たこやきいくつ?

    

瀬川おんぷさま

 二週間ぶりやな。元気やった?

 まだ6月に入ってへんちゅうのに、大阪はもう暑うて大変や。こないだも学校でな‥‥
            ・
            ・
            ・
 ‥‥夏にはバイトでもして、お金ためて東京行こ思うてたけど、学校が禁止や言うて、でけへんねん。小学校よりきびしいっちゅうのは、どないなってるんやろな?

 こづかいためて、なんとか行けるようにするわ。冬になるかもしれへんけど、待っててな。

 ほな、また。

                   妹尾あいこ

 出して4日目かぁ‥‥ふぅ。

 学校終わった帰り道。校門出たところで、勝手にため息でてもうた。学校やとクラブ勧誘の先輩に追っかけられてんから、考えてる暇もあらへんけど、ひとりンなるとやっぱあかんな。

 ぼーっと歩ってんと商店街の中。でっかいガラスにあたしの姿が映ってん。 うん。ま、制服ごわごわしてんのもとれたし、似合ぅてきたんかもしれへん。


 いまの学校には慣れたんやけど‥‥5月の連休に会いに行けへんかったんが痛いなぁ。まぁ、どれみちゃんたちが新幹線のきっぷ送ろうとしてくれたん、断ってもうたのはあたしやけどな‥‥


 ん?‥‥あ。あかん。ガラスの前でまたぼーっとしてもうたわ。中のぞくふりして、と‥‥ああ、ここケータイ屋やったんか。

 せやなぁ。手紙やのうて、ケータイやったらすぐなんやけどなぁ。まぁかけるお金ないし、あってもおんぷちゃん忙しいから、なかなかかけられへんやろけどな。

 なんやいろいろ書いてあんで。メール機能充実、か。へぇ。‥‥ あ、店のおっちゃんこっち見てるわ。さっさと帰ろ。


 そういえば どれみちゃんたちとはメールで話してるとか、まえ手紙に書いてあったなぁ。メールやったら学校からできるし、アメリカのももちゃんにかて気楽に書けるかも‥‥

 ‥‥いんや、あかんわ。どれみちゃん、学校からおんぷちゃんにメールしたん見つかって、えらいさわぎになった、っちゅう話や。こっちでそないなったらシャレならへん。‥‥はぁ。


 ため息ついて頭上げて、目の前にあったんは家の郵便受けやった。‥‥またや。おんぷちゃんに手紙出したら毎日毎日、気ぃつくと郵便受けの前に、ぼ〜っと突っ立ってんねん。ええかげん、自分でもあほや思うけど‥‥


 開けた郵便受けのぞきこんだら、あ、あった!! 茶色の封筒の裏に♪マーク、おんぷちゃんの手紙や

 せやけど‥‥これ、えらい薄いなぁ。中身は、と。


    

前略 妹尾あいこさま

    泊まりに行くわね。

              かしこ
              瀬川おんぷ


‥‥なんや、これは??

「ただいまぁ」

 手紙をかばんにしまいながら玄関開けたら、包丁の音がしてる。あ、そや。今日はおかあちゃん休みやったな。

 おじいちゃんの部屋でただいま、言うてから奥行くと‥‥ああ、台所立ってるおかあちゃんやぁ。

「ん? ああ、おかえり。なんや、そないな顔して」

 あ。あかんわ。顔ゆるんでしもたのが自分でわかってまう。ちょいとしめて、と。

「あと、あたしやるから。せっかくの休みやんか。おかあちゃんは、居間で座っとってや」

 かばん置いて、腕まくりしてるあたしの頭に、おかぁちゃんの指が、つんっ、て当たった。

「こぉら。おかあちゃんを台所から追い出すやなんて、10年早いで。
 煮付けのしたく終わったら、何か焼いて‥‥」

 粉とるんでしゃがんだおかあちゃんの向こうに、煮物のなべがふたつ見えた‥‥うん。

「あぁ。それやったらええよ。自分でタコ焼くさかい。粉と焼き器、借りてくなぁ」

「あ、ちょっと、あいこ?」


 たこ焼き器と材料持って、自分の部屋入って。

 かばん隅っこに置いたら焼き器に電気入れて、油ひいて、どんぶりで粉といて、具ぅ入れて。

 焼き器あったまるん待ちながら、ひょい、と天井見上げたら‥‥ああ、広いなぁ。なんや、日に日に広ぉなってるような気ぃするわぁ。


 もっかい油ひいて、タネ流してたら、さっきの台所が頭に浮かんできた。コンロの上、いまはなんでもふたつや。あたしらのと、おじいちゃんのと。

 ‥‥おやつくらい、自分で作らな、な。


 じゅーわじゅーわ焼けたんを、くるくる丸めて、と。よし、ほいじゃひとつ。はむ‥‥う〜ん。あかんな。

 粉もタコも悪いわけない、っちゅうことは、あたしの腕が落ちてるんやろなぁ。


 あ、そういえば、もう時間やった。


 残りのたこ焼きを皿にとって、焼き器の電気切ってから、あたしはバタバタ居間に行った。おかあちゃんがなんや言うてるなぁ、あとであやまろ。


 居間の座椅子に、おじいちゃんが座ってる。この時間はいつもそうや。あたしはその横に座布団ひいて座った。目の前で、おんぷちゃんがしゃべってる。

 4月からこの時間、ニュースのコーナー担当してるんや。 けど、きょうは見るの遅かったみたいやな。ニュース読み終わってしもてるわ。

『‥‥そういえば、遠近(おちこち)学園の創立記念日がありますね。おんぷちゃん、お休みはとれたの?』

『ええ。久しぶりの連休だから、泊まりがけで旅行もいいかな、って思ってます♪』

 ああ、そっか。休みできるから、こっち来るいうんか。せやけど、記念日やったら日にちもわかってるんやから、ちゃんと書いといたらええんに‥‥

 ま、ええわ。有名な学校やから、そんくらい調べたらわかるやろ。

『そうですか。創立記念日は金曜日でしたね。それじゃあと一日、しっかり頑張って‥‥』

 んな!?

「来るん、あしたかいっ!!」

 くつくつくつって、ええ音聞こえてきたわ。 あとは、このまま昆布がやわらかくなるまで見てればええ。

 それにしても。

「あいこ、最近ひとりやなぁ」

 あ。あかん、ついひとり言になってしまったわ。

 でもなぁ。東京で見たときは、あない友達に囲まれてたいうんに、いまはいっつもひとりやものなぁ。


「あ〜、おかあちゃん?」

 ひゃっ!? ああ、びっくりした。この時間はテレビの時間やから、台所来るなんて思てなかったわ。

 ‥‥あかんあかん。不思議そうな顔で、あたし見てるやない。

「な、なんでもないで。ちょっと驚いただけ。で、なんや、あいこ」

 あら?珍しなぁ。手ぇもじもじしてるわ。

「明日な、友だち来るいうてるんやけど‥‥泊めたって、ええ?」

 まぁ。心配することなかったみたいやね。

「ん〜、明日やったらおとうちゃん遅番やし、うるさないやろな。けど、誰やの?」

「え〜‥‥おんぷちゃんやねん」

 ‥‥ふぅん。そっか。

「わかった。ええよ」

 さぁて、お客さんのふとんて、どこ仕舞ってもうたかなぁ。って、そない考えてたら、

「せやけど、おかあちゃん」

 ん? また手ぇもじもじして、なんや心配そうにあたしの目ぇ覗き込んでるわ。どないしたんやろ?

「あんま‥‥その‥‥ふつうでええから。な」

 ふふ。そっか。そないな心配あったんやな。

「うちに来るんは、あいこの友達やろ? 普段なにしてたって同じやないの。
 あいこの友達、それだけであかんの?」

 笑たらあかん、思ても、勝手に口元ほころんでまうなぁ。 ああ、あいこ下向いてもうて。ぽそぽそっと「おおきに」言うたかと思たら、ぱたぱた、いう音といっしょに部屋駆けてってしもた。


 なんも心配することあらへん。あいこの友達なら、あたしの娘も同じなんやから。

 ふあぁ。ちょい眠いなぁ。

 ったく。こういうときに限って、数学の授業が難しなってるんやからなぁ。食塩水なんて、好かんわ。

 まぁせやけど、夜じゅうかかって、なんとか部屋も片したし。おかあちゃんがふとんも出してくれたし。あとは‥‥う〜ん。

「‥‥ったく、困ったもんやなぁ」

 学校終わって、校舎出て、門までたどりついて、そんで‥‥これからどないしたらええんや?

「どこで待ってるとか、ひと言書いとったら迎えに行ったるんに」

 せめて新幹線の時間とか、ちょっとでもわかっとったら‥‥あぁ、そっかあ。バレたらファンに囲まれてしまうんやったわ。 そらしゃあない。しゃあないのはわかるんやけど‥‥

「だいたいや。あたしの家知らんくせに、どないして来るつもりや、っちゅうねん!」

「家は知らないけど、学校なら地図に載ってるから」

 ん? なんや背中から声が聞こえてきたで。

「クラブ入ってない、って書いてあったものね。帰る時間は全国共通。でしょ?」

 ちょい待ちや、この声‥‥!?

「おん‥‥む、むぐごごっ!!」

 くち押さえてる手の先、振り返って見てみたら、

「とりあえず、外で名前呼ぶのは、なし。ね

 ブラウスに薄い上着はおったパンツ姿の女の子が、むぎわら帽子のつばをちょい、っと上げて、ぺろって舌出してん。ああ、やっぱり。おんぷちゃんや!


 あたしの口から手ぇはずして、一歩後ろに下がった思たら、じーっとあたし見つめてん。

「うん。制服、さまになってきたじゃない?」

 な、なんや、恥ずかしなぁ。

「ふふふ。照れなくてもいいじゃない。さ、じゃあまず、あいちゃん家行こっか」

 ああ、この言い方も懐かしなぁ。引っ越して2ヶ月しか経ってへんのに、もう10年も会ぅてないみたいや。

 あたしは帽子のつば下げたおんぷちゃんの手ぇ にぎって、帰りの道歩きはじめた。

「お、妹尾が帰りに二人連れやて? めずらしなぁ」

 学校前の通りから商店街に入るちょい前。 なんや聞いた声が、背中から聞こえてきたわ。

 振り向いて見てみたら、ああ、同じクラスの田辺と咲ちゃんやないか。

「あいちゃん、その子は?」

 あたしより頭ひとつ低い、小さな咲ちゃんが訊いてきてん。丸めがねの中から、不思議そうな目がじーっと‥‥その先ちらっと見てみたら、おんぷちゃん帽子深くかぶって、顔かくしてもうてる。

 ふぅ。よかった。ふたりともおんぷちゃんの大ファンなんや。バレたらえらいこっちゃ。

「あ、あ〜‥‥あははは。え、と。そ、そう。友だちや。東京の友だち!」

「関東モンかぁ?」

 やぼったくネクタイずらしたカマキリみたいな田辺が言うてる。‥‥ちぃと、カチンとくる言い方やけど、今はがまんや。

「ま、まぁそうや。一番仲良ぉしてもらった友だちでな。せっかく訪ねて来てくれたんやから、っちゅうて、大阪案内してるんや」

「あの‥‥その帽子‥‥?」

 咲ちゃんが指さした先には、ますます深くかぶってもぅた、おんぷちゃんの帽子。 ん〜、そやなぁ。

「お日さん‥‥そう! この子肌弱くてなぁ、こないな強いお日さんやと、帽子とるわけいかへんのや。堪忍なぁ」

「へ。さっすが関東モンの嬢ちゃんや。どこもここもデリケェトで役たたんわ」

 う〜、こン憎まれ口! いつもやったらシバいたるとこやけど、おんぷちゃんがいるんや。がまん、がまん‥‥


 ガコンッッ!!


 あたたたた。ごっつい痛そうな音しながら、田辺が地面にぶっ倒れてもうた。その上には両手の指組んだ咲ちゃん。 恐怖の両手ハンマー炸裂や。

「田辺ッ!!」

「なんや、おどれ‥‥」

 立ち上がっても、田辺まだ頭かかえてん。普段は はづきちゃんよりおとなしい咲ちゃんなんやけどなぁ、 キレると熊でもぼてくりかえしかねへんわ。

「なんや、やない! 手ぇついて謝らんかいッ!!」

「んぁ?」

「わぁっとるんか、アホゥ! あんたいま、あいちゃんの一番の友だち、バカにしたんやで? そんなん、あたしが絶対許さへん!!」

 あたしは、一瞬ぽかーんとしてしもた。けど、田辺がくるっとこっち向いて、あたしとおんぷちゃん見比べて‥‥

 いいっ!? 田辺のやつ、おんぷちゃんの前で正座して、地面に頭すりつけてるやん!?

「すまん! たしかに、今のは俺が悪かったわ。妹尾の友だちやったら、どない変でも訳あるに決まっ‥‥ぐがっ!」

 ああ、咲ちゃんが今度は土下座してる田辺の腹、サッカー蹴りや。もう、見てる方が痛なってくるわ。

「変だけ余計や、ボケ!」

 キレたときの咲ちゃんには、あたしもかなんわぁ。 ‥‥せやけど、戻るのも早いんや。この子は。ああ、ほら。こっち振り返ったら、もうリスみたいな顔で苦笑いしてるやん。

「ごめんなぁ、このアホ変なこと言うて。あたしは芹沢咲子。ボケたことぬかしたんは田辺。あいちゃんの、大阪での友だちや。よろしゅうな」

 おんぷちゃんが、ちょっと黙ってる。そっか、声でバレてまうし。しゃあない、あたしが‥‥て、思たら、おんぷちゃんその場にしゃがみこんでしもた。

 田辺立たせて、ひざのほこりはらって‥‥ ぽかーん、としてる二人の手を自分の手と重ねてから、左手で帽子のつばを上げ‥‥え!?

「あいちゃんの東京での友だちで、瀬川おんぷです。よろしくね

 あははは‥‥ふたりとも、くちと目ぇぱか〜んとあけてもうたわ。おんぷちゃんはにこにこのん気に笑てるし。

 ‥‥って、ちょい待ちや?

「お、おんぷちゃん、ええんか!?」

「あいちゃんの友だちなんでしょ? だったら、ちゃんとあいさつしなくちゃ

 ああ、もう! あたしは、どないフォローしたら‥‥

「えぇと、あの、これな‥‥」

 咲ちゃんが田辺見上げて、シャツ引っ張ってる。田辺はうんうん、てうなずいてから、

「ああ、ええて。もうなんも言わんでええわ。俺らが会ぅたんは妹尾の友だちや。名前なんて知らへん。
 ほら、さっさと行き!」

 シャツにつかまった咲ちゃんも、笑いながらしっしっ、って手で追い払ってる‥‥あたしは、なんや目ぇが熱うなってしもた。

「ふたりともおおきに! ほな、また来週な」

 咲ちゃん田辺によじ登って、その上で大っきく手ぇ振ってん。おんぷちゃんも帽子下げながらやけど、やっぱ手ぇ振って返してる。

 あたしは下向きながら、おんぷちゃんの手ぇ引っ張ってた。あかん。しばらく顔上げられへんわ。


 なんであたしの友だち、みんなええ子なんやろ‥‥

 ふふふふ‥‥

 咲ちゃんたちと別れて、ようやっと顔上げて歩ってると、おんぷちゃんが急に笑い出した。なんやろ思て見てみたら、

「なんか、いい感じじゃない?」

 ちょんちょん、て背中のほう指さしてん。見てもなんもあらへんけど‥‥あぁ、あのふたりかいな。

「せやな。矢田くんとはづきちゃんみたいなもんや」

「幼なじみなの?」

 ん? あぁ、はづきちゃんはそうやったな。

 あたしは笑いながら、手ぇ横に振った。

「あんだけペタペタしとっても、だ〜れも突っ込みもせぇへんねん。あ〜いうんを『お似合い』言うんちゃうかなぁ」

 ちょっと空見上げてそう言うたら、おんぷちゃんがあたしの前に回りこんで、のぞき込んできた。

「あいちゃんも、誰かそうなりたいひと、いる?」

 ぷっ! あかん。思わず吹き出してしもたやんか。

「まさか。そんなん、考えたこともないわ。
 おんぷちゃんこそ、いろんなひとと会ぅてるやん。正直に言うたりー。レポーターもおれへんでー」

 あぁ。くすくす笑うだけで終わらせてもた。さすがアイドルやな。

「でも、なんか意外」

 ん?なにがや?

「さっき、あいちゃんが二人連れで帰るなんて珍しい、って言われてたじゃない。いつも、ひとり?」

 あぅ。そないな目ぇでじぃっと見られると、いごこち悪ぅて‥‥

「帰りの方向いっしょの子ぉ、おれへんだけやて。
 ‥‥それより、せっかく大阪来たんやし、ちょい寄ってこか? 本場のたこ焼き、食わしたるわ」

 早口でなんとかそう言うて、あたしは目線はずした。商店街見回して、どこのがええかなぁ‥‥て、あれ?なんや、いきなりおんぷちゃん立ち止まってもうた。

「どないしたん?」

 足止めて、顔のぞきこんでみたら、おんぷちゃん、あわてて首振ってん。

「ううん。でも、たこ焼きならあいちゃんが作ってくれると思ってたから‥‥」

 ああ、そか。

「それがなぁ、最近腕が落ちてもうたみたいでな。作ったの自分で食べても、おいしないんや」

 頭かいて笑ぅてみたけど、おんぷちゃんはごまかせへんな。ぽそっ、て言うたん、聞こえてしもた。

「ふぅん‥‥でも、そのたこ焼きやさんも、きっとおいしくないと思うけどな」

「ただいまぁ」

 玄関開けて、あいちゃんが大きな声で言った。

 わたしも続けて「おじゃまします」って言ったけど、かき消されちゃったかもしれないわ。


 大阪の家はあいちゃんのおじいさんの家。いなかの家みたいだな、って思いながら、あいちゃんについて行ったら、一番手前の部屋に誰か見えた。あ、前に会ったことあるわ。あいちゃんのおじいさんね。

「おお、帰ったんか‥‥ん? そっちン子は?」

 わたしの目を見て、おじいさんがそう言った。あいちゃんと一緒に近くまで行って、背中しゃんとして。

「あいちゃんの友だちの、瀬川おんぷです。おじゃまします」

「おぉ、そぅか。あいこの友達か。よぉ‥‥よぉ来てくれた」

 なんだか、涙ぐんじゃってるわ。ひきつった顔で。どうしたのかしら?

「おじいちゃん、なにも泣くことあれへんやん。‥‥ああ、ちょっと待ってや。いまタオル持ってくるわ」

 あいちゃんがぱたぱたって、台所歩いてった。わたしも行こうとしたけど、手になにか触れて‥‥おじいさん?

「嬢ちゃん。あいこ、堪忍なぁ」

 え!?

「わしがこんなやのうて、シャキシャキ動けたら、あの子も色ぉんなことでけるんやけどなぁ‥‥
 こっち来てから、友達と遊びにもよぉ行ってへんみたいや。すまんけど、堪忍したってな」

 ‥‥そっか。そう、だったんだ。 ひとりで帰るって、友だちを家に上げられないから‥‥


 わたしは、おじいさんの手を両手でにぎった。

 ‥‥うん。この手のあったかさ。おじいさんの思いは、あいちゃんと同じだわ。

「大丈夫です。わたしたちは‥‥わたしは、わかってますから」

 おじいさん、目をつぶって笑った。さっきはひきつったようにしか見えなかったけど、いまはわかるわ。一所懸命、笑ってるの。

 そう、わかってる。こんなことくらいで、あいちゃんひとりになんて、あたしがさせないわ。


 あいちゃんが、絞った濡れタオル持ってくるまで、わたしはあったかい手、にぎってた。

「ここがあいちゃんの部屋なのね?」

 あたしの部屋のドアんとこから、おんぷちゃんがじぃっと中見渡してん。‥‥な、なんや恥ずかしなぁ。

 なんもない部屋やし、ひとりやと広い思てたけど、ふたり入るとせまいわ。あたしは、おかあちゃんの出してくれたふとんの上の座布団ふたつ、ぽんぽん、て置いた。部屋のすみに荷物置いたおんぷちゃんが座ってから、

「いま、なんか持ってきたるから‥‥」て台所行こ思てたら、おんぷちゃんが手ぇ振って止めたった。

「飲み物なら、まだ冷たいのがあるわ。それより、座って」

 かばんの中から、ジュースの缶ふたつ出してん。ま、そういうことならええか。

 あたしも座って、ジュース受け取ったら、

「ほんとはね、どれみちゃんたちも来たがってたのよ」

 あたしの目ぇ、じっと見ながら、おんぷちゃんが言うた。

「あいちゃん、わたしたちが買おうとした新幹線のきっぷ、断ったじゃない? それで、どれみちゃんすっごく心配しちゃってね‥‥」

 ああ。言われるとは思たけど、いきなりかぁ。

「でも、わたしがひとりで聞いてくる、って言ってきたの。あいちゃんのことだから、きっと『あたしのために、お金使って欲しくない』って考えてるんじゃないかと思って」

 ふぅ。来たんがおんぷちゃんで助かったわ。

「せや。どれみちゃんには怒鳴ってしもうて、悪いことした思うけど‥‥」

「‥‥うそつき」

 え、なんやて?

うそつき(・・・・)」、って言ったのよ。聞こえなかった?}

 え、あ、なんで‥‥!?

「もう。それだけじゃないでしょ?
 友だちと遊びにも行かないし、家にも呼ばない、なんて。 どれみちゃんがこんなこと知ったら、大変よ。毎日大阪行くって言い出しかねないわ」

 あたしの顔、冷たなってくんがわかる。あかん。ほんまにやりかねんわ。 ああ、なんや、からだ震えきてもうて‥‥

「なんてこと報告されたくなかったら、なにがあってもちゃんと遊んで。いい?」

 うひゃ!? 目の前におんぷちゃんの笑顔がせまってきてん。‥‥ああ、でも目ぇがマジや。

 せやった。あたしには、心配してくれる友だちおるんや。心配、分けてもええ友だちおるんやったわ‥‥

 あたしは、おんぷちゃんにデコちょっとくっつけてから、大きく息すった。うん。おんぷちゃんのそばなら、前の自分に戻れる気ぃするわ。

「んなこと言うて。おんぷちゃん、ひとりで会いたかったんやないんか?」

 ほら、軽口も出てきよるやん。けど、

「そうよ」

 あたしはその場で手ぇついてしもた。一枚上手や。

「あいちゃんだって、わたしひとりに会いたかったでしょ?」

 うぁ。よぉシラフでそないなこと言えるな。よぉし。

「そりゃまぁ、旅行荷物もった子ぉ何人も泊められるほど、うちは広ないしな」

「あ、そんなこと言うの? だったら‥‥えい

 うぁは!?

「お、おんぷちゃ!?」

 い、いきなり脇つついて、何すんね‥‥

「えいえいっ

 くはっ!?

「おん‥‥やめんか、って‥‥ひぁっ!?」

「素直になるまで、続けちゃうからね」

 あたしの脇を左から右からつんつん、てつついて、あぁ、もう!

「こン‥‥の、性悪!!」

「当たり前よ。アイドルだもん♪
 で?素直になる?それとも、まだ‥‥」

 あ、あかん。限界や。

「あーッ! もう、降参や。あたしはおんぷちゃんに会いたかった。おんぷちゃん一人に、ず〜っと会いとうてしょうがなかった!これで、ええんかい!!」

「うん。‥‥おまたせ


 おんぷちゃんが抱きついて来たん、受け止めた。あぁ、やっぱかなんなぁ、て思いながら。

「ただいまぁ」っていう声が、玄関の方から聞こえてきた。あいちゃんのママ、帰ってきたみたい。

 ぱたぱたって音がしたと思ったら、ドアがカチャっと開いて、

「おんぷちゃん、いらっしゃい。あいこ、テレビ見ぃひんの?」

 わたしは急いであいさつしたけど、ちょこっとうなづいただけ。ふふ。ほんと、あいちゃんのママらしいわ。

「え、と。あ〜、今日はええわ」

 あいちゃんなんだか慌ててるみたい。あいちゃんのママが、それ見てくすくす笑ってる。

「そやね。今日は生で見てるんやもんね」

「おかぁちゃん!」

 あ、全身で抗議してる。生って、なに?

「おんぷちゃん。あいこ、毎週この時間になると、いっつもテレビに張り付いて離れへんのよ」

「え?はぁ」

 今の時間って‥‥あぁ、そっか。大阪じゃ、あのニュース番組いまやってるんだっけ。

「いつもテレビのおんぷちゃん見ながら、ぶつぶつ言うてるのよ。『あ〜、疲れとんな〜』とか」

 あぁ、そういうことかぁ。わたしが思わずにっこりしちゃったら、あいちゃん立ち上がって、

「おかあちゃん。もう、あっち行ったって!」

「はいはい。‥‥あいこ、目の前でぶつぶつ言うたらあかんよ。『ええなぁ』なんて」

 あいちゃんが足元のまくらつかんだときには、もうドア閉まってた。

 あいちゃん、まくら持ったままちょっと固まってたけど、そのまますとん、って座り込んじゃった。

 あ〜あ。耳まで真っ赤になってるわ

「ねぇ、あいちゃん。きのうはテレビ、見てたんでしょ?
 わたし、どう見えた?」

「‥‥なーんや、疲れてるっちゅう感じやったなぁ」

 まだまくら抱えて、ぼそぼそ、って感じで話してる。わたしはまくら引きはがしてから、近づいて訊いてみた。

「どのくらい?」

「ん〜‥‥ハナちゃんひと抱き、ちゅうとこかなぁ」

 ふふ。さすが、よく見てるわね。それじゃ、こんどはわたしの番、かな?

「そうね。だから、さっきあいちゃん抱いて、ちょっと元気あまっちゃった。少し分けてあげるわ。
 ‥‥ちょっと待っててね」

 言いながら立ち上がって、部屋を出た。台所は、来る途中にあったはずだから‥‥

 おんぷちゃんが部屋出て行って、かなりなんなぁ‥‥て、時計見たら10分も経ってへん。

 あかんあかん。こんなんやったら、おんぷちゃん中毒になってまうやんか。気ぃ落ち着けて、と。

「あいちゃん、ちょっと開けて」

 目ぇつむっとったら、ドアの外からおんぷちゃんの声が聞こえてきた。開けて、て。いったい何持ってきたんや?

「はい、これ」

 開けたとたんに目の前出てきたんは、たこ焼き器とボールに入ったタネやった。なんや、言うてくれれば持ってきたんに。

「さ、おいしくないたこ焼き、作ってみて

 ‥‥いや、言うたんはあたしやけどな。そない笑いながら言われると、凹んでまうなぁ。

 まぁええわ。たこ焼き器に電気いれて、油ひいて、熱ぅなるまでタネ混ぜといて、と‥‥


 ‥‥を、もう焼きあがってきたな。ほいじゃ、くるくる、っとまるめて、皿にひょいひょい、っと。

 よし。できたわ。って、いきなりおんぷちゃんの手ぇが伸びてきて、皿もってってしもた??

 そんな食べたかったんかぁて思てたら、目の前にいま焼いたたこ焼き出てきた。

「あ〜ん」

 な、なにやっとんねや?

「あ〜〜ん」

 目の前、たこ焼きがゆらゆらしとん。ああ、なんやえらい恥ずかしなぁ。

「あ〜〜〜ん」

 はぁ。もう、ええわ。あむっ。‥‥ん!?

「おいしいでしょ?」

 おんぷちゃんが、くすくす笑てる。いや、ほんまに、めっちゃうまいわ。

「このたこ焼き、なんでおいしいかわかる?」

「さぁ‥‥」

 タネも変わってへんみたいやったし、焼き方も変えてへんし、あとは‥‥あ。

「ふふふ。教えてあげない

 そっかぁ。うん。たしかに元気、分けてもろたわ。おんぷちゃん、おおきにな。


 ‥‥それはそれとして、や。

「そない意地の悪いこと言うんやったら、あたしも言うたらへん」

 得意のたこ焼きで悩んでんの、あっさり解決しよってからに。あたしにかて、プライドあんねんで。

「あ、ずるい。 またたこ焼きたべさせちゃうわよ。さぁ、白状しなさい!」

 おんぷちゃんが両手に竹串持って、たこ焼き取っちゃぁあたしの口ねらって来てる。

「もう。いくつ食べたら素直になれるのよ?」


 『おおきに』なんて、何個食わされても、絶対言わへん!!

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