はなたばかかえてりかしつへ

 あー、()っかれた。

 4月になって初めての学校‥‥って言っても、ほとんどの子はいないんだよね。なんたって、新学期は明日なんだから。

 でも、あたしたちは今、体育館の隅っこでぼーっとしてるとこ‥‥

「だいたい、なんであたしがずっと居なきゃなんないのよ。莉奈だっていいじゃん」

「そうもいかないでしょ? なぎさは部長なんだから」

「そうそうそ〜う! うらむなら、引き受けた自分をうらんでね」

 横に座ってる莉奈と志穂が、にっこり笑ってそう言った。

 まぁ高等部の1年のうちに、またラクロス部の部長に推薦されちゃって、喜んだのはあたしだよ、たしかに。でもさぁ、

「まったく‥‥」

 あたしは、ちらっと時計を見た。

 新入生オリエンテーションの、部活紹介が終わってもう1時間ちょい。

 新入部員の受け付け中、なんだけど、周りを見てもだれもいない。バレー部もサッカー部も‥‥でもラクロス部(うち)は時間いっぱい残るのが伝統。それはわかるんだけどね。

 ‥‥今日は受け付けしないって言ってたよね、化学部のユリコ。ってことは、いままでずーっと待ちぼうけ、か。

 今日はほのかの誕生日。なんだけど、今年はお父さんたちが帰れないし、みんな登校してるから学校の理科室でやるんだー、って言ってたっけ。平気な顔してたけど、できるだけ、にぎやかにしなきゃ、

「はやく、行ってやりたいんだけどなぁ‥‥」

 だけど、受け付けが終わるまではまだ時間がある。これも部長の仕事かぁ‥‥

「おぉ、らぶらぶだぁ

「あついあつい、あっついねぇ。あんまりやると、藤村先輩が()いちゃうぞぉ」

 って、なーんでそうなんのよっ!!

「だぁーってさぁ」

「ねぇ?」

 いい加減、慣れてはきたけどね。でもこんな雰囲気、化学部に持ち込んだら大変だよ。まーたほのかがあばれちゃうんだから。

 ‥‥あれも酷かったなぁ。いいかげん、男の子から告白すべきだ!って藤P先輩にジカダンパン(・・・・・・)しに行こうとしちゃって‥‥まぁ、ちょっぴり嬉しかったけどね。

「あんまモタモタしてると、またユリコちゃんが文句言いにくるよ?」

「あー‥‥まぁ、ね」

 ほのかの機嫌がよくないと、よく来るんだよねぇ、ユリコ。ラクロス部と違って、化学部は先輩と色々もめてたみたいで、ほのかがストレスたまっちゃってさ。そのたんびにウチの部に来るんだもん。いいかげん、みんなに覚えられちゃって――

「そう言えば志穂、そろそろ来るよね」

「あぁ、そうそうそう。もうすぐのはずだよ」

 ん?

 いきなり隣でふたりがうなずきあってる。もうすぐ、って、何が?

「ほぉら、言ったでしょ? あかね先輩にケーキ頼んだって。なぎさ、受け取りに行ってくんない?」

 莉奈が体育館の扉のほう指さして言った。そりゃ、頼んだのは聞いたけどさぁ、

「あたしぃ? いままで新入生の相手して疲れちゃってるのに?」

「部長の役目でしょ。がまんがまん」

 こっちは、部長関係ないって!

「「それとも、やめる?」」

 ふたつの顔が、まっすぐこっち見つめてきた‥‥ちぇ。

「行くよ。行ってくりゃいいんでしょ!まったく」

 立ち上がって体育館を出ようとしたとき、あたしはなんか妙な雰囲気だな、って思ったんだよ。

 でも、それ以上考えなかったんだ。このときは。

「こんにちは‥‥って、あれ?」

 なぎさが出てってちょっとしてから、体育館にユリコちゃんがやってきた。

 あたしはちょっと作業してて、先に気づいた志穂が手を振って呼んだんだけど。

 体育館の入り口で周りをきょろきょろ見回して、首かしげたまんまだな‥‥あぁ。

「なぎさ? いまちょーっと出ちゃってるんだけど」

 あたしがそう呼びかけたら、ようやくラクロス部の受け付け席まで歩いてきてくれた。

「そう‥‥押さえといてくれるんじゃなかったの、莉奈さん?」

 じと、って音が出そうな視線受けて、あたしは苦笑いしながら手を振った。そだね。なぎさおさえといて、そのすきに、とか言っちゃったっけ。けどさ。

「うん。それ(・・)迎えに行ってるんだ。なぎさ」

 にこーっと笑いかけたら、ユリコちゃんが一瞬ぽかんとして、ため息ついちゃった。

「‥‥迎えに、か。なんて言うか、皮肉なことさせるわね、ふたりとも」

 まぁ、ユリコちゃんから見ればそうだよねぇ。だって、なぎさが受け取りに行ったのって――

「じゃあ、とりえずこれだけ置いとくわね」

 あたしがちょっと、志穂と目を合わせてたら、受け付けの机の上に、ばさっと荷物が置かれた。

 袋っぽいのがふたつと、タオルが2本。

「ひとつは失敗したとき用よ。ばっ、とかぶせてギュっ、とやっちゃえば、体力自慢の美墨さんにだって大丈夫。あれ」もそうだけど、ほのかに隠れて設計するの、大変だったんだからね(・・・・)

 ふんふん、って聞いてたんだけど、ちょっと変な感じがした。ええと‥‥

美墨さん(・・・・)?」

 ああ、志穂。それだわ。

「ん? どうしたの、志穂さん?」

 首かしげてる志穂が、あたしに目配せした。

「‥‥」

「ん?ん?? なによ、ふたりとも黙っちゃって」

 ユリコちゃんの不思議そうな声で、あたしは口を開いた。

「いやぁ‥‥」

「いやいやいやぁ。あたしたちのことは、名前で呼んでくれるよねぇ?」

 けど、こういうことは志穂の方が早いな。

「あたりまえでしょ。もう何年つきあってるのよ」

「なのになぎさは『美墨さん』?」

 あたしが()いたら、ユリコちゃんの顔が見えなくなった。下むいちゃったんだ。

「ふたりなら大丈夫なのよ。親しくしても」

 そのまま、ぼそっと言うもんだから、

「大丈夫?」

「あたしらなら?」

 思わずふたりして下から覗きこんじゃったら、今度はガバっと上を向いて、

「ほのかってねぇ、実はすっごいやきもち焼きなのよ。本人に自覚がないってのがまた面倒なんだけど。
 ‥‥私も苦労してるのよ、こう見えても」

 言い終わってから大きく息吸って、やれやれって顔のユリコちゃんがあたしたちを見てる。

 ちらっ、と隣の志穂を目だけで見てみたら、同じ目線で見返してた。‥‥うん。

「ま、いっか。それよりさ、荷物が大きいから、すぐには戻ってこれないんだ。理科室のほのかちゃんの様子、見といてくれる? なぎさが帰ってきたら、今度はそっちに行かせるようにするからさ」

「ええ‥‥ええ、そうね。じゃあ、またあとで」

 あたしの言葉に、なんか不安げにうなずいてから、ユリコちゃんが背中を向けた。ほのかちゃんが心配っていう思いは同じなんだよね。あの子、放っておくと何するかわかんないから。でも‥‥


 ユリコちゃんの姿が体育館の扉の向こうに消えてから、あたしが志穂に向き直って、

「やきもち焼きってさぁ‥‥」

「どっちがだろね〜?」

 くすくす笑いで返してきた志穂を見ながら、あたしはまた作業に戻ったんだ。

 多分、間違ってないよね。あたしら。

「結局、ケーキだけかぁ‥‥」

 あかね先輩の車が停めてある体育館の脇へ歩いてたら、いつの間にかひとりごとが出てきちゃったよ。

 莉奈たちから、ケーキ頼んだってのは聞いてたんだ。でも、プレゼントがねぇ‥‥

 いや、思いつかないわけじゃないんだよ。多分、あたしがあげるものなら、なんだって喜んでくれると思うんだ。でも‥‥


「園芸部?」

「そう。園芸部――」


 歩きながら、あたしは何日か前の会話を思い出してた。春休みの学校で、部活説明会のリハーサルしてるなか。ユリコに、ほのかへのプレゼントのこと、相談したときの会話――


「そんなの、あったっけ。この学校に」

「一応女子高だもの。そのくらいはあるわ」

 ふぅん。あたしには、あんま関係ないとこだから知らなかったけど、

「でもさぁ、それが何か関係あるの、ほのかと‥‥」

 そう言ったとたん、

「おおありよ!」

 体育館に響くくらいの大声出そうとしてたから、すぐ口を手で押さえちゃったよ。でも、

「いーい、美墨さん。ほのかはね、生物関係にはあまり強くないの。ご両親のお仕事の関係もあって、宝石‥‥鉱物とか化学とかは強いし、よくわかってるけどね」

 そのあたしの手を無理やりひっぺがして、ユリコが言ったんだ。そうか、考えてみれば、生き物の話ってあんまりしないな。でも、花束なんて、ほのかならもらい慣れてるんじゃないかな?

 そうあたしが言ったら、ユリコが口元だけ笑いながら言ったっけ。

「そこで、美墨さんの登場なわけよ。花じゃない花束だってあるでしょ?
 簡単よ。美墨さんがひとりと、あとはリボンが一本あればできるわ」

 本人目の前にして、しれっとした顔で言ってたなぁ。

 あたしに、リボン、それだけって‥‥言いたいことはわかるけど、さぁ!――


「――そんで結局、プレゼント決まらなかったんだよなぁ‥‥」

 見上げた空には、なーんにもない。部長の仕事で忙しかったのも確かだけど、ああ言われちゃうとねぇ。でも、なし、か。

「あーあ、適当に花でも買っといた方がよかったかなぁ?」

 花束かかえてさ、ほのかに似合うようにこう、演劇部でタキシードかなんか借りて着ちゃて‥‥ああ、いけね。こんなこと口に出したら、ホントに着せられちゃうわ。

 みんなして、ほのかのことはあたしに任せようとするからなぁ‥‥だけどさ、そーいう適任者ならちゃんといるじゃん。すぐそばにさぁ。

「タキシード着たユリコ、か‥‥」

 受け取るほのかを想像すると、勝手ににやにやしちゃうね。ほのかはすっごく喜ぶよ、きっと。

 ま、言った瞬間に却下されるだろうけどね。あのガンコ者はまったく‥‥


 ガタッ! ガタガタガタッ!


 え? な、なに?

 空から目線を戻したあたしの前に、でっかいのが立ってた。

 真っ白な中に、ところどころ赤や金色のかざり‥‥って、なによこれ!

「ウェディングケーキ!?」

 に、しか見えないよね。これ。って!

「うわぁっっ! ケーキが迫ってくる!?」

 ずるずるっと後ろにさがったとたん、ケーキの動きが、ピタッ、ととまった。

「あ、あら? なぎささん、なにをやってるんですか?」

 え? ひかりの声??

 よくよく見たら、おっきなケーキの影から、明るい髪が覗いてる。なんだ、カートで押してたのかぁ。

(おど)かさないでよぉ、ひかり‥‥って、あれ? 学校明日からでしょ?っていうか、なんで高等部にいンの?」

「はい。タコカフェの配達なんです

 タコカフェの? って、よく見たら遠くにあかね先輩もいるじゃん。

 ああ、なーるほど。ほのかの誕生日ケーキ頼んだのって、これのことかぁ。しっかし、

「でっかいねぇ、これ‥‥」

 上の飾りまで入れたら、あたしの背とどっこいだよ。

「中はカラだから、見た目より軽いですよ。ウェディングケーキみたいなの、っていう注文だったんです」

 ガラガラ、っとカートを前後に動かしながら、ひかりが言ったけど、ハリボテには見えないなぁ。ケーキじゃないとこにもクリーム塗ってるのかな? どれどれ‥‥

「ダメですよ、なぎささん」

 手を伸ばしたら、ひかりがジトっとした目でこっち見てた。はいはい、わかってるって。

 ‥‥ん? 中味がカラ、ねぇ‥‥あ、そうだ♪

「ひかり、リボンって持ってない?」

「ありますけど‥‥なんですか?」

 不思議そうなひかりの顔の向こうで、ユリコの声が聞こえたような気がするね。リボン一本あれば、か。

「はなたば、花束。くくっ、いいプレゼントになりそうだわ、これ

「――いいプレゼントになりそうだわ、これ

 って、のんきだなぁ、なぎさは。

「帰ってくるの遅いから心配したってのに、なーに話し込んじゃってるかなぁ」

「あれ? 莉奈、来てくれたの?」

 あたしが後ろから声かけると、なぎさが振り向いて言ったよ。にこにこ顔でね。

「ついさっき、化学部のユリコちゃんまで様子見に来ちゃってね。新入生も大量には来なさそうだから、志穂にまかせて手伝いに来たんだけどさ」

 それに、遅くなったら困るんだよねぇ、それ(・・)が。

「そうそう、莉奈さぁ、このケーキ、いっしょにプレゼントにもしちゃわない?」

 なぎさのにこにこ顔が、ちょっとニヤニヤになった。

 だよね。これ見せたら、そうくると思ったんだ。あたしも。

「志穂やユリコちゃん待たせるのもナンだし、話は体育館で聞くよ。それじゃ、(はこ)ぼっか」

「ああ、あたし後ろから押すから、莉奈とひかりは前で誘導してくれる? じゃ、いっくよー」

 そう言っていきなりカートを押し始めたんで、あたしは急いで移動した。カートの前につけたひも持って、方向決めながらひっぱって‥‥

「それで、決まりました?」

 ひかりちゃんが小首をかしげてこっそり訊いてきた。かわいく、っていうより、ちょっと小悪魔な顔してるかな。

「うん。決まった。けど‥‥ちょっと協力してくれる、ひかりちゃん?」

「え!?」

 あたしが説明するのを聞いて、ぽかんとした顔が、さっき以上の小悪魔な笑顔になるまで、ほんのふた呼吸くらいだったね。

 この子も結構毒されてきたのかも。なぎさに。

「あぁ、ユリコちゃんおかえりー」

 理科室から体育館に戻ってきたら、莉奈さんの声が迎えてくれた。でも、

「あら? こっちに来てないの?」

 理科室でほのかの暴走止めてたとこで、なぎ‥‥美墨さんが迎えに来てくれたのよね。ちょうどいいからこのまま‥‥と思ったんだけど、途中で走って行っちゃって。てっきり先についてると思ったのに。

「なぎさ? ううん、まだ戻ってないよぉ?」

 ラクロス部の部員受け付け席で、巨大なケーキのとなりに座った志穂さんがそう言った。

 なんか、シュールな光景だけど‥‥しょうがないわね。ちょっと待ちましょ。

「それにしても、うまくできてるねぇ‥‥」

 莉奈さんがケーキを見上げながら言ってる。それはそうよ。

「ちゃんと設計した、って言ったでしょ。ほら、こうするとね‥‥」

 まだ美墨さんが戻ってきてないことを目で確認してから、私は脇のリボンを持ってゆっくり持ち上げた。ケーキの上から二段分が外れて、中が見えている‥‥うん。

「ほら、中にはイスも用意してあるの。立ち上がればちょうど上半身出るわ。美墨さんの身長と座高は、計算済みよ」

「なるほどぉ‥‥でもでもでも、なんでユリコちゃんが誕生日企画するの?」

 ケーキの上をまた持ち上げようとした私に、志穂さんが尋ねてきた。なんで、って?

「だってさぁ、ユリコちゃんもじゃん」

「4月1日だよね、誕生日」

 ふたりの言葉が頭に染みてきたとたん、ケーキの上が床に落ちた。な、な、なんで‥‥

「なんかなんかなんかぁ、ほのかちゃんも知らない、って言うじゃない? だから、莉奈に調べてもらったの」

 調べる、って‥‥

「うん。だってあたし、保健委員だから」

 私の顔から、血の気が引いた。ま、さか‥‥

「それ、ほのかに言ったの!!?」

 莉奈さんの驚いた顔が目の前にある。私が思わず飛びついたんだ。けどそんなの、どうでもいいわ!!

「い、言ってないけど‥‥なんで?」

 それを聞いた瞬間、驚いた顔が、遠くなった。私、力が抜けて、その場にへたり込んじゃってるわ。

 床に敷いてある柔らかい布を触ってたら、だんだん、落ち着いてきた。知られちゃってた、か――

「――4年前ね、やっぱりほのかのご両親が忙しくて日本に戻れなかったとき、私が誕生日準備してあげたことがあって」

 うんうん、ってふたりがうなずくのを見て、私はちょっと目を閉じた。やっぱり、そのままじゃ言いにくいから。

「‥‥って、ほのかは思ってるだろうけど、違うのよ。
 本当は、ほのかが落ち込んでるのにも気が付かないで、私の誕生日に(さそ)うつもりで声かけたの。
 私はやさしい友だちなんかじゃない。私はただの、わがままオンナなのよ‥‥」

 目の前のふたりが、お互い顔を見合わせた。

「ほのかにとっては、親切で誕生日を祝ってくれた友だち。そのままでいたいの。協力して、ね?」

 私は息を止めて、次の言葉をじっと待ってたんだけど、

「とりあえず、あたしたちは(・・・・)話さないよ。約束する。それで、いい?」

「ん、助かるわ」

 ふぅ。やっぱり、正直に言ってよかった。いい友だちばっかりよね、なぎささんの(まわ)りは‥‥

「で、その()わり、って言ったらなんなんだけど、さぁ‥‥」

 え?

 なんかヘンなトーンだな、って顔を上げた瞬間、

 ばふっ、と足元の敷物がふくれあがったとおもったら、私の身体(からだ)はあっという間に動かなくなった。

「それっ!」

 口にタオル、身体は足から腕から袋でぎゅうぎゅう‥‥って、これ、あたしが設計したヤツじゃないの!?

「さぁ、おとなしくしててね。すーぐはこんでくからさ♪」

 はこんでく‥‥って、ことは、私を!?

「ぐぐぐぐ、ぐぬ、ぐぐーぐ、ぐっ!」

 どすん、と何かの中に落ちが感じがして、明かりが消えた。痛くはないのよ。ええ、なぎささんが怪我(けが)しないように、一所懸命考えた仕掛けだもの。だけどっ!

「ぐっぐぐーっ!」

 あーもう、声にならないっ! この、うらぎり者ぉ〜〜っっ!!

 ガタガタ動いてたケーキが、ぴたっと止まった。諦めてくれたかな? よしよし。

「驚くといいんだけどなぁ」

「じょぶじょ〜ぶだいじょ〜ぶ。きっと驚いてくれるって。莉奈は心配性だなぁ☆」

 ‥‥そうだね。

「ん。こっちは(・・・・)特に、ね」

 コンコン、とケーキをたたくと、中がまたちょっと動いた。

「でも、逆にあたしたちが驚かされたりとかね」

「まっさかぁ〜」

 ふたりで顔見合わせて笑ったけど、実はそう言い切れないのが怖いとこなんだよね、ほのかちゃんの場合は‥‥

 とか考えてたら、またガタガタッ、って音と一緒に、カートが入ってきた。準備、できたみたいだね。

「お待たせしました。もう詰めましたか、中身?」

 中身、って‥‥ちょっと毒されすぎじゃないかなぁ、ひかりちゃん。ま、将来有望だけど、ね。

「うん。おかげでバッチリだよ」

「喜ぶといいですね、ほのかさん」

 ふたりでうなずいたとたん、体育館の扉がばんっ、と開いて、

「うまくいったぁ?」

 入ってきたのはなぎさだね、もちろん。

「へへへっ。こういう素直じゃないのには、ちょっと強引にいかないとね。
 さーて、これでケーキと一緒にプレゼントまで用意できたし、理科室行こっか」

 言ってるなぎさの後ろに、影が近づいてきた。よぉし、そんじゃ、

「いーや」

「いやいやいやあ、まだケーキだけっしょ」

 せぇ、のっと!

「え? うわわっっ!!?」

 なぎさの脇から袋ががばっ、と持ち上がってくのと、リボンのかかった大きなプレゼントボックスが上から落ちてくるのがほとんど同時。

 あーあ、ひかりちゃんが心配そうに見てるね。

 ま、大丈夫大丈夫。

「なぎさの言うとおりだよ。『素直じゃないヤツは強引に』ってね☆」

 ちくしょぉ、とか、出せーっ、とか言う声が、もごもごに変わった。志穂がうまくタオルで塞いだんだ。

 このために、3日もかけて訓練したんだもんねぇ。あたしも志穂も。

「さぁて、今度こそ揃ったよ。ケーキとプレゼント」

 ふたつともずっとガタガタいってるけど、ま、問題ないでしょ。

 なんたって、ユリコちゃん本人のお墨付きだもんね

「それじゃ、理科室行こっか。花束抱えてさ」

「花束はふたつ、だよね♪」

 ガタガタ動いてるふたつの横で、志穂のにやにや笑いと、しょうがない人たちだなぁっていうひかりちゃんの苦笑い。きっとあたしも笑ってるんだろな。


「ほのかちゃんは、ホントいい友だち持ってるよねぇ。いろんな意味でさ♪」

‥‥以下もうひとネタ、ほのかアンソロジーの小噺に続きます。

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