おべんとりょうてにかえりみち

「それじゃわたし、お弁当買ってくるわね」


 合宿の帰り、迷子になっちゃったヒメちゃんと相楽くんを救いだして、電車に乗って。

 落ち着いたところで、わたしは席から立ち上がったの。

「ん。お願い、ゆうゆう

 めぐみちゃんが軽く言ってくれたから、

「というわけで。いおなちゃん?」

 わたしはまっすぐ手を出したのだけど、その前でいおなちゃんが、半分立ち上がりそうになっちゃった。

「ちょ、ちょっとめぐみ、ゆうこだけで5人分のお弁当買いに行かせる気? 私もいっしょ‥‥」

 ポシェットから ぐらさんまで出てきて、わたしたちを見上げてる。ん〜‥‥

「だ〜いじょぶ♪ 大森ごはんの目利(めき)きに、まっかせなさい☆」

「そうそう。ゆうゆうは、お弁当のプロだもん。ここは、まかせようよ」

 わたしが胸を叩いて言ったら、めぐみちゃんも応えてくれた。さて、どうかな?

「ん‥‥そうね。駅弁はお得が一番、ってわけじゃないし。おねがい、ゆうこ」

 あは。ぐらさんがポシェットから、ちょっとキラキラしたおサイフを出てくれたわ。神さまのおサイフ、いまはいおなちゃんが管理してるのよね。

「はい、おサイフたしかにお預かりしました〜」

 受け取ったおサイフを両手に乗せてお辞儀したら、いおなちゃんがくすっと笑った。うん♪

 ちゃんと考えて、信じて、笑ってくれる、わたしの友だちたち。


 そんなやりとりのむこうで、ヒメちゃんだけ(だま)ってる姿が、わたしの中でちょっと引っかかってたの。

「しあわせごはんで、きょぉも、ハピネぇスぅ〜♪」

 ちっちゃく歌いながら、わたしはお弁当売ってたお兄さんを探して歩いてた。

 電車に乗ったときに、ちょうど奥の方に行くところだったんだけど、姿が見えないな。おなかはもう空いてるんだけど。

 それにしても、なに買おうかな‥‥

「決め手はごはん。これはゆずれないわ」

 サンドイッチとかバーガーみたいのとか、駅弁もいろいろあるけれど、やっぱりごはんがなくちゃ、ね。()めちゃって、むにゅっとしてるけど、それもまたおいしいのよねぇ。ちょっと残したところに、あったかいお茶そそいだりして‥‥

「ん〜〜っ


 ゴンッ!

(いた)っっ!」


 いたたたた‥‥目を開けたら前に鉄のとびら。はぁ、いけないいけない。わたしまた、想像だけでちょっとどっか行っちゃってたみたい。

「よい、っしょと」

 電車のつなぎ目の重いとびらを、ガラガラ言わせながら開けたむこうに、つぎの電車。そこにはお弁当のお兄さんが♪‥‥いなかった。

 あら〜?

「来るの遅かったかな?」

 しかたないなぁ。それじゃもうちょっと、おなかすかせますか。

「あぁあ〜ごはん〜は、おいし〜ぃな♪」

 またちっちゃく歌ったけど、おなかすいたまま、てくてく歩いてると、なんだかいろいろ考えちゃうな。

「相楽くんの顔、赤くなること多くなったよねぇ」

 この合宿の間にも、なーんか意識しちゃってる感じ、何回もあったなぁ。

 めぐみちゃんも、ちょっとぽっとしてるときあるし ―相手は、いまは違うかもしれないけど― これは、いよいよ、かな?

「うんうん、青春だねぇ♪」

 ふふ。言ってから笑っちゃった。みんなの前で言ったら、自分はどうなの、とか言われそうだよね。

 もちろん、わたしも関係ない、ってまでは言わないけど。

「幼なじみは一緒なのに、なんで今でも『相楽くん』と『大森』なのか。なーんて」

 ちっちゃく言った自分の言葉に、自然と笑いが苦くなっちゃった。

 忘れちゃってるのか、忘れたことにしてくれてるのか、そこまでもう聞かない。でも、でもね、

「そこがまた、かっわいいんだなぁ、めぐみちゃんは

 えいっ、っと一歩踏み出して、足が地面につく感じを確かめ‥‥


 ゴンッ!

(いた)たっっ!」


 あいったぁ‥‥足の前に、頭がぶつかっちゃったわ。目を開けたらやっぱりまた、鉄のとびら。あーあ。

 気をつけましょうねぇ、って自分に言い聞かせながら、わたしは重いとびらをよいしょ、っと開けた。けど、口は勝手に違う言葉をつむいでたの。


『もう、そう言えるから。いいんだ、わたしは』

 声は、出てなかったけど。

「‥‥ふぅ。っと!?」

 重たいとびらが閉まる音と一緒に出てきた息に、わたし、思わず頭を振ったわ。

 あはは、ちがうちがう。自分にためいきなんて、もう、つくわけないものね。

 これは‥‥そう。すっごくわかりやすい めぐみちゃんと相楽くんなのに、気づいてくれないヒメちゃんたちに対して、よ。

「ドンカン‥‥じゃぁ、ないわよね」

 うん。むしろ逆。ヒメちゃんは、とっても感じてくれる子だもの。

「ヒメちゃんは、わたしを受けいれてくれたんだもんね。ちゃぁんと‥‥」

 自分でもわかってるの。わたしを受けいれるハードルは、めぐみちゃんよりずっと高いんだ、って。

 でもわたし、まだ覚えてる。わたしに差し出してくれたヒメちゃんの手が、友だちになりたいって目いっぱい語っていたのを。わたしの歌で頭ぐるぐるになって、それでもちゃんと聴き続けてくれてたのを。

「なのに、めぐみちゃんのことは気づかないのよね‥‥あれ?」

 気づかないのは、めぐみちゃんと相楽くんのことだけ、かな?

「うーん‥‥ちょっと待ってくださいよぉ」

 そういえば今日のヒメちゃん、なーんかヘンだったよねぇ。相楽くんといっしょに迷っちゃったとこまでは偶然としても、その後の雰囲気。なんだかちょっと、嫌いでもないのに、ちょっとだけ避けてる、って感じ。まさか‥‥

「わたし、めぐみちゃんと相楽くんは、暖かく見守りたい‥‥なんて言っちゃったんだっけ。ヒメちゃんに」

 それはもちろん、素直な気持ちを言っただけ、なんだけど。

「わたしたちが一緒にいなかったとき、それで何かあった、とか‥‥?」

 口に出してみたら、本当に悪いこと言っちゃった気がして、背中の汗が冷たくなったわ。

 突っつくわよね、ヒメちゃん。相楽くんの恥ずかしがりっぷり、よく知らないんだもの。まぁ相楽くんだから、恥ずかしさマックスでも自爆はしないだろうけど。

 けど。もし、そこから生まれちゃったとしたら――本当に、心のなかは本当に本気だったら‥‥?


 ピタッと足を止めたわたしの前に、また鉄のとびらがあった。今度はぶつかる前に止まれた――それは、いいんだけど。

 とびらに手をかけて、力を込めて。重いとびらを開けながら、でもわたしの頭は違うこと考えてた。


「わたしにはふたりとも――ううん、相楽くん含めて三人とも、だいじな友だちなんだけどな‥‥」

「あーあ。ちょっとでいいから、話せるひとが欲しいなぁ」

 重い音が背中で閉まるのを聞いてたら、勝手につぶやきが漏れちゃった。

 この電車には当事者ばっかり。直接関係ないのは、わたしと、いおなちゃん。

 いおなちゃん、か‥‥こう言ったらなんだけど、あんまり頼りにならなさそうなのよね。

「ちょぉっと、慣れてないっぽい、けど」

『となりのクラスの氷川さん』の頃は、ちょっと、う〜んって思ってたのよ。でもいまは、しかたないってわかるわ。お姉さんのこともあって、そんなひま、なかったんだよね。

 ‥‥となると、結局わたしだけ、かぁ。

「ごはんでまぁるくおさまったら、早いんだけどなぁ‥‥あ」

 端っこの電車の端っこの席に、大きな箱を(ひざ)に置いた人がいた。お兄さんじゃなくて、おじいさんだったけど。

 それじゃ、

「お弁当くださ〜い♪」

 ちょっと気分変えたくて、思いっきり明るく言ってみた。けど‥‥あれ? こっちに向いたおじいさん、苦笑いしてるみたい。

「悪いねぇ。なんかいつもより、お弁当売れちゃってさ」

 売れちゃって、って‥‥あら。

 膝の上、大きな箱の中をよく見たら、中身はほとんどからっぽだった。

「お嬢ちゃんの声だったよね。ごはんの歌が聞こえてきたら、お客さんみんなが買ってくれてさ。あとこんだけしかないんだよ」

 あらら。ちょっと前まで変身してたせいかなぁ。ちっちゃな声のつもりだったのに、ついつい歌いすぎちゃうのよねぇ。

 箱の中身は、幕の内が2種類と、釜めし、か。みんなおんなじのにしようと思ってたんだけど‥‥ま、いっか。そこまで食べるひともいないわ。

 わたしが、ひとつで満足すれば、ね。

「それじゃ、ぜーんぶくださいな

「うん、考えない考えない☆」

 電車のつぎめごとに片手でバランスとりながら、重いとびらを開けて。両手に持ったお弁当を見ながら歩いてたら、心の中が少し軽くなってきたみたい。

 ついつい、考え過ぎちゃうのよねぇ、わたし。まだ、ほんとにヒメちゃんが――とは決まってないんだもの。早いよね、そんなこと考えるの‥‥っと、ついたついた。

「はぁい、おまたせぇ〜」

 みんなの席の真ん中に入って、わたしは両手のお弁当を差し出したの。

「みんなー、好きなの選んで〜♪」

 言った瞬間に、幕の内がひとつ消えた。もちろん、めぐみちゃんね。

 わたしもちょっと狙ってるのはあるんだけど‥‥ここは、友だち優先、よね♪ ‥‥あら?

「どうしたの、ヒメちゃん。‥‥おなか空いたのかなぁ〜?」

 ちょっと、ぽーっとしてる‥‥待たせすぎちゃったかなぁ? それじゃ、わたしが選んじゃおっか。ヒメちゃんだったら、きっと味ごはんが好きだろうから釜めし、かな‥‥あ。

 そうやって選んだ釜めし、渡そうとしたとき。わたしには見えちゃったんだ。

 顔は前――相楽くんの方を向いたまま。赤いほっぺに、なにか我慢(がまん)するみたいにぎゅっ、とつぶった(ひとみ)と顔‥‥}


(本当に、心のなかは本当に本気だったら‥‥)


 あむっ!

 とっさに、わたしはポケットのキャンディを口へ放り込んだ。

「それじゃ、おサイフちょうだい。あと釜めしもね。これ、あとで食器として使ってもおトクよ‥‥あら、どうしたの、ゆうこ?」

 いおなちゃんから言われて、おもわずわたしは手と首を振ったわ。

(どうしたの、か。どうしましょっかねぇ‥‥)


 ガリッ


 思わずこぼれそうになった言葉を、わたしはキャンディと一緒にかみくだいた。


 いいえ。


 決まってるじゃない。もし本気なら(・・・・・・)――わたしには三人とも(・・・・)、だいじな友だちなんだもの!

「よぉし、食べますよぉっ!」

「大森、またなんかハタ迷惑なこと考えてねぇか、おまえ」


 前の席からぼそっと声が聞こえてきた気がしたけど、気にしませんよ。ふふ。

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