できたてちょこをうらがえし

 なんかヘンだ。なんかおかしい。


「あれ? なお、まだおったん?」


 そう気づいたのは、つい何日か前のことだった。


「なお? なーお?」


 みんな元に戻って、キャンディも戻ってきて。よかったよかった‥‥ってひたってたのが、ようやく落ち着いたころ‥‥

「こら、聞いとるんか、なお!」

 ‥‥え?

 顔を上げたら、ショートヘアがムスッとした顔で立っていた。

「あ‥‥ご、ごめん。あかね、なに?」

 あかねの後ろに部室の扉。‥‥あ、そっか。部活から帰るとこだっけ。

「ちょい考えてぇな。なおがおかしなると、うちまでチョーシでぇへんやないか」

 あちゃぁ、やっちゃったね。

 部室の扉にもたれて、頭カリカリかいてる あかね見てたら、ぼーっとしてたのが恥ずかしくなってきちゃったよ。

「ごめん。なんかさ、雰囲気が妙な気がしてね」

「ふんいき?」

 首かしげてるあかねから、シャンプーの匂いがしてきた。シャワー出てすぐ来たのかぁ。それじゃ、わからないかな。

「そう。この間から、ときどきなーんかヘンな気がしてるんだけど‥‥」

「あー。そら、あれやな」

 あかねが指さす方を見たら、人影がぱっと消えた。ん??

「‥‥こっち、見てたのかな?」

「そやろ。なんやしらんけど、ここンとこあたしら(そろ)ってると(のぞ)きに来てんでー」

 もう一度、指の先を見てみたけど、もうなにもない。あかねの顔を覗きこんだら肩すくめて、

「うちにもよぉわからん。なんなんやろ、あれ?」

「そう言われても‥‥あかねにわからないのに、あたしにわかるわけないだろ。それに」

 あたしは肩にかついだバッグを胸の前に持ってきて、ぽんっと叩いてみせた。

「気にはなるけど、あとにしよっか。今日は」

 部活用にはちょい大きいバッグの上に、昇降口から持ってきた靴を揺らしながら、うちとなおは図書室までやってきた。せやけど‥‥

「なお、なーお、こらこらー」

 うちが声かけたら、ほけっとしとるなおが、ハッ、ちゅう感じでこっちを見とる。

「またかい。さっきから、ぼーーっとしとるなぁ。なんや、言うてみいや」

「あー。いや、やよいちゃん来なかったなぁって」

 ん? やよい?

「いやさぁ、なんかのモデルにしたいから、あとで描かせて、って言われててね。てっきり、サッカーの練習でも描くのかと思ってたんだけど」

 あーあー。それでこない遅くまでひとりで残っとったんか。うちがバレー部の片付け当番やから、先にふしぎ図書館行っとき、て言うといたんに、鍵返して戻ってきたら、部室の前でぼーっと立ってるんやからなぁ。なにごとや思たわ、ほんま。

「なんや用事でもできたんとちゃうか。新作のマンガ考えてるとか言うてたやん」

「だといいんだけど、さ」

 図書室のドア開けて、声をちいちゃくしながら、ぽそって言うもんやから、つい言うてもうたわ。

「心配かぁ‥‥あたしも心配されたいなぁ」

「なに言ってんだ。あかねの体調なら顔みればわかるよ。毎日夕方まで顔合わせてるのはダテじゃないって」

 あー‥‥あはははは。

 正面からマジな顔で言うんもんなぁ。やっぱかなんわ、なおには。

「ま、ええわ。ほな、行こか」

 図書室の奥の、ちょい影になってるとこに荷物下ろして、うちは本の扉、開けたんや。

「しっかし、よぉ考えるなぁ」

 本の扉からでてきたとこ、大きな切り株――ふしぎ図書館の前で、あかねがそう言った。

「そうか? 普通だと思うんだけど」

 あたしが言いながら、切り株の脇の扉を開けて入っていくと、

「いや、ふつーは友チョコまでやろ。中にメッセージやなんて、ふつー考えへんて」

 後ろからついてきたあかねが、荷物を肩から腕に持ち替えながらあきれた顔になってる‥‥わからないかな?

「キャンディが、七夕のときに書いてたじゃない。あたしたち、ひとりひとりのこと短冊に書いてさ。

 ことばにしたり、短冊になって後まで残るのは照れるけど、チョコなら食べちゃえばなくなるし、いいかなってね」

 あたしは自分の荷物を、ちょうど壁際に寄せてあったミニテーブルに置くふりしながら、背中向けた。正面向いて口にするのも、ちょっと恥ずかしいからね。

「読まんで食うてまう子ぉ、きっとおるでー」

 からかってる感じの口調だけど、違うよね。

「いいじゃない。それでもさ」

 荷物おいてくるっと振り向いた先で、あかねの顔が、しょうがないな、って言ってるよ。

「ま、今日のふしぎ図書館はうちらの貸切りやから、なに作ったかてかまへんけどな」

「そうだねぇ。みゆきちゃんも、れいかも、みーんな家でチョコ作るって言ってたから」

「部活で遅いあたしらだけの特別キッチンやね。てなわけで、これの出番や」

 背中にしょったスポーツバッグから、あかねが四角いものを取り出した。背の低い箱の真ん中にちっちゃな五徳、カセットコンロってやつだね。それにしても、

「へぇ、ちっちゃいんだねぇ。屋台で使ってたのとは違うんだ」

「あれはデカいボンベが必要やからな。いっくらなんでも学校には持ってこれへん。ほな、うちはこれ組立とくわ」

「よろしく。あたしは水を汲んでくるよ」

 隅っこにあった桶を持って、あたしは川の方に歩いて行った。

 汲んできた水を入れた土鍋を、図書館の真ん中の机の上のカセットコンロにのせて、火をつけて。あったまるのを待ちながら、あたしはチョコを刻みはじめた。

 コンロがガタつかないように、壁沿いの小さな机にまな板置いて。最初はチョコのあぶらで滑って怪我しないように、そおっと‥‥うん。

「キャンディは、みゆきちゃんの家だったよね」

 トン、トントン、って、だんだん刻む音がリズムになってきたのにのせて、あたしが言うと、

「せや。みゆきはお母ちゃんに友達やー、て紹介した言うてたなぁ」

 って、火加減を見ながらの、あかねの声が返ってくる。

「まぁ、あのお母さんなら大丈夫だと思うけど。あたしんとこはダメだなぁ‥‥弟たちがおもちゃにしちゃうよ」

「せやな。うちかて連れて帰ったら、げんきが卒倒してまうわ。みゆきのお母ちゃんと(ちご)て、肝っ玉ちっちゃいからな〜、あいつ」

 お互い背中向けてるのに、ちっともそんな感じがしないね。

「れいかは生徒会長の引継ぎで忙しくなっちゃったし」

「やよいは‥‥あれ? やよいとは、ここンとこ教室でしか()ぅてへん気ぃするなぁ。なにしとんのやろ?」

 不思議なもんだなぁ、ちょっと前まではみんなでここに集まってたのに、いまはバラバラで‥‥なのにいっしょにいるような気がしてるんだから。

「おかげであかねと二人でチョコ作れるんだけどね。言っちゃわるいけど、みゆきちゃんたちにじっと見られてたんじゃ、集中できないからさ」

 あたしが言ったとたん、首元と頭に手が回ってきた。

「おーお。なおはかわええこと言うなぁ

 はぁ‥‥またか。

「こぉら、なでるな。そのせいで、去年はサッカー部のみんなに色々言われたんだから」

 あかねが転校してきて、割と気があうな、と思ったころからだよ、あたしにさわってくるようになったの。イヤってわけじゃないけどさ。

「仲よすぎやー、とか確かに言うてたなぁ」

 そういうこと。いまは二人だけだから、別にいいんだけど、

「みゆきちゃんが来てからは5人でいることが多くなって、だいぶ薄まったんだぞ」

「せやなぁ。バレー部にもみょーなこと言いよる子ぉがおったし、ジセイするかぁ」

 わかってるなら、まぁ、いいか。

「‥‥っと、なお、湯ぅがわいたで」

 声かけられたのは、あたしが刻みおわったチョコをガラスのボウルに入れて、生クリームのパックを引っ張りだしたとこ。ちょうどいいタイミングだね。

「サンキュ。それじゃまず半分、作ろっか!」

 なおと場所交代して、今度はうちがまな板の前や。なおが刻んだチョコののこりをまな板の上に広げて、と。

「で、誰にあげるんだっけ?」

 背中でカチャカチャ、いう音と一緒に声が来た。ガラスのボウルなんて重いもん持ってるようには聞こえへんなぁ、さすが、力あるわ。

 んで誰に、て?‥‥ああ、友チョコの前に、他の人用作るー言うてたな。

「ん〜‥‥とりあえずお父ちゃんと、げんきや。上げんとスネるからなぁ」

「あたしも父さんと、弟たちかな。そっちは普通のチョコだから、同じカップの型でいいよね」

 アルミのギザギザなカップ見せながら、なおがうなずいてるわ。うん、あんま()るより、食いやすい方がええやろ。

「ところでさぁ、あかね」

「ん〜?」

 さすがなおや。、使い終わった包丁はちゃんと拭いてある。ほな、まな板に板チョコのせて、せぇ、の、

「ブライアンにはどの型使う?」

 ガタンッ!

「あぶないよー」

 なにのんびり言うとんのや、こいつはっ!

「あ、あ、いや、な、それはその‥‥
 せや!バレンタインにチョコっちゅうのは日本の風習やから、イギリスじゃ関係ないんや。ははは」

「知ってるよー」

 いぃっ? 知ってて言うてんのんか?

「知ってるけどさ、それってイギリス人の勝手でしょ。贈りたいのは日本人の勝手なんだから。いいじゃない」


 うー‥‥


「贈りたいんでしょ?」

 背中から、じーっと見つめてる感じが波になって来とるわ‥‥あーっ、もうっ!

「贈ったわ。送ったったわ、もう!!」

 振り向いてそう言うたら、なおのぽかーん、っちゅう顔があった。

「あーあー、バレンタインやからチョコやるー、て書いてハートのチョコ郵便で送ったった!
 お礼に紅茶が返ってきたけど、いれて似合うほどカッコええカップなんて、うち持ってへん! それで満足かい、こら!!」

 一気に言うたったから、なおのくち、ぱかーっと開きっぱなしや。

「あ、いや‥‥満足っていうか、あはははは」

 正面から目ぇじーっと見てたんやけど、なおがチョコかき混ぜる手ぇ止めんと、一言や。

「とりあえず、それ話すのはあたしだけ、ってことで、いい?」

 ‥‥はぁ。ま、これやから、なおとは付き合いやすいんやけどなー。

「ほんま、助かるわぁ。みゆきとやよいにでも知られたら、ドえらいことになるからなぁ」

「目を輝かせてくるだろうねぇ。特にやよいちゃん、今度は恋愛もの描くとか言ってたし」

 ん?ちょい待ちや?

「なぁ、なお。さっき、やよいからモデルになって欲しい言われたーとか言うてへんかった?」

「ああ、そうだけ‥‥モデル?
 恋愛ものに、あたしひとりだけモデルになってもしょうがないだろ?」

 んー、そうなんやけど‥‥

「なんや寒気せんか? だってなぁ、思い出したんやけど、こないだなんでか部室に来てたやん。やよい――」

――あれは何日か前の寒い日、部活が終わって、二人して帰るとこやったな。

 寒いから、キャラメルでも食うかぁ、てうちがなおに言うたんら、

「あるの? じゃひとつ、お願い」

 なーんて喜んだ声で言うもんやから、つい、やってもうたんや。


「ほ〜ら、ここやで〜」

 なおの頭のちょい上に、キャラメル持った手ぇ持ってきて振ったったら、

「こら、キャラメルをそう高いとこに‥‥えいっ」

 ってなおがジャンプして、口でくわえてくれるんや。そら、あたまの一つもなでたくなる、っちゅうもんやろ?

 そしたら、

「よーしよしよし

「こらこらこらっ! あたしはアシカか!?」

 こう嬉しい返ししてくれるもんやから、

「ちゃうわ。それやったらこうやろ」

「‥‥って、なんでお腹なでてんだよっっ!
 そういうことしてると、頭でつつくよ! アシカなんだからっ!」

 こうや。やっぱなお相手やと、ノリっちゅうもんが違うわぁ。

 ‥‥っと、ここまでは良かったんやけど、

「毎度のことやけど、なんや餌付けしてるみたいやな‥‥」

「だからそういう‥‥」

「じ〜〜っ」

 そうや。気ぃついたら、うちらのそばで、しゃがんで見てる子ぉがおったんや。

「うわっっ!?」

「や、やよい!?」

「じ〜〜〜っ」

 んな、声だしてまでせんでもええやろ、思うくらいじーっとこっち見てから、

「うん。いい感じいい感じ

 いきなり立ち上がってどっか行ってもうたんや。

 うちらふたり、へ?? っちゅう顔で、しばらく見つめ()うてもうた。

「な、なんやったんや、あれ?」

「あたしに訊くなよ――」

「――たしかに、あったな。そんなこと‥‥」

「ほーら、湯せん湯せん。もうみんな溶けてんで。ちゃっちゃとカップに全部注いだり」

 言われて手元を見てみたら、勝手にかき混ぜてた手の下で、チョコがとろーっと溶けていた。

 いけないいけない、アルミのカップにいれて‥‥うん、これで父さんたちのはおしまい、っと。ちょっと暑くなったなぁ、飲み物あったっけ‥‥あれ?

「なぁ、あかね。いまので思い出したけど、そのあとにやよいちゃんが、キラッキラした目してたことなかった?」

 バッグの中を見ながらあたしが言うと、

「うーん‥‥目ぇはしょっちゅう輝かしとるけど‥‥
 あぁ、確かにあったわ。なんのときやったっけ? やっぱ部活の帰り、歩いとるとこやったンは覚えてるんやけどなぁ‥‥」

 部活帰りに歩きながら? ‥‥あ!

「わかった、あれだ。ふたりでジュース一本しかなかったとき――」

――その日の帰りは、のどカラッカラにしてたんだよね。でも、あたしが水筒忘れちゃっててさ‥‥

「なお、飲むかぁ?」

 だから、バッグからペット出して飲んでるあかねに言われたら、

「あー、欲しいなぁ」

 って応えちゃったんだ。まぁ、ここまではよくあることなんだけど‥‥

「ほい」

「サンキュ。んぐ‥‥」

「わ。間接キス

 ぶーっっ!

 いきなりだったんで、貴重なジュース、吹いちゃって。

「な、なに言って‥‥って、やよいちゃんっ!?」

 声の方振り返ったら、スケッチブック抱えたやよいがちゃんが、あたしたちの後ろでしゃがんでたんだ。

「えー? でも、そうじゃない?」

「よぉ考えると、そうかもしれへんけど‥‥」

「考えたこともないよ、そんなの」

 まだのど渇いてるけど、なんか‥‥ちょっと考えてキャップしめて、あかねに渡したら、

「なぁ。んぐ」

 言いながら、そのままあかねが飲みはじめたんだ。

 ‥‥ああ言われたあとだとと、み、妙な気分だなぁ。

「ん〜、ぺろぺろ」

 って!?

「わーっ! こら、飲み口なめるな、あかね!」

「あー、ずるい。わたしもわたしも♪」

「あんたも黙んなさい、やよい!!――」

――なんだろう。思い出してきたら、背中が寒くなってきた。

「うちらはええんや。普通にやっとるだけやもんなぁ。けど」

 けど?

「けど、や。うちら知らん人が見たらどう見えるか、っちゅうことや。たとえば、なおが男の子やったらどうや? いちゃいちゃしてるように見えへんか?」

 言われてみれば、そうかもね。

 飲み物回し飲みしたり、からださわりあったり、食べ物食べさせてあげたり‥‥ってちょっと!?

「ちょ、ちょっと待ってよ。それじゃ、あたしたち使ってラブシーン描こうってこと!?」

「かもしれん、て思てるわ。やよいもいつもは普通なんやけど、マンガがからむと性格かわってまうからなぁ」

 あー、たしかに、ね。

 あ、あはは。なんだか、顔が熱くなってくなぁ。

「‥‥ちゅうても別に、そない直接的なもん求めてへんと思うで。キスとか‥‥」

「だれもそこまで考えてないっ!」

 思わず叫んじゃったあたしを、にやにやしながらあかねが押さえてる。まったく、もう!


 はぁ。ちょっと落ち着こう。‥‥っていうことは、だよ。

「ここんとこ、ふたりでいると覗いてくる、ちゅうのは‥‥」

 本当だ。あれがやよいちゃんだって考えれば、全部ぴったりじゃないか‥‥

「あーっ、もう! ぐちゃぐちゃ考えるのは好きじゃないんだ。さっさとチョコ作っちゃおう!」

 それからは、一気に進んだ気がする。

 父さんと弟たちのチョコ包むのはあかねに任せて、あたしはあかねが刻んだチョコをまた湯せんで溶かして。

 友チョコのための、ちょっとスマイルパクトに似た形の型に入れて‥‥って、チョコの型を出したら、あかねが横から覗きこんできた。

「‥‥やっぱ、やよい呼んできたほうがよかったんやないか?」

 ん〜、わかってるけどね。でもそうはっきり言われると‥‥

「‥‥か、形は、関係ないとは言わないけど、こういうものだから。あたしたちが作ることに意味があるんだよ。うん」

 わかってても、自分を納得させたくもなるじゃないか。

「ま、ほんまにきれいなん欲しかったら、買ってきたらええんやもんな。これでええか」

 パクトの台とフタのチョコを作るまでは、あたしが一気にやっちゃった。父さんたちので慣れたから、割と簡単、だね。

 さて、できたフタをあかねとあたしで半分こして、裏ににメッセージを書いて、と。

 あはは、ちょっと照れるなぁ。じゃ、台を並べてフタ乗せようか‥‥あれ?

「なぁ、あかね。チョコのフタ、持ってった?」

「うわっ!? も、持ってへんで。落としたんと、ちゃう、か?」

 ん? チョコのフタ持ったまま、なに焦ってるんだろ。別にあかねのフタとるつもりなんてないのに‥‥あ、

「ああ、あったあった。あかねにあげる分、イスの上に忘れてたみたいだ」

「ど、ドジやなぁ。あははははは」

 ん〜、なにか、隠してるかな? まぁいい。それじゃ、

「できたね。じゃあ、あたしとあかねのは、ここで交換だ」

 細工してるとすれば、フタの裏(そこ)に決まってる。さぁて、どれだけ焦るかな♪

「ああ、ええで」

 あれ? 普通だ。

 ちょっと期待はずれだったけど、細工はやめたってことかな。じゃ、普通に開けますか。

「なにが書いてあるかな〜♪」

 まぁ、だいたいわかるんだけどね。そんな変なこと‥‥ん?


 ぱかっと開けたフタのうらに、文字が見える。「だ」、その次が「い」、でもって次が「す」‥‥って、ちょ、ちょっと!!?

「な、なお〜?あ、あの、そらほんまうれしいんやけど、なぁ‥‥?」

 思わず顔を上げた先で、真っ赤になったあかねが、あたしとチョコを見比べてる――そうか。あかねに渡したチョコも、同じなんだ。ってことは‥‥

「あかね待った。そのチョコ、『だいすき』って書いてないか? それ、あたしの書いたのと違ってる」

 あたしが目でテーブルの下を指したら、あかねの赤い顔が元に戻った。

「んんっ!? あー‥‥なぁるほどぉ。ちょい違うけど、そやね」

 言いながら手を広げて、テーブルの下を指してる。そのまま、手の指を折って‥‥うん。4、3、2、1‥‥


「こらぁっ! やよい、出てこぉ〜いっっ!!」


 ふたりで思いっきり床を蹴飛ばしたら、聞き覚えのある『きゃん!』って声が響いた。

「ちょっとしたことじゃなーい。シチュエーションの協力してよぉ、なおちゃんってば

「ちょっとしたじゃないよ。まったく‥‥『だいすき』なんて、中学にもなったら友達同士でそうそう言わないって」

 テーブルの下から出てきたやよいちゃんが、あたしたちが問い詰めても笑って答えてるの聞いてると、頭がちょっと痛くなるよ。

 さんざん引っかき回しといてこれかぁ、この1年で性格変わったな、この子は‥‥

「あれ? 『だいすき』?変だなぁ」

 とか思ってると、いきなり首をかしげたよ。

 なに言ってんだろ。試作のチョコのフタをこっそりとっといて、メッセージ偽造してすり替えたのは、自分じゃないか――


「わたし、『あいしてる』って描いたんだけど?」


――え??

 その瞬間、さっきのあかねの姿が頭の中に浮かんできた。チョコのフタ見ながら、焦りまくってた姿。

 って、ことは、これ‥‥!?


 そう思った瞬間、目の端に、何かがそーっと動く気配が見えた。‥‥あたしにわからないとでも思ってるのかな?

「やよいちゃん、あとどんなシーンが描きたい?」

「えー? うんとね。くすぐりっことか、いいな

 ちらっと目を横に向けたら、あかねがゆっくり扉に向かっていくのが見える。甘いぞ、足だったらこっちが上なんだから‥‥せいっ!


「こぉら、逃げるなあかねっ! 芸術のためだ、あたしにくすぐらせろっっ!!」

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