キラキラやまのドーナッツ

 チャッチャッ、とかきまぜる音が聞こえるのぉ。

 聞いているうち、音はすこし途絶えて、そしてシューッ、と油の音がするわい。

「お、長老さん。起きたのかい? まだまだ、つくってくからね」

 見上げれば、車の中から、サングラスの青年がわしに笑いかけてくれる。

 よい匂いも、やさしい熱気と一緒に流れておることじゃろう‥‥わしがそれを感じられていたら、じゃがな。

「ありがたいことジャバ。じゃがわしが独り占めしては、おぬしの世界の皆には申し訳ないジャバ、かおるちゃん」

「はは。そのくせ、キラキラリンはほんのすこししか作れないけどさ。ぐはっ☆」

 そう言いながらも、手は止まらん。ほんとうに、彼が来てくれてよかったわい。さもなければ――

 ――あれは、キラキラルが爆発してすこししたころ。

 妖精たちはみな()()りになってしまい、わしはひとりキラパティに封印も同然‥‥それも身体から離れて、居るだけになってしまうたときじゃった。

「やれやれ、こんな身体でも助かったのはいいが、たべものが、ジャバ‥‥」

 いちご山には草木も多い。身体があれば外へ出てそれなりに食べられるのじゃろうが、いまの身ではそうもいかん。

 早く誰か、プリキュアを見つけてくれることを祈るしかないか‥‥そう考えていたときじゃった。

 

 バンッ!!

 

 大きな音がして、ありもしない耳を思わず(ふさ)いでしもうたわい。まだ残った菓子が爆発したのか‥‥と音の方を見ると、

「あいったた。今回の移動はハデだねぇ」

 車がゆらゆら揺れておって、中から音に似合わぬのんびりした声が聞こえてきたんじゃ。

「な、なんじゃ、いったい!?」

 車なんぞ、山を降りたときくらいにしか会わないが、丸い飾りのついたこんなのは見たこともない。丸い‥‥いや、これは、

「ドーナッツ‥‥ジャバ?」

「はいお待ち。ドーナツ屋ですよ」

 そう言いながら、車から降りてきたんじゃ。サングラスをかけて、長いエプロンをつけた青年が。

「な、なんじゃいったい?」

 キラキラルを狙う(やから)には見えんが‥‥いやいや、そんなことより、

「ど、どうやって来たんジャバ? ここは、閉じたキラパティの中ジャバ!!?」

「ドーナツ足りてないんでしょ? 持ってきましたよ」

 わしが精一杯どなってるというのに、まるで感じておらん。

 わしの前に、皿に盛ったドーナツを出してきおって‥‥んんっ?

「きれいなドーナツジャバ。形も色も申し分ないジャバ‥‥」

 そうじゃ、これほどのものは、わしでも作れん。それなのに‥‥

「これは一体、どうやってつくったんジャバ?」

 わしが顔を上げると、ドーナツ皿を車についてるミニテーブルに乗せて、青年が言ったんじゃ。

「ああ、こうですよ。生地はもうできてるから、っと‥‥それっ!」

 おおっ!生地を車の屋根に放り投げおった!?

「な、な、なんちゅうことをするんジャバ!せっかくの生地を‥‥」

「まぁ、見ててくださいよ」

 青年の目線につられて車を見れば、半分窓になってて中身が見える。ふむ。

 型を抜いて、揚げて、粉砂糖をふって‥‥車の中を生地が通っていきながら、勝手に出来上がってくのぉ。

「はい、できあがり」

 でてきたのは、ドーナツじゃ。たしかに丸い、おいしそうな色と形、あたたかな気配、じゃが、

「だめジャバ、これは」

 わしが言うた言葉に、青年がぽかんとしておる。なるほど、

「おぬしには見えんのジャバな。せっかく生地に込められたキラキラルが、この機械の中をくぐりながら飛んでしまってるのジャバ」

「飛んでる‥‥キラキラリンがかい?」

「キ・ラ・キ・ラ・ル、じゃ!まぁ、見えんならしかたないジャバが‥‥お?そっちのはちゃんとあるジャバ?」

 車の奥の方に、ひとつビニールのかかったものが見えたんじゃ。少しじゃが、キラキラルが湧き出しているドーナツが。

「これ? ウエスターの兄弟に練習で作ってもらった、手揚(てあ)げのやつだけど」

「そうじゃ、これこれ。これなら食えるジャバ」

「へぇ‥‥よっし、わかった。ひさしぶりに手揚げで全部つくってみようかね。げは♪――」

 ――そういうなり、身体が弱ってるわしを寝かしつけて、どんどんドーナツ作ってたんじゃからのぉ、この青年――胸のバッジに書いてあるから、かおるちゃん、かの。

 目を覚ましたころには、車についてるミニテーブルが、ドーナツで一杯になっておった。

「しかし不思議ジャバ‥‥」

 車に近寄ったわしを見て、かおるちゃんが手をとめたわい。

「ん?なにが?」

「キラキラルジャバ。これだけのドーナツなら、キラキラルはもっと山盛りのはずジャバが‥‥」

「そりゃあたりまえだよ。オレ、天才だけどただのドーナツ屋で、パティシエじゃないもんね」

 そう言うて、はははと笑うんじゃ。ん?

「しかしのぉ。この身体では味こそわからんが、作り方を見る限りは一流パティシエと変わらんジャバ。もっとたくさんキラキラルが生まれても不思議じゃないジャバ」

 わしがそう言うたら、かおるちゃんは腕を組んで車の窓から顔を出したわい。

「そのキラキラさんはさ、きっと世界が好きな人がつくるもんじゃないかねぇ。オレもね、オレの世界だったら、もっともっと笑顔にできるけどさ、ここじゃ半分がいいとこだよ、たぶん。ぐはっ★」

 オレの世界(・・・・・)か、なるほどのぉ。

「でもね、それでいいんだよ。世界を守るのは、世界といっしょにある人だからさ。

 いやぁ、でも長老ってのはたいへんなもんだよねぇ。タルやんのとこもそうだったしさ」

 タルやん?‥‥いや、おそらくどこか別の国の長老のことなのじゃろう。

「‥‥そうかもしれん。さて、ペコリンたちがプリキュアをみつけてくれるといいのじゃが‥‥」

 ん? 車のほうの動きが止まったのぉ。なんじゃろう、と見上げれば、かおるちゃんが口をぽかん、とあけておった。サングラスの中の目も、大きく開いているのがわかるくらいじゃ。おどろいておる‥‥のか?

「ははは、ようやくわかりましたよ。呼ばれたわけがね、げはっ♪」

 いきなりにこにこ笑いながら、またドーナツづくりにもどってくかおるちゃんを、今度はわしがぽかんと見る側じゃった。

 呼ばれた、じゃと? いや、そもそもじゃ、

「かおるちゃんは、どうしてわしが困っていることがわかったんジャバ?」

 にこにこ顔がこっちを向いて、そのままわしの顔を(なが)めておる‥‥なんじゃ?

「ちっこいのが知らせてくれたんだよ。長老が閉じ込められちゃったから助けてくれ、ドーナツをいっぱいあげれば助かる、ってね」

 ちっこいの‥‥妖精のだれかか!

「で、言われた場所にとにかく飛び込んだ、ってわけ。あの子は、この中までは入れなかったみたいだけどね」

 ペコリンかと思うたが、違うの。あの子はそこまで落ち着いてはおらんしのぉ。

「プリキュアはオレの世界にもいてね‥‥みんなでしあわせゲットする子に、いつでも完璧目指しちゃう子、信じて祈る子に、せいいっぱいがんばる子‥‥揃いも揃ってお節介(せっかい)でさ、みんなで助けに行こうって言われる前に、オレだけ来たってわけ。ぐはっ☆」

 プリキュア‥‥プリキュアじゃとぉ!?

「伝説のパティシエを知っておるのジャバ!?」

 思わず車に飛び乗ったわしに、かおるちゃんがじっと見つめてきたわい。なんじゃ?

「悪いね。プリキュアはプリキュアでも、パティシエじゃないんだよ。さっきも言ったでしょ、たぶんこの世界のプリキュアじゃなきゃ、半分も役にはたたないよ‥‥オレと同じで」

 笑ってはおるが、さっきと違って、ちょっとさびしい顔じゃ‥‥そうか。

「それでも、ちょこっと支えることならできる‥‥さ、こんなもんで足りるかい?」

 わしの両側には、さっきよりさらに一回り大きなドーナツの山じゃ。一流パティシエほどではないものの‥‥いや、わずかしか作り出せない中では信じられんほど沢山のキラキラルが、わしを取り囲んでおるわい。

「たしかにこれで、しばらく身体をつなげそうじゃ。ペコリンがプリキュアを見つけるまでな‥‥感謝しておるジャバ」

「なぁに、お互いさまだって。ぐは☆」

 歯を光らせながら、ボウルを片付けはじめよった。帰る気、かの?

 

(いつかウチの(プリキュア)たちのほうが、支えられることもあるだろうしね――)

 

 ん?なんじゃ聞こえたような気がしたが‥‥わしが訊こうとした瞬間、そとから大きな声が響いてきおった。

 

『キュアラモード・デコレーションっっ!!』

 

 こ、これは‥‥

「見つかったのじゃなペコリン、プリキュアが! ‥‥っと、ととと?」

 い、いきなりわしのいたミニテーブルが移動して、床まで降りてしもうた!?

「かおるちゃん、なにするジャバか‥‥ん?」

 見上げた先に、もう車はなかった。ただ紙が一枚、わしの前に落ちてきただけで。なになに、『こっちのプリキュアをよろしく、長老さん』か‥‥

 

(プリキュアはオレの世界にもいてね‥‥)

 

 読んだとたん、かおるちゃんの言葉がよみがえった。

 そうじゃな、プリキュアに『なる』普通の子たちじゃ。わしらは救われるだけじゃなく、支えることも必要か‥‥

「まぁ、やってみるわい。おまえさんほど支えられるかわからんがな、かおるちゃん」

『小説?小噺?』へ戻る