おっきなとうのふかいそこ

「ええ匂いやなぁ‥‥っと、がまんがまん、や」


 この世界の兄弟――かおるはんのドーナツ屋台からちょい離れて、わいは穴開いた。

 肩にはフロシキに包んだ本がぎょうさん。ベリーはんも無茶しよんなぁ‥‥たいした量やないわー言うてたけど、このかわいい妖精さんの大きさ、っちゅうもんも考えて欲しいわ。

「あら? その風呂敷‥‥タルト?」

 うぉっ!

 びっくりして振り向いたら、クセのある明るい色髪――パインはんや。ヤバ、とっとと行かな!

「あ、ちょ、ちょっとまっ‥‥」

 声に追いかけられながら、わいは穴ンなか飛び込びざまに閉めたった。‥‥ついてきとらんな? ふぅ。

「ほんまはこないドタバタせんと、兄弟ンとこ寄って行きたいけど、この姿やからなぁ‥‥あン?ええ匂いが、まだしとん?」

 背負ってる背中が(ぬく)ぅなってきたわ。寄ってもおらんのに、いつの間にドーナツ入れたんやろな、兄弟‥‥ま、いつものことやけど。


「やれやれ。駄賃(だちん)もろたら、ため息つけへんなぁ」

 甘い匂いでなんとかフロシキ支えながら、わいは穴ン中の暗い道歩いてった。

 暗い道を歩いてくと、そのうち明るぅなってくる。けど、明るい色は世界でちゃう。いままでおったピーチはんたちンとこはきれいな青の色、これから行くとこは‥‥お、ついたついた。

「この世界は、少し灰色っぱい青、やな」

 同じやない、かぁ。ひとの姿形は同じなんに、違うもんやなぁ。

 それにしても、や。

「なんど見ても、でかい塔やなぁ‥‥」

 もう、天までつながってるんやないか、て思うほどやないけどな。それでも先っぽ見ようとすると首が(いた)なるわ。

 そんで、上の方見上げてたらええ匂いがしてくる。ええ匂いのモトには、この世界の兄弟――ウェスターはんがおるんやけど‥‥

「ま、ええか。わいの用は高いとこでもドーナツ屋でもないわ」

 見上げてた首を元に戻して、わいは塔の隅にあるちいちゃな扉にフロシキ押し込みながら、下の方に降りてったんや。

 (こま)い通路を大きなフロシキ押しながらしばらーく歩いとると、押してる手ぇがいきなり重くなったわ。さぁて、少し下がってぇ‥‥

「せぇ、のぉ‥‥そりゃあっ!」

 思いっきり体当たりしてやンと、ポンっちゅう音と一緒にわいは部屋に飛び出したった。

 天井めっちゃ高いから本当はえらい広い思うけど、なんやごちゃっとして(せま)っくるしい部屋や。

「おーい、来ましたで〜」

 階段4つとドア7つ。ほんまは全部にせきゅりてぃ、ちゅうのがあるらしいんやけど、わいだけが通れる道なら、扉ひとつだけや。服は汚れるし体も痛いんやけど、ま、わるい気分やないなぁ。

「やぁ、フェレット」

 て、せっかくの気分こわすお人やなぁ、まったく。


「フェレットやないわ、サウラーはん! かわいいかわいい妖精さんの、タルトや!!」

「しっかしまぁ、あいかわらず大変そうやなぁ」

 なんやバカでっかいテレビがぎょうさん並んでる前に座って、手ぇはカチャカチャてボタン叩きまくっとん。いつ見ても、思わずあきれてまうわ。

「今までのしくみを全部なおすんだからな。このくらいは必要さ」

 そう言いながら、やっぱ手ぇ止めへんなぁ。しくみ、て‥‥あー、なーるほど。

 テレビに映ってるもんよぉ見たら、畑たがやしたり、魚とったりする道具や。

「みんな、いままでなかったんか」

「そうさ。必要なものはみんなメビウスが与えていた。十分とは言えないが‥‥なにも考えなくても、生きていくことだけはできたんだ。それが、なくなったわけだから」

 ああ、そんな人がいきなりぎょうさん増えたんやもんなぁ。そら、大変や。

「せやけど、あんさんが一人でやらんでもええやんか。兄弟‥‥ウェスターはんがおるやろ?」

 わいがそう言うたら、サウラーはん、やっとボタン叩くのやめて、こっち向いたった。

「確かに僕たちは裏方に向いている。‥‥が、本当のバカは、表舞台でみんなを引っ張っていく方が似合ってるさ」

 バカて、ひどいなぁ。せやけどまぁ、裏方言うことならわからんこともないわ。

「パッションはんが、裏方とは思えへんしなぁ」

「当然だな。だから、ふたりで表に行けばいいと思ってたんだが‥‥」

「あかんのか?」

「さすがに、神様にされてしまってはなぁ」

 息ついて、肩落としたったサウラーはんの姿見て、わいは思い出したわ。


 あれはメビウス倒して、平和になった思てはじめて遊びに来たときや。パッションはん、何百いう人から拝まれまくって、歩くだけで苦労しとったなぁ‥‥

 こらどうにかせんと、て思てたら、兄弟――かおるはんから頼まれたんやった。『なんとかしてみるから、サウラーはんに本を届けて欲しい』て。


「日本から持ってきてもらった本と、この塔の資料を突き合わせて、なんとか『大統領』というのを見つけてきたんだが‥‥多分、みんな『神様』の代わりに『大統領』と呼んでいるだけだろうな」

 思い出して、ちょいぼーっとしとったわいの頭に、サウラーはんの言葉が流れてきとん。さっきからずっと、苦笑いしながら話してる感じやなぁ。

「大統領より、お姫様かもしれないけどな。もと神様のイース姫が率先して働いてるから、とりあえず不満は出なくて済んでいる。その間に、なんとかしないと、な」

 お姫様かぁ。そういえば、そないな本もあったなぁ‥‥お、これや。

 ちょいと大きくて固い本、わいが両手で持ち上げたら、サウラーはんが不思議そうな顔して、

「絵本? これも、カオルチャンが選んだのか?」

「んにゃ、ベリーはんや。娯楽が少ないやろから、言うてたで」

 そう言うた瞬間、顔が怖なった。

「本を運んでいること、ミキは知っているのか?」

 声まで怖いなぁ。なんや?

「せ、せや。かおるはんがお金出して、ベリーはんが()うてきてる‥‥ああ、もちろんベリーはんには、他の人に話さんといて、て言うてあるで」

 やー、なんとか怖い顔のわけ気づいて助かったわ。ふぅ。

「そうか。ミキは約束を守る()だし、カオルチャンが知っているなら、まぁいいか」

 ほぇ〜。わいはそれ聞いてぽかんとしてもうた。

 ベリーはんと仲ええのは知っとるけど、かおるはんのことも信用してるんやなぁ、サウラーはん‥‥っとっと、話それてもうてるわ。

「なぁ、サウラーはん。なんでこないな狭っ苦しいとこおらなあかんのや? 裏方仕事かて、パッションはんたちと一緒に居てもでき‥‥うわっっ!!」

 言いかけたとこで、いきなり(つか)まれた思たら、狭いとこに突っ込まれてもうた。

 なんや、なんや一体!?

 ぎゅーっと押し込まれたんは、なんや筒みたいなもんやった。しっぽの方おさえたまんまで動けへんし、なんでやろ思うてたら、ドンドンドン、ちゅう大きな音や。なにか落ちてきたんか、て考えとったら、

「おう、来たぞ」

 いきなりよぉ聞く声が聞こえてきた。

 姿なんか見えんでもわかる。ここでの兄弟、ウェスターはんや。

「よぉ、(きょう)だ‥‥むぐごがっ!?」

 ぐーっとまた押し込まれて、息が苦しなってまうわ。黙っとれちゅうことかいな、わーったから押さんといてんか!

「ん? サウラー、いまそこにタルトくんがいなかったか?」

「タルト? ‥‥ああ、あの小さいやつか。いや、見てないな」

 スッとぼけた声やなぁ。かわいい妖精さんはここにおるでー‥‥言わんけどな。

「そうか‥‥おかしいな。オレが聞き間違えるわけがないんだが」

「そういうこともあるだろ。この塔は、妙な音が色々聞こえるからな
 ところで、何の用だ?」

「うむ。イースがな、おまえが運動不足のようだから、外に連れ出してや‥‥っと! これは言っちゃいけないんだった!!」

 あ〜あ。素直なお人やからなぁ、兄弟は。

「ははは‥‥心遣いには感謝する、と伝えておいてくれ。僕はもう少し、やることがある」

 ん?動いてる感じするなぁ。‥‥あ、いまカツンいうて揺れたわ。筒ごとどっか置いたんやな。いまのうちに、抜け出して、と‥‥

「カオルチャン兄弟がらみのことか?」

「ああ。最後まで、ちゃんとやってやらないとな」

 筒から抜けても、まだ目の前暗かった。本のうしろに置いたんやな。ま、しゃあない。影から静かに覗きますかー。

「そこなんだが‥‥なぁ、なんでオレにも全部話してくれないんだ?」

「当たり前だろう。おまえに言えば、イースに伝わる」

「いや、オレは、そんな、こと、は」

「その言い方だけでバレるぞ。‥‥そういうことだ。まぁおまえには、イース相手と違って嘘は言ってないから、それで我慢してくれ
 ‥‥おっとと! それに触るなよ」

 さっきまでサウラーはんがカチャカチャやっとったとこに、兄弟がよっかかろうとしたとたん、大きな声や。なんやろ? 兄弟も首かしげとるし。

「下手にいじると、大パニックになるぞ。『大地は割れ、海は逆巻き、強風がすべてをなぎ倒す』‥‥」

 ‥‥って、なんやと!?

「お、脅かすなよ。人が悪いぞ」

「冗談じゃないぞ。気象コントロール装置だからな。
 もちろん、本来は気候を整えて安定した農業収穫を得るためのものだが‥‥大きな力は、使い方を間違えると大変だ。お前の腕だって畑を耕すこともできるが、人を殴り倒すこともできるだろう?」

 サウラーはん、いまめっちゃマジな顔しとるんやろなぁ。

 わいからは背中しか見えへんけど、それがわかるぐらい兄弟がビビっとるんやから‥‥

 兄弟が部屋出てってから、わいはテレビの前まで出てきたった。ボタンさわらんように、よけてよけて、と。よっしゃ。

「やぁー、えらいもんなんやなぁ、こいつ」

「聞いてたか。まぁ、聞こえるよな」

 しばらーく兄弟の出てった扉見てたサウラーはんが、振り向いて言うたわ。なるほどなぁ、

「せやから、あんさんはここに()るんかぁ」

 言うたら大きくうなずいてくれた。

「ここは、誰にも明渡しちゃいけない。ウェスターや、イースにも、だ。
 そして、ゆっくり元に戻していくんだ。夏も冬もあった世界に。人が文化を創り出せる世界にね」

 せやけど、

「おーお、カッコええなぁ〜」

「茶化すなよ、フェレット」

 わいがわざと声軽ぅして言うたら、また苦笑いで応えとるわ。やれやれや。

「カッコつける()っちゃ、信用でけへんもんや。そやからあんさんとは、兄弟になれへんねん」

「‥‥かも、な」

 いや、ちゃう。わいが兄弟にならへんのやなくて、この人が兄弟作らへんのや。わぁっとる、けどな‥‥

「なぁサウラーはん。なんで、わいが来たことまで、兄弟に隠すんや?」

「黙っていてほしいんだよ。あいつにも」

「黙る、て?」

「僕がどんな本を、ミキの世界から持ってきているかをさ。あいつはわからなくても、イースが感づくかもしれないからな‥‥っと、いかんな」

「へ? うわわわっ!」

 さっきよりそっとやけど、やっぱ掴まれた思たら目の前がなんかでふさがった。本、かぁ?

「またしばらく静かにしててくれ。すぐ済むから」

 コン‥‥コン


「エテラか?」

 サウラーはんがそう言うてから、わいは扉たたく音に気づいたわ。

 なんや、おとなしいノックやなぁ。わいだけやったら、まるっきり気づかへんな。

「あの‥‥サウラーさま?」

「入っていいぞ、エテラ」

 本の影からこっそり覗いたら、カチャン、て、またちいちゃな音で扉あけて、入ってきたんは女の子やった。

 背ぇは高いんやけど、うすーい青のつなぎ服――ピーチはんとこでは、ワンピースいうたかな? それ着てゆっくり歩いてくるの見てると、ちいちゃい子供みたいや。

 着てる服の色のせいやろか、なんやまるごと青、っちゅう感じやな。

 ‥‥あれれ? どことなーく、だれかに似とる気ぃするなぁ。誰やったっけ?

「はい‥‥あの、どなたかいらっしゃっていたのですか? お声が聞こえましたけど」

「ああ、ただのひとりごとだ。気にするな」

 耳のええ子やなぁ。なーるほど、こらサウラーはんが神経質になるはずや。

「そう‥‥ですか。あの、お食事です。本当は、イースさまと一緒に食堂で召し上がっていただきたいのですが‥‥」

「イースがそう言ったのか? 彼女にも気にするな、と伝えてくれ」

 食事のトレイ受け取って、サウラーはん、すぐ女の子に背中向けた。さっきのはなし聞いたあとやと、その気持ちもわかるけどな、


「私も、心配なんです‥‥」


 ぽつん、て消えかけた声で言うてんの聞こえると、なんや切ななってくるなぁ‥‥

「なんやなんや、いまの()ぉは? サウラーはん、(すみ)に置けまへんなぁ。うりうり♪」

 女の子の足音が消えたん確かめて、わいはわざと明るぅ言うたった。

「茶化すなと言ったぞ。彼女は、僕の世話係だ。実に真面目で有能だから、できればイースについてやって欲しいんだけどなぁ」

「多分、サウラーはんやないとあかんのやろなー」

「おいおい。彼女に悪いぞ、そんな言い方は。それより‥‥」

「それより、なんや?」

「ピーチくんたちの方は、変わりないのかい?」

 ぶふっ。

 あかん、思わず大笑いするとこやったわ。まぁ、それなりに気持ちはわかっとるんやったら、意地悪せんでええか。

 ええと、なんやったっけ? ああ、ピーチはんたちか‥‥

「ふつーに学生してんで。パッションはんが忙しゅうなって、1ヶ月に1回しか行かへんから、待ち遠し思うてるみたいやけどなー」

「そうか‥‥もう少し、頻繁(ひんぱん)に会えるようにしてやらないとな」

 ん?そんなことできるんか?

「そのために、今は忙しいのを我慢してもらってるんだよ。本人はこれがずっと続くと思ってるのかもしれないけどな」

「ちゃんと言うたらええんに‥‥」

「残念だけど、あいつが気づいた時点でこの計画はおジャンだ」

 おジャン‥‥? なんや、それ??

 わいが首かしげとったら、サウラーはんが(わろ)て言うた。

「ああ、そうか。これはスラングなんだな‥‥以前ミキに貰った本に書いてあった。要するに、失敗ってことだよ」

「ふーん?」

 ピーチはんのことはプリキュアの名前で呼ぶんに、ベリーはんだけはほんとの名前で呼ぶんやなぁ‥‥ん?なんや、引っかかっとんで。なんやったろ?

「そういえば‥‥ミキも変わりないのかな?」

 ミキ‥‥ああ、そうや!

「ベリーはんや!思い出したわ」

「ベ‥‥ミキが、どうかしたのか?」

「さっきのエテなんとかはん、誰かに似とる思たんや。ベリーはんをすっっっごぉ大人(おとな)ししたら、そっくりやんか!」

 そや。なんで気づかんかったのやろ。背ぇも顔の感じもあんな似てるんになぁ。あれやったら、ベリーはん思い出すのもわかるわぁ。

「‥‥で?」

「せやから、‥‥あ」

 な、なんや、この冷たい目線。さっきより怖い気ぃすんで!?

「あ、あー‥‥なんでもないわ。忘れたってぇな」

「ちょっとサウラー! また(こも)ってるんでしょう!!」

 ばんっ、と扉が開く音がしたんで、わいはまた本の影に飛び込んだ。

 サウラーはんの冷たい目ぇから逃げたかったとこやから、ちょうどええけど、

「‥‥あら?」

 しもたなぁ、ちょい逃げるの遅かったかぁ?

「いまの‥‥タルトに似てなかった?」

 そーっと、目玉まで本の上に出して覗いたら、サウラーはんの背中の向こうにパッションはんや。

「‥‥見間違いよね。こんなところにいるわけないもの。ラブのところならともかく」

「この世界にもフェレットが住んでるようだから、なんだったら1匹ペットにでもするか?」

 パッションはんが見えなくなった。サウラーはんが横にずれて、わいを隠してるんやな。

「いいわよ。そこまでホームシックじゃありません」

ホーム(・・・)シック、か」

 またや。苦笑いしながら話すん、サウラーはんクセになっとるんちゃうやろか。

「な、なによ。もう、くだらないこと言ってないで。
 エテラに聞いたわ、もう10日も外に出てないって。少しは動かないと、運動不足になるわよ?」

「たまに塔の中を走ってるよ。お前も、ウェスターと一緒に走ったらどうだ。
 もっとも、外で一緒に走って、みんなの微笑ましい視線を浴びたいなら別だが‥‥ぶっ!」

 おわっ! サウラーはんがこっち倒れてきた!?

「ひとをからかう余裕があるなら、もうちょっとこっち手伝いなさい! その気になったら、上で待ってるわよ。いいわね!!」

「からかう余裕、ね‥‥」

 思いっきり扉閉める音が響いて、バタバタいう足の音がなくなってから、サウラーはんが言うた。また、例の苦笑いつきや。あんま、聞きたないなぁ‥‥せや。

 わいは本の影から飛び出して、妖精さん用の扉の前に行った。転がってるちいちゃなふくろをくわえて、そのままサウラーはんの手の上にジャンプや。

「まぁ、いろいろあるやろうけどな。かおるはん兄弟のドーナツでも食べて、元気出しや」

 これならええやろ。これで元気出せへんヤツはおらんから‥‥

「‥‥このドーナツも、問題なんだよな」

 あん?効かんやて!?

「小麦粉‥‥その原料の、小麦。メビウスの資料を調べてわかったんだが、ラビリンスには小麦がないんだ。正確に言うと、もともとはあったんだが、効率化のためにより栄養価の高い作物に植え替えてしまって、いまでは絶滅している」

 わいがびっくりしてたら、サウラーはんが半分ひとりごとみたいにしゃべっとるわ。

 んー、小麦がない?ちゅうことは‥‥

「あのドーナツは、ラビリンス製にはできない、ってことだな」

「そんな、殺生(せっしょう)な‥‥」

「カオルチャンとも相談しているが、ラビリンスの原生植物に影響が出るかもしれない、とかでな。なにかあったら僕のせいにすればいいのに」

 そう言う言葉も、やっぱ苦笑いの向こう側や。やれやれ。

「はぁ。えらいふかいなぁ、ここ」

「そうかな? 扉は多いが、階数で言えばせいぜい地下3階のはずだぞ」


 そういう意味やない‥‥て言うても、わからんのやろな。このガンコもん(サウラーはん)には。

「さぁて、また重い重い本背負(しょ)って、底にもぐらにゃなぁ‥‥」

 何日かたってから、ベリーはんに本もろて、わいはまた公園の隅っこに穴開けとった。

 イヤなわけやないけど、なんやため息出てくるわ。ま、しゃあない、か。

「たー、る、と?」

 びくうっっ!!

 な、な、な、なんや!? て、振り向いたら‥‥パインはん??

「おっきい荷物だね。大丈夫?」

「あー、いや、その、あんな、これは、これはな」

 あ、あれ? ふふふ、て(わろ)てん?

「いいのよ。サウラーさんのお使いでしょ?わけは聞かないから、がんばって、ね」

「あ、え‥‥ええんか?」

「うん。でも、ひとつだけ」

 ひとつ? なんやろ思てたら、

 笑いながら、手がわいの前に出てきた。

「はい、これ。わたしから」

 手の上に、可愛(かい)らしい花柄のふくろがひとつ。なんや、これ‥‥んな!?

 ふくろ開けて出てきたん、む、麦やないか‥‥!!

「パ、パインはん、これ‥‥?」

「かおるちゃんには、ないしょ。ね?」

 しーっ、て指いっぽん顔の前に出して言うてる。ちゅうことは、本も麦も、パインはんは知っとるんか‥‥せやけど、

「ええんかいな‥‥」

「いいのよ。ともだちの国を助けるんだもの、当たり前でしょ?」

 そら、そうやろけど‥‥

 わいの目ぇが、パインはんとふくろの間、勝手に行ったり来たりしとったら、パインはんの顔がわいに近づいてきて、

「ラブちゃん風に言えばね‥‥『みんなでしあわせ、ゲット』だよ

「‥‥さよか」

 片目つぶってそう言われると、それでええ気ぃするわ。

「一応ね、お父さんにそれとなーく訊いて、影響の少ない品種を教えてもらってるわ。なにかあったら、わたしも共犯。ね☆
 それじゃ、サウラーさんによろしく。行ってらっしゃーい♪」


 手ぇ振りながら、ドーナツ屋台に走ってくパインはんの後ろ姿見てたら、ため息やない息がひとつ出てきたわ。なんや、かおるはんがもうひとり、増えたみたいやなぁ。

「わいらだけやなくて、みんなでゲット、か‥‥」

 大きなフロシキの上に、もひとつふくろが乗っかったけども、かえって少ぉし軽うなった気ぃするで。よっしゃ!


「ほな、がんばって行きますかい。ふかぁいふかい底へなぁ♪」

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