けーたい♪ケータイ
(Ver.1.0.0)

「ふぁ‥‥ぁああ」

 目を開けたら、まだ暗いミポ。『梅雨』っていう、寝苦しい季節はまだ先らしいのに、なんでこんな時間におきちゃったミポ? ‥‥まぁ、いいミポ。もうひと眠りするミポ。

 そう思って目をつむったら、外でなにか音がするミポ。まさかとは思うけど‥‥ベッドでは、ほのかがぐっすり寝てるミポ。間違いで起こしちゃかわいそうミポ。

 わたしはちょっとだけ元の姿に戻って、障子を開けようとしたミポ。そしたら、障子の向こうから、へんな声が聞こえてきたミポ

「お水、お水‥‥」

 おみず? なに言ってるミポ?

「お水、お水、ひっひっひっひ‥‥」

 な、なにミポ、この笑い声は!?
 ――ち、ちがうミポ。これは、ドツクゾーンなんかじゃないミポ。こ、こっちの世界の、おばけミポぉーっっ!!

 ふぁ‥‥眠ぅ〜いぃ〜。

 もう、メップルったら。夜中に『水がぁ〜』なんてさわぎ出すんだから。お世話のカード色々使ってもさわぐから、病気かと思ったら‥‥寝ぼけただけ、ですって!? あぁ、睡眠不足は乙女の敵だぁ〜。


 クロスによっかかって眠れるくらいの満員電車にゆられて。改札までの人の波に流されて。うとうとしながら歩いてると、気持ちいい風がきた。

 目を開けたら駅の外。上には青空に白い雲。あぁ、なんかいいな。こう、『朝』って感じの朝。

「ふわぁぁ〜あっ」

 っとと。いけない、いけない。うっかりあくびが出ちゃった。思わず目だけでまわり調べて‥‥知ってる人、いないわよね? あの人に見られたりしたら、きょう一日、真っ暗になっちゃうよ‥‥

「み〜た〜ぞおぉぉ〜」

 うひゃあっっ!! な、な、なに!?

「へへ。おはよ、なぎさ」

 あ、なんだ。志穂に莉奈じゃない。

「脅かさないでよぉ」

ふたりとも、笑いながらわたしの肩たたいた。

「あれ、なになになに? それ、ケータイじゃない」

 え?

 志穂があたしの腰のあたりを指さしてる。指の先を見てみたら‥‥あれ、ほんとだ。メップルがいるポシェットと別に、ピンク色のころん、としたのがぶら下がってるよ。

「ケータイ‥‥だよね、これ?」

 言いながら、指先でつんつん、ってつついてみる。間違いない、みたい、だけど。

「なーに寝ぼけたこと言ってんの。自分のでしょ?」

 うん。あたしのスカートについてるんなら、あたしんだよね。普通。でも、こんなの持ってたっけ??

 頭ひねってたら、いきなり腕が動かなくなった。あたしの両ひじ、だれかにつかまれて‥‥って、莉奈!?

「志穂ぉ〜、それ、とっちゃえ

 ちょ、ちょっとぉ!

「うふふふ。さー、だぁれの番号ぉ入ってるっかな〜♪」

 な、なんですってぇ〜っっ!?

「ちょ!ば、ばか!やめなさいよ!! そもそも、それあたしんじゃないんだからっ!!」

 あ、歯で笑ってるよ。こいつは。

「シシシ‥‥ そーんなこと言ったってだーめ」

「志穂。名前、名前チェックして。男の子の名前ない?」

 もう!信じてないな、ちくしょぉ。

「だめよぉ。名前だけ女の子にしてる、ってこともあるんだから」

 だれがするかっ! 浮気隠してるオジサンじゃないんだからっ!

「いーかげんにしないと、怒るわよ!!」


「朝からなに怒ってるの?」

 莉奈の手、振りほどこうとしてたとこに、おおきなおでこが、ひょい、って割り込んできた。

「ほ、ほのかぁ〜 ヘルプぅ〜」

 ああ、きょとんとしてるよ。ん〜と‥‥

「あ、ねぇねぇねぇ、雪城さんも見る? なぎさのケータイ」

「なぎさの? どれどれ?」

 ほのかぁ〜。あんたも敵かぁ〜‥‥

「あら? ‥‥番号なにも入ってないみたい」

「「え?」」

 うぉっとっと。莉奈ったら、あたし放り出して体乗り出してるよ。

「あれぇ、からっぽ?‥‥うわっ!」

 志穂、じゃま。っと。あ、ほんとだ、画面まっしろ。

「な〜ぎさぁ〜。ど〜いて〜」

 あたしのおなかの下から、じたばたしてる志穂のつぶれた声。え〜い、もちょっと押してやるぅ‥‥お?

「も、そのへんにしてさ。早く学校いこか」

 あれれ? 両肩が持ち上がってく‥‥莉奈だなぁ?

「じゃ、先にね〜」

 あぁ、ちょっと浮いたスキに、志穂が逃げてっちゃった。ケータイ、あたしのポケットにつっこんで。

「覚えてなさいよぉっ!!」


 あ〜、助かったぁ。ヘンな番号入ってたらどうしようかと‥‥ん? ほのか、なにやってんの??

「さぁ、どんな番号入ってるかしら

 えぇっ!?

「ち、ちょっと、ほのか!? あんた今、なにも入ってないって言ったばかりじゃ‥‥」

「うん? ちょこちょこ、ってさわって、セキュリティモードにしただけよ」

「え!?」

 ちょこちょこ、って‥‥

「慣れると、けっこう簡単よ」

 さっすがほのか。でも、あれ?たしか‥‥

「慣れる、って‥‥ほのか、ケータイ持ってたっけ?」

 言ったとたん、にやーって笑ったわ。そのまま上着のすそ、ちょっとめくったら‥‥え、おんなじケータイ!?

「わたしもね、気がついたらスカートについてたの。ここに来るまでに、使い方覚えちゃった」

 あたしは、ほのかの手の中とスカート、かわりばんこに見つめちゃった。このケータイ、なに??

 なぎさといっしょに教室に入って、席にカバン置いてたら、なにか視線を感じた。その方向ちらっと見ると、みんな変な顔してわたし見てる‥‥ううん、わたしと、なぎさ見てるわ。なにかしら?

「ねね、なぎさと雪城さん、同じケータイじゃない?」

「っていうか、雪城さんが堂々と校則破るなんて、ねぇ?」

 コソコソ、って声がして、視線の正体がわかった。まぁ、いいか。言わせておけば。

「やっぱさぁ、最近なぎさとつきあってるのがぁ、ねえぇ?」

 ―― 前言、撤回。

「言いたいことがあるなら、はっきりわたしの顔見て言いなさい!」

 立ち上がって、チラチラ見てた子の方に歩いていったら、いきなりおなかが重くなった。

「ほ、ほのか‥‥」

 見ないでもわかってる。なぎさがおなかにしがみついてるんだわ。しかたないから、わたしはその場でさっきの子を見据えた。

「さぁ!」

 ああ、みんなして、背中向けちゃったわ。もう、だまるくらいなら言わなければいいのに。

「あたしは、別に構わないから」

 おなかの下から、なにか聞こえてくるけど、そういう問題じゃないわ。

「なぎさは黙ってて!」

「ほ、ほぉのかあぁ‥‥」

 う〜ん、そういう声出されちゃうと、ねぇ。

 わたしが困ってたら、ちょっと遠くから声がした。

「だ〜めだって、むきになっちゃ」

 え? むき、って‥‥わたし?

 振り向くと教室の入り口から、ラクロス部の高清水さんたちが近づいてきた。

「なぎさ〜、ちょっと雪城さん借りるね〜」

「え? ちょっと、莉奈?志穂!?」

 ちょこちょこ、って近づいてきた久保田さんがなぎさの手をほどいて、高清水さんがわたしの手を引っぱって‥‥気がついたら、教室がはるか後ろに見えてた。

「あと、よろしくぅ

 もうちょっとで予鈴だから、廊下には人が少ないな。

 そう思いながら手を引かれてたら、高清水さんが急に曲がった。なんだ、トイレいくのね。もうちょっと、変わったとこに行くのかと思ってたのに‥‥体育館うらとか。

「ありがとね」

 いきなり高清水さんが言って、わたしはわれに返った。となりで久保田さんも、にこにこうなずいてる。

「え、と‥‥なにが?」

「なぎさってねぇ、人気者なんだよ」

「そうそうそう。誰とでもす〜ぐ仲良くなるしぃ、カラッとしてるしね」

 うん。それはよくわかるけど‥‥ふたりとも、なんだか苦笑いしてるわ。

「だからね、よくあるのよ。あ〜いうヒガミ」

 へぇ。けっこう苦労してるんだ。なぎさ。

「でもでもでも! こんなはっきり怒ったコって、はじめてだよ!」

 え?

「普通のコは黙っちゃうもんねぇ。逆にベタベタしだすコもちょっと‥‥だけど。」

「なのになのに。自分のことは平気でも、なぎさのことになったらいきなり怒りだすんだもんねー。うんうん」

 二人ともにこにこしながら、わたしの肩をたたいてるわ。久保田さんなんか、わたしに頭くっつけちゃって、ほんとに嬉しそう。

「それよりそれより! このケータイ!!」

 久保田さんがいきなり顔上げたと思ったら、携帯持ってた。わたしの腰についてたの。

「そうそう。なぎさと同じケータイ持ってるなんて‥‥なんか、怪しいわね」

 高清水さん、いたずらっぽい目で見てるわ。え〜と。ちょっと、ごまかせないかもしれないわね。

「り〜な。ほのかちゃん、困ってるよ? そんなイジメないの。
 とりあえず、ケータイはどこかに隠しとこ。ほら、なぎさのも」

 あら? いつの間に??

「へへへ。カットだったら、なぎさよりあたしの方が上だも〜ん♪」

 ほのかたちが教室に戻ってきたら、すぐホームルームになった。声かけるひまもなかったな。ま、いいけど。

 けど、ほのかって結構、好かれるタイプなんだなぁ。出てってからどうやってフォローしようか、って思ってたのに。気がついたらみんなして、あたしつついてるんだもん。

『どうやってそんな仲良くなれたの?』な〜んて。くやしいから、絶対教えてやらないんだ。ほのかには。

 ポケットのケータイはいつの間にか消えてる‥‥志穂だな。さすがに授業中に持ってちゃヤバいから助かったけど。でも、ほのかに変なこと吹き込んだりしてないでしょうねぇ‥‥?

「‥‥すみさん、美墨さん! 25ページ、お願いね」

「あ、は、はいっ!」

 いけないいけない。まるっきり聞いてなかったわ。ええと、現国の25ページ、っと。

「あめつちの、わかれしときゆ、かむさびて‥‥」

「ストーップ! 美墨さん、いったいなに読んでるの? 今はホームルームよ?」

 ‥‥あ。

 あ〜あ。爆笑されちゃったよ。あはははは。って、ほのかまで笑ってないでよねー。あんたのせいも、ちょっぴりあるんだから。

「午後の授業で使うから、お昼に資料25枚、取りに来てね、って言ったのよ? もぅ、しっかりしてね」

 む〜。そんなこと、なんであたしに言うんだろうなぁ。まったく。

「はぁい」

 って、とりあえず返事して座ったのに、先生まだあたし見てる。なにかと思ったら、いきなりチョークで黒板の端っこをコンコン‥‥

「号令もおねがいね。日直さん?」

 いっけない。そうだったっけ。

「あ、資料取りに行くの?」

 お昼休み。理科室に行ったら、ほのかがひとりで紅茶飲んでた。いいかげん慣れてはきたけど、フラスコのポットにビーカーのカップでなごんでるのは‥‥う〜ん。

「なに? 難しい顔しちゃって」

 この子とつきあってると、ほんと、常識変わっちゃうな。ま、いっか。それがほのかだし。

「なんでも。で、もう終わったの?」

 昼休み中に、薬品のチェックしちゃうんだ、って言ってたもんね。

「うん、いま休んでたとこ。ちょっと待ってて。紅茶飲んじゃうから」

 ビーカーに顔近づけて、ふーふー、って冷ましてる。そんな姿みてると、なんだかあたしまでのーんびりしちゃうな。

「急がなくていいって。‥‥あー、そういえばさ、あたしのケータイ、志穂が取ってったんでしょ?」

 ほのか、え?って顔でこっち見てから、うんうんうなづいて、

「そうよ。ラクロス部の部室に、って言ってくれたんだけど、授業始まりそうだったから、この机の中に‥‥」

 実験机につっこんでゴソゴソやってた手が、ぴたっ、と止まった。

「どしたの、ほのか?」

 目がまんまるくなってるし。こんな顔、珍しいわ。

「ケータイが‥‥」

 机の上に、朝のケータイがひとつ。手を入れてまたひとつ。うん。これで揃った‥‥って、また手入れてる!?

 あたしも机の中に手を入れた。ほのかの手ごとにぎって、机の上に出して。これって、まさか‥‥

「「ふえてるぅっっ!?」」

「う〜ん‥‥」

 念のため理科室の入り口にカギかけてる間、ほのかは実験机の上でケータイ調べてた。上から、横から、ひっくり返してまた下から‥‥

「どう、ほのか?」

 声かけてもしばらく調べてたけど、両手にぎって、そのままう〜ん、って伸びして、

「うん。たぶん、だけど‥‥生殖機能はないみたいなのよね」

 なっ!?

「なにバカなこと言ってるのよっ!」

「なにって‥‥あ、なぎさ、変なこと考えてたでしょ?」

 あ、だめだ。顔あつくなっちゃってるのがわかる。

「生物かどうか、一応確認しなくちゃね」

 おっきなガラスのボールに、ケータイ入れてじっと見てるわ。なにやってるんだろ?

「夜中にね、ミップルが、お水って言ってたの。気になるのよね」

 そういえば、メップルもミップルも、まだ起きてこないみたい。そっか、お水ねぇ‥‥って、

「ちょっと待って、ほのか。それは、なに?」

 振り返った手に、ひまわり柄のジョウロ。きょとん、って顔であたし見てる。

「お水でふえるかどうか、実験してみようと思って」

 にっこり笑って言ってんじゃないわよ。

「却下!」

 む〜、っていう顔をちょっとだけしてから、ほのかがまたボールに向かった。

「常識を振りかざす人々をふり切って、科学者は実験にいそしむのでした‥‥よっ、と」

「こら〜っ!!」

 それじゃ、あたしが悪者じゃないのよ!

「きゃー。たすけてー

 喜んでんじゃないわよ。まったく。‥‥ま、でも、おかげで少し怖くなくなったかな。ありがとね。

 コピーする資料を受け取ってるなぎさを、わたしは職員室の前でしばらく待ってた。まどの外は朝と同じ、いいお天気。

 ちょこっとだけ見える校庭には、いくつかのグループがボールで遊んでる。校舎うらの方はいくつかおしゃべりの輪があったり、木陰でぼーっとしてる子がいたり‥‥いままでのわたしも、きっとこの中のひとりだったんだろうな。

 でも。

「ミップル、ミップル?」

 ポケットをちょんちょん、ってつつきながら小声で呼んでみたけど、起きてこない。いくらなんでも、眠りすぎよね。熱とかはないみたいなんだけど‥‥

 気がついたら、無意識に反対側のポケットつついてた。これも心配のタネよね。

 理科室でふえちゃったケータイ、ポケットの中ではまだひとつだけ。まだ調べたいから、ってなぎさとひとつづつ持って、ふえたひとつはガラスビンに閉じ込めて。‥‥でも、これでもふえちゃったらどうしよう? 調べたいのはわたしの我がままだわ。危険なことになる前に、壊しちゃったほうが‥‥

「おまたせ、ほのか。じゃ、コピーに行こ?」

 ああ、いけない。目の前なのに、なぎさが出てきたのに気がつかなかったわ。‥‥それにしても、なぎさったら資料のことだけしか考えてないみたい。一応、注意だけはしとかないとね。

「ねぇ、まだ、ひとつ?」

 ポケット指さしながら訊いてみたら。

「ん? ‥‥うん。そうみたい」

 あ〜ぁ、やっぱり忘れてる。

「だ〜いじょぶだって。いざとなったら、踏むなり焼くなり、どうでもできるよ」

 なぎさったら、気楽に言ってくれるわね。‥‥ふぅ。やっぱり、あんまり深くは考えられないのかなぁ。

 そう考えてたら、なぎさがいきなり歩き出した。

「なんてね。あたしひとりじゃ怖くて捨てたいとこだけどさ、ほのかも持ってるんだもん。最後まで、つきあうからね」

 そう言いながら、ぽりぽりかいてる頬が少し赤いわ。‥‥また前言撤回。頼りにしてるね、なぎさ

 放課後。莉奈や志穂といっしょに部室で体操着に着替えてたら、着替え畳んでる莉奈がとなりから声かけてきた。、

「なぎさ、あんたそれ持って走り回る気?」

 指さしてる先は、あたしの腰のとこ。やば。アンテナがちょこっと出ちゃってるよ。

「あははは‥‥やっぱ、無理かな?」

 テレ笑いしてみたけど、莉奈、しぶーい顔しちゃってる。

「先輩にどやされても知らないからね」

 まぁ、逆だったらあたしもそう思うしね。でも、どうしよう? 置きっぱなしでふえても困るし‥‥

 って考えてたら、目の前に見慣れたアミが出てきた。

「はーい、はいはいはい。だいじなのはわかってるから、今のうちに預けてきなよ」

 横見たらクロス構えた志穂が、あたしの顔のぞき込んでた。

「でも、今から行くと遅れちゃうし‥‥」

「そのくらいは、あたしたちが言っとくからさ。ほら、行ってきなって!」

 うわっ、とっとっと‥‥言いながらふたりしてぐいぐい押すんだもんなー。あぁ、更衣室から出たとたん、背中でドア閉まっちゃった。

 しかたないなぁ。甘えとこっか。

 

 理科室は、静かだった。あれ? 化学部お休みなんて、聞いてないのにな。

 考えながらとびら開けたら、広い教室の真ん中に、ほのか。なんだか、いや〜な予感がする。

「ほのか?」

 返事は、声じゃなかった。ほのかの右手が、机の上を指さしてる。

 見たら、おおきなガラスビン。お昼休みにケータイ入れといた‥‥でも、

「ない‥‥ね?」

 おそるおそる、訊いてみた。ほのかの目がマジだ。まさか、ホントに消えたの?

「それだけじゃ、ないのよ」

 やっと口開いてくれたと思ったら、また指だけでなにかさしてる。あ、あれ?

「‥‥ぬれてる?」

 机の上から床の上、ず〜っと行って窓まで。ゆっくり動かした手の先が、道みたいにぬれてる。

「実はね、お昼休みにわたしが来たときも、やっぱり床がぬれてたのよ。なにかこぼしちゃったのかな、って思ってたんだけど‥‥」

 うん。ほのかの目見ながら、あたしはうなずいた。イヤなもの、思い出しちゃったよ。

「それで思い出した。あたしのとこもだよ。朝起きたら窓がぬれてたんだ。てっきり夜中に降ったんだ、って思ってたんだけど‥‥」

 なにかぬれるたびにケータイがふえたり減ったりなんて、偶然のわけないよね。

 ピロリロピロリロ‥‥

 

 ふたりでぬれた床見ながら考えてたら、高い音が聞こえた。なに、この音? 電話?

「あ、ケータイだわ」

 ほのかのケータイが光ってる。 けど、別のとこでも鳴ってるわ。もっと近くで‥‥あ、

「あたしのもだ」

「出てみる?」

 ほのかの言葉にあたしがうなずくと同時に、ふたりでケータイに指かまえた。せーのっ!

『もしもし‥‥』

 あたしが話す前に、声が聞こえた。それも二重に。ケータイの中からと、外からと。

「あれ? ほのか!?」

『なぎさ? え? じゃあ、どうして鳴るの??』

 首かしげてるほのかと、あたしは目を合わせた。そのとき、ケータイから聞こえてきたのは、別の声。

『あれあれあれ? なぎさと、ほのかちゃんなの?どーして??』

 え?この声

「志穂!?」

『そだよー。なぎさのケータイが置いてあったから、試しにかけてみたん』

 置いてあったぁ? だって、現にここに‥‥あ。

『志穂ちゃん、そのケータイのまわり、ぬれてなかった?』

 あたしが言うより先に、ほのかの声が聞こえた。顔を上げたら、ほのかがじっと床見ながらケータイに耳澄ましてる。

 ケータイの向こう側からバタバタいう音が聞こえてから、今度は莉奈の声がした。

『うん、部室の窓がぬれてるみたい。ウチにもニンジャ入ったのかな?』

 ニンジャぁ? なにすっとんきょうなこと言ってるんだろ、莉奈ったら。

『あ〜! なぎさ、ニンジャの話、知らないんでしょ?』

 いきなり、また志穂の声。取り合いでもしてるのかな? ‥‥いやいや、そうじゃなくて。

「ニンジャなんて、信じる方がヘンでしょうが」

『でもでもでも! ぬれた布を巻きつけてさ、ひょい、って校舎登ってたとこ、見たってはなしだよ?』

 え?

『そうそう、理科室のあたりで見たんだって。ほのかちゃん、だいじょうぶ?』

 思わず、だまっちゃった。そういえば見たことあるような気がする。柱かなんかに布まきつけて、壁のぼってくの。テレビで、だけど。

 それにしても、それでどこ登ったって? ぬれてたのは理科室と、あと‥‥あ。

「ほのか‥‥あたしの部屋、何階だと思う?」

 ちらっと目だけで見たら、ほのかの口元がひきつってた。

「ちょ、ちょっと聞きたくないかも‥‥」

 だよねぇ。

『‥‥ところで、ほのかちゃん。なぎさのケータイ、どの番号登録されてた?』

 ま〜た、志穂ったら。朝見たくせに、な〜に言ってるんだか。ほのか、消えてるって言ってたでしょうが。

『え〜と‥‥』

 え!?

 思わず顔上げたら、ほのかが笑ってた。にや〜って。

『うふふ。どうしよっかな♪』

 ちょ、ちょっと、ほのか。その、うわ目づかいは、なにっ!?

「ともだちなら。ひみつは共有しなくちゃ。ね

『そうそうそう。ひみつはちゃ〜んと共有しないとダメだよー』

 こら〜っっ!!ふたりして、共謀すんな〜っっ!!

「だいたい、ふたりともいつの間にこんな普通に話すようになったのよ!?」

『なかよしだもん。ねー、ほのかちゃん』

『ね♪』

 あれれ? 朝はふたりとも、もっとカタかったのに‥‥ま、いっか。なんだか、あたしもうれしい、って!?

 ピーッ!ピーッ!ピーッ!‥‥

 痛ったぁ〜っ! なにこの音? 思わず耳から離したら‥‥あ、あれ? ケータイの画面になにか書いてある。料金不足ぅ!?

『貸しなって!もぉ、志穂が用件早く言わないから‥‥あ、ほのかちゃん?先輩来ちゃうから、悪いけどなぎさ貸し――』

 いきなり莉奈の声になったと思ったら、すぐ切れちゃった。ボタン押しても、ピコっていわないし。ほんの数分しかしゃべれないケータイ? まさか、ねぇ?

 ‥‥ん?なにか、あたしの頭のとこで動いてる。後ろむこうとしたら、

「あん。動かないの」

 ほのかが、あたしの髪どめはずして、リボン結んでるんだ。なんで?

「貸して、って言われちゃったもの。ちゃんと包んであげないとね

 ほ、ほのかってば‥‥

「あんた、ノリすぎっ!」

 帰り道、駅でなぎさたちと別れてから、わたしはいつもの道を歩いてた。

 ポケットの中から取り出したのは、あのケータイ。もう使えないし、なぎさは捨てるとか言ってたけど‥‥なんとなく、そのまま持ってきちゃった。帰ったら、もうちょっと調べてみようっと。

「でも‥‥」

 でも、意外だったな。こんなちっちゃな機械ひとつで、人と仲よくなれることもあるんだわ。
 ニンジャさん、かな? よくわからないけど、感謝しなくちゃいけないのかも。


 うちの門が見えてきたところで、ケータイはカバンにしまうことにした。おばあちゃまに見つかると、心配かけちゃうかもしれないものね。

 そうだ。心配といえば、もうひとつあったんだわ。

「ミップル、ミップル? もうおうちよ?」

 ケースを取り出したら、すき間からそぉっと顔が出てきた。

「おうち‥‥だいじょうぶ、ミポ?」

 おどおどして、なんだかリスみたい。なにを怖がっているのかわからないけど‥‥

「大丈夫にきまってるわ。さ、部屋に戻ったらお食事にしましょ」

 そう言いながら門をくぐったところで、音が聞こえてきた。

 ヒャッ、ヒャッ、ヒャッ‥‥

 ふふ。懐かしいな。最近はあまり聞かなくなった音だわ‥‥

「ひ、ひいぃっっ!!」

 あ、あら? 大きな声といっしょに、ミップルがポシェットごとカバンに飛び込んできちゃった。

「どうしたの!?」

「やっぱりダメミポ! おばけミポ! おばけが笑ってるミポぉっっ!!」

 そう叫びながら、カバンの奥のほうでふるえてる。おばけ? ‥‥あぁ!

「なんだ。ミップルが言ってたおばけって、この音のこと?」

「いいから早く逃げるミポっっ!!」

 あ〜あ、カバンごとふるえてるわ。ふふふ。そうね、知らなかったら怖いかも♪

「平気よ。これ、蛇口の音だから」

「え??」

 ふるえてたカバンが、ぴたっ、と止まったわ。白いポシェットが、少しづつカバンから出てきてる。

「庭の水やりに使う水道なの。もう使わなくてサビちゃってるから、回すとこんな音になるのよ」

「‥‥それ、なんで夜中に回ったミポ?」

 ん? 言われてみれば、そうねぇ。おばあちゃまが、水やり忘れてたのかしら?

 門の前で立ったままそんなこと考えてたら、庭の方からなにか走ってくるのが見えた。あ、忠太郎ね。

 あら? でも変ね。忠太郎、なんでそんなにジグザグに走ってるのかしら??

「忠太郎、ただいま‥‥それ、なあに?」

 わたしの目の前で忠太郎がお座りした。それはいいんだけど、口元になんだか汚れた‥‥細長い布みたいなものくわえてるわ。布の先はいま来たほう、庭のずっと奥まで続いてる。これじゃ、走りにくいはずね。

「もう、忠太郎ったら。ダメでしょ、いたずらしちゃ」

 わたしが頭を軽くたたいたら、わけがわからない、っていう目をしながら、わたしに布を差し出した。片付けて、って言いたいのかしら。しょうがないわね。

「忠太郎、どこ行ったんだい?」

 あら、庭の向こうからの声。おばあちゃまだわ。

「ああ、ほのか。おかえりなさい」

 わたしはただいま、って応えながら、庭の方に歩いていった。忠太郎の布を巻き取りながら。‥‥あ、あら? この布、ぬれてるわ。巻き取ってたら結構な重さに、なって、――きゃ!

「おっとっと。無理しないで、ほのか。わたしでさえ重いんですからね」

 布ごと倒れそうになったわたしを抱きとめてから、おばあちゃまが、手の中の布を取り上げた。か〜るく。

「長い布だから、洗うのもひと苦労なんですよ。さ、また洗いなおさないといけないわね」

 そのまま、庭のまんなかにある大きなタライで洗い始めたわ。あぁ、それであの水道使ってたのね。‥‥でも、夜に?

「ああ、ほのか」

 わたしに背中向けてお洗濯しながらのおばあちゃまの声で、はっとした。いけない。考え込んじゃってたみたい。

「な、なぁに、おばあちゃま?」

 あせって応えたら、お洗濯しながら、顔だけくるっとこちらに向いたわ。そのまま、じっとなにか見つめてる。その先には、わたしのポケット。ピンクのケータイがちょこっ、と顔のぞかせてる‥‥あ!

「またお友達、できたかい?」

 いつもより、ちょっとにやにやして。ちょっとだけ、子供みたいな顔で。‥‥うん。

 わたしは、もう使えないケータイを取り出した。顔が、おもわず笑っちゃう。

「ええ。おばあちゃま

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