だぁれもしらないうらっかわ

「よっ、おかえり。ぐはっ☆」

 あたしたちが戻ってきたとき、かおるちゃんはドーナツ屋台から声かけてきた。いつもどおり。だけど、

「おかえり、じゃないわ、かおるちゃん!」

 となりのミキたんが、最初に声あげたよ。そのとなりでブッキーも、腰に両手あててにらみ顔になってる。

 そうなんだよ。いっきなりあの赤ちゃん――はぐたん、だっけ?――に呼び出されて、時間止めちゃうヤツのとこで、いーっぱいのプリキュアと一緒になって戦ってた、っていうのにさ。

「タルトと一緒に来てたんじゃないの?」

 あたしが思いっきり声出したら、サングラスの両側に手のひらが出てきた。

「やぁ、ごめんごめん、ラブ(じょう)ちゃん。ちょっと忙しくてね、そっちには行けなかったんだ。別に遊んでたわけじゃないんだけどさ」

 そりゃ、一緒に戦って、なんて言わないけど、声ぐらいかけてくれてもいいじゃない。‥‥って、忙しかった?

「かおるちゃん、なにがそんなに忙しかったの?」

 ブッキーが首かしげて割り込んできた。

「ちょっとね、ゴミ拾い。げはっ♪」

 あたし、思わずとなりのふたりと顔見合わせちゃったよ。

「ゴミひろいぃ??」

「そ。拾っとかないと危険だからねぇ。みんなで拾って、ぽーい、ってさ――」

「――お、おい、どうしたんだよくるみ!いきなり止まんなって! って、こらココ!ナッツも!なに動かなくなってんだよ!」

 いきなり目の前で起きたことに、俺はただ叫んでまわるしかできなかった。


 いつもの学校帰り、ココさまココさまってうるさいのがピタっとやんだんで、なんだ? って振り返ったら、3人が止まってたんだ。ココもナッツも歩いてる足を上げたまま、くるみなんか、ココの前に回り込もうとジャンプしたまんまで。

 いいや、よく見りゃ3人だけじゃない。木の葉っぱは風に吹かれたままだし、池の波もそのまんまだ。俺以外、みんな‥‥

「あー、つつかないどいて、鳥くん。しばらく動かないから。時間とまっちゃったみたいでねえ」

「な、なんだ? おっさん??」

 いきなり声がして振り向いたら、サングラスのおっさんがいた。

 まえに、菓子屋まで連れて行かれたことがあるおっさんだ。たしか‥‥

「かおるちゃん、でいいよ。いま、イヌ耳な髪型の子が呼ばれていってるから、しばらくは待ちだねぇ」

 なんだって、犬耳っぽい髪‥‥?

「のぞみか!?」

「そうそう、ウチの世界のプリキュアも一緒に助けに呼ばれちゃっててね。なんで、こっちの世界のフォロー、頼めるかなぁ? ほら、そこの紫髪の子なんて、時間が動き出したらスッ転びそうでしょ? 危なそうなもの避けたりとか、クッション敷いたりとか、さ」

 ジャンプしたまんまのくるみの格好に目が行って、おもわずはぁっ、とため息ついちまった。

 わけのわからねぇおっさんだけど、この前だってちゃんと帰れたんだ。また時間が動き出すっていうなら、

「‥‥しょうがねぇ、ここは俺がやるよ。おっさんはほかの世界で声かけてくれ。俺みたいに動けてるの、探すの大変だろ?」

「ああ、それならいまやってるよ」

 とりあえず、くるみの足元の石をどかそうとしゃがんだまま、俺は首だけ上むいた。

 いま、やってる、って?


「そ。12人に分かれて、12コの世界に行ってんの。オレって天才だから。ぐはっ☆」

 いつもの植物園の午後。外を見れば穏やかな日差しと柔らかく吹く風で、木々の葉がきらきらと光る‥‥はず、なのだが。

――うむ、動かんな。砂漠の連中‥‥ではなさそうだが。

 葉も、日差しも、通りかかる人も、そして植物園を流れる水路の水も、すべてが止まってしまっておるし、吾輩(わがはい)の足や腕も動かない。いかに砂漠の親玉でも、このような真似(まね)はできまい。

「さすがですねぇ、コッペの旦那(だんな)

 目をやや下に向ければ、サングラスの青年が見上げていた。

――かおるちゃんか。ということは、ほかの世界からの干渉(かんしょう)かな?

 以前、菓子を作るため、世界を渡りに連れて行かれたことがある青年だ。この世界とは別の、プリキュアのいる世界の者と聞く。こんなときに現れたなら、理由はそれしかなかろう。

「わかりが早くて助かりますよ。とりあえず、動かしますからね、っと!」

 青年の掛け声と共に、手足が自由になった。ふむ、

――きみは大丈夫なんだな。

「はいはい。なんたってオレは天才ですからね。ぐはっ☆」

 相変わらず(とぼ)けた口調だが、

――‥‥だけではあるまい。なぜ動ける? なにをやっているのだ?

「かないませんねぇ。ま、世界を渡った人は、時間止まりにくくなるみたいなんでね。
 プリキュアのいる13の世界で時間止めちまおうってヤツがいたんで、抜けだしたんですよ。止まっちゃった人が動き出したときに困らないように‥‥12人に分かれて、ね」

 なるほど。吾輩も一度世界を渡った(ゆえ)、手足が動かない程度で済んだわけか。

 そして、

――12人分の人生‥‥寿命を削って、かな?

 吾輩の言葉に、青年の口元がニヤリと笑った。

「とりあえず、あの子たちにはナイショですよ?」

 ふふ、相変わらずではあるか。自ら望んで他人の12倍も老いてゆくとは‥‥ん?

――待て。12人? 世界は13なのにか?

「最後のひとつにゃ、プリキュア(みんな)が呼ばれてて、直接闘ってますからね。そこはあの子たちにおまかせですよ。それにねぇ‥‥時間止めたヤツら、その13世界ぜんぶを、ひとまとめにしやがってますし!」

 吾輩の言葉に、()き捨てるような声が返ってきた。ふむ。

――怒っているな? 以前には見なかった顔をしておるぞ。

 目だけをじろり、とサングラスの奥に向かわせると、青年の両肩が大きく動いた。

「はぁ‥‥ホント、旦那にゃかないませんや。
 13の世界――いまプリキュアのいる世界だけ(ねら)()ち、ってのが気に入らなくてね。プリキュアさえいなけりゃ、やりたい放題できる、って言ってンのと同じですからねぇ」

 パキっ、と何かが壊れる音が聞こえてきた。おそらくは、握られた青年の手の中の何かであろうな。

 吾輩は目を上に向け、

――なるほど。それは確かに、黙ってはおれんな。

「そう言ってくれると思ってましたよ。さ、嬢ちゃんたちだけで戦ってンじゃない、ってとこ、ヤツらに見せてやろうじゃないですか」

 その後ろから、かすかに聞こえる音に耳をそばだててから、(まなこ)に言葉を乗せた。


――うむ。プリキュアの友にして(とも)たる吾輩たちの出番だな。心得(こころえ)たぞ、かおるちゃん!

 植物園から青年が出てゆくのを見送ったのち、吾輩は先程聞こえた音に目をやった。

――さて、手伝ってくれるかな、男爵。

 パイナップルの木の(かげ)からは、思ったとおりの人物が現れた。シルクハット(トッパー)をかぶり、片目を隠した大きな男――

「手伝う?バカを言うな。さっきあの男が言っただろう、『プリキュアさえいなければやりたい放題できると思っている奴等(やつら)がいる』とな。それは俺も気に入らん。すこぶる気に入らん! それだけだ」

 以前は一緒に居た子供は連れていない。年月という世界を超えねば、止まった時には逆らえんか‥‥それもまた、この強い(いきどお)りの一部なのであろうな。

――気に入らん相手が同じであれば、手を結んでもよかろう、か。

「お前と手を結ぶつもりはない。‥‥で、お前はどこから行く?私は別のところに向かおう」

 手か。

 吾輩は己と男爵の手を交互に眺めた。

――たしかに、吾輩とでは手をとれぬな。だが心の手は結んでおる。とりあえず、動いている者と、動きだしたら危険そうな者たちを頼む。特に飛び出しそうな者をな。男爵にはわかるだろう。きっと。

 吾輩が軽く手を挙げると、そこに大きな――人としては、だが――手のひらが当たった。あくまで軽く。


「おかしな信用の仕方だ。だが、いいだろう。まかせろ!」

「え?なに動かなくなってんのよこのピカ!ピカリオ!ちょっとぉッ!!」

 シエルたちがデッカい機械と一緒に飛んでったと思ったら、アタシのまわりはいきなり動かなくなったワ。

 隣にいたこのピカまで‥‥もう!

「ええい、動けってのっ!」

「ああ、ちょっとまって。無理すると身体いためちゃうからさ」

 あン?

 いきなり背中から聞こえた声に振り返ったら、サングラスかけた男が立ってた。でも、この顔、どっかで‥‥ああっ!

「ピカリオのお菓子の人!?」

 そう、ピカがお菓子をもらったから、返したいって作ってたクッキー、大きな鳥と緑の三角、それにサングラス!

「聞いてるんだ。そりゃ都合(つごう)がいいや。いま時間止まっててねぇ‥‥この世界じゃいま動けるのはきみだけみたいだね、緑髪の嬢ちゃん?」

 時間が、止まってる?

「時間をまた動かすために、オレやきみンとこのプリキュアが呼ばれちまってるんだ。それで、ちょっと手伝ってもらいたくて‥‥どうか、したかい?」

 アタシの顔を、サングラスが(のぞ)き込んできたワ。

「止まったままじゃ、だめなのヨね?」

 じっと目を見てひとこと言ったら、サングラスはあごに手を当ててちょっと考え込んで、

「みんなそのへん誤解(ごかい)しててね。時間止めりゃ永遠だとか――そんなこたないんだよ。もともと時間止めて生きられるようにできてないんだわ、これがね。ぐは‥‥」

「‥‥やったこと、あるのネ?」

 アタシはピカの顔を見ながら言ったワ。シエルが消える前、追いかけようと歯を食いしばった顔。いま動いても、追いつきゃしないッてのに。

「同じ同じ、緑髪の嬢ちゃんとね。止まったようで止まってない。そうなると人間おかしくなるんだよねぇ」

「アタシがおかしい、って言いたいワケ?」

「おかしくない? オレはおかしくなったねぇ。天才になったし、ぐはっ♪」

 アタシのことも知ってる、か。だったらいいワ。

「ハッ! ばかばかしい‥‥って言いたいとこだけど、まぁアタシもおかしなおばあちゃんだワね。キラやピカをこんな風にはさせらンないわ。
 なにすりゃいいのサ。ほら、さっさと言いなさいヨ!」

(‥‥んで、こんな猫になんの用だい。サングラスの兄さんよ?)

 いつもどおり、パンパカパンの前で寝転がっているオレのところに、この兄さんがいきなりやってきたんだ。

 風も止まって声も聞こえなくなって、パン屋からも誰も出てこないし、なんかイヤな感じはしてたんだけどな。

「はは、猫ったってただのじゃないでしょ、コロネのじいさま。ちょっと手伝って欲しいんだけど‥‥」

 この兄さんが来るとき、ってのはロクなことがないんだよなぁ。けどヘンだな。口調がちょっと早い‥‥焦ってるのか?

「コロネ!」

 ととっ、今度は山の方から女の子が転がってきたぞ。

「咲が、消えたわ。 舞も!」

「なに、どうなっているの!?」

 赤髪の子――満、だけじゃなくて、青髪の子――薫まで息切らせてる。こりゃ、寝てる場合じゃないか。

「‥‥ああ、残りの子も呼ばれたのかい。そんじゃ、準備はじめないとね」

 ん? 兄さんがサングラスかけなおしたぞ。こりゃあ‥‥

「誰!?」

「通りすがりのドーナツ屋だよ」

 起き上がったオレは、満と薫の前まで歩くと足を踏ん張って、兄さんを見上げた。

(いま、『準備』とか言ったな。なんのことだ?)

「答えによっては、ただでは帰さない!」

 オレたち3人がにらみつける中、兄さんはもう一度サングラスをかけ直すと大きく息吸って、

「満ちゃん、と‥‥薫ちゃん、だったっけね。ふたりにも、ちょっと頼むよ」

 吐いた息と一緒に、オレたちに笑いかけた。

「頼む?」

「なにを?」

 けど、オレには見えたぞ。額の汗が。どうやら本気、か。

「自分がよく知ってるプリキュアに、ちからを、ね。ぐは‥‥とととっ?」

 どこからか取り出したドーナツ掲げて言う兄さんの腕に、俺は登ってやった。


(プリキュアにちからを、か。いつでもいいぞ。なぁ満、薫もよぉ?)

「おーい、鳥くん。こっちはどうだい? 誰か出てったかい?」

 サングラスのおっさんが戻ってきたとき、オレは説明に追われてる途中だった。けどよ、

「ちっ、やっぱ知ってやがる‥‥ああ、さっきくるみが、空に消えやがったよ。のぞみの声に呼ばれてな」

「そうかい。ンじゃあ、そろそろだな」

 おっさんが見上げた空は、ちょっと色が変わってる。

「あン?」

 空の向こうになんか見えた気がして目をこらしてたら、背中にぽんっ、と手が乗ってきた。

「鳥くんのちから、貸してほしいんだよ。そっちの王子様ふたりのもね。げはっ★」

 王‥‥って!

「なぜわかった?」

 ベンチに座ってたナッツがオレの前に出ようとするのを、後ろからココがおさえた。

「ナッツ。今は気にすることじゃないよ。シロップの話だと、彼は味方だ。プリキュアの味方だ」

「きみらのプリキュアだけの味方、ってわけじゃないんだけどね‥‥」

 オレの背中から手が離れたと思ったら、サングラスのおっさんはオレたちみんなに背を向けて、空を見上げた。

「さっき、こまちも呼ばれていった。
 ちからを貸せ、だったな? 方法を教えろ。今すぐに、だ!」


 ナッツの声にうなずいたおっさんは、手を空にかざしたんだ。ドーナツ持った手を‥‥

「さぁて、コッペの旦那に、男爵サマ、用意はいいかい?」

 四方行ける限りを飛び回り、時が戻れば飛び出す者を抑えて回った途中、俺はいきなり大妖精に呼び戻された。

 まぁルー・ガ‥‥いや、オリヴィエ以外に危険な者はいなかったが、それでも、

「用意とはなんのことだ、若造?」

 ステッキで地を叩いて言う俺に、サングラスの若いのがニヤっと笑った。

「危険な子ってのは、すぐ動き出しかねない子でね。いま他に動ける人いなかったんでしょ、男爵。だから、この世界じゃこの3人でやりたいんだけどさ」

 ふん、説明せずにとは、ずいぶんと小賢(こざか)しい!

 俺は思わず杖を握り直した、が

――正確にはフラワーや ゆりくんも動けたんだがな、いまさっき呼ばれて飛んでいってしまった。

 大妖精がぽつりと言うのを聞いて、俺は上げた杖を引いた。(あるじ)のプリキュアに残された大妖精、か。

「そろそろ向こうでも、ちからが欲しい頃合(ころあ)いでしょうよ。だから送ってやろうってんです。こっちからね
 よぉし、いまからドーナツ投げるから、そっちに向かって祈ってよぉ」

 この大妖精が納得しているのなら、手伝ってやらないこともない。だが、

「なぜ、それで届けられる?」

「天才だから、オレ。ぐはっ♪」

 俺の問いに、間髪入れぬ答えが返ってきた。

 ちからをプリキュアに送る‥‥それは構わん。構わんが、天才だと? そんな不確かなことで――


(いいワ。やってやろうじゃないの。あたしだけ置いて勝てると思ったこと、後悔させてあげるっ!!)


 その瞬間、聞いたことのない声とともに、緑の髪の少女の姿が、隣に見えた。

「うわぁ、なんだこりゃ!」

「だれか、そこにいるの?」

 話し声がそこかしこから聞こえる。いままで隣には男爵と青年しか居なかったはずだが‥‥ぼんやりとしたもや(・・)の向こうに、人々が居るのを感じるのだ。子供が、大人が、老人が、吾輩と同じ妖精たちが。そして、サングラスの青年‥‥かおるちゃんが、もやのなかにひとりづつ、合わせて12人!

『『『『『『『『『『『『さぁ、そんじゃみんな』』』』』』』』』』』』

 木霊(こだま)のごとく聞こえてくる12の声と共に、ぽいっ、とかおるちゃんたち(・・)が、なにかを投げた。12個の茶色くて丸いものがくるくると宙を舞って止まり、虚空(こくう)に重なったハートの穴は、窓のごとく見える。

『『『『『『『『『『『『あれ目がけてさ、ちから送ってやってよ』』』』』』』』』』』』

 茶色く丸く、ハートの穴の空いたそれは以前にも見た。たしか、

「ドーナツぅ? 大丈夫なのかよ、あれ」

『『『『『『『『『『『『大丈夫、天才だから、オレ。ぐはっ☆』』』』』』』』』』』』

 あたりのざわつきに、疑念(ぎねん)の思いが混ざり始めたのを感じ、吾輩は口を開いた。

――天才かどうかは知らぬが、今迄(いままで)この青年の言うことが間違っていたことはない。吾輩は信じるが?

 吾輩の大きな緑の身体(からだで)から、もやの果てに(ひび)き渡るよう大声を上げると、周囲のざわつきが少しばかり引いて、それぞれがドーナツを見つめ始めた‥‥


      **


「これに、いのるの?」

『『『『『『『『『『『『ああ。ハートのドーナツってのは、ハートを届けるもんなんでね』』』』』』』』』』』』


      **


「ハートを‥‥とどける‥‥?」

『『『『『『『『『『『『そう。きみが知ってるプリキュアに、ハートのちからをね。ぐはっ♪』』』』』』』』』』』』


      **


「俺のちからがハートかどうかは知らんが」

――届くのであれば是非(ぜひ)もあるまい。

「「さあ、もってゆけ!」」


      **


「いくわヨ、ほらピカ、動けるようになったンだから、あんたもっ!!」

「わかってる! いくよ、姉さん!」


      **


「わたしたちも、薫」

「ええ、満。コロネも、お願い」


      **



「「「「「「「「「「プリキュアに ちからを!!!」」」」」」」」」」



――消えてゆくな、かおるちゃん。

 いつの間にか隣にいた、でかい緑のおっさんがそう言った。さっきまでぼんやり見えてた奴らが、どんどん白いもやに隠れていってら。

 さっきまで12人いたサングラスのおっさんは、ひとつにまとまっちまってるしな。どんな人間だよ、このおっさん。

「そうですねえ‥‥ま、これでもう思い出すこともないでしょうけど」

 ん?

「これ覚えてるのは、こないだ一緒に世界渡ったこの3人――コッペの旦那と、鳥くんと、オレくらいですか。それでいいんですよ。なんにもなかった、でね。ぐはっ♪」

――そう言えば、男爵も消えておるな。

 見まわしたら、ココもナッツもいない。本当に3人しかいなくなってるぜ。どこでもない、白い世界で。

「みんなは忘れちゃっても、連中は覚えてますからね。もうこっちの子たち(プリキュア)には手ぇ出さなくなるでしょ。プリキュアだけが相手じゃない、世界12コまるごと相手なんだ、ってわかったろうから。ぐはっ♪」

――なるほど、それが目的か。

「そのために、オレたち走り回ってたのかよ」

 こっちは誰か倒れそうなヤツがいないか、本気で探したってのに、このっ!

――いきなり『プリキュアを助ける』では動かぬ者も居るだろうしな。男爵など、うまく()()けたものだ。

「そのくらいはしますよ‥‥そりゃ、やっぱ子供たち(プリキュア)はかわいいから。どの世界(どこの)でもね。ぐはっ♪
 さ、元の世界まで送るよ。車に乗った乗った」

――うむ。

 緑のおっさんが車の屋根に登って横になったのを見て、俺も黙って車に乗り込んだ。

 言いたいことはあったけど、さいごにサングラスから、小さな声が聞こえちまったからな。


(世界の平和もいいけどね‥‥やっぱ――)

「――もう!なにいきなり黙り込んじゃって!」

 あたしがどなったら、かおるちゃんがやっと、あたしたちの方向いてくれた。

「ああ、いや、たいしたことじゃないんだけどね」

 頭かいて笑ってるけど‥‥ゴミ拾いなんて言って笑ってたと思ったら、そら見上げたまんまでじっとしてるんだもん、おかしくなったのかと思ったじゃない。ブッキーにミキたんまで、しばらく近づきもできなかったんだから!

「ひろってぽーい、じゃ確かにたいしたことじゃなさそうだけど、ホントにそれだけ?」

 ミキたんがじとっ、て目でかおるちゃん見つめた。ブッキーも、あたしも多分おんなじ目してるはず。

「ちゃんと帰ってきたんだからいいじゃないの。たまには出張しないこともあるって、天才なオジサンでもさ。がはっ★」

 じと目3人じゃ効果ないかぁ。先に帰っちゃったせつなもいれば、もちょっと喋ってくれるのかもだけど‥‥あれ?


      **


(世界の平和もいいけど‥‥やっぱ、うちの子たち(プリキュア)が元気で帰ってくること。これが一番だからさ――)


      **


「かおるちゃん、いまなんか言った?」

 ないない、って手を振りながらドーナツ屋台に戻ってくかおるちゃん見ながら、あたしたちちょっとだけ顔を見合わせちゃった。


 いま、たしかに聞こえた気がしたんだけどな‥‥

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