おおぞらのきにむねはって

 先週より赤っぽくなってきた落ち葉を軽く踏みながら、あたしは早足で山道を登ってた。

 風もすこし冷たくなってるけど、まだもこもこしたくなるほどじゃない。あたしは長そでのシャツとパンツにスニーカー履いて、落ち葉のクッションをちょっと跳ねながら歩いてく。

 大会が終わって、部活動も一段落したし、意識して動かないと動けなくなっちゃうからね。手に持ってる、うちの――パンパカパンのパンが冷めないうちに、上まで登りたいし。

 まぁ、今日はそれだけが理由じゃないんだけどさ‥‥


 おおぞらの樹に向かって歩いていると、ほわっ、と空いた広場に出るんだ。

 まえはちっちゃなほこら(・・・)があるだけだった場所。でも今は、2階建ての簡単な建物が建ってる。

 樹が何本かからんで、まるで樹で編んだみたいだね‥‥実際、そうやって作ったのかもしれないけどさ。

 あたしは、おみやげのパンの袋を抱えながら、その建物に向かっていった。


 シャッ、シャツ‥‥


 あ、いたいた。

 ほこらの近くに、赤と白の姿がふたつ――巫女さんの服で掃除をしてる、(みちる)(かおる)

 頭に落ち葉が2枚乗っかってるのが、まるでアクセサリみたいだな。

「ふたりとも、似合うよねぇ」

 素性がバレないように、(まい)とあたしで巫女さんに仕立てたんだけど、こうして見ててもぜんぜん違和感ない。ふたりとも、もうすっかりここの人になっちゃった。

 他の世界から来たなんて言っても、もうだれも信じないかもね。

 シャッ、シャツ‥‥


 11月も半ばを過ぎて、おおぞらの樹も周りの木々もずいぶん葉が落ちたわ。

 その分、掃き掃除のしがいがあるというもの。


 シャッ、シャツ‥‥


 赤と白のこの着物にも、ずいぶん慣れた。

 巫女という、神様に仕える人たちの服だそうだから、精霊たちのお世話になっている私達には相応(ふさわ)しい服だと思う。

「ふたりとも、似合うよねぇ」

「ああ、(さき)。いらっしゃい」

 満が咲に挨拶しているのを、私は横目で見ながら掃除を続けた。休日のこの時間は、家で手伝いをしているはずだけど‥‥

「巫女さん服の上に、色ちがいのエプロンなんだ」

 咲が私の方に近づいてきてそう言う。私は満に目で問いかけたけれど、首をかしげるだけ。

 やけににこにこしてる咲を見ていると、少し不安になる。まわりから巫女だと思われてしばらく経つけれど、実は満も私も、何も知らないのだから。

「そう‥‥いけなかった?」

「いいのいいの。それがここのスタイルだよね。あ、とりあえずこれパン、差し入れ」

 満が受け取ったパンの袋の中から、わたしはひとつだけ取り出して、ほこらに供えた。

「うぐいすが好きなんだったよね」

「ええ、あんこ入りが。嫌いなのはカレー」

 咲の声に、ほこらから戻ってきた私は淡々と答える。誰のことか、言わなくてもわかるのは気が楽でいいわ。

「それだけは、あたしと意見あわないンだよねぇ、フィーリア王女はさ」

 ときどき来て、お供えを食べてるらしいことは知っている。姿は見せてくれないけれど、この服を着ているとなんだか近くにいる気がする‥‥でも、

「それで?」

「目的はこれだけじゃないでしょう?」

 満の声が、私と重なった。咲がひとりでここに来ることなんて、滅多にないことだから。

「満と薫に、ちょっと相談があるんだけど‥‥舞ぬきで」

 だから、私は頭をかいてる咲の横から、満に目で言ったわ。またいつものが始まったみたいよ、と。

「「たんじょうび?」」

 び、びっくりしたぁ。

 あたしが言った言葉を、満と薫がふたりで同時にくり返してきたんだもん。

「そう。舞の誕生日、だけど‥‥」

 聞こえにくかったのかな、って思ってゆっくり言い直してみたけど、

「たん、じょうび‥‥」

 満は目を空に向けて考え込んでるし、

「たん、じょう、び?」

 薫は薫で、言葉ばらばらにして意味考えてるし。あれ?

「そ‥‥う、だよ? 知らなかったっけ?」

 正面からあたしの顔見ながら、しっかりうなずくふたりを見て、あたしは気がついた。

 そっか。そういえばあたしの誕生日、今年は部活が忙しすぎてやれなかったんだっけ‥‥去年はダークフォールであんなことになってたから、ここでの誕生日って初めてなんだ。

「舞がね、生まれた日のこと。お祝いするんだよ」

「ああ」

 あれ、なんだろ? ふたりして顔見合わせて、うなずいてるけど、

「気づかなかったわ」

「そんなものがあるのね」

 なんか、ヘンな雰囲気?‥‥でも意味は理解したんだよね。ならまぁいっか。

「満と薫のときだって、もちろんちゃんとやるよ。あとで教えといて。
 でね、誕生日にはプレゼントを贈るんだけどさ、3人で一緒に贈りたいなって思ってさ。どうかな?」

 あたしのパーティやらなかったんだから、自分もやらない、なんて言い出すんだもんねぇ、舞。でも、3人がかりなら受け取るでしょ。

「私には、咲ひとりで贈った方が‥‥」

「薫、待って。‥‥それで、何を贈ればいいの?」

 ? いま薫がなにか言いかけた気がしたんだけど‥‥いや、それより。

「それ相談しに来たんだよ。3人で贈るんだから、あたしだけ考えちゃダメでしょ。
 それにさ、あたしが考えると、つい自分が欲しいものとかしたいことになっちゃうんだ。舞はそれでもいいって言ってくれるんだけど‥‥」

「「ふ〜〜〜ん」」

 ん? えっ!?

「な、なによ、ふたりして!」

 目の前に、ふたりの顔がドアップになってる。しかもふたつとも、にやにやした顔つきで‥‥もう!

「それより! なにがいい? 舞はなにが欲しいと思う?」

「欲しいもの‥‥もの(・・)じゃなくてもいいかしら? たとえば、願いをかなえるとか」

 あたしから少し離れて、満が訊いてきた。願い、ねぇ。

「できるんだったら、それがいいと思うけど‥‥なんか知ってンの?」

 ふたりで顔見合わせて、しっかりうなずき合ってる。これは、当たりかな?

「ええ。ここ何日か、舞があのほこらの前に来ていてね」

「後で私たちのところに寄ってはくれるんだけれど。ほこらの前で、しばらくじっとしてるのよ」

 ふたりがまた、顔を見合わせて、

「むね‥‥かな?」

「むね‥‥ね」

 一瞬、あたしは言われた言葉がよくわからなかった。

「むね‥‥って、胸??」

 あたしが自分の胸を右手でおさえて言ったら、ふたりして思いっきりうなずいて、

「ええ。来るたび、おおぞらの樹に向かって、胸をぐいっと突き出してるから」

「その動作は、たしか胸を強調する動作よね。舞が言っていたわ」

 そ、そうだったんだ。舞がねぇ‥‥そんなそぶり、あたしの前じゃ見せたことなかったのに。

 まぁ、あたしも似たようなもんだし。気にするときが来たってことなのかな‥‥なんか、ちょっと寂しい感じ。

 でも、胸か。それなら‥‥

「満、ムープにお願いして、いい?」

「む〜?」

 満の返事の代わりに、その影から小さな精霊が出てきたよ。

 ふしぎな声の、小さな精霊、ムープ。

 この子とフープは、結局ずっとみどりの里――ここに残ることにしたんだよね。満や薫といっしょに。

 でも、普段はふたりの影に隠れてる‥‥ひとだまと勘違いされちゃうからね、巫女さんの近くにいると。

 近づいてきた精霊を、あたしは両手で軽くつかまえて、顔の目の前に持ってきた。

「ムープ、たしか前に、舞をちっちゃくしたことあったよね?」

「ふぷー」

 小さな精霊が、くるんと一回転してうなずいた。そうそう。あのときは人がいっぱいいたから、騒ぎになるんじゃないかと思ってヒヤヒヤだったんだよね。でも、ここだったら‥‥

「それさ、部分的にってのも、できる?」

「薫さーん、来たわよーっ」

 おおぞらの樹のすぐ近くにある社務所にむかって、わたしは声をかけた。

 ついさっき、わたしに電話かけてきた薫さんの声、ちょっと(うわ)ずってたものね。わたしに贈りたいものがあるから来て欲しい、って。普通なら喜ぶところだけど‥‥きっと、咲が頼んだんだわ、これ。

 念のためにパンパカパンを覗いてきたけど、いなかったもの。

 パーティ断っちゃったのはわたしだけど‥‥プレゼントくらいちゃんともらうのに。心配性よね、咲って。

「出てこないと、帰っちゃうわよ〜っ」

 社務所から、巫女姿の薫さんが出てきたとき、手に何も持ってないのを見て、わたしは確信したわ。きっと、咲がなにかたくらんでる、って。

 でも‥‥

 わたしはちらっと自分の身体を見た。ちょっと厚手だけど、トレーナーにジーンズ。

 そろそろセーターの季節だけど、念のために、いつでも脱げるカーディガンにしておいたのよね。

 咲だったら、いきなりおおぞらの樹に登ることになるかもしれないんだもの。なにが出てきてもいいように‥‥うん、これなら大丈夫。どんなプレゼントでも、なんとかなるわ


 なんて、考えてたのよね。そのときは。


 だって、まさかそれ以上だなんて、思ってなかったんだもの‥‥

「薫さん? 来たけど‥‥え!?」

 舞が薫の近くまで歩いて行くのを確かめてから、あたしは木の影から飛び出して、舞の両腕をぱぱっ、と持った。

「まーいちゃん ちょぉっと、そのままでいてくれる?」

「え、なに?‥‥ちょっと、なに!?」

 あたしは舞の腕いっぽん、薫にまかせて。よし♪

「よぉっし。満、ムープ、今だよっ!」

「む〜っ!」

 いつもより大きなムープの声と一緒に、なにかがうずを巻いて飛んできた。舞の、胸のあたりに。

「ハッピーバースデー、舞! これが、あたしたちからの贈り‥‥え?」

「む〜〜っ!!」

 あ、あれ?

「む〜〜〜っ!!!」

 ちょ、ちょっとちょっとちょっとぉっ!?

「ムープ、ストーーップ!!」

 両手でバッテン作って大声出して、それでやっとムープのうずが止まった。ふぅ。

「なに?」

 その後ろから満。なに言ってんのさ!

「なに、じゃないよもう!! なによ、これ!」

「‥‥悪いの?」

「大きい方がいいって言った。咲」

「限度ってもんがあンでしょうが。見なさいよ、これ。バレーボールか風船かって感じじゃないの!
 もうちょっと、こう‥‥舞の身体に合うように、ふわぁっと‥‥って、なに言わせンのよっっ!!」

 ぽん、ぽん。

 え?

 肩に、手の感じが二回。薫も満も、目の前にいるのに‥‥!

 恐る恐る振り返ったら、

「咲の、バカぁぁっっっ!!!」

 思いっきり張り飛ばされたあたしは、舞の背中が小さくなるの、じっと見てた。

「大丈夫、咲?」

 満と薫が両手を取って起こしてくれるまで、地面に倒れてたことも、気づいてなかった。

 うう、歩きにくいなぁ‥‥

 一歩進めるたびにあっちこっち揺れて、そのたびに体が傾いちゃうし。シャツに擦れて痛いし。はじけたブラは背中でもたついてるし。

 でも、それよりなにより、とにかくっ!

「重いぃ〜っ!!」

「うわっ!? ああ、美翔さん。どーしたの、それ」

 思わず叫んじゃったわたしの前に、安藤さんがいた。マズいところで会っちゃったわ‥‥

「あ、安藤さんこそ、なんでここに?」

「うん、本の読み聞かせ会にね、落ち葉が欲しかったから‥‥大丈夫?」

 ああ、やっぱり重いのが顔に出ちゃってるのね。ええと‥‥

「ボールでも入れているの?」

「え?‥‥あ、う、うん」

 胸を下から持ち上げたら、本当にボールみたい。やわらかすぎる、ボール。

「はぁ‥‥そんなに悩んでるとは思えなかったけど。美翔さんはもともとやせ形なんだから、いつもの胸でちょうどいいと思うわ」

「え、あ、うん。そう‥‥そうよね」

 そう。この胸が似合ってないことくらい、わたしが一番よく知ってるもの‥‥

「あ、ひょっとして、後悔してる?」

「後悔といういか‥‥ちょっと。ちょっと、ね」

 カツン、と石の音がした。思わず蹴っちゃってたんだ、わたし。

 下を向いても足元が見えない。なんだかもう、絶望的‥‥

「日向さんが、笑って済ませられないイタズラするとは思えないわ。少なくとも、あなたに対しては、ね」

 そう思ってたわたしの耳に、とっても優しい声が聞こえてきた。

 クラスメイトの安藤さんじゃなくて、子供たちに本を読んでるときの、声?

「日向さんが謝ってきたら、ちゃんと仲直りするのよ。じゃ‥‥」

 わたしにそう言いながら歩いてく安藤さんを見送りながら、わたしは考えた。

 以前、ムープのちからで身体ぜんぶがちっちゃくなったときだって、しばらくしたら元に戻ったんだっけ。

 すぐ元に戻る‥‥だからちょっとだけ、大きな胸を味あわせたかったのかな。

「‥‥だからって、すぐには許せないけど」

 大きさなら咲だって同じくらいだし、それで悩んでるとこなんか見せたことないもの。勝手に思い込んで、勝手にひとの身体いじって、もう、もう、もう、もうもうもうもうもうっ!

 大きく振った足が、なにかを思い切り蹴飛ばした。そのとたん、


「あれてますね、舞さん」


 ぽっ、と、明かりがついたみたいな小さな声。

 わたしが頭をあげたら、そこに小さな女の子が浮かんでた‥‥

 フィ‥‥!

「フィーリア王女!? どうしてここに‥‥まさか、また何か悪いことが!?」

 わたしが女の子のそばによったら、小さな顔が大きく横に振られて、

「おっきいですね、おむね

「は、はい?」

 いきなりそう言われたから、変な答えになっちゃった。でも、

「よく見てましたよ、おおぞらの樹から。あなたがおむねをはってるところ」

 落ち着いた声でそう言われたとたん、なんだか恥ずかしくなったわ。

 いつも、ずっと見てたなんて‥‥あ、いけない。

「違います! 別にそんな、胸を張ってたわけじゃなくって‥‥」

 誤解を解こうと思って思わず近づいたわたしの顔の前に、ちっちゃな手が、まっすぐ出てきた。

「わかっています。でも、まわりから見たらどう見えますか?」

 え? ‥‥あっ!

「それじゃまさか、咲も、満さんたちも‥‥」

 ちっちゃな顔が、わたしの前で大きくうなずいた。

 そう。満さんと薫さんも、おおぞらの樹の前のわたしを見てたんだ‥‥

「話して、みますか?」

「は、はいっ!」

「ムープのちからは吸い取ってあげましたから、もうしばらくすれば元にもどります。
 さぁ、いってらっしゃい

 舞が降りてった山の道を、あたしはしばらく、ぼーっと見続けてた。

 叩かれたはずなんだけど、ほっぺたは全然痛くない。どっちかっていうと、胸の奥の方が痛いな‥‥胸、か。

「満と薫は、気にしないの、胸?」

 社務所の前の長いすで休んでるあたしがそう言ったら、両脇で立ってたふたりから同時に答えが帰ってきた。

「別に‥‥」

「意味がないし」

 意味が、ない?

 なんか、引っかかるな。頭を上げたあたしの上から、のぞき込んでる顔が、

「胸は子供が栄養を吸うためのもので‥‥」

「わたしたちに、子供は関係ないもの」

 そう言われてはっとしたよ。そっか、だからさっき、妙な顔になったんだ。

 誕生日とか、生まれるとか、それ全部が関係ない。あたしや舞と、違うから‥‥!

「そんなこと、ないっ!」

 思わず出てきた声が、思ったより大きかった。

「そんなこと言わないでよ。そんな悲しいこと、普通の声で言わないで!
 きっとできる。ふたりにだって、きっと子供は作れるからっ!」

「‥‥どうやって」

 え?

「ど・う・や・っ・て?」

 腰をかがめたふたりの顔が、あたしのすぐ近くまで迫ってくる‥‥って、わざとやってるな、これ!

「こら! もう、誰の影響受けてンのよ!」

「そうね‥‥舞の影響、かしら?」

 え〜〜っっ!?

「なに教えてンのよ、舞ってばっ!」

「わたしが、どうかしたのかしらぁ?」

 声が聞こえたのと同時に、あたしの両肩が、がっちり掴まれた。

「話せばわかる!」

「問答無用! えいっ!!」

 背中と両方のほっぺたに、妙に柔らかいものが‥‥って、これ!?

「うわぁ〜ぁっ!乗せるんじゃないっっ!!」

「あらー、咲が望んだんでしょ、この胸。ほらほら、しっかり味わいなさいよっ♪」

 うわわわっ。肩は重いし、ほっぺたはむにゃむにゃするし、ったく、このーっ!

「いーかげんにしないと、つぶすよっ!」

 切れかけたあたしが思わず言ったとたん、むにゃむにゃの動きがぴたっと止まった。

「つぶして小さくなるなら、それでもいいわよ?」

 あ‥‥!

「ご、ごめん‥‥ごめんね、舞」

 ぐりぐりぐり

 耳からじゃなくて、頭の上から音が響いてきた。

「そ・れ・が、わかってるなら、ちゃんと最初からいいなさい、よっ!」

「あ、あご!あごで頭を擦ンないでっ!」

 もう、頭のてっぺんは痛いし、両方からむにゃむにゃが来るし、勘弁‥‥あれ? むにゃむにゃが、むにゃになってる!

「あ、ああ、あああ! 縮んだ、縮んだよ。舞のおっぱい!!
 そうそう、やっぱりこれだよ。このぺらっぺらな感じ。これでこそ舞の‥‥」

 あたしは背中に振り返って、そのまま胸にしがみついた。これこれ。ああ、いつもの感触だぁ。

さぁき()ちゃあぁ〜ぁん?」

 背中がぞくっ、となった。この声は、この状況は、すっごくヤバいよ!

「え、あ、と‥‥な、なんでしょうか?」

 あたしの背中に、舞の両手が回ってきた。いつもだったら嬉しいんだけど‥‥これ、逃さないってことぉ!?

 うう、振りほどくのは簡単だけど、簡単じゃないよぉ!

「ごめんなさい。舞はずっと、ここで胸を張っていたでしょう? だからきっと、胸の大きさを気にして、おおぞらの樹に――フィーリア王女にお願いしてるのじゃないかと思ったのよ。勘違いだったみたいね」

 満がそう言ったとたん、あたしの背中を抱えてた手の感じがなくなった。

「まえからね、おおぞらの樹をどうやって描こうか迷ってて‥‥下から見上げる構図はどうかなぁ、って思ったのよ」

 あぁ、そっか。樹を下から見上げたら、そりゃ胸張るわ。

「そうね、それなら許してあげる。勘違いさせちゃったのはわたしだし。ただし‥‥さっき言ってたことば、聞こえちゃったから」

 へっ? さっきって、なんのこと?

「満さんと薫さんの誕生日は、きょう! ついでにやりそこなった咲の誕生日の分までお祝いしてあげるわ!‥‥ムープっ!!」

 げげっ!!

 座ってた長いすから、あたしはとっさに跳ね飛んだ。いすの向こうの舞が、両手に精霊抱えてる!?

「わーっ!あ、あたしはむね足りてるからっ!」

 両むねを手で隠して目をつむったけど、

「私もこれでいい‥‥でも満は増やした方がいいのじゃない?」

「薫‥‥あとで話し合う必要がありそうね」

 あれ?

 なにも起きない‥‥っていうか、ふふふって、舞の笑い声?

「びっくりした? それならおあいこね♪」

 目を開けてみたら、満の背中からムープが顔出してるのが見えた。

「舞っ! ちょっと攻撃的すぎっっ!」

「咲と1年以上もつきあってれば、自然とこうなるわ。必要なら、ねっ!」

 手に持ってた白いボールをあたしに投げつけながら、舞が言った。

 ギリギリ顔の手前で受け止めたけど‥‥なんで満と薫もうなずいてンのよ、まったく、もうっ!

「胸は、張るだけにしましょ。ね

 あたしのそばまで来た舞が、おおぞらの樹に向かって、胸張って言った。

「ん〜、そうだねぇ。ん!?」

 舞の胸が、また妙に大きい‥‥って、ちがうわ。

 服の脇から手を入れて、膨らませてるんじゃないの。


「胸を張るって、そうじゃないでしょーがっっ!!」

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