ふんわりクロス

「はいっ!」

 かけ声と一緒に、ぽーん、っとボールが飛ぶ。

 そして、バシッ、って音。ラクロスのラケット―― クロスでボールを受けた音。

「はいっ!」

 またかけ声。そして、ぽーん、ってボールが飛ぶ。

 でも、今度は音がしない。空に舞ったクロスが、ふわっとボールを受けとめてた。

 クロスの影では、栗色のショートヘアが揺れてる。


 わたしがボールだったら、やっぱり、なぎさに受けとめてほしいな‥‥

 ふぇ〜、暑いなぁ。

 夏休みが終わればすぐに秋の対校試合シーズンだから、そろそろ厳しくなるのはしかたないんだけど。でもな〜、パス練習だけでこんな汗かいちゃうのって、やっぱキッツいわ。


 ぐてっとしながら、志穂たちとグラウンドの脇へ。ほんとはみんなと一緒に、テントやビーチパラソルの下で休みたいんだけどなぁ。

「なぎさ、お疲れさま」

 芝生に腰を下ろそうとしたところで、上から声をかけられた。

 いつも聞いてるけど、ここでは珍しい声。

「はい、タオルとドリンク」

 見上げたら、ほのかがなにか差し出してた。汗が目に入って、あんまよく見えないんだけど。

 まぁ、いいわ。あたしは、多分タオルだろう、って方を左手で広げて、顔を拭いた。その間に、右手にはコップみたいなのが押し込まれてくる。冷たいから、こっちがドリンクだね。

「サンキュ。ん‥‥」

 そう言いながら、コップの中身を一口飲んだところで、なにかヘンだな、って思った。たしか、今日って‥‥

「ほのか、今日は化学部あったんでしょ? もう終わり?」

 ミントの匂いがするタオル、気持ちいいから目の上にかけたまま聞いてみた。ぼんやり見える影が、なんだか横に首振ってるみたい。

「ううん。まだ部活の最中よ。ちゃんとそこに成果もあるし」

 成果? なんだか、イヤな予感がするな。もう一口飲んでるとこだけど、そぉっとタオルをどかして見てみたら‥‥え!?

「ビーカーぁ?」

 って、ことは。つまり‥‥

「ええ。化学部特製のスポーツドリンク

 ぷはっ!

 やっぱりかぁ〜っっ!!

「だから、人を実験台にしないで、ってば!」

 あぁ、くすくす笑ってるよ。もう。

「冗談。ごめんね。それは市販のをビーカーにあけただけ。化学部で作ったのは、こっちよ」

 っていって、目の前にもうひとつ、ビーカー出してきた。親指と人さし指でつまめるくらいの、ちっちゃなの。

 よく見たら、ほのかの後ろに大きなペットボトルが並んでる。‥‥はぁ。しょうがないなぁ。

「志穂ぉ、これ、ほのかから差し入れだって」

 あたしは、そのペットボトルつかんで、志穂に渡した。

「はいはいは〜い‥‥って、全部ぅ? なぎさの分は?」

 手を振ってごまかしてから、ほのかに向き直って、と。タオルと引き換えに小さなビーカー受け取って、

「もぅ‥‥あたし以外に飲ますんじゃないわよ?」

 そのままくいっと飲み干すと、あたしはビーカー返して、さっさとグラウンドに戻ってった。ここにいると、またあの子が来ちゃうからね。

 ほのかの答え、聞きそびれちゃったけど、まぁいいか。聞かなくてもわかるから。

 ちょっとテレ笑いしながら、きっとこう言うんだ。


「‥‥うん」って。

 なぎさがグラウンドに戻ってしばらくしたら、今度はチームに分かれて練習試合。

 わたしは、そのままの場所で観戦してた。‥‥まぁ、実験中でもあるし、ね。


「ほぉら! そっち、行ったよっ!」

「はい、なぎさっ!」

「よぉし、せやっ!!」


 シュートが決まると同時に、黄色い声が上がる。いつもながら、すごいわね、なぎさ。

 声の元は、グラウンドをはさんで反対側。両手でメガホン持ってる、大きな女の子。だけど‥‥いまって、夏休み中よね。 こんな熱心なファンがいたなんて、知らなかったわ。

「ね、ね、ね、ほ〜のかちゃん」

 下のほうで声がした。目線を下げたら、クロスを肩に乗せた志穂ちゃんが、こっちを見上げてる。

「やっぱり、気になる?気になる?」

 地面に立てたクロスに顔を乗せて、わくわくした目でわたしを見つめてる‥‥わたしって、そんなにやきもち焼きに見えるのかしら?

「夏休み前の対校試合で、なぎさが大活躍したの、学校新聞に載ったでしょ。あれでファンになっちゃったらしいの」

 後ろから莉奈ちゃん。今回は、なぎさと別のチームなのね。

 学校新聞か‥‥ああ、思い出したわ。なぎさがシュート決めた写真、ポスターみたいに張り出されていたものね。たしかに、かっこよかった

「あたしより大きいけど、1年なんだよね。小学校でバスケやってた子なんだって」

「でさでさでさ、キャプテンが、部に入れちゃえって言って、なぎさけしかけてるの。邪険(じゃけん)にもできなくて、ず〜っと逃げ回ってるみたいだよ」

 そっか。だからさっきも、テントと反対側のこっちで休んでいたんだわ。運動部も、結構いろいろあるのね。

「でもでもでも、あたしは反たぁい!」

「あたしも。『差し入れで〜す』とか言っちゃって、粉っぽい手作り菓子とか持ってくんのよ。こっちはのど渇いてるってのにさ」

 ふたりがこんなに嫌がるのって、初めて見るわ。よっぽど色々やられたみたい。

「あれはさ、ラクロスじゃなくって、なぎさに興味あるだけだよ」

「そうそうそう。ちょっと練習さそってもさ、シュートじゃなきゃやらな〜い、って。ヤな感じぃ」

 そうね。志穂ちゃんの言うこと、わたしにもちょっとはわかる。ラクロスって、息が合わないとできない球技みたいだから。

「なぎさ、大丈夫かしら」

「キャプテン命令だもんねぇ‥‥あきらめるまで、待つしかないかなぁ」

 莉奈ちゃんの言葉、とっても重かった。

 はぁ。つっかれたぁ。

 暑いからってのもあるけど、やっぱりあの声がねぇ。部の練習試合で、あたしだけ応援されても困っちゃうじゃない。

 まぁ、とりあえずちょっと休もっか。また、あの子と反対側の方に‥‥

「もてもてね、なぎさ?」

 もうちょっとで、あたしは飛び上がるとこだった。この声、ほのか!?

「な、なに? まだいたの?」

 見上げたら、ほのかが頬をふくらませて立ってた。

「ひどいわ。待ってたのに」

 あっちゃぁ。一瞬あの子かと思ってたから、つい口に出ちゃったよ。

「あはは、ごめん。ほら、暑いんだから、理科室で待っていればいいのにな、って」

 うわぁ。顔が引きつっちゃう。ちょっとは機嫌なおして‥‥って、あれ? にっこりしてる?

「それはね‥‥ちょっと、実験を兼ねて、ね」

 実験? あ、そういえば、この前は服に扇風機仕込んだりしてたっけ。

「また、スカートに扇風機入れてる、とか言わないよね?」

 言いながら、ほのかの体をじろっと眺める。前みたいに、ブラウスはパタパタ動いてないな。よし。

「まさか」

 そうよね。ほのかも、やっとわかってくれ‥‥

「あれは移動には不便だもの。今はね、水冷制服なの」

 え??

 よくよく見たら、ほのかの制服がキラキラ光ってる。細い‥‥透明な管?

「ね、これだと、校舎の外でも使えるのよ

 あ、あ、あのねぇ‥‥っ!

「そんなパワーアップ、しなくていいってばっ!!」

 あぁ、まわりの湿気で、ブラウスが()けちゃってるじゃない。

「もう、これじゃ下まで透けちゃうよ!‥‥ほら、ちょっとこれはおって」

 ちょうどジャージ持ってきててよかったよ。じゃ、ちょっとかぶせて、と。


 きゃああぁっ!


 いきなり、すっごい声。なに、いったい?

「なぎさ先ぱぁい、わたしにもジャージかけてくださ〜い♪」

 うぁ! グラウンド回りこんで、あの子が走ってくるよ。‥‥コートは他のグループが試合中だし、しょうがない。いくか!

「ほのか、部室に()えのブラウスあるから、着がえてて」

 言いながら、あたしは部室と反対方向に走り出した。

「なぎさは?」

 背中にほのかの声がする。もちょっと話してたかったけど、いいや、ダッシュの練習だと思えば。

「あたしは、逃げるっっ!!」

 なぎさのロッカーは、部室の真ん中くらいにある。

 きれいに畳んである制服をカゴごとどかすと、その下に袋に入ったブラウス。前に来たときに、大体の場所は調べてあったりするのよね。

 もっとも、なぎさもそのことは知ってたみたいだけど。


 水冷ブラウスから普通のに着替えて、グラウンドに戻ってきたけど、なぎさはまだいない。どこまで行っちゃったのかしら?

 そう思ってたら、

「ほのかあぁ〜」

 って、情けない声。なにかしら‥‥え!?

 一瞬、わたしは目の前がまっしろになった。だって、だって‥‥

「し、鹿!?」

 わたしくらいの大きな鹿が、わたしに向かって走ってくるわ。それも立って‥‥って、二本足?

「ほ〜の〜かあぁぁ〜」

 え? この声‥‥なぎさ?

「なにやってるの?鹿さん?」

 わたしの目の前で息切らしてる大鹿の背中なでてあげたら、頭の下からなぎさの顔が出てきた。

「し〜か〜じゃないってぇ〜! かむぞぉ〜っ!!」

 うふふふ。

「はいはい。甘噛(あまが)みくらいなら、かまわないわ」

「がるるるるぅぅ!」

 それじゃ犬でしょ。まったく。

「う〜っ! ‥‥どうせ、鹿にしか見えないわよ」

 あら? ぷい、って横向いちゃった。

 よく見たら、ツノがちょっとちがうみたい。手のひらみたいな大きなツノ。これって、

「ひょっとして、トナカイ?」

「‥‥いいよ、もう。鹿で」

 そういえば、鼻が赤く塗られてるわ。クリスマス用のパーティ衣装ね。

「それで、なんでこんな格好で走ってるの? この暑い中」

 一応聞いてはみたけど、理由なんて決まってるわね。あぁ、泣きそうな顔しちゃって。

「ちょっと助けてよ、ほのかぁ!」

 ふぅ。そうね、それじゃあ‥‥

 ほのかに言われたとおり、鹿の着ぐるみぬいで背中に隠れたけど、これじゃ見つけてくれって言ってるみたいなもんじゃない。

 ほのか、なに考えてるんだろう?

「あ、なぎさ先輩の友だちのひとですよね? こっちに、鹿の着ぐるみが来せんでした?」

 うぁ、来た!

「いいえ、見てないわ」

 ほのかってば、よく平気だなぁ。あたしはほとんど丸見えだっていうのに。

「‥‥その後ろにいるのは?」

「なぎさだけど?」

 一瞬、ふたりとも黙っちゃった。そ〜っと覗いてみたら、口をぽっかり開けてこっち見てるよ。

「来てるじゃないですか!」

「わたしは、鹿なんか来てないって言ったの。聞こえなかった?」

 うわぁ、聞いてて言葉が痛いよ。ほのか、ひょっとして怒ってる?

「じゃ、訂正します。なぎさ先輩を、返してく‥‥」

「イヤです」

 ピシッ、ってガラスの割れる音が聞こえてきそうなくらい。めったに聞かない、ほのかの冷たい声。

 あたしは、ほのかの背中から出て横に並んだ。ほのかが本気で怒ってるのに、影になんて隠れてられないもん。

「先輩 ぼく、ラクロス部にスカウトされてるんですよね? その先輩より優先ですよね?」

 あ〜、イヤだ。この、チヤホヤが当たり前っていう感じ。キャプテンの命令じゃなきゃ、絶対無視してやるのに!

「志穂ちゃ‥‥久保田さんからも聞いてるわよ。パスの練習もしないで、なぎさばかり追い掛け回してる、って」

 言えないあたしの代わりに、ほのかが言ってくれてる。思わず、肩なでちゃうよ。もう。

「わかりもしないくせに!!
 なぎさ先輩のボールは、受けるだけだって大変なの! そんなスゴイ先輩に教えてもらって何がわるいっていうの? シロウトが口出さないで!!」

 ――ダメ。もう、限界かも。いくらキャプテンの命令だからって、ほのかをこれ以上バカにするんならっ‥‥!!


 ふふふ‥‥


 怒鳴ってやろう、って大口あけたあたしを、笑い声が止めた。‥‥ほのか、なに?

「ふふふ。たしかにわたしは素人だけど、なぎさのボールだったら受けられるわよ?」

「えぇっ!?」

 思わず、あの子と目を合わせちゃったじゃない。ほのかバカにする気はないけど、だけど‥‥

「うそだと思うなら、やってみましょうか?」

 部室の前の通路に、ボールが舞っていた。


 両端にあたしと、予備のクロス持ったほのか。簡単な使い方は前ちょっと教えたことがあったけど‥‥

「ねぇ、ほの‥‥かっ!」

 あたしがボールを軽く投げる。ほのかはクロスの枠になんとか当てて、手で取った。

「なぁ‥‥にっ!」

 そのまま投げ返してきたボールは、あたしの頭の上。ひょいっと受けて、また投げる。

「なんか変なこと‥‥考えてっ! ない?」

 今度のボールは、枠の内側で跳ねた。もうちょっとなんだけど。

「いいえ、ぜんっ!ぜん」

 投げ返されたボールは、さっきよりちょっと下。力がないから受けるのは簡単だな。

 それにしても、あの子。ケラケラ笑いながら『ちゃんと振ってー』とか『腰が入ってなーい』とか。シロウトに向かって、ねぇ。

 あ〜あ、あーいうのが一番恥ずかしいってのに、わっかんないかなぁ、もう。


 あたしはもう一度、軽めに投げてみた。‥‥ふぅ。今度はちゃんと受けたみたい。

「うん。じゃぁ、今度は本気で投げてっ!」

 投げ帰されたボールをクロスの中跳ねさせながら、あたしはちょっと考えちゃった。いまのくらいなら受けられるだろうけど‥‥やっぱり軽めに投げてみたら、ほのかが渋い顔してる。

「本気で投げてっ、てば!」

 そんなこと言われても‥‥ ちょっとだけ、強くしてみようか。

「これじゃダメよ。‥‥なぎさのっ、ば〜かっ!」

 なによそれ? あ、そっか。あたし怒らせる気だな。

「あたりまえで、しょっ!」

 ほのかに言われたって、気にもならないよ。

「なぎさのっ、筋肉オンナっっ!」

 ん〜、ちょっとは気になるけどさ。

「それはラクロスに、必要なのっ!」

 ふふ〜ん、どうよ。

 ほのか、ボールをクロスの中でお手玉しながら、ちょっと考え込んでる。ちょっとは慣れてきたのかな?

「しょうがないわねぇ‥‥ 好きな人のこと、バラしちゃうわ、よっ?」

 え?

 ほのかが、思いきり息すった。

「みなさ〜ん。 美墨なぎささんはですね〜っ」

 ちょ、ちょっと。こらこらこらぁっっ!!

「こンのぉ‥‥ほのかっ!!」

 あ、いけない。本気で投げちゃった!

「ほのか、危な‥‥!」

 すごい勢いのボールが、ほのかの胸に向かってまっすぐ‥‥!!


 ぼふっ!!


 え?

「ふぅ。やっぱり、ちょっとしびれるわね」

 ほのかが、クロス持ってた手を片方づつ放して、ぶらぶら振ってる。まさか、ほんとに?

「ほ、ほのか? いまの、受け止めたの!?」

 声が上ずっちゃう。だっていまの、ほとんどあたしの全力‥‥シュート並みなんだよ?

「見てたでしょ? ほら」

 クロスを高く上げたら、ころん、っとボールが転がってきた。ほんとに、あれ、受け止めたんだ。

「ど、どうやって!?」

 ありえない‥‥ ほのかって、運動も天才なの?

 なんかもう、ぼーっとしちゃうよ。あぁ、ほのかがだんだん近づいてくる。くすくす笑いのほのかが。

「だってなぎさ、さっきから同じところに投げてきてるじゃない?」

 同じとこ? ‥‥そりゃ、パス練習で、試合じゃないんだもん。当たり前よ。

「だからね、そこにクロス置いて、あとはしっかり握ってただけ。そうしたら、きっと取れると思ったの」

 ちょ、ちょっと待って!

「でも、いまわざと怒らせたじゃないの。もしそれで外しちゃったら‥‥」

なぎさ(・・・)だもの。絶対、外すわけないわ

 にこにこ笑いながら、あたしの目を見てるよ。

 遠くで、あの子があたしたち見てる。手に持ってたメガホン落としちゃって、あたしよりもっとぼーっとしてるな。でも、もうなんとも思えないわ。

 あぁ、力が抜ける。‥‥よかったぁ、外さなくて。

 なぎさを部室に送ってから、着がえ終わるまでわたしはその前に立ってることにした。

 あの子はわたしたちの後をついて来たけど、いまはわたしの前でぼぉっとしてる。突入はしないと思うけど‥‥

「‥‥雪城先輩は、なぎさ先輩とつきあい長いんですか?」

 まだしびれてる手を振って治してたら、突然あの子が口を開いた。さっきの、一応効果はあったみたいね。『雪城先輩』に格上げになってるし。

「いいえ? まだ半年くらいよ?」

 口に出したら、ちょっと顔がほころんじゃう。‥‥ふつうの半年じゃなかったものね。

「そんな‥‥そんな時間で、なぎさ先輩がわかっちゃうんですか!?」

「何もわからないわよ?」

 ふふ。ハトが豆鉄砲食らった、って、こういう顔のこと言うのね。なんだか、にこにこしちゃうわ。

「わたしはね、『何もわかってない』っていうことをわかってるのよ。
 だから、教えてもらうの。何をしたいのか、何がほしいのか。なぎさは、みんな教えてくれてるわ。わたしはただ、それに(こた)えているだけ」

「それだけで?」

 わたしは、ちょっと考えてから首を振った。

 あの子の目が、ちょっと変わってきてたから。ひょっとすると‥‥

「わたしだって、なぎさに教えているのよ。何がしたいのか、何がほしいのか、ね
 もちろん、いつも応えてくれる、なんて思っちゃいけないわ。でも、教えもしないで応えてもらおうなんて、もっとダメよ。わたしは、そう思うの」

 ちゃんと、考えてるみたい。うん、これなら、大丈夫かも。


「あなたは、なぎさのシュートが好きなのよね?」

 わたしは、思い切って言ってみた。

「わたしは、なぎさがボール受けるところが好き。まるで、クロスがわた(・・)でできてるみたいに、ふんわり受けてるのよ

 そう、今はまだ威張りんぼでも、ちゃんと聞いて、ちゃんと考えられる子なら、きっと‥‥

「‥‥ぼくにも、できるのかな?」

 きっと、なぎさの力になるはずだから。

 夏休みが終わって、何日目かの朝。

 あたしは、グラウンドの脇を走ってた。あぁ、まだまだ暑いってのに、もう!

「おはよう。‥‥どうしたの、そんな息切らせて」

 あぁ、ほのかか。ふぅ。

「なぁに、また追いかけられてるの? あの子、正式入部したんじゃないの?」

「したよ。で、基礎練習からやらせてるんだけどさぁ‥‥どこで聞いたんだか、今度はあたしに、ボールの受け方教えろ、ってうるさくって」

 基礎練習には違いないけど、なんで、またあたしなんだろ。あぁ、部のみんなも、あたしを教育係にしてるしなぁ。

「ふぅん」

 ほのかってば、気のない返事だよ。まったく、あんたが何か言ったから入部したらしいのに。

「なんか、前と状況が変わってないような気がするよぉ‥‥」

 思いっきりため息ついたら、笑い声が聞こえた。

 吹き出しそうな顔のほのかが、ふふふ、って‥‥あぁっ!

「ほのか! ボールの受け方のこと言ったの、あんたねっ!?」

「ふふ。もうラクロス部の子なんでしょ? ちゃんと教えてあげてね、なぎさ

 ほのかのこの顔、ってことは――まったく、これじゃあ怒るに怒れない‥‥あ〜っ!もうっ!!


「ありえな〜いっっ!!」

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