おっきなかさ・ちっちゃななべ

 そらに向かって、はぁ〜って、ひと息。


 一瞬、目の前が真っ白になる。タコカフェのバンも白い向こうに見えて、まるでこの間のスキー場みたい。

 真っ白なくうきがゆっくり消えてゆくのを(なが)めていると、なんだかにこにこしてきちゃうな。

「ちょっとほのか、なーにすんの? いきなり」

 目を降ろすと、テーブルの向こう側でいつもの顔がめがね拭いてた。‥‥いっけない。

「ごめん、ユリコ。曇らせちゃった?」

 メガネかけなおしたユリコが、ちろっ、と目だけでわたしを見た。テーブルの上のタコ焼きふたつ、ひょいひょい、って口に放り込んで、むすっ、って顔して食べてるわ。

「どーせ、こないだ行ったっていうスキーのことでも思い出してたんでしょ?
 あーあ、ほのかばぁーっか。こっちは声もかけてもらえないっていうのにさ」

 ひっどいこと言われてるんだけど‥‥ほおづえつきながら、もそもそ食べてる顔を見てると、どうしても怒れないわ。これってユリコの得なとこかもね。

「そう言わないでよ。誘われたのはラクロス部つながりなのよ? わたしなんか、なぎさのおまけで連れてってもらえたようなものなんだから」

 言った瞬間、ユリコの前のタコ焼きがひと皿カラになった。口いっぱいのタコ焼き、すっごい勢いで食べてると思ったら、急に下向いて、

木俣(きまた)先輩の旅館にご招待ぃ〜、って。だれ目当てかなんて、最初(はな)っからみえみえじゃない。こぉ〜のニブちんが、もう‥‥」

 ん? なんだかぶつぶつ言ってるけど、よく聞こえないわ。なんだろう‥‥って顔近づけたら、ユリコががばっ、と起き上がった。

「はいはい、わかった、わかりましたよ。でもねぇ、化学部からは実質もう追い出されちゃったし、なーんか楽しいことってないかなぁ?」

 なるほどね。

 わたしは、両手でほおづえついてるユリコみながら、思わずちょっとうなずいちゃった。

 ユリコって、これっ、て決めたら一筋だものね。化学部に行かなくなって、気持ちに穴あいちゃったのかも。3年間ずっと、ずぅっと、続けてたんだものね‥‥

「3年、かぁ‥‥」

 ふふふ。なんだか、笑いがこみあげてきちゃった。

「なによ、ほのか。いきなり」

 ああ、なんかチロッ、って見上げてるわ。いきなり笑っちゃって、気分悪くしちゃったかしら?

「ううん、いい3年間だったなぁ、って」

 ひかりさんのこととか、闇のこととか、まだまだ心配はあるのにね。でもユリコの顔を見てると、楽しいことしか出てこないわ。

「化学部のみんなとの3年間って、すっごく楽しかったわ。もう、それだけで十分なくらい。ユリコだって、そうでしょ?」

 言ったとたん、目の前の顔が真っ赤になった。ふふ、知ってるんだから。ユリコ、こうやってストレートに言われるの、弱いのよね。

「そ、そーいえばさ、ほのか。ほのか蔵の薬って、どうするの?」

 ふふふ。また笑いがこみ上げてきたわ。もう、話題変えるのに必死じゃない。‥‥まぁ、このくらいにしてあげましょ。3年の仲だものね♪

 さてと。ほのか蔵かぁ、ほのか蔵、ねぇ‥‥理科準備室にある、わたしのくすり置き場の名前。すっかり定着しちゃって、このままだと卒業してもそのまま置いてそうだけど、

「やっぱり、引き上げなくちゃいけないかしら?」

「そー、そー。危ないのも入ってるんだしさ」

 ユリコったら、チロ、ってこっち見つめながら言ってるわ。まぁ、言いたいことはわかるんだけどね、

「危ないって、そんな‥‥ほんのちょっと、気持ちよくなるだけでしょ?」

 そう言われちゃったら、ノるしかないじゃない♪

「それが危ないってぇのっ!!」

 あははは。テーブル、ばんっ! て叩いてるユリコ見ながら、おっきなくち開けて笑っちゃったわ。この呼吸も、3年のたまものよね。

 あぁ、そのまま腕組んで、ぶす、って顔になっちゃった。

 メガネの上のほうから、じとっ、て目でわたしを見てる。そう、ね。うん。

「いつまでも、あるわけにいかない、か‥‥」

「そりゃそうよ。卒業しちゃったら、あとは後輩のものなんだから。わたしたちが居座っちゃいけないって」

 そうね。そうかもしれないわ。3年間ずうっとあった、わたしの場所、なくなっちゃうのはちょっと、だけど‥‥

「はぁ‥‥そっか。だったら、ひとつだけ置いてったら?」

 『ほのか蔵』のこと考えて、ちょっとぽけっ、としてた頭に、いきなりユリコの声が響いた。

 ぱっ、とユリコの方に目を戻したら、なんだかすっごくやさしい顔になってる。いっけない。わたし、そんなに悲しそうに見えたのかしら?

「記念にたった一つだけ。これなら、先生だってうん、って言うわよ」

 両手でほおづえつきながら、やさしい声でユリコが言ってくれた。

 そうね。ひとつだけ、わたしがここにいた記念のおくすり、か。でも‥‥


 でも、どれを置いていったらいいのかな?

「ねぇねぇねぇ、なぎさは、置いてく?」

 となり歩いてる志穂が、いきなりあたしに声かけてきた。

 もう部室に行くことも少なくなるから、って荷物を持ち帰りに学校行った帰り道。なんか色々思い出しちゃって、あたしも莉奈たちも、ほとんどだまったまま歩いてたんだけどね。

「へ? なにを?」

 だから、志穂が目の前に回りこんできたとき、あたしは本気でわからなかった。なに言ってんのか。

「クロスよ、クロス。ほら、後輩に残してくの、あるでしょ?」

 ああ、そっか。置きクロスのことね。まだ本気でやるかどうかわからない、新入部員が使うヤツ。そういえば毎年、卒業生が何本か置いていくんだっけ。

 そっかぁ。あたしも、最初はお世話になったよね‥‥

「なぎさのだったら、みんなにひっぱりだこだよねぇ」

「そうそうそう! あたしが一年だったら、欲っしいなぁ♪」

 志穂ったら両手にぎって、上目づかいでこっち見てるよ。冗談バレバレじゃん。まったくさ。

「二年でも、奪っちゃうかもね」

 あ〜あ、莉奈まで調子合わせ始めちゃってるし。しょうがないなぁ、もう。

「こらこら。二年もやりこんでて、自分の持ってないんじゃ問題だよ?」

 ふたりがあたしの方向いて、ほっぺたふくらませた。

「えー? でもカナなんて、さいごまで置きクロス使ってたよ?」

「あれは特別だって。カナのお姉さんが置いてったんだもん。普通はちゃんと自分の持つでしょうが」

 はぁ。あたしだって固いこと言いたくないけどさぁ。ふたりとも、ノリすぎだよ。ほんと。

 ‥‥お!?

「でもねでもねでもね!」

 ちょっと目ぇつむってため息ついちゃって、目をあけたら志穂のアップ。な、なによ?

「やっぱ欲しいよ、なぎさの!」

 すっごいキラキラした目で見つめられて、思わず一歩さがっちゃったあたしの背中が、やわらかいものにぶつかった。

「志穂やあたしのはさ、置いてっても持ってっても、どっちでもいいだろうけど。なぎさのは、結構いいと思うよ」

 背中から莉奈の声。それも、振り向かなくても顔が浮かぶくらい、やさしい声‥‥

「い、いい、って?」

 背中の莉奈から離れようとしたら、目の前にまだ志穂。それも、ぺったり。

「きっときっときっと、なぎさのクロスは、ラクロス部のちからになるよ。なぎさのクロスに守られてくんだよ、絶対!」

 くっつくくらい目の前、志穂の目がマジだ。なんか遠く、未来を見てるみたいな目‥‥って、妄想入ってんじゃないの、それ?

「ムリムリ! あたしはそんなガラじゃないって」

 言いながらなんとか逃げようとしたあたしの肩が、後ろからがっしり掴まれた。

 そぉっと背中見てみたら、莉奈の目も志穂とおんなじ。マジな目で、こっちをじぃっと見てるよ。

「まー、見ててごらんなさいな。残してったなぎさのクロスはねぇ、きっと一番奥のいすの上に飾って置かれるよ。
 あと3年もして、知ってる後輩がだーれもいなくなってもね」

 あー、なんだか、あたしの周りに部室が見える気がするなぁ。3年間ずっと過ごしてきた、ロッカーだけのせまっ苦しい部屋が‥‥

「ほらほらほら! なぎさ、置いてきたくなった? なった?」

 志穂のいつもの声がした瞬間、あたしの周りがまた道路になった。

 すぐそばで、そぉっと離れようとしてる気配‥‥逃がすかぁっ!!

「痛い痛いいた〜いっっ!!」


 ひとをからかうなってぇ〜のっ! ったく、もぉ!!

「とりあえず、ほのかの分は飲み物だけ追加してきたよ」

 大きなパラソルの下に戻ったわたしを、空っぽのお皿が迎えてくれた。さっき、勢いで全部たいらげちゃったんだよねぇ。注文追加するとき、持ってけばよかったな。失敗したわ。

「ありがと、ユリコ‥‥」

 お皿の向こうから、ぼーっとしたほのかの声。さっきなんか、クレープ持ったまま考え込んじゃってたっけ。うすいピンクのセーター、もう少しで汚しちゃうとこだった。それだけ、考えてるんだろうなぁ。


 ‥‥よぉし。大きく息すって、と。

「ところでさ、ほのか。いま残ってる薬って、何があるの?」

 わたしは息はくのと一緒に、思い切って話しかけてみた。正直なとこ、考え込んでるほのかに話しかけるの、ちょっとコワいんだけどね。

「実はね‥‥よくわかんないの♪」

 えへ、って顔で、舌出して‥‥って、ちょっとちょっとぉ!

「そ、それって、まずいんじゃない? 試しもしないで残してくってのは、いっくらなんでも‥‥」

「そうね。どこかで確かめられたらいいんだけどなぁ」

 いたずらっぽい顔で、にっこり笑って‥‥ああ、これだよぉ。これがコワいんだ、ほのかは。

 しっかりしてるように見えて、いっきなりとんでもないこと言い出すんだから!

「だから、どこかで、じゃなくて! ‥‥え? うわわっ!?」

 思わず、バンっ! ってテーブル叩‥‥こうとしたわたしの右手が、テーブルにめり込んだ。な、なに、これ??


「う〜っ、や、さーむい寒い。はい、お待ちどうさま‥‥って、ありゃあ、やっちゃったかぁ」

 真ん中のパラソルの柄を頼りに、めり込んだ手を引っ張りながら振り向いたら、赤地のバンダナが目に飛び込んできた。タコカフェの店長さん。あかねさんだ。

「ごぉーめんごめん。ちょっと待ってて」

 持ってたトレイを脇のイスの上において‥‥あ、わたしのわきの下に手を入れてきた。そのままよいしょ、っと引っぱり出して、

「ふぅ、これでよし、と」

 わたしがはまった穴に、テーブルと同じ色の板をはめ込んで、あかねさんが一息ついた。やれやれ、助かったわ。

「ユリコ‥‥ちゃん、だったっけ? ごめんねぇ。おわびにこれひと皿、サービスするからさ」

「あ、ど、どうも」

 目の前に出されたお皿とあかねさんを眺めながら、思わず頭下げちゃった。貫禄あるんだよねぇ。さすが美墨さんと同じ、ラクロス部のOGだわ。

「でも、あかねさん‥‥?」

 声が出てるのに気がついて、わたしは手でぱっと口おさえた。そぉーっと目を上げたら、あかねさんがちょっと考えてからポンっ、と手を叩いて、

「あぁ、なんであたしが運んできたのか、ってことね。
 ひかりが時々ぼーっとしちゃってねぇ。そろそろ冬眠でもするんじゃないか、なんてからかってたんだけど‥‥冗談じゃなかったらどうしようかねぇ?」

 思わず、ほのかと顔見合わせて笑っちゃった。ひかりちゃんは心配だけど、この人がついてるんなら、まぁ安心だよね。

 ふぅ。安心したらお腹すいちゃった。さて、たこ焼きたこ焼き、と‥‥ん? そういえば、

「あかねさん、この穴は‥‥」

「‥‥コンロ、ですか?」

 わたしが言いかけたことばを、ほのかが引きとった。そうそう。板でぴったりフタしてあるし、壊れてるわけじゃないもんね。

 あ。あかねさんが、にこ〜っ、て笑ってる。あいてる席に腰かけて、テーブルまんなかのフタをなでてるよ。

「去年までなら、寒くてもたこ焼き一筋!‥‥だったんだけどね。今年は模様替えしたことだし、あったまるものも出そうかと思ってさ。
 とりあえず、このテーブルでコンロ使う許可は取ったんだけどねぇ」

 そう言われると、なんだかテーブルの上に見えてくる気がするな。コンロの上で湯気立てて、いい匂いがふわぁっと来るような。

「公園でおなべかぁ。 面白そうですね」

 湯気のまぼろしが消えた向こうで、ほのかが吹きだすの(こら)えてる。‥‥わたし、そんなに食べたそうな顔してたかな?

「‥‥ま、これでひかりがノッてくれればねぇ」

 ぽそっ、って感じのあかねさんの言葉聞いて、わたしはほのかに目配せした。

「あかねさん。どんなおなべにするんですか?」

 ふわっとした、包み込む感じのあったかい声。さっすがほのか、よくわかってるよ。

 ほぉら、ちょっと沈んでたあかねさんの顔が、もう元に戻っちゃった♪

「ん〜? そぉだねぇ‥‥まずはおしるこかなぁ。お雑煮は土地で違うから、はずしちゃうとアウトだしね。あとは、チョコフォンデュとか。なぎさに知られたら、食べ尽くされちゃうかもしれないけどさ」

 軽口まで元通りだ。でも‥‥あはは。やっぱり、美墨さんの存在って大きいなぁ。ちょっと話題に出るだけで、みんな笑顔になっちゃうんだから。

 あ〜ぁ、もう。ほのかも、美墨さんがからむと思いっきり笑うんだもんなぁ。こーいうとこ、かなわない‥‥って、あれ? あかねさんが、なんかうなずいてる?

「ねぇ。ふたりって、きょうヒマ?」

 いきなりテーブルに体乗り出して、わたしたちを代わる代わる見てる。な、なんだかすっごい期待してる目で。

「え、ええ。特に用事はないですけど‥‥?」

 なんとか答えたわたしに、あかねさんがにやっ、って感じで笑いかけてきた。

「だったらさぁ、パーティやってみない?」

「「パーティ??」」

 ありゃりゃ。ほのかとハモっちゃった。

「なべなんて初めてだし、ここのコンロをお客さんがうまく使えるかどうかも知りたいしね。
 ふたりとも化学部なんだから、火の扱いは慣れてんでしょ?」

 あかねさんの言葉を聴きながら、わたしはほのかに目で訊いてみた。どうする? って。
 でもほのか、パラソル見上げて考え事してる。しょうがない、わたしが決めるか。

 なべでパーティなら、去年もやったような気がするな。ちっちゃなコンロでも、理科室のバーナーよりはましだし‥‥

「あかねさん。パーティ、うちでやりませんか?」

「「へ?」」

 こんどは、わたしとあかねさんがハモっちゃった。ぽんっ、て手が鳴る音がしたと思ったら、いきなりだもん。ほのかってば、いったいなにを‥‥

「このテーブルを全部、うちの庭に持ち込むの。それなら、あかねさんも、ひかりさんもお客様になれるでしょ?」

 って、すっごい早口。あかねさんまで押されちゃって、びっくりした目でうなずくしかできないよ。

「じゃ、決まりですね。 ‥‥さぁ、急いで準備しなくっちゃ♪」

 ほのかがぱっ、と立ち上がったと思ったら、そのまま小走りで公園出てっちゃった。


「まぁ、ほのかがいい、って言うなら、こっちは願ったりだけどさぁ‥‥」

 テーブルの上片付けながら、あかねさんがぼそっ、と何か言ったけど、わたしには聞こえてなかった。

 だって、わたしは見ちゃったから。

 立ち上がるほんのちょっと前、にこ〜って笑ったほのかの顔。他の人にはただの笑顔でも、わたしにはわかる。あれ、絶対‥‥

「ま〜た、なんかたくらんでるわね。ほのか」

 えっ? って顔で振り向いたあかねさんに、思いっきり作った笑顔で応えてから、わたしは手早くたこ焼きをハンカチで包んでバッグに押し込んだ。


 ちょっと頭下げて、さぁ、走らなきゃ。手遅れになる前に‥‥!!

 タコカフェのバンが、公園の奥の方に見えてきた。ふぅ、ようやくだよ。

「ねぇねぇねぇ、なぎさぁ‥‥」

 志穂たちにおしおきしてから、黙ってふたりの前を歩いてたんだけど、

「もういいでしょ? そんなムクれないでさぁ」

 そろっそろ、ふたりとも空気に耐えられなくなったっぽいね。それじゃ、と。

「たこ焼き、おごり!」

 くるっと振り向きながら、あたしは一言だけ言った。くちびるとんがらせて。

 ほぉら、ふたりとも思いっきりうなずいてるよ。よしよし、とりあえずはオッケ。

「それじゃ、行こっか♪」

 また前向いて、ちょっとスキップ気味に公園に歩いてみたりしてね。

 ふたりとも、扱いやすいヤツ、なんて思ってんだろうなぁ‥‥いいけどね。さっきみたいな空気に、もう10分もいたら、あたしのほうが耐えられないもん。

 ま、たこ焼きひとつもうけ、ってのもそりゃあるんだけどね。もう、ソースも倍で頼んじゃおっか‥‥って、ん?

「あれ、あれ、あれれぇ?」

 志穂がびっくりした声出しながら、あたし追い越して走ってく。あたしも莉奈と顔あわせてから、あわてて追っかけてった。だって、あれってさぁ‥‥


 公園に近づくにつれて、見間違いじゃないってわかってきた。パラソルたたんでるひかりに、テーブル持ってバンに歩いてくあかね先輩‥‥って、店じまい? こんなに早く??

「あかね先ぱーい!」

 ダッシュで志穂追い抜いて、あかね先輩に手ぇ振ったら、先輩がテーブル置いてこっちむいて、

「お、なぎさに、志穂に、莉奈かぁ。ちょうどいいや、手伝ってよ」


 にっ、ていう笑い顔見た瞬間、背中がちょっと寒くなった。ちゃんとコート着てるってのに。

「みんな座ってる? んじゃ、行くよぉ☆」

 あかねさんの声のあと、かくん、って、つんのめったみたいな感じがしてから、ゆっくり車が動き出した。

 私の目がなんとなく、あかねさんの方にいっちゃうわ。テーブル全部片付けて、なんていきなり言われて、ちょっと疲れてるのもあるけど‥‥運転してる背中なんて、あまり見ないものね。

「ん? どしたの、ひかり?」

 声かけられて、はっとした。私、なぎささんと並んで座ってたんだったわ。私はとっさに手を振ってごまかそうとしたけど‥‥心配そうな顔。そうよね、もう、1年近く一緒にいるんだもの。わかっちゃうんだわ。

 気がついたら、また目が勝手に運転席の方をむいてる。あかねさんの隣――助手席には、なぎささんのお友達の志穂さん。いつもは私がいるところに、志穂さん‥‥

「あぁ、アレね」

 別の方から声がして、ぱっと振り向いたところに、やれやれ、って感じの顔があった。

「ごめんねぇ、九条さん。志穂って先頭に座るの好きだからさ。今日だけ、ね?」

 確か莉奈さん。やっぱり、なぎささんのお友達。

 私が何も言えないでうなずいてたら、背中がぽん、って叩かれた。

「まぁまぁ。帰りはあたしが引きずりおろしてやるからさ。勘弁してよ、ひかり」

「こらこらこらぁ! 聞こえてるよぉ、なぎさ!」

 あ、志穂さんの声。助手席のまくらにしがみついて、こっち見てる。

「ここはひかりちゃんの指定席だもんね〜。とったりしたら、大先輩になにされるか‥‥うわぁ! 待って待って待って、あかね先輩っ!! 冗談、冗談ですってばっっ!!」

 ‥‥前の席で、なにやってるんだろう? なんだかものすごく焦ってる志穂さんの声の中、くすくす笑ってるなぎささんたちの目が、私とあかねさんをちらちら見てる気がするけど。

「それよりそれより! みんなで話聞こうよ。置きクロスのこと!
 ‥‥って、なによなによなによ? ぽかーんとしちゃってぇ。みんな使ったことあるでしょーが、あかね先輩の置きクロス」

 置き‥‥?

「志ぃ〜穂。たこ焼きのおごり、もうひと皿追加したいの?」

 なに言ってるのかわからなくて、私はなぎささんと志穂さんをただ交互に見てた。なんだかふたりの間に、ボールが飛び交ってるみたい。

 どうしよう、って考えてると、からだが車の前の方に傾いた。あ、赤信号なんだ。

「こらこら、ふたりとも。ひかりが置いてきぼりくらってるじゃないか。‥‥それにしても、まだあるんだねぇ。あたしが卒業したとき残してったクロスってさ」

 あかねさんが、ちらっとだけ振り向いた。ふしぎだな。顔を見ただけなのに、ほっとするわ。

 そっか、置きクロスって、学校に残していくクロスのことだったのね。なぎささん、もう卒業だから、それでなんだ。

「もう、ラクロス部名物ですよぉ。なんたって、正しく振らないとクロスに振り回されちゃうんですからね。『びみょ〜』な折れかけクロスだから‥‥」

「『びみょ〜』なクロスで悪かったねぇ、り〜なちゃぁん?」

 正面に座ってる莉奈さんの顔が、ぱっ、と固まっちゃったわ。

 いきなり、車の中だけ温度が下がった気がする。な、なんかヘンな雰囲気。なんとか、しなくちゃ。


 ぶぉん!


 いきなり大きくなったエンジンの音で、みんながぎゅっ、とからだを縮めた‥‥けど、動いてない?

「あはは。ごめんごめん、冗談だよ。
 あたしの置きクロスって、卒業して2ヶ月で折られちゃったんだから。『びみょ〜』なのは当たり前さ」

 運転席を見ながら、私はどんな顔したらいいのか分からなかった。なぎささんたちも、同じみたい。

 だけどあかねさんの顔が、にこにこ笑ってる。私たちひとりひとりの顔、確かめてるみたいに見ながら。

「あのクロスはね、卒業しても後輩を信じてる、って証拠に置いてったんだよ。折られたっていいじゃないか。あたしが信じてるのは、変わんないんだから。
 それがまだ残ってるってんだから‥‥あたしは、間違ってなかったんだよ」

 あかねさんの顔が前を向いたら、すぐかくん、ってつんのめった感じがして、また車が動き出した。


「信じてやんなよ。なぎさ」

 静かな車内に言葉が響いたのといっしょに、隣でうなずいてる気配がした。とっても気持ちいい、あったかい気配が。


 ‥‥助手席より、この席の方がいいかも。なぎささんたちが、いるときは。

 車がほのかン家の前に停まったとき、な〜んかイヤな予感がしてたんだよ。実はね。

「いらっしゃい、みんな。 あ、なぎさたちも来てくれたのね

 車を降りたら、目の前にほのか。思いっきりの笑顔が、な〜んかあやしい。スキー行ってから、なんとな〜くほのかの考えが以前(まえ)より読みやすくなった気がするンだよね。

 考えごとがあるときに、ヘンなの増やして欲しくないんだけどなぁ‥‥痛たたっ!

「こらこらこらぁ! な〜にやってんの、なぎさ。さっさとテーブル持ってく!」

 車の中から、莉奈たちが荷物持ちながらジロっ、とこっち見てる。ああ、出口ふさいじゃってたんだっけ。

 ‥‥にしても、志穂ぉ〜、テーブルで小突かなくたっていいじゃないのよぉ!

「ほらほら、早くしようよ。日が暮れたら、パーティできないからね」

 あれ? ほのかの後ろから出てきたのって‥‥化学部の、ユリコだ。なんだ、ほのかだけじゃないのか。ふぅ。

 よぉし。テーブルに、パラソル持って、とっととほのかン家の庭に運んじゃおっか。もう、イヤな感じはなくなってるし。

 なんたって、ユリコがいるんだもんね。あの子がいれば、ほのかだってそうそう暴走しないはず。さっきの感じは、気のせいだったんだよ。きっと。


 ‥‥なんて。ちょっとでも思ったのが、間違いのもとだったんだ。はぁ‥‥

「おまちどうさま、なぎさ」

 テーブル運んで、カセットコンロ置いて、ちょっと休憩してたあたしたちの前に、白いのがやってきた。

 おぼんにひとり用のナベのせた、ひかりたち。タコカフェの白いコート着て‥‥あれ?

「ほのか。なんでほのかだけ白衣着てんの?」

「これ? ふふふ。なんとなく、タコカフェのコートみたいでしょ?」

 いや、どっちかって言うと実験室の雰囲気なんだけど‥‥あぁ、よく見たら、ユリコも白衣姿だ。みんな気にしてないみたいだし、まぁ、いいか。


 みっつのテーブルに、ふたつづつ。ふたの色がみんな違うナベ。ほのかン家はなんでもあるね、ほんと。

 ひかりから、ぬれタオルで熱いナベ受け取って、コンロにちょっとだけ火をつけて、と‥‥最初っからここで煮ないと、ちょっと雰囲気でないけど、しかたないか。本番じゃ、渡してあとよろしく、ってわけにいかないもんね。

 まわり見わたしたら、全部のナベがくつくつ言いだしてきてた。あかね先輩もうんうん(うなず)いてるし、よしよし。

「みんな、ジュース渡ったかい?‥‥それじゃ、タコカフェの新メニューに、かんぱーい!」

 あかね先輩の掛け声と一緒に、かんぱーい、といただきまーす、が混じる中、ナベのふた取ったら‥‥おおっ!

「はい、おしるこですよ」

 同じテーブルに入ったひかりが、にこにこしながらあたし見てる。味付け、手伝ってきたんだね、こりゃ。

「ほんと、甘いくていい匂いだよ。ありがとね それじゃ、いただき‥‥」

 って、小さなおたまをナベにいれたとこで、あたしはなんとなくヘンだな、って思った。

 みっつのテーブルにふたつづつのナベ。あわせてむっつ、だよね。ここにいるのは‥‥


 くるっ、と振り向いたところに、ほのかが立ってた。白衣姿でボード持って、みんなを見まわしながら、何か書いてる。

 待ってよ、ちょっとぉ。いくらほのかでも、まさか、ねぇ?

 そうだ、ユリコはどうよ。あの子がいるんだから‥‥って、あっちゃぁ。

 莉奈たちのとなりのテーブルで、やっぱりボードに何か書いてるよぉ。火の具合とかメモってるふりしてるけど、あたしにはわかる。食べない気だ、あれ。

 って、ことは‥‥ヤバいっっ!!

「ひかり! それ食べちゃダメっ!!」

「え?」

 おたまごと、がばっとフタした向こう側で、ひかりが目を白黒してる。かわいそうけど、今はちょっと構ってらんないな。ほのか、いったいなに入れて‥‥あ、そ〜ぉだ♪

「ひかり。悪いけど、火とめてジュースだけ飲んでてよ。あたし、ちょっと行ってくるから」

 手元のお椀におしるこぱっ、と入れて、あたしはそぉっと歩いていった。


 見てなよ、ほのか。簡単にやられないんだから!

 ユリコのテーブルには、あかねさんとユリコ。うまく勧めてるみたいね。あかねさん、ぱくぱく食べてるわ♪

 となりのテーブルは、莉奈ちゃんと志穂ちゃん、か。おしゃべりばっかりで、なかなか食べてくれないわ。う〜ん、これは、あとで行かないとダメかしら?

 で、最後のテーブルは、と‥‥あら? なぎさがいない?

「ほ〜のか♪」

 わたしがメモとっていたノートパッドの影から、ぱっと顔が現れた。

「な、なぎさ。食べないの?」

「いや、ちょっと、ね。ほのかに、相談っていうか、その‥‥」

 あら?

 手を後ろに回して、もじもじしてるわ‥‥本当に、困ってるみたい。なんだろう、なぎさがこんなになるなんて。

「なに遠慮してるのよ。わたしにできることだったら、なんでも聞かせて」

 ちろっ、と上目遣いしてるなぎさなんて。こんなの、はじめてだわ。いったい、なに?

「卒業の記念に、クロスを置いていけって言うんだよ。志穂も、莉奈も、あかね先輩もさ。だけど‥‥残してって、いいのかなぁ、って思ってさ。
 莉奈たちは、きっとみんな欲しがるから、って言うんだけどね。それが、あたしがキャプテンのときに優勝したから、っていうんなら、なんか‥‥違うような気がして」

 ふぅん‥‥そっか。なぎさも、おんなじなんだわ。

 じぃっと、まばたきもしない目を見つめてたら、思わず口元が緩んじゃった。笑っちゃいけない、って思うんだけど。でも‥‥そっか。

「ねぇ、なぎさ。自分がいたこと、って、学校に残しておきたくない?
 わたしは、残したいわ。みんな、忘れちゃうかもしれないけど。壊れて、なくなっちゃうかもしれないけど。自己満足かもしれないけど。でも、わたしのおくすり、残しておきたいな‥‥」

 ちょっと目をつむって、そのままわたしは顔を上げた。その向こうに、理科室が見えるわ。みんな気にとめないけど、すみっこの方にひとつだけ残ってる、小さなビンがあって‥‥むぐぐっ!?

「で、残してくくすりの実験してた、ってわけ?」

 い、いきなり口の中に、なにかが入ってきた!? 口いっぱいに、あずきの味が広がって‥‥まさか!

「言っとくけど、さっきの話はホントだよ。ほのかに相談して、気持ちもよ〜くわかってすっきりした。サンキュ。
 ‥‥だ・け・ど。それとこれとは別だかんね」

 いけない、って思ったときには、もう、目の前が、ぼぉっとして‥‥

 目の前でかくん、って崩れそうになったほのかの身体を抱き上げて、あたしはひかりのテーブルに向かった。

「スプーン大盛りでこれかぁ‥‥どうするつもりよ、ほのかぁ」

 イスに座らせたけど、手はだらーん、ってなったまま。となりでひかりが、心配そうに覗き込んでるよ。

 あたしに使うくらいだから、いのちに関わるようなくすりじゃないんだろうけど‥‥ホントに、大丈夫かな?

「さっすが美墨さん。バレるの、早かったね」

 目を上げたら、そこに白衣のユリコがいた。やれやれ、って感じの顔で見つめてる‥‥

 あたしは立ち上がって、まっすぐユリコと目線を合わせた。でも、しばらく言葉が出ないよ。ほのかのイタズラ、あんたが止めないなんてっ!

 でも、ユリコがいきなり、にやっ、て笑った。なに?

「怪しかったでしょ? ほのかだけひとりでナベから離れてたし、わたしもエプロンでいいのに白衣着てるしね。ほのかをいっつも見てる美墨さんなら、きっと気づいてくれると思ってたんだ」

 へ? じゃ、これ、最初っから?

「ほらほらほらぁ! や〜っぱ、あたしの言った通りじゃない。ユリコちゃんが怪しいときは、なんかあるんだって」

 いつもの声で振り向いたら、志穂と莉奈がそばまで来てた。‥‥一番向こうのテーブルじゃ、あかねさんが突っ伏してるけど。

「ね? 被害は最小限にできたでしょ。やっぱこういうのは、自分が実験台になるべきだからね。あかねさんには悪かったけど‥‥ひゃうわっ!?」

 その瞬間、あたしは開けた口がふさがらなくなっちゃった。

 だって、目の前で、その‥‥

「ご、ごめんっ!」

「なに言ってんのよ! 美墨さん、助けてぇ!」

 ったってぇ。これってどう見ても、

「うふふふふふふ」

 ちょっとだけ笑い声出してから、またユリコの首すじ、ほのかが吸ってる。なんて、言うか、えっと、

「ほのかが、ユリコ襲ってンの??」

 なんかこらえてる感じのユリコと、嬉しそうなほのかの顔見て、あたしたちはぽかーんとしちゃってた。動かなきゃいけないんだけど、どうしたらいいか‥‥

「ほのかさん、しっかり! ‥‥ぅひゅゃぁ!」

 ああ、今度はひかりに襲い掛かって‥‥ほっぺたに吸い付いちゃった。

「な、な、なんなんですかぁ、これぇ!?」

 あはは。ひかり相手だと、なんだかかわいいな‥‥って、ちょっと!?

「だ〜めっっ!!」

 すっごい大声といっしょに、ほのかが吹っ飛ばされた。あたしがなんとか受け止めて、イス座らせたけど、いまのって‥‥いいっ!?

「つっかまっえたっっ♪」

「きゃっ!? あ、あかねさん??」

 いつのまにか、あかね先輩がひかりに背中から抱きついてるよ。ほのかみたいに吸い付いたりしないけど、髪の毛とかほおずりしたりして‥‥

「これは、あたしの〜っ

「え? あ、あの‥‥えぇっ!?」

 真っ赤になってるひかり見て、あ〜あ、って、莉奈たちがため息ついてる。そんな場合じゃないでしょうが!

「先輩、あかね先輩、本音出しすぎっ!!」

「ほん、ね?」

 お願いだから、こっち見ないでよぉ。どんな顔すりゃいいのよ、まったく。

「あーっ!! もう、いいって! ひかり、あんたは気にしなくていいからっ!!」

 もう、ほのかってば、なんてたちの悪いくすり使うのよぉ‥‥ひっ!

 背中に、寒気が走った。なんか来る。なんか‥‥なんて、決まってンじゃないの!

「こっち来るなぁっ! わぷっ!!」

 振り返ろうとしたときには、もう手遅れ。横からおなかに抱きつかれたあとだったよ。もちろん、ほのかに。

 あぁ、そのままほっぺたに吸い付いてきた。さっきのひかりみたい。あたしじゃ、あんまりかわいくないけどさ。

「お〜い。とりあえず、抵抗しないほうが早く解放されるみたいよぉ。
 抵抗すると、とことん襲い掛かってくるわ」

 ユリコの、疲れた声がのんびり聞こえてきた。まったく、もぉ〜っ、自分は解放されたからって無責任にぃっ!

 だいたい抵抗するな、ったって‥‥ん〜。ま、まぁ、ほっぺたくらいならいっか。

「はいはい。ほら、じゃそのあたりだけね。さっさと済ませなさいよ‥‥ってちょっと! どうしてあんたは、正面に回ってくんのよ?」

 抱きついた腕を、よいしょ、よいしょ、って。なにやってんのよぉ、ほのかぁ!

「やっぱり‥‥なぎささんだからじゃ‥‥?」

 ひかりの声の方見てみたら、まだあかねさんにほおずりされてるよ。でも、ひかりもあかねさんの髪をなでてあげてる。なんか、平和だなぁ。

 うわっ、また正面に近づいてきた! こっちは平和どこじゃないよ!!

「うれしい? やっぱ、うれしい??」

 志穂がキラキラした目でこっち見てる。莉奈もユリコも止める気まるっきりないし、もぉ〜っ!

「うれしいわけあるかぁ〜っ!
 ちょっと、ほのか! 離れなさいっ、てっ!!」

 あ〜っ、全然離れてくれないよ。いつもはそんな力ないのに。これも、くすりのせいなのかなぁ‥‥うわ、来たっ!

「もぉ! 口元なんか、なめるんじゃないってば!‥‥ ぶ?」

 思いっきり叫んだとたん、中があったかくなった。っていうか、

「ぶぶ、ぶぶぶ‥‥ぷはっ!
 こら〜っ、ほのかっ! 口の中までなめまわすんじゃないっっ!!」

 どこまでやる気よ、まったくぅ。もうおなかじゃなくって、わきの下あたりに抱きついて、胸に顔ぴたっとくっつけてるし!

「えっとえっと、え〜っと‥‥」

 ん? なんだろ、ほのかが落ち着いたと思ったら、なんだかまわりが変な雰囲気だよ。ひかりなんか、無理に目ぇそらしてる?

 あれれ、ユリコが近づいてきた。あたしの耳元に口寄せて、

「いまのってさ、ふつう『ディープキス』って言わない?」

 でぃー? なっ‥‥!?

 ばっ、とほのかの両肩つかんで思いっきり引き剥がそうとしたら、一瞬見えたよ。すっごく幸せそうに笑ってる、ほのかの顔が。

「こら〜っ! ぜったいわかっててやってるなっ、ほのかっっ!!」

 その瞬間、胸のあたりが楽になった。

「ふふふ。おかえしっ

 そう言いながら、そのまま家に飛び込んでくほのかのあとに、忠太郎がこっち向いて座ってる。まるで、来るな、って言ってるみたいに。

「っはふぅ。ほのはっへは‥‥ふへ?」

 口ンなかに、なんかある。指でさわってみたら、うすっぺらい何か‥‥よっ、と。

 出てきたのって、一枚の紙。さっきなめたとき、いっしょに入れたんだな。ええと‥‥


『なぎさのクロスに、わたしのくすりつけて、いっしょに残していこ。不注意で割ったら呪われるぞ、とか書いて♪』


 読んですぐ、あたしは紙をポケットにしまった。

「いっしょに残す。いっしょに残ろう、か‥‥」

 そうだね。それがいいかもしれない。あたしとほのかが、ここにいた、って証拠だから。わがままだけど、そうしたいから。

 わかったよ、ほのか。わかったけど、けど、さぁ‥‥


 ひかりは、半分眠ったあかね先輩支えながら、そっぽ向いてるし。

 志穂たちは、ちらちらこっち見ながら、くすくす笑いしてるし。

 ユリコも、やっぱりこっち見ながら、ボードになにかメモしてるし。


 ったく、ったく、ったくっっ! この妙な雰囲気、どうしてくれんの。ほのかっっ!!

『小説?小噺?』へ戻る