チョコっとだっこ

「‥‥はぁ」

 私が珍しい声を聞いたのは、寒い冬の日のことだった。

「う‥‥ん‥‥」

 そう、私たちが精霊たちにいのちをもらって、この街で暮らしはじめて少したったころ。

「これも、ちがう‥‥」

 なぜだかずっと迷った感じの引き戸の向こう側へ、私は声をかけた。

「なに探してるの、かおる」

 言ったと同時にすりガラス越しの影がぴたっ、と止まって、戸がゆっくり開いてゆく。

 出てきた姿は、いつもどおりのセーターにロングのスカート。長い髪も、ただまっすぐおろしたまま‥‥私は、思わず口元に笑みを浮かべてしまった。もうちょっと、おしゃれしろ、なんて言ってたっけ、咲。
 まぁ、私もひとのことは言えないのだけれど。

「ユセン‥‥」

「え?」

 ちょっとだけ考えてたところに声が来たから、私は思わずおかしな声を上げてしまった。注意が足りないわね。以前だったら‥‥

「みちる。ユセンって、知ってる?」

 軽く頭を振ってる私に向かって、今度はしっかりした声が聞こえてきた。

 ユセン? ユセン、ゆせん‥‥なにか、聞いたことのある言葉ね。つい最近、誰かから聞いたような‥‥あ。

「咲ね。咲に訊けばわかるかもしれないわ。すぐに必要なの?」

 私がそう言ったら、かおるの身体がびくっ、とした。なんだろう、いったい?

「咲‥‥咲は、ちょっと、まずい」

「かおる?」

 かけた声に、思わずトゲが混じった。

 そのまま、台所の気配をじっと感じてみたけれど、かおるは動かなくなったみたい。どうしたっていうんだろう、本当に。

 考えながら、私は窓をさっと開けた。同時に、強い緑の匂いがやってくる。いのちの力を感じる匂い‥‥窓のすぐ外に大きくそびえる、おおぞらの木の匂い。


 私は、大きく深呼吸してみた。頭の中に、言葉がよみがえって来る。

 フィーリア王女を見送ったあと、木のそばにいつの間にかこの家が出来てるのを見て、舞が言ってたじゃない。『精霊が、お礼してるんじゃないかしら』なんて。

 だから、思い出してよ、かおる。咲や舞に相談できないことなんて、ないはずでしょう?

「わかった、みちる。降参よ」

 じっと台所の様子を伺ってる私の前に、かおるの身体がひょい、っと出てきた。

「実はね、実は‥‥今月の13日までに、準備しないといけないみたいなのよ。日本の女性はみんな」

 手に持った小さな本をパタパタ振りながら、ちょっと焦ったような声。本当にめずらしい。でも‥‥

「準備って? ‥‥うぷっ!」

 なぜなのかわからなくて、かしげてしまった私の顔の前に、小さな本が押し付けられた。

「昨日ね、みのりちゃんに聞いたのよ。恐ろしい日のことを」

 かおるの手を引き剥がした瞬間、目に飛び込んできた本のタイトルは、『ハートをキャッチ! バレンタインチョコ必勝法』だった‥‥

「う‥‥くっ!」

 むすんだ口から、思わず息が吹き出しちゃった。

「舞?」

 とっさに握った手を口元に当てたけど、ごまかし切れなかったみたい。深い赤と青の瞳が、きょとんとした感じでわたしを見てる。


 2月もなかばの土曜日。ひとりで家にいた私のところに、訪ねてきてくれたのよ。いつも通り、ロングスカートの(みちる)さんと、(かおる)さん。ものすごく真剣な顔で、ドアを開けた瞬間には息を飲んじゃったわ。でも‥‥

 ああ、いけない、いけない。そうよね。ふたりとも、知らないんだもの。しかたないじゃない‥‥で、でもっ!

「べ、別に、そんな怖い日じゃない、わ。バレンタインって」

 わたしはできるだけ、薫さんの手元を見ないように言った。しっかり握りしめてる、少女漫画雑誌のおまけ本‥‥あぁ、薫さんったら、両手でしっかり握って、大事そうに胸元にかかえちゃって。もう、それみてるだけで‥‥っ!

「‥‥舞?」

「ご、ごめんなさい。ちょっと‥‥ちょっとだけ待って‥‥っ!!」

 あぁもう、反則よ! そんな真剣な顔でっ!!

「と、とにかく、それはあぶない魔法なんかじゃないから‥‥ないから‥‥くっ!」

 だめだわ。もう耐えられない。

 わたしは心のなかで謝りながら大笑いしちゃった。ぽかーん、としてるふたりの顔、なんだか遠くの方に見えるみたい。

 でも、思いっきり笑ったおかげで、ちょっと落ち着いたわ。ちょうどわたしも作ってたとこだし、説明するなら見せた方が早いわよね。

「とりあえず、キッチンに行きましょ

 キッチンは、チョコレートの香りであふれていた。


 私とかおるをここまで引っ張ってきた舞は、席に着かせるとすぐにボウルを鍋に浮かせている。

 さっき、歩きながら話してくれた‥‥これが、『ユセン』ね。

 板の上には黒いチョコレートと刃物。その周りにはいくつもの小瓶。湯気と香りの中で、ユセンの中身をかき回してる姿は、以前に見たことがある。そう、確かみのりちゃんが読んでいた絵本にあった‥‥

「舞は、あぶない魔法なんかじゃない、って言っていたけど」

 舞の頭にとんがり帽子が見えたような気がして、思わず私は口を開いた。

「『ハートをキャッチ』というのは、相手の心を変えるということでしょう?」

 かおるは私の隣でじぃっとユセンを見ながら、片手でメモを取っている‥‥きっと、私の言葉も聞こえてないんだろう。

 それなら、私が言うしかない。

「以前の私や薫にだって、そんなことできなかった。それは、とても恐ろしいこと‥‥やってはいけないことだと思う!」

 ダンッ! って、テーブルを叩く音が、あたりに広がって。射抜くみたいに真っ直ぐな満さんの瞳を見て。

 わたしはやっとわかった。どうしてふたりとも、あんなに真剣だったのか。

 目を見つめたまま、大きく息を吸って。できるだけ、笑って見せなくちゃ。

「ねぇ、満さん。見て。わたし、チョコをとかして、固めてるだけよ?」

 えっ? って声といっしょに、満さんの目が大きく開いた。

「とかして、固める‥‥だけ?」

「うん。()()

 後ろ手でコンロの火を落としながら、わたしは言った。

 にっこり笑う顔が、少しだけ引きつってきてる。息も少しキツくなって‥‥頑張れ、頑張るのよ、舞!

「ごめん‥‥よかった」

 満さんが頭を下げた瞬間、思わず大きく息をはいちゃった。でもよかったわ。わかってもらえて。


 ふたりとも、純粋すぎなのよね。きっと、わたしや咲が人の心を操るなんて、許せなかったんだわ‥‥今度からは、読むものにも注意しないと。

「薫さんの持ってる漫画は、大げさに書いてるだけなの。本当はね、好きなひとにチョコを贈る日よ」

 まずは、バレンタインディのこと、きちんと教えてあげないと。またヘンな知識が入ってきたら大変だものね。

「それを、贈られて、喜ぶ?」

 あら?

 別のところから声が聞こえていて、そっちを向いたら、いままで黙っていた薫さん。

「とかして、固めただけ。贈られて、喜ぶ?」

 とっても難しい顔してるわ、薫さん。なんだか、ちょっぴり新鮮ね。

「ええ。もちろん 大切なのは、贈る心だもの。大切に作ったチョコは、伝えてくれるの。あなたは、わたしの大好きな人ですよ、って」

「チョコが、伝える‥‥」

 言いながら、薫さんがすっ、と立ち上がって、わたしの隣に立った。

「贈る人のことを考えて。そうすれば、どんな味でどんな形にするか、チョコが決めてくれるわ」

「‥‥あぁ、本当。目の前に見えてきた。そういうチョコを作ればいいんだ‥‥」

 にこっと笑う薫さん、とっても素敵だわ。ほんと、贈られるひとがうらやましくなるくらい。

 それじゃ、次の番ね。

「満さんも、一緒に作らない?」

 テーブルに向かって、わたしは声をかけた。もう、無理に作らなくても声は笑っていられるわね。

 だけど、

「私? 私は‥‥あげないから」

 満さんはそう言って両手の指を組んだまま、立ち上がろうとしないの。

「どうして?」

 カチン、ってコンロの火をつける音と一緒に息を飲みながら、わたしは訊いてみた。ひょっとしたら、満さんだけ別のマンガの影響を受けてるのかも‥‥

「私が好きなのは、薫と舞と咲。でも薫は家族みたいなものだし、薫にあげないで舞にあげるのもヘン。ちがう?」

 あ、あはは。咲がいなくてよかったわ。きっとツッコミ入れちゃうもの。

 また真剣な顔で満さんがわたしを見てる。もう、固いのは安藤さん以上ね。来年は、クラス委員にでも推薦しちゃおうかな?

「家族でもあげるわ。わたしはいつも、お父さんとお兄ちゃんにあげて‥‥あら?」

 わたしの言葉を(さえぎ)るみたいに、足元からガタガタ音が聞こえてきた。なんだろう?

 しゃがみ込んで、音の出てるとこを探してたわたしの目の前で、ゆかがぱかっと開いた――

「あれ?」

 出てきたのは、まあるい頭。見たことのあるピンでとめた茶色い髪の下から、おっきな目がきょろきょろ見回してる。

 ‥‥あ、目が合った。

「舞? なにしてるの?」

 咲がきょとん、って目をしたまま首かしげてるわ。もう、人騒がせなんだから。

「それはこっちのセリフよ。どうしたの、こんなとこから?」

 しゃがんで見つめながら訊いてたら、咲のからだがふわっ、と浮かんだ。いつの間にか両脇に薫さんと満さん。ふたりで咲を持ち上げたのね。あいかわらず、ちからあるんだな。

 ‥‥あ、薫さんったら、ゴムベラ持ったままじゃない。溶けたチョコがあちこち飛んじゃってるわ。咲がふたりにお礼言いながら、チョコ拭いて回ってるの、なんだかとっても平和で不思議ね。思わずこみ上げてきちゃう

「まーい、笑いすぎ。
 パンの配達だよ。舞に渡そうと思ったらいなくって、ちょうど出てくところの和也さんから、地下の食料庫に運んで、って頼まれてさ」

 あらら、さっき薫さんたちと話してたときね。誤解を解くのに必死で、気づかなかったんだ。

「和也さん、っていうのは、舞のお兄さん?」

「え、ええ、そう」

 うわっ!

 わたしはびっくりして、ちょっと飛び上がっちゃった。いきなり背中から声がしたんだもの。振り向いたら満さんが、じーっとわたしを見つめてて、

「舞は、いつまで和也さんにあげるの?」

 また、いきなりひとこと。でも、顔がすっごく真剣だわ。‥‥って、あら? なにかヘンね。満さんだけじゃなくって、まわりの空気が張ってる気がする。よく見てみたら、咲まで、呼吸を遅くしてじっとわたしの方を見てるわ。まるで、息の音で聞きとれないのが怖いみたい。お兄ちゃんが、どうかしたのかな?

 でも、そっか。う〜ん‥‥

「いつまで、か。そうね‥‥お兄ちゃんに恋人ができたら‥‥ううん、それくらいじゃやめないな。結婚したら‥‥まだ、だめね。それじゃ、子供ができたら‥‥うん、それなら、やめてもいいかも」

 うんうん。

 自分の言葉をもう一度頭の中で繰り返してたら、自然とうなずいちゃう。そう、みんながなに期待しているか知らないけど、これなら納得できるわ。

「へ、へぇ‥‥なんで?」

「今度は、その子にあげるから

 引っかかりながら出てきた質問に、にっこり笑って答えてあげたら‥‥ふふふ。ぽかーん、っておっきな口が開きっぱなしよ、咲。

「それじゃ、舞。たとえば‥‥たとえば、よ? 私が、和也さんにあげる、って言ったら?」

 え?

 また背中から声。満さんが静かに口にした言葉は、最初わたしの頭を素通りしていった。

「贈る人のことを考えて、大切に作ったチョコ。それを私が和也さんにあげるって言ったら‥‥?」

「?‥‥えぇっ!?」

 言ってることが理解できた瞬間、びっくりして声が出ちゃいそうになったけど、それより前にもっとすごい声が横から出てきたわ。咲ったら、顔じゅう目と口になっちゃうくらい大っきく開いてるし。

 でも、おかげでちょっと冷静になれた気がする。咲に感謝しなくちゃね。

 わたしは、ちょっとだけ目をつむって考えてみた。

 満さんは、たとえば、って言ったのよ、舞。もし、本気でお兄ちゃんに渡してくる人が、目の前に現れたら‥‥うん。

「‥‥いいと思う。わたし」

 目を開けてみたら、思わず笑いそうになっちゃったわ。満さんと咲は息とめて見つめてるし、薫さんはボウルを抱えながら首かしげてるんだもの。

「おもいきって伝える日、みんなが堂々と思いを口にできる日‥‥そんな日って、きっと必要なんだと思うの。
 何があっても、それを止めちゃいけないんだわ。きっと」

 みんなを見回したら、最後に覗き込んだ赤い瞳がにっこり微笑んでくれた。やっと理解してくれたのかな、バレンタインのこと。

 ちょっと恥ずかしいこと言っちゃったかもしれないけど、よかった。

「行こう、みちる」

 ‥‥と思ったら、今度は薫さんがボウル置いて歩いていっちゃってる。え? チョコは?

「作り方は大体わかったわ。一番大事なことも教わった。
 贈る人のことを考えて、大切に作る。どんな味でどんな形にするかは、チョコが決めてくれる‥‥でしょ?」

 思わず引きとめようとしたけど‥‥振り返った薫さんがうなずきながらそう言うんじゃ、もうしょうがないわ。

「それで十分。これ以上はお邪魔だもの。ありがとう、舞。それじゃ」

 玄関にすたすた歩いてっちゃう薫さんを満さんが慌てて追いかけてるのが、なんだかおかしな感じ。でも、

 出て行く途中で、満さんが咲の肩をぽん、ってやさしく叩いて、なにかぽそっ、と言ったのが聞こえてきた。そのとたん、咲の顔がピンクになっちゃったの。ほんとに、桜の花でも咲いたみたいに。

 だから、つい言っちゃったのよ。

「ねぇ、咲。『よかったわね』って‥‥なにが?」


 ――わたし、悪いこと言っちゃったのかな?

 咲の顔が夕日色から桜色に戻るまで、30分もかかっちゃうなんて、思わなかったんだもの。

 おおぞらの木の家に帰ってきたのは、それから15分くらい経ったころ。

「みちる、カギ貸して」

 咲のジャマはしたくないし、舞の家をすぐ出てきちゃったのはいいのだけど‥‥チョコの材料買ってないわ。いいのかしら?

「ただいま」

 渡したカギでだれも待っていない家のドアを開けて、かおるが入ってゆく。これ、咲が言い出したんだったわね。最初は不思議だったけど、今では当たり前になってしまってる。これも、変化なのかな‥‥あ、あら? かおる、玄関で止まっちゃってるわ?

「かおる?」

 呼びかけたら、かおるは指を真っ直ぐ前に向けた。その先に、袋に入ったチョコの材料。

「増えてる??」

 私もさすがに驚いたわ。おおぞらの木、色んな種類の妖精がいるとは思っていたけど、チョコの精までいるなんて‥‥

「どこを見てるの? その奥よ」

 顔を上げて奥の方に目を走らせたら、ゆかに敷かれたふとんがもっこり膨らんでいた。見てる前でゆっくり上下してる膨らみは、ちょうど小学生くらいの大きさ。

「みのり‥‥ちゃん?」

 口もとだけくすっ、と笑うかおるの顔が幸せそうで‥‥ちょっと怖かった。

 時々思うのだけれど‥‥

 どうして、私は妙な雑学に毒されてしまったのだろう?

 かおると同じで無垢だったなら、余計な想像など巡らせなくても済んでいただろうに。

「かおる、台所あいたわよ」

 さっきだって、舞がいなかったらバレンタインを誤解したままで‥‥なに!?

「か、かおるっ!?」

 声が裏返っているのが、自分でもわかる。けど、けど、止められないわ。かおるが、みのりちゃんが寝てるふとんにもぐって行ってるっっ!?

「え? なにか言った、みちる?」

 ふとんの端から、青いひとみがぴょこん、と飛び出してきた。けど、その、腕にっ!

「かおる、あなたなにやってるの! みのりちゃんを、だ、だ、だ‥‥」

「だっこ」

「そう! ふとんの中で抱っこだなんてっ! 彼女は‥‥っ!」

 ああ、うまく言葉が出てこない。けれど、ダメなはずだわ。咲の妹に、そんな、そんなことをっっ!!

「なにを、そんなに興奮しているの? お昼寝に付き合うだけなのに」

 え? お昼寝??

「それじゃ、体に触ったりとかは‥‥」

 なんだか、じっと考えている。目をあちこちに動かして‥‥そして、視線が合った。

「小学校低学年の子に、性的官能力(かんのうりょく)はないわ。まだ排泄(はいせつ)官能と混在化していて、分化するのは第二時性徴の‥‥」

 あ、あああ、顔がどんどん熱くなっていくのが自分でわかる。どうして、どうしてこんな考えになっちゃうの、私はっ!!

「わ、わかった。わかったわ。そういうつもりがないならいいのっ」

 あぁ、もう。この世界にいると、どんどんヘンなこと考えていく気が‥‥

「‥‥つもりがないとは言ってない」

 え!?

「まだ、能力がないんだもの。仕方ないでしょう」

 真っ直ぐな目で、こちらをじっと見てる。‥‥ちょっとまって、これは、これはまさか‥‥

「あったらやるのぉっ!?」

「‥‥なにを?」

 にやっ、と笑った顔を見た瞬間、私の背中になにか変な感じが走っていった。

 あぁ、多分これが咲の言っていた、『背筋が寒くなる』っていうことか。

 舞と話してると、たまになるって言ってたものね。対処法は‥‥気にしない、だったかな。それじゃあ、深呼吸して‥‥と。

「もう、そんなことしてると、チョコ今日中に作れなくなるわよ?」

 できるだけ静かに言ってみたけど、帰ってきたのはもっと静かな一言だった。

「いいのよ。わかったから」

 え?

 じっと見つめる目の前で、かおるの表情がとても柔らかくなっていくわ。

「舞が言ってたでしょう、チョコは『あなたは、わたしの大好きな人ですよ』って伝えてくれるためのものよ。
 これだって、きっと伝わるわ。『あなたは、わたしの大好きな人ですよ』って」

 そのまま、抱きかかえた手のひとつを背中から頭に回して、そっと撫でている。

 それを見ていたら、

 自然と、言葉がこぼれてきちゃった。

「『あなたは、わたしの大好きな人ですよ』‥‥か」

 けれど、ちっとも不思議じゃないわ。

「私も、つくろうかな」

 からだが勝手に台所の方に向かっていっても、なんとも思わない。

 とかして、かためて、贈る。それでもし、あのだっこと同じになれるのなら‥‥


「作っても、贈ってもいいよね‥‥大切な、ひとたちに」

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