はなび あがった?

「うぁ、暑いっ!」

 理科室に入ったとたん、すっごい暑さが襲ってきた。

 夏休み二日目は、ラクロス部の練習日。化学部も活動日だから、練習終わってエアコン入りの理科室に涼みに行った‥‥つもりだったのに。

「ええ。暑いわね」

 中にいたのは、ほのかひとりだけ。窓開けっぱなしで、机に向かってなにかやってるけど‥‥なに、この暑さ?

「ほのかぁ〜、エアコンかけないのぉ〜?」

 理科室のとびらにつかまって、なんとか耐えてたけど

「いま、冷やしちゃいけないことしてるから‥‥」

 そっかぁ。化学部も楽じゃないんだな‥‥あれ?でも、

「それにしちゃ、普通の声じゃない?‥‥って、ほのか。なに、その首のとこ」

 ほのかの首、ブラウスの襟の部分がパタパタ動いてる。

「ん? あぁ、これのこと?」

 ほのかが立ち上がったら、ブラウス全体がパタパタ‥‥ なんだろう?

 考えてる間に、ほのかがスカートのすそ、ちょっと持ち上げた。ちっちゃな扇風機が、風おくってる‥‥って、スカートに扇風機ぃ!?

「ほ〜の〜かぁ〜っ! あんた、それ女の子のすることじゃないっ!」

「ん〜。でも、男の子だとできないんじゃない? スカートはかないし」

 いや、そりゃたしかに、そう、だけどぉ〜

「そうじゃなくてっ!!」

 思わずどなっちゃったけど、ほのか、くすくす笑ってるよ。

「なぎさは『女の子』に夢を持ちすぎよぉ」

 むっ。わ〜るかったわねぇ。

「あたしは女の子だよっっ!!!」

「わかってるわよ。でも、ねぇ?」

 『ねぇ』じゃないってば!

「だいたい、このくらいの暑さなんて、体きたえれば済む話じゃない」

 むん、って力こぶ作ったら、ほのかがペロッって舌出した。

「わざわざ理科室まで涼みに来た人に、言われたくありません〜」

 なぁにぃ〜!?

「きゃあ〜

 あぁ、また喜んでるよ。まったく。



 それにしても、夏の盛りに化学部で作業かぁ。そりゃあたしだって、夢中になってるもの、あーだこーだ言われたらヤだけど‥‥

 ほのかったら、ぜ〜んぜん外で遊ばないじゃない。たまに出たと思えば図書館だしさ。

 来週は化学部も合宿だっていうけど、それだけ? 花の乙女が夏の太陽浴びなくてどーするっていうのよ。

「‥‥やっぱ、あたしが連れ出したほうがいいのかなぁ?」

 理科室逃げ回るほのか追いかけながら、あたしは思わず口に出して考えてた。

『運動といえば、犬の散歩だけだもんね。健康な中学生としちゃ、どうかと思わない、志穂?』

 おフロ上がりにとった電話は、なぎさからだった。珍しいなぁ、って思いながら話してたら、いきなり話題はほのかちゃん。仲いいなぁ、まったく。

「それでそれで?」

『でね、焼きほのかしようかな〜って』

 ぷっ! 思わず吹いちゃったじゃない。

「焼きほのかぁ!?」

『そう。焼きほのか計画ぅ〜。へへへ、とりあえず、合宿前に1日部活なしの日あるでしょ? プールか海で焼いちゃおうかな、って』

 なぎさのセンスって、どっかズレてるんだよねぇ。でもさ、

「でもでもでも、なんかもったいないなぁ。ほのかちゃん、すっごく白くてきれいなのに」

 ありゃ? 黙っちゃった。なんだろ? なぎさが肌の色で好き嫌い決めるわけないし‥‥

「ねぇねぇ。犬の散歩って、体力いるよぉ? そんな無理にきたえなくっても、いいと思うけどぉ?」

 なぎさってば、まだ黙ってるなぁ。お〜い、切るぞぉ〜。

『‥‥あたしたちの、普通の夏っての味わってもらいたいな、って思うんだ。もちろん、ほのかの普通の夏も楽しみたいよ、あたし』

 な〜んか、隠してる感じだけどぉ。まぁ、どこかいっしょに行きたい、ってことだよね。

「ほのかちゃんさぁ、海とかいきなり誘っても、行かないような気がするなぁ‥‥もっと、誘いやすいとこからにすれば?」

 なんだか、変な感じだぁ。これじゃ、デートの指導してるみたいだよぉ。

 ま、いいや。とことんいって‥‥あ、そ〜ぉだ

「そうそうそう! ほら、明日の花火大会、ちょうどいいんじゃない?」

 会場が、ほのかちゃん家から近いんだよねぇ。それに、たしか‥‥

「そっか! ありがと、志穂。それじゃ準備するから、また明日ね!!」

 ありゃりゃりゃ? ‥‥切れちゃったよ。しっかたないなぁ。

 なんか最近のなぎさ、ほのかちゃんのことばっか見てる気がするよ。なんかあったのかな?‥‥まぁ、それにしても。

「焼きほのか、かぁ‥‥」

 健康になるように、ってだけなら、お節介ななぎさらしいんだけどね。

 でも、昼はず〜っとラクロスの練習で疲れてるはずなのに、夜には花火で、ちょっと空いた休みにプールか海? これじゃ、夏休みが一週間しかないみたいじゃない。

「なにあせってんだろ、なぎさってば」

「はぁ‥‥ありえな〜い‥‥」

 やっぱり、花火にはゆかただよねぇ。って思って部屋の中あさってみたんだけど‥‥

「う〜ん‥‥」

 部屋の床の上、ゆかたが3枚並んでる。

「さすがに、もう着れないかぁ」

 あたしのおなかには、リボンみたいなオレンジ色のつけ帯。パジャマ脱いで下着だけになってるのに、やっぱキツすぎよ。

「前に着たのって、小6だもんね。そりゃ無理か」


 プルルルル‥‥プルルルル‥‥


 あれ、電話? あ、そうか。さっきまで志穂にかけてたから、子機持ってきちゃってたんだっけ。

「はいはい。すぐ出るわよ‥‥はい、美墨です」

『あぁ、なぎさ?』

 なんだ、ほのかじゃない。ちょうどいいわ。花火さそっちゃお。

 ほのかにちょっと待ってもらって、キッついつけ帯はずして床に投げて‥‥ふぅ。一息ついて電話持とうとしたら、いきなり目の前のドアが開いた。

「お姉ちゃん、電話こっちで鳴って‥‥」

 え? 亮太?

「こら!入るんじゃないっ!」

 ったく、いっつもノックしないで入ってくるんだからぁっ!!

「お姉ちゃんの着替え見たって、ちっとも面白くないよ。ほのかさんだったら‥‥」

 ‥‥ちょっとまて、亮太っ!!

「痛っ!いたたたたっ!!」

 コブラツイスト、今日はシャツも着てないから、思いっきり決められるわ。

「もう一度言ったら、冗談でも許さないからね!」

 ギブとか言ってるけど‥‥今日という今日は思い知らせなきゃ!

「い〜い? 女の子の着替え覗くなんて、最ッ低だよ! 他人のはもちろん、姉弟でも、恋人でも!!」

「こ、恋人でも?」

「そうよ! キスするのと同じ。だまし討ちは絶対ダメ! お互い信頼してこそなんだから!」

 あ、思わず力入っちゃった。なんか、ペキッって音したような‥‥

「さ、わかったらさっさと出てく!」

 はぁい、なんて言いながら、亮太が部屋を出てった。ふぅ。ああ見えても丈夫なんだよね。

 ‥‥あれ? ベッドの上でなにか光って‥‥あ、いっけない。

「ごめん、ほのか!」

 ほのかからの電話、ほっぽりっぱなしだったんだ。

『ううん、いいのよ。いい言葉聞けちゃったし

 あれれ? あたし、なんか言ったっけ?‥‥まぁいいや。本題、本題、っと。

「ほのかさぁ、あした花火大会あるでしょ。いっしょに行かない?」

『花火!?』

 な、なに、この驚き方!?

『なぎさ、ありがとう!』

 え、と。‥‥え?

『あぁ、助かるわ。やっぱり、持つべきものはいい友だちね

 こ、こんなに喜ばれるなんて、思ってなかったよ。なんかテレちゃうな。

『それじゃ明日、学校で。お願いね

 あれ、切れちゃった。でも、変なこと言ってたなぁ。『お願い』って‥‥なんのこと?

 翌日は、朝から練習練習。なんだかいつもよりペース早くって、あたしは途中ですっ転んじゃった。こんなんで、午後まで持つのかなぁ‥‥なんて思ってたら、お昼の鐘といっしょに、いきなり解散、だって。

 午前中だけ? そんなスケジュールだったっけ?


 すりむいたひざ洗って、バンソコつけて、部室に戻ったら誰もいなかった。

 何か飲んで一休みしよ、って思ったんだけどなぁ。志穂も莉奈も待っててくれないなんて、友だちがいないなぁ、もぉ。


 着替えても行くとこないし、しばらく、ぼーっとしながら歩いてると、いつの間にか理科室に近づいてた。もう習慣だね、これは。

 ま、いっか。またビーカー紅茶でもごちそうになろっと。‥‥でも、今日もエアコン切ってたらヤだなぁ。

 そんなこと考えながら歩いてたら、廊下の奥からなにかやってきた。

「あ、なぎさぁ〜」

 ほのかの声だ。よくよく見てみると、なんだかいろんな荷物といっしょに台車に乗って、押してもらってるよ。

 あぁ、荷物が落ちないように、台の上で押さえてるのか。かる〜い、ほのかならではだよね。これがあたしだったら‥‥いや、考えない考えない。あたしの体重は、ラクロスに必要なものなんだから。

「おねがいね〜」

 あれれ?そのまま通り過ぎちゃった。おねがい、って‥‥いったい、なに?

「ちょっとなぎさ! ぼーっとしてないで、手伝いなさいよ」

 え?

 いきなり言われたけど、この声、どこから?

「どーこ見てんの。こっち!」

 台車が通り過ぎたところから‥‥って、あれれ?

「莉奈に、志穂も? なんでほのか運んでんの?」

 ありゃ。ふたりとも、目まるくしてるよ。

「あれあれあれ? ひょっとして、なぎさ聞いてなかった?」

 え? なにを??

「そういや、バンソコ貼りに行ってたっけ‥‥あのね、なぎさ。今日の花火大会に、化学部の花火も打ち上げるんだってさ」

「それでそれで、その機材運び、ラクロス部が手伝うことになったの」

 な〜んだ。あたしがいない間にそんな話があったんだ。でも、

「へ? なんでウチが?」

 あたしが言ったとたんに、ふたりが台車の前に回った。台車の上のほのかの肩に、ふたりで手を置いてる。

「それはねぇ」

「ほのかちゃんの、ご推せーん!」

 あぁ、そういうことね。

「ごめんね、なぎさ。乱暴に扱っちゃいけないものだから‥‥力があって、信用できる人たちって、他にいないのよ」

 莉奈と志穂が、ほのかの上で顔見合わせてテレ笑いしてるよ。はいはい。ま、そうまで言われちゃ、やらないわけにいかないよね。きのうの電話、そういうことだったのか‥‥よぉし!

「それで、あたしは何すればいいの?」

 学校からワゴンタクシーに揺られて、花火会場まで移動。あたしたちは、ひとつづつ箱をかかえて、後ろの席に座ってた。

 一番後ろのあたしの隣にほのか、前の席には莉奈と志穂。箱はそんなに重くないんだけど‥‥ねぇ。

「ほのか、ちょっと訊いていい? これって‥‥」

「多分、想像してる通りだと思うけど」

 あぁ、苦笑いしてるよ。そっか、あたしたち人間クッション、ってわけか。

「大丈夫よ。危ないから、って、あまり大きなのは作らせてもらえなかったから。ちょっとぶつけたくらいじゃ、爆発はしないわ」

 言い方が、なんだかヤケっぽい。ほんとは、もっと大きな花火作りたかったのかな?‥‥うん、思い出になるもんね。なんでも、思いっきりやっといたほうが‥‥

「ねねね、なぎさ。なぎさは、どんなゆかた?」

 莉奈としゃべってた志穂が、いきなり後ろ向いたんで、あたしは思わず目ぇ丸くしちゃった。ええと‥‥ゆかた?

「莉奈ったらね、ブランドゆかたなんだって!」

 別にブランドで決めたわけじゃ、とかブツブツ言ってるけど、なんか言いわけっぽいぞぉ、莉奈。

「あたしは前と同じ、赤いのだよ。で、なぎさは? 去年は着てなかったよね?」

 はぁ。そうだった。

「残念だけど、今年もなしよ。うち、だれも着付けできないから買ってないんだ」

 小学校のころは、つけ帯でなんとかなったんだけど‥‥昨日のキツい帯思い出してげっそりしてたら、

「着付け? それならわたし、できるわよ」

 って声。

「ほのかが!?」

 思わず言っちゃったけど、よく考えれば当たり前か。いつも和服のおばあちゃんと、いっしょに暮らしてるんだもんね。

「なぎさがよければ、だけど‥‥わたしのゆかた、着てみない?」

 ほのかの? そりゃまぁ、ほのかだったらゆかたの2着や3着、持ってるだろうけど‥‥痛ッ!

 考えてたら、前の席からクロスの柄が伸びてきて、あたしつついた。あぁ、志穂たちの声が聞こえるみたいだよ。『借りちゃえ借りちゃえ』って。

「いいの?」

「いいわよ。この花火置いてきたら、あとは見るだけだし。帰りに家で着替えましょ

 花火師さんに花火を預けたところで、莉奈たちと別れた。ほのかの家までは、歩いて15分。

 忠太郎の突撃を受け止めたり、おばあちゃんに挨拶しながら、ほのかの部屋に行ったら、入り口にゆかたがかかってる。それも、2着。

「え? これ‥‥?」

「おばあちゃまが用意してくれてたみたい」

 ほのかはクスクス笑ってるし。あのおばあちゃん、ほんと、謎なひとだよねぇ。


 それにしても、ほのかって細いなぁ。

 障子閉めて、制服脱いで、着替え途中のほのか見て、あたしは心から思った。

「ほのかさぁ、ごはん、食べてる?」

「食べてるわよ。お昼、見てるでしょ?」

 まぁ、ねぇ。別に他のコより少ないようにも見えないけどさ。

 でも、ねぇ。おなか、ぺったんこだよ。

 こんなおなか、あんなヤツらに殴られたり、蹴られたりしてるんだよね‥‥いっくら変身してる、っていっても、さ。

「ほのかぁ」

「ん?」

 ほのかが、こっち振り返った。ゆかた、はおりかけのままで。

「後悔、してる?」

 あたしが言ったら、ほのかはしばらくきょとん、としてた。でもいきなり、ほのかの目がいたずらっぽくなって、

「そう見える?」

 ってひとこと。あたしは横に首振った。見えないよ、たしかに。

「わたしね、いろんな経験できたと思うわ。普通の人じゃ考えられないくらい、いろんな経験。もちろん、イヤな経験はしたくないけど。
 でもね、いっしょに経験してくれる、なぎさがいるじゃない? だから、後悔はしないわ」

 はぁ。なんだか、ほのかがまぶしくって、見てられないよ。‥‥下着姿だけどさ。

「さ、着替えちゃいましょ



 あたしが借りたゆかたは、白の地にオレンジ色のひまわり柄だった。下帯まで結んで、ほのかの方見たらもう帯を締め終わってるところ。ゆかたは紺の地に白いすずらん‥‥

「うん? なぎさ、なに笑ってるの?」

 あちゃ。見つかっちゃった。

「なんかさ、いつもと色が逆だな、って」

 いつもはあたしがブラックで、ほのかがホワイトだもんね。

「そういえばそうね。でもなぎさ、ひまわり似合ってるわよ

 はいはい。ど〜せ、子供っぽいって言いたいんでしょ?

「ひまわりはね、まっすぐ太陽を見つめるでしょ。なぎさみたいだな、って思うの」

 うっ‥‥やっぱ、ほのかってストレートなのよね。あたしにはとても‥‥でも。

「すずらんはずっと下向いてるね」

「そういうこと、言わないの!」

 ほのかが苦笑いしながら、両手振り上げてる。ううん、違うよ。

「でもさ、なんか明かりみたいじゃない。みんなの足元を明るくしてくれるの。ちょっと、ほのかっぽいかも」

 あ、赤くなった。あたしの勝ちかな♪


「あのー」

「いいけどいいけど。あたしたちも、いるんだけどなー」

 いきなり声がして、あたしもほのかもビクッって跳ね上がった。見回したら、障子の隙間に顔が二つ‥‥

「志穂、莉奈! どっから覗いてるのよっ!!」

「障子に目あり〜」

 実践するな、ってば。まったく。

「っていうか、っていうか! 花火、もうじき始まっちゃうよ? なぎさ、まだなの?」

 ええっ、もうそんな時間!?

「ほのか、どう?」

 後ろを見たら、ほのかがあたしの分の帯と格闘してた。‥‥こりゃ、そう簡単には終わんないよね。あたしは、志穂たちに向き直って、

「あたしが足引っ張っちゃってるからね。ふたりとも、先行っててくれる?」

 やっと着付けが終わったのが、それから15分後。あたしたちはまた忠太郎の突撃よけながら、ほのかの家から走り出てった。

「なぎさ! ちょっと速すぎよ!?」

 ほのかの手を引っ張って走ってたら、後ろから抗議されちゃった。でも、急がなきゃ。

「ちょっとなぎさ、聞いてる?」

 ちょっとだけ振り向いたら、ほのかがむくれてた。あたしは心の中で謝ったけど、でも。

「ちゃんと最初から見なくちゃ。大丈夫、きっと間に合うから」

 間に合わせる。いま味わなくちゃ。きれいな花火を、いい経験を、絶対に!

「なぎさ!前!!」

 え‥‥?

 言われて前を見たら、黄色い看板が見えた。

 足元に、硬い地面が、なかった。

 ‥‥くぅっ、い、いたたた‥‥


 気がついたら、背中と腰が痛い。‥‥そうか。あたし、落ちちゃったんだ。工事中の穴かなにかに。

 痛いけど、折れてるとか、って感じじゃないな。だけど、目を開けてもまっくら。なにかの下敷きになっちゃったみたい。

 そういえば、ほのかは? まさか、いっしょにってことは‥‥!?

「ぼぼば? べ?」

 あれれ? 口がふさがっちゃって、まともにしゃべれないよ。顔の上にも、なにか乗っかっちゃってるんだ。

 ‥‥あ、目が慣れてきた‥‥って、ちょっとぉ!!

「べぼ!?」

 ほ、ほのかの顔? っていうか、口? っていうか、つまり‥‥これって‥‥

「ぶ、ぶぶぶ!?」

 ちょ、ちょっとほのか! 気がついてないの?

 あ、ああ、目ぇ開けてくれた。‥‥って、こら! なんでまた閉じるのよぉっ!?

「ぶぶぶぶぶぶっ! ぶ! ぶっぶー‥‥ぷはっ!」

 はぁ。やっと顔がはなれたわ。あぁ、苦しかった。

「あら、もうおしまい?」

 ほ〜の〜かぁ〜っ!!

「どうしてやめないのよ!」

「なに言ってるのよ。わたし抱えてるのはなぎさでしょ?」

 え? 言われてみると、手が‥‥うわっ! あたしほんとに、ほのか抱きかかえちゃってるよ!!

「なんだか、気持ちよかったし‥‥なぎさなら、ま、いっか、って」

 しっかり抱きしめた形の手をほどいて、ほのか起き上がらせた。痛い、って顔しなかったな。よかった。

 落ちたとき、無意識に抱いちゃったんだろうな。えらいぞ、あたしの腕!

「なぎさ、大丈夫?」

 ほのかの声の後ろで、ボーンっていう音がした。いけない!花火、はじまっちゃったんだ。

「痛ッ!!」

 立ち上がろうとしたけど、腰が動かなかった。

「しばらく、休みましょ」

 しばらくして、痛いのもだいぶおさまった。けど、ほのかがあたしのわきに座って、立とうとするたびに両肩押さえ込むんだもんなぁ。

 あたしたちが落ちてきた穴、その向こうはもう真っ暗で、ときどき花火の端っこが見える。ここが使われてない水道のトンネルで、落ちた割には汚れてない、ってのはいいんだけど。

「ありえない。こんな花火見物なんて‥‥」

 ほのかの作った花火も見れないし、これじゃ思い出にならないよ。

「あ〜あ。計画の最初っからケチついちゃうんだもんなぁ‥‥」

 ぼそっ、とひとり言のつもりだったんだけど、言った瞬間に、空気が寒くなった。

「な・ぎ・さ・?」

 ぎくっ。この、言い方は‥‥

「なんの計画立ててたのかな? 素直に言うなら今のうちよ?」

「え?」

 計画、って‥‥ま、まさか、ね。

「な、な〜んのことかなぁ‥‥いてて! 痛い痛い痛いって!!」

 いきなり両耳つまんで‥‥うぁぁ、痛いっっ!!

「いつまでもとぼけてるからよ。『焼きほのか計画』ですって? もう‥‥知らないとでも思った?」

 なんで名前まで‥‥って、志穂以外いないよ。あいつめっ。

「いや、だからこれはその、ほのかのこと考えて‥‥痛っ!」

「だ〜か〜ら! それを言わないで始めちゃうのがいけないの!!
 さっき、ここに落っこちたのはだぁれ?」

 う‥‥ん。その結果が、これだもんね。

 あたしは、ひとつ大きく息はいた。

「だってさ、言ったら絶対『大丈夫』って答えるじゃない? たとえ無理でも、ほのかってさ」

 八つ当たりもいいとこだよ、あたし。もう、子供っぽいったら。ほら、なんとでも言いなさいよ。

「無理してるの、なぎさの方じゃない」

 え?なに?

「む、無理って‥‥」

「なぎさはみんな、できるだけ早くやりたいのよね。あの敵‥‥イルクーボがまた襲ってくる前に?」

 あ‥‥

 あたし、思わず顔そむけちゃった。ほのかの顔、見れない‥‥

「やっぱり」

「いや‥‥だってさ‥‥」

 なんて言えばいいか考えてたら、ほのかがあたしの前に回りこんできた。

「戦う前に楽しいこと全部しちゃおう‥‥それって、最後の思い出になるように、ってこと?」

 また横向いたら、今度はあたしの顔、ほのかの両手でおさえこまれちゃった。

「そんな、こと‥‥」

「あるわよ! そうじゃないなら、どうしてこんなに急ぐの?あせるの?
 夏休みは、まだ一ヶ月以上あるのよ!?」

 だめだ、逃げられない。そう思ったら、自然に言葉がこぼれてきた。

「‥‥ほのかは、あいつが怖くないの?」

「怖いに決まってるわ!!」

 え‥‥?

「考えただけで、からだが震えるわよ。あきらめたら、どんなに楽だろう、って何度も思ったわ」

 う、うそ‥‥?

「でもね、わたしが勝手にあきらめちゃったら、やられるのはわたしだけじゃないのよ? それだけは、絶対にイヤ!!」

 あっ、て、思わず叫んじゃうとこだった。

 そっか。なんてバカなんだ、あたしは! そうだよ。あたしがほのか心配してるのに、ほのかがあたし心配しないはずないじゃない!!

「えっと、その‥‥ごめん」

 弱いなぁ、あたし。ほんと弱いよ。おなかがぺたんこだなんて関係ない。

 下げたあたしの頭に、なにか当たった。ほのかが、おでこくっつけてきたんだ。

「いいの。そのかわり、もしわたしがあきらめそうになったら、思い出させて。なぐってもいいから」

 弱いあたしが? って、思わず言いそうになっちゃったけど、

「あたしも、またあきらめちゃうかもしれないよ。いいの?」

 それだけ言ったら、ほのかが顔上げた。

「信じてるわよ。‥‥偶然キスしちゃっても、平気でいられるくらいは、ね

 うぁ。そうきたか。

「なぎさは?」

 にっこり笑って、ほのかが訊いてきた。

「そ、そのくらい、気にしないわよ。あたしだって」

 目を閉じて、勢いだけでもそう言うしかないじゃない。ここは、さ。

「そう? じゃ‥‥」

 目を開けたら、ほのかの顔があった。

「ちょっと、ほのか」

 目をつむったほのかが、ゆっくり近づいてくる。

「ほのか、あたしができないと思って、からかってるでしょ?」

 薄目あけて、少し口元で笑いながら、あと5cm‥‥

「知らないよ、もう!」

 ん〜っ‥‥

「お〜い、なぁ〜ぎさぁ〜?」

 どっからか小さな声が聞こえたとたん、あたしの手が勝手にほのか押してた。‥‥今の声、だれ!?

「莉奈! もちょっと待とう、って言ったのにぃ!」

 ‥‥痛たた。志穂の声が、耳の奥までキーンって響いてるよ。トンネルで大声はシャレにならないって。

「志穂?莉奈?」

 見上げたら‥‥あぁ、あたしたちが落ちたとこから顔出して、こっちのぞいてるし。

「遅いから、探してたんだけどさぁ‥‥」

「な〜にやってんのっかなぁ〜?」

 ふたりして、ニヤニヤ笑い。あぁ、ありえな〜い‥‥え、と‥‥

「来てみる? ここからだと周りが暗いから、きれいに見えるのよ?」

 おぉ、さっすがほのか。そうそう、こうなったらウンチクでなんとか‥‥

「ところで‥‥化学部の花火、もう上がった?」

 へ? ほのか、それじゃモロバレ‥‥って、なにニコニコしてるのよ、あんたはっ!!

「言ったでしょ? わたしは平気だって」


 あぁ、上でニヤニヤ、となりでニコニコ‥‥こんなの、こんなのぉっ!

「ありえなぁ〜ぃっっ!!」

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