるとは聞いておるが、それは今日の夜だったはずじゃ‥‥

「あはは。いまだに効果てきめんだなぁ、ゆき女王様」

 そう言うて笑う関先生の横っ腹を、女王様が(ひじ)で突付いておる‥‥なんじゃと!?

「ちょ、ちょっと待ったぁ! 女王様、まさか、関先生に‥‥?」

 魔女のことを、女王様みずから教えた、じゃと?そんなこと、あるはずが‥‥

「ええ。というより、見破(みやぶ)られちゃったんですけどね」

 あった。

 わしは思わず、へたり込んでしまったわい。たまたまイスがあったから、まだマシかもしれんが。

「あれは‥‥そう、ハナちゃんが病気になって、ラブシュプリームを取りに行ってもらったときよ。
 どれみちゃんたちみんなが、魔女界に乗り込んでいくことを決意した、その顔色でバレちゃったのよね」

「あと、ゆきの様子でね。なにか相当なこと隠してるな、って思って問い詰めたんだ」

 イスに座って‥‥というより寄っかかって聞く声は、天の上で話しておるようじゃ。わかる、それはわかるぞ。あのときの必死の思いが、この先生に伝わったというのはな。しかし‥‥

「結構たいへんだったのよ。『魔女』って言わせないために、筆談でやりとりしたりとか、ね」

 楽しそうに話しとるけど、こら本当にすごいもんじゃ。

 魔女のことを知っているのに、そのあと2年以上も誰にも話さず、ひとりごとにさえしなかったわけじゃからな‥‥でなければ、誰かが魔女ガエルになってしもうたはずじゃ。

 どれみから、人となりは確かによく聞いとる。が、まさかここまでとは‥‥うむ。

「正体がバレとるのはわかったわい。まぁ、もう魔女ガエルにもならんから構わんしな。
 それで?わしになんの用じゃ?」

 女王様の前じゃが、わしはそっけなく言うてやったわ。そしたら、

「ありがとうございます。子供たちを」

 目の前の大きな身体が半分になってしまったんじゃ。

「お、おいおい。わしゃ教師に礼をされる覚えなどない‥‥というか、頭を上げんか。かゆくてたまらん!」

 思わずイスから飛び上がって、関先生の両肩を持ち上げてやったら、真っ直ぐな瞳が上がってきたぞ。

「あなただって先生でしょう?魔法の師匠なんだから。同じですよ。同じ」

「ふん」

 瞳を見て、わしは鼻を鳴らしてしまったわい。ふざけた口調にしおって、ごまかされると思うなよ。

「同じわけがあるかい!ここで何度お主の名前を聞いたと思う?ももが来た、ハナが来た‥‥学校がらみなら、なにがあろうがお主の名前が出ない日なんぞないわい。
 逆を考えてみい、学校でわしの名前が出るか?出ないじゃろう。もちろん、それでいいんじゃがな」

 言っていて、少し強すぎたか、と思うたところで、別の方向から声が聞こえてきた。

「マジョリカ、そう言わないで。彼女はね、あなたにずっとお礼がしたかったの。もう、魔女ガエルの姿のときからよ。
 今日、ちょうどMAHO堂に寄るから、誘ってみたの。ね、ちゃんと応えてあげて」

 言われて、わしもちょっと考えた。この口調、女王様じゃなくて、関先生の友人としての言葉、か‥‥なら、

「ま、わしには関係のないことじゃな」

「マジョリカ!」

 女王様‥‥いや、養護教諭のゆき先生が、わしのことをじっと見つめてきとる。(にら)むわけでもなく、な。

 わしはそれを無視して、店の奥からひとつもの(・・)を手にとった。

「それより、このハートのペンダントを持っていけ。お主に幸運を呼び込むじゃろう」

 言いながら戻ると、わしはそのまま真っ直ぐ関先生に手ごと突き出したんじゃ。

「ハート?‥‥はぁ」

 不審がっておるのぉ。そもそも、ハートには見えんじゃろうし、しかたあるまいがな。じゃが、

「ふふふ。信じとらんな? ここは魔女のいる、本物の魔法のアクセサリーを売る店じゃぞ?」

「いや、でも、あたしはそんな可愛(かわい)らしいのはどうも苦手で‥‥」

 すこし後ずさりしそうな姿に笑いそうになるのを(おさ)えて、わしはペンダントを手ににぎらせた。

「ただの魔法のアイテムでは足りんか。なら‥‥それはどれみたちが(そろ)って、誰かさんの幸運を願いながら作ったもの、と言うたらどうじゃ?」

 関先生が、手の中のペンダントをくるり、と裏返す姿を横目で見ながら、わしは続けたんじゃ。

「それがたとえただの泥細工(どろざいく)だとしても、お主に効かんわけなかろうが」

 あえて目は合わせんが、気配で十分わかる。ペンダントの裏には、どれみたちの名前と一緒に『関先生へ』と彫ってあるのじゃから。

「あ、あの、これは、おいくらで‥‥」

 はぁ。またつまらん意地はりおって。

「今晩からここはスィートハウスじゃ。残しておいてももう売れんわい。どうしてもというても、いままでお主が教師として積んだもので釣りが出るくらいじゃろう。それとな」

 わしはひとつ大きく息を吸った。背中を向けたい衝動に耐えるのは難しいが、仕方あるまい。

「ありがとう」

 わしは勢いつけて身体をふたつに折ったんじゃ。

「え?い、いや、春風たちのことなら、あたしも教師ですから、当たり前のことをしただけ‥‥」

 うむ。そう思うじゃろうな。だが、

「いいや、それだけではない。
 ゆき女王様の支えになってくれて、本当にありがとう。それは千の呪文、万の魔力に勝る、ひとのちからじゃ」

 しん、となったMAHO堂に、ちいさく女王様がなにかつぶやいたのが聞こえた。意味はわからん。が、最後まで言わねばなるまい。

 わしは顔を上げて、関先生の、さっきと同じ、あの真っ直ぐな瞳を見つめたんじゃ。

「わしはそのことを、どれみたちから学んだ。お主が――あなたがどれみたちに教えたことから、な。
 あなたは、わしの師でもあるのじゃ。ハートを差し上げるべき相手から礼など、とても受けられんわい」


 言うた瞬間、わしら3人の先生の手が、自然に重なった。もちろん、魔法なんぞ使っておらんのに、な。

 それは本当に、心地よいことじゃな‥‥

「あれ?ハートのペンダント、なくなっちゃったの?」

「お前の‥‥どれみハートのペンダントのことか?そうみたいじゃな」

 あたしが言った言葉に、マジョリカがそっけなく返してきたよ。

 ももちゃんが学校にやってきた日の放課後、MAHO堂で再会のやりなおしをしたあと。店の奥がちょっと変わったような気がして、なんだろう、って思ったんだけどさ、

「みたい、って。あれはあたしたちの大切なものでしょ?アクセサリーショップやめても残しとくって、マジョリカも言ってたじゃない!」

「まぁな。じゃが、あれも魔法のアクセサリーじゃ。お前たちが強く願ったせいで、本人に届いたのかもしれんぞ」

 ったく、適当なことばっか言って‥‥でも、そっぽ向いてそう言ってるマジョリカ見てたら、なんだかだんだんそれが本当のような気がしてきたよ。あたしたち、本当に本気で先生の幸運、願ってたもんね。

「そっか‥‥ハートだとわかってくれるといいんだけどな」

 自分でも思うんだよね。やっぱ形は、はづきちゃんに作ってもらったほうがよかったかなーって‥‥


「――そのくらい、ちゃんとフォローしといたわい」


 え?

 なんか聞こえた気がしたんだけど‥‥気のせいかな?

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