ぬくねくめがね

「ん〜‥‥」

 くちびる、きゅっとしめて、くびをちょこっとかしげて、

「んふ

 そのまま、にっこり。


 しばらく、そのまま見てみる。にっこりの顔、なんだかヘンだわ。エアコンつけたばっかりで、まだ部屋の中は寒いのだけど、それだけじゃなくて。

 なにか‥‥待ってるみたいな笑顔。

「‥‥なんだか、ばかみたい」

 言ったとたんに、鏡の中の顔がしゅん、としちゃう。やだな、こんな顔。

「こんなだから、言われちゃうのかしら」

 ぎゅっ、って手をにぎったら、なにかつかんでた。開いた手のひらに、オレンジ色のタップ。

 ‥‥ううん。変身したって、だめよ。わたしは、わたしなんだもの。


 タップをしまって、かわりに机に飾ってあるハト笛をにぎってみた。つめたかった笛が、だんだんあったかくなってく。

 ちょっと吹いてみたら、むかしとおんなじ音がひびいた。

 わたしはもうすこしだけ吹いてから、笛を見てみた。そこに、いつもの顔がかさなってく。

「どう思う、まさるくん?」


「ふぁ‥‥ぁっっ」

 う〜、よぉ寝たはずなんに、なんでこない眠いんやろなぁ。

 いろいろあったけど、あたしらみんな進路も決まったし。はづきちゃんの受験も終わって、魔法は‥‥もう決まったも同じやし、心配することなんて、なんもあらへんのになぁ。

 そんなん考えながら学校の坂道登っとったら、寒そうなコートがとぼとぼ登ってん。あれは‥‥

「はづきちゃんやんか。どないして‥‥ぶっ!!」

 あたしは思わず吹き出してしもた。

 なんでかて、はづきちゃんの顔。目ぇにクマつくって、口やほっぺたひくひくさせてんやから‥‥っ!!

「あ〜い〜ちゃ〜ん!」

 あかん。わろたらあかん思ても、止まらへん。

「か、かんに、かんにんや、はづきちゃ‥‥くっ! くくくくっっ!!」

「もう!そこまで笑わなくたって!!」

 はぁ、はぁ。あ〜、なんとか落ち着いたわ。

 ‥‥あ、あかん。フォローしとかな。

「ごめんなぁ。せやけど、はづきちゃんだからやで。いつもかわいい顔なんに、いきなりこないな顔見せられ‥‥」


 がばっ!!


「それ、どういう意味!?」

 な、なんや? いきなりあたしの両肩つかんで、ジロッてにらんでん。いつものはづきちゃんと、ちゃうわ。

 なんも言えずにぼぉっ、としとったら、はづきちゃんが「あっ」て言うて、手ぇはなした。

「ご、ごめんなさい。‥‥先、行くわね」

 ぱたたたた‥‥そんな音でもしそうなスピードで、はづきちゃんが駆けてった。

 なんや、朝っぱらから気まずぅなってもうたなぁ。そやけど、なんでや‥‥?

「あ〜いちゃん

「なに、ぼ〜っと立ってるの?」

 背中の方から声かけられて、あたしはぽん、っと手ぇたたいた。

「どれみちゃん、おんぷちゃん。ちょい、はづきちゃんのことで聞きたいんやけど‥‥」


「そう言われれば、ちょっとヘンだったよね」

 どれみちゃんが、うんうん、てうなずいとる。

「受験だったし、ピリピリしててもしかたないかな、って思ってたけど」

「でも、終わってからも沈んでるわね」

 おんぷちゃん、おでこに指あてて考えてた。けど、ぱっと目ぇひらいてあたしら見回してん。

 なんや含み笑いなんかしとるなぁ。なんやろ?

「受験も終わって、魔法の方だってもう決めてるし、でしょ? ほかにはづきちゃんが悩むことって‥‥あれしかないんじゃない?」

「あれ、って?」

「なんや?」

 どれみちゃんと声が重なってもうた。それ見ておんぷちゃん、しばらく笑てたけど、いきなり顔近づけて言うた。

「ねぇあいちゃん、ちょっとはづきちゃん、つけてみてくれない?」


 2時間目の休み時間になって、はづきちゃんが一人でトイレ行っとった。

 朝がアレやったからか、あたしらにはなんも言わへん。つけるには好都合や‥‥と思うたんは甘かった。

 いつも使てるトイレに、はづきちゃんがおらへん。しゃあないから近くで待ってんと、中から声がしてきよった。

「ねぇねぇ、決めた?」

「なにが?」

「とぼけないの。遠足のグループよ」

 遠足ぅ? ああ、社会科見学やな。

 そういや小学校最後やからいうて、全クラスごったまぜで、グループ組むとか言うとったな。

「最後だもんね。ぜったい、いっしょになるぞぉ」

「あたし、抱きついちゃおうかなー、な〜んて」

 きゃあきゃあって、やっかましいなぁ。

「だれ、だれに?」

「ん〜、そうねぇ」

「1組の矢田くん、でしょ?」

 ん?

「あ、ずっるーい! あたしも狙ってたのにぃ」

「早いもん勝ちですぅ」

「よーし、あたしも狙っちゃお」

 バターン、ってな音たてて、トイレから4人くらい、やっかましいのが出てった。


 ああ、なんか、嵐が去ったっちゅう感じやな。せやけど、

「なぁるほど、な」

 矢田くん、けっこう人気あったんやなぁ。そか。そんではづきちゃん‥‥

「っちゅうことは、や」

「問題は、矢田くんね」

 うぁっ!!

 耳元でいきなり声したんで首だけ振り返ったら、肩にあご乗せたおんぷちゃんと目ぇ合ってもうた。

 おんぷちゃんだけやない。どれみちゃんも、ももちゃんまで後ろにおるやん。いつの間に‥‥

「それじゃあ、ももちゃん。とりあえずハナちゃんおさえといてくれる?」

 あたしの肩からあご降ろして、おんぷちゃんが言うた。言いながら、あたしにウィンクしとん。

 ま、せやな。

「ヘ?なんデ??」

 ‥‥ん〜、ここはあたしも共犯にならな、な。

「こんなん聞かしてみぃ、ハナちゃん魔法でなんとかしよ思うで。
 だれかずっと見てなかったら、止めようあらへんやん?」

 ああ、ももちゃんがうんうん、てうなずいてるわ。

「あぁ、そうだネ。わかったワ」

 そのまま教室に戻ってく。良心痛むわぁ。

「‥‥行ったわね」

 ふぅ。 三人そろってため息ついてまう。あたしら、悪人にはなれへんなぁ。

「ももちゃん、自分もおさえられちゃったの気づいたら、怒るわよ?」

 あはは。そうかもしれへん。せやけどしゃあないやん。

「ももちゃんも、恋愛関係ニブいもんね」

 当たって砕け続けとるどれみちゃんにだけは、言われとうないセリフやな。そうは思うたけど、とりあえず黙っとこか。


 ‥‥なんか知んねぇけど、クラスの空気が違って見える。

 もう卒業するだけだと思ってたのに、女子はサイン帳だのなんだの騒いでるし。

 それが落ち着いたら、今度は社会科見学のグループ分けできゃいきゃい言ってやがる。昼メシのあとくらい、静かに寝かせてくれよ‥‥

「矢田くん」

 ん?

 片目だけ開けてみた。‥‥なんだ、春風かよ。

「はづきちゃんって、かわいいよね」

 ‥‥なんだ!?

「かわいいでしょ?」

 オレの机を両手でつかんで、じりっ、とせまって来てやがる。

「なんだよ、いきなり」

「いいから、目の前行って『かわいいね』ってひとこと言ったげればいいの!」

 やれやれ、こいつも『きゃいきゃい』の仲間かよ。

「なんでお前に命令されなきゃなんないんだよ」

 どうせ、見学のグループの話だろ。どうだっていいじゃねぇか。そんなのよ。

「ったく、もう! 矢田くんは、はづきちゃんかわいく見えないの!?」

「べ、別に」

「ほら、どもった!」

 いきなり言われて、あせらないヤツがいるかよ。あぁ、もうめんどくせぇ。

「どうでもいいじゃんか。それとも、藤原に頼まれでもしたのかよ」

 ため息つきながら言ったら、黙りやがった。手がぷるぷる震えてやがる。

「ばかぁっ!はづきちゃんが、そんなことするわけないでしょ!!」

 おー、いってぇな、耳。‥‥ま、罰としちゃ、こんなもんか。

 春風、ぷんすかしながらそのまま席戻っちまった。あぁ、巻機山がこっち見てんな‥‥しゃぁねぇ。図書室にでも逃げるか。


 昼休みの図書室は、あんま混んでねぇ。オレは少ない机のなかでも一番奥にすわって、目ぇつぶった。

 頭に浮かんでくるのは、やっぱさっきの春風の言葉だ。卒業近くで全クラスごっちゃ、なんて言ったら、そりゃオレだって女子が騒ぐくらい、わからないわけじゃない。

 けど。

「グループ、かぁ‥‥」

「ほんで、矢田くんまださそってへんの?」

 近くで声がした。目を開けたら、目の前の席にだれか座ってる。

「んぁ?」

 目をぱちぱちしてよく見たら、ほおづえついた妹尾だった。

「せやから、はづきちゃん」

 やれやれ。またかよ。

「ったく! おまえら、オレが藤原さそうまでつきまとう気か!?」

 つい大声になっちまったけど、

「ここ図書室やで。ま、あたしは別にかまへんけどな。んで?さそわへんの?」

 妹尾はびくともしねぇ。なんか、ムカつくな。

「‥‥おまえらに言われてなんか、さそいたくねぇよ」

「へ〜ぇ。ほな、なんも言わへんかったら、さそうんやな?」

「なんでそうなるんだよ!」

 にらみつけてるオレに、妹尾は手をひらひらさせて、

「いやいやぁ、矢田くんはオトナやからな〜。あたしらがやいやい言わへんでも、自分でさそえるんやな〜、てな」

 くっ、男だったら一発ぶっ飛ばしてやりてぇけど、

「てめ、けんか売ってんのか!?」

 なんとかおさえて、そんだけ言った。そのとたん、妹尾の表情が変わった。

「そう言われたくないんやったら、さっさとさそい。な?」

 オレの目、まっすぐじっと見つめてきてやがる。

「はづきちゃん、ああ見えて、待ってんで?」

 ‥‥だめだ。まともに見れねぇ。

「‥‥だから、さそわねぇんだよ」

「んぁ?」

 いけねっ! つい‥‥

「べ、べつにっ!!」

 オレは立ち上がって、そのまま図書室出ていった。出る前にちょっとだけ後ろ見たとき、妹尾が笑ってたような気がする。


「あら?こっち先に来たの?」

 図書室を出て音楽室に入ったところで、オレはまたつかまっちまった。

「‥‥またかよ」

 ピアノに座った瀬川。校内一の人気者が昼休みに一人ってことは、だ。

「また、って‥‥あ。あいちゃんたちには、もう言われたのね?」

 オレの行きそうなとこ、みんな見張ってる、ってことか。

「ああ。どうせお前も、おれに藤原さそえ、って言うんだろ」

 ちくしょお。もう、どうにでもしやがれ!

「本当にさそいたくないなら、言わないわよ?」

「ん‥‥え!?」

 瀬川の声が、変わった。図書室での妹尾みたいに。

「自分じゃわからないみたいね。さそいたくてしょうがない、って顔してるわよ」

 そんな、ばかな‥‥!

「ふふふ。顔ふいたってダメよ。‥‥ね、そんな顔してたら、みんな気になってしょうがないじゃない。わたしたち、はづきちゃんの友達なんだから」

 瀬川はそのまま、音楽室を出てった。言うことは言った、って感じだ。

 オレはしばらく、そこに突っ立ってた。


 午後の授業のチャイムが鳴っても、もうしばらく、そこに立ってた。


 授業が終わった思たら、はづきちゃんすぐに教室出て行ってもうた。

 どれみちゃんたちは、ハナちゃんMAHO堂に運んでるし、おんぷちゃんはお仕事と。

 あたしは、どないしよかなぁ。おんぷちゃんの話やと、矢田くんはなんとかなりそうや、っちゅうとこやけど‥‥

「やりー。じゃ、あたし一番ね」

「ちぇー、しょうがないか。じゃ、ハデに抱きついてきなよ」

 あん?

 あぁ、朝の子たちや。またトイレで騒いどんのか。

「でもぉ、矢田くんにはカノジョいるでしょ?」

 うんうん。あたしは思わずうなずいたわ。

 なんちゅうたかて、校内公認カップルやからな。‥‥本人たちはともかく、やけど。

「藤原さん? やーね、あんなのカノジョのわけないじゃない。オジャマよ、オ・ジャ・マ」

「暗いし、トロいし、いいとこないよねー」

「かわいっぽく見せてるだけだもんねー」

 ケッタケタ笑いよって‥‥ああ、あかん。カバンの金具が曲がってん。強く握りすぎてしもた。

「まぁ、あんなん注意したって、しゃぁないんやろけどな‥‥ん?」

 トイレから出てくの見送りながら、ひとり言いうとったら、目の端に見慣れたもんが映った。

 あれ、あそこにおんの‥‥あぁ、もう。期待うらぎらんちゅうか、なんちゅうか‥‥

「はづきちゃん、なにやっとん?」

「き、きゃあぁぁ〜ぁっっ!!!」

 ――き〜〜ん‥‥

 あ、あぁ、あたまおかしなったかと思たわ。あ痛たたた‥‥

「ちょい、はづきちゃん。おどかさんといてぇな」

「ご、ごめ‥‥ごめんなさい」

 目ぇなみだ浮かべて、ちぃちゃくなってん。ん〜、まぁ、わかるけどな。

「ま、こないなとこ居てもなんや。ベランダ行こか」


 あいちゃんに連れられて、学校のベランダまで来ちゃった。

 それにしても、あーあ。あんなとこ見られちゃうなんて‥‥

「はづきちゃんの、ええとこかぁ‥‥」

 びくっ。

 体が勝手に動いちゃう。さっきの話、やっぱりみんな聞いてたのね。

「わたし、いいとこなんて‥‥ない」

 そう。暗いのはほんと。トロいのもほんと。勉強だって、一番なんかじゃない。わたしは‥‥

「ほな、なんであたしは、ここにおるんやろな?」

「え?」

 思わずあいちゃんの顔、見上げてた。あいちゃん、まっすぐ空のほうを見てる。

「あたしだけやない。どれみちゃんも、おんぷちゃんも、ももちゃんもや。なんもええとこない子ぉ、なんて思てたら、みんなそばにおるわけないやん」

 それは‥‥そう、かもしれない、けど。

「ねぇ、いつも通り、わたしたちでいっしょ、でいいんじゃない?」

「そんでも、矢田くんが他の女の子に抱きつかれたりしたら、イヤなんやろ? 」

 ‥‥

 わたしは、口が開けなくなっちゃった。

「ん〜、あたしじゃあかんか‥‥やっぱ、はづきちゃんを一番よぉ知っとる人に訊くべきやな」

「え?」

 わたしがきょとん、としてると、あいちゃんが耳打ちしてきた。

「せやからな、こないして‥‥」

 ふんふん。‥‥そんなことでいいの?

 わたしから離れたあいちゃんは自信たっぷりで、にこにこ笑ってる。うん。やってみよう‥‥!


「んん〜。どしたらいいかなぁ‥‥?」

 ハナちゃんをマジョリカに押しつけて、うちに帰ったけど、 ベッドの上にひっくり返っても、なにもする気にならないや。

「要はさ、はづきちゃんの方からさそえばいいんだよ」

 うん。自信持って、ぐいぐい押してけば、矢田くんなんて‥‥

 そこまで考えて、まくらにつっぷした。‥‥それができたら、苦労しないよねぇ。

「どれみおねぇちゃ〜ん、おフロあいたよぉ」

 ぽっぷの声。いつもより、な〜んか頭にくる。

「あたし、いらな〜い」

 ちょっと静かになったと思ったら、また声がひびいた。

「きたない女の子は嫌われちゃうぞぉ〜。ただでさえ、振られっぱなしだっていうのにさ」

 ‥‥んだとぉ〜!

「ぽっぷ!あんたねぇ‥‥!!」

 って、ドア開けた瞬間


 ぼふっ!


 ぶっ! なに、これ‥‥バスタオルじゃん。

「そぉ言われたくなかったら、ちゃんと入んなよ。じゃね」

 ぱたん。ってとなりのドアが閉まった。

 ぽっぷのやつ‥‥お姉ちゃんに気ぃつかうなんて、10年早いってぇの☆

 そう思っいながら部屋に戻って、パジャマと下着そろえてたら、


 カン、カン


 ってまど叩く音。

「あれ、はづきちゃん?」

 まどの外、見習い服姿のはづきちゃん浮かんでた。まど開けて、中に入ってきたはづきちゃんが、緊張した顔であたしの目じっと見てる。

「どれみちゃん、なにしとったん‥‥の?」

 へ?

 この言い方‥‥あ、そうか。まぁたあいちゃんだな? むかし一度バレてるのに、同じ手つかうなんて、結構ドジだなぁ。

 ん、ま、いいや。ひとりで考えてるのも疲れちゃったし、つきあっちゃえ。

「どしたの、はづきちゃん」

「ねぇ、どれみちゃん。わたしのええとこ‥‥いいとこ、って、どこなん‥‥なのかな?」

 も、ばっればれじゃん。あいちゃんも大変だなぁ。

 それにしても、いいとこ、か‥‥はっは〜ん。あいちゃん、はづきちゃんどうやって元気づけたらいいか、考えつかなかったんだな。

 よぉ〜し。はづきちゃんとは幼馴染の、このどれみさまが、ど〜んといいセリフ考えたげようじゃないの!!

「はづきちゃんのいいとこ? 数え切れないよ。
 やさしいとこでしょ、まじめなとこでしょ、いっしょけんめいなとこでしょ、それにかわいいし

 あ、あれ? なんか、きげん悪くなっちゃった。‥‥そっか、このくらいなら、あいちゃんだってすぐ言えるもんね。

 よ〜し、それじゃ、とっとき☆

「でも、いっちばんいいとこ、ってったら、やっぱめがねかなぁ?」

「めがね??」

 きょとん、って感じで、目がまんまるになってるよ。あいちゃんってば、演技派だぁ。

「ん。はづきちゃんのめがねってさ、なんかぬくぬくしてるんだよ」

「めがねが‥‥ぬくぬく?」

 うくくく。考えてる、考えてる。でも、まだわかんないかなぁ。あいちゃんだって、いつも感じてるはずだよ?

「う〜ん‥‥うまく言えないけど‥‥なんかね、どんなに落ち込んだときでもさ、はづきちゃんのめがねの顔見ると、 すっごく安心するんだぁ」

 ああ、黙ったまんまで、じーっとあたし見てる。なんだか、目がうるうるしてるみたい。

 いっやぁ、そこまで感動されちゃうと、照れちゃうじゃん。

「だからさ、いつでも、いつまでも、はづきちゃんには、めがねかけてて欲しいんだ。
 気になる人に、そのめがねでど〜ん!ってぶちあたっちゃいなよ。あたしは‥‥へへ。よく壊れちゃうけど、はづきちゃんのめがねは、無敵だよ!!」


 あはは。本人じゃない、ってわかってると、結構いろいろ言っちゃうなぁ。あ、いっけない。念おしとかなくちゃ。

「って、さ。あんまはっきり伝えちゃやだよ、あいちゃん」

 ハンカチで、ちょっと目こすってたあいちゃんが、あれっ、て顔であたし見てた。

 いい演技だけどさ、あたしには通じないよ。

「もう、わかってるってば。本人の目の前で、あんなこと恥ずかしくって言えるわけないじゃん。だから、それとな〜く伝えて、ね?」


「ちゃんと伝わってるわよ、どれみちゃん」


 ‥‥え??

 ふふふ、って笑ってる。ちょっと、これって‥‥

「まさか、本当に、はづきちゃん!?」

 口元に、軽くにぎった手あてて ‥‥ちがう。これ、絶対、あいちゃんじゃないよ!?

「うん。あいちゃんに教わったの。あいちゃんっぽく話しかけたら、きっとほんとのこと言ってくれる、って」

 う‥‥うわあぁぁぁぁっっ!!

「わ、わ、わ〜っ!いまの、いまのなしっっ!!」

「ありがと、どれみちゃん。‥‥大好き

 あいちゃんの、ばかぁ〜っっ!!


 次の日は、遠足のグループ分けの日。

 午前の授業が終わってから、わたしはどれみちゃんたちとは離れて、教室でめがねを拭いていた。


 きゅっきゅ、きゅっきゅ‥‥


 うん。これなら、完璧。よぉし、それじゃ‥‥

 立ち上がろうとしたとき、

「あ、ねぇ、矢田くぅん‥‥え!?」

 ろうかから声がした。

 教室のとびらから、ちょこっと顔だけ出してみたら、まさるくんがこっちに歩いてきてる。

 すたすた、すたすた。

「ちょ、ちょっと」

 この間の女の子のわきを通り過ぎて。

 わたしは、教室から出て、まさるくんの前に立った。

「藤原、ちょっといいか」

 わたしは、笑って言った。

「グループは4人以上よ。あとはどうするの?」

 するするっ、て言葉が出てきたわ。顔も、いちばんいい笑顔してるの、自分でわかる。

「長谷部と工藤には声かけといた。4人いりゃいいだろ?」

 わたしがうなづいたら、まさるくん、うしろ振り向いて、

「さっき呼び止めたヤツ、用ならさっさと言ってくれねぇか?」

 あ〜あ、さっきの女の子、真っ赤になってどっか行っちゃった。 また、影でいろいろ言われるかも知れないわね。

 そう思っても、ぜんぜん気にならない。気持ちがとっても軽い感じ。

 そう、わたしのめがねは、無敵なんだから――


「じゃ、打ち合わせ、行くか」

 まさるくん、上着ぬいでカバンにつめちゃったわ。寒くないのかしら。

「まさるくん、寒くないの?」

「ん」

 空いた手で、わたしの手をにぎって、そのまま体育館に歩き出しちゃった。

 平気なのかしら。あ、そうだ。

「ねぇ、まさるくん。わたしね、ぬくぬくしてるんだって。 まさるくんも、そう思う?」

 ぎゅっ、てにぎった手が、熱くなった。

「ぬくぬくじゃねぇよ」

 上をみたら、まさるくんの顔、手とおんなじだった。



「暑いんだよ‥‥はづきといると」


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