メニュー☆めにゅー♪

「おまちどうさま‥‥でした」

 お、きたきた♪

 ひかりがゆっくりと、あたしたちのテーブルにやってくる。両手にバナナの乗っかったクレープ持って。

 土曜日のお昼、ほのかと一緒に出かけがてら、様子見にきたんだけど‥‥うん。サマになってきてんじゃん。

「あ‥‥」

 って、見直してるそばから、ちょっとぉ!

 ひかりがなにかにつまづいて、あたしたちのテーブルにクレープがっっ!?

「おぉっとっとっ!」

 ころん、と落ちそうになったバナナを、口から迎えにいってやって‥‥

「ぁむっ!」

 よぉし、キャッチ成功♪

「ご、ごめんなさ‥‥」

「ひーっへ、ひーっへ」

 むぐむぐ、口動かしながら、あたしはひかりに手ぇ振った。

 テーブルに頭乗せたまんまじゃ、あんま説得力ないけど。ま、いっか。

「むぐ‥‥ん。気にしない、気にしない。おいしいからよし☆」

 となりから、ほのかのハンカチが出てきて、クリームだらけのあたしの口を拭いてくれてる。うれしいけど‥‥自分はしっかりクレープ確保しちゃってるんだもんなぁ。ちゃっかりしてるよ。

 ほのかがハンカチしまって‥‥途中でペロッとなめてたような気もするけど、見なかったことにして‥‥テーブルから起き上がる途中、バナナのなくなったクレープ見てたら、

「でもさぁ、やっぱちょっとヘンな感じだよね」

 言葉がちょこっとこぼれちゃった。

 変なこと言っちゃったかな、って顔を上げたら、そこにあったのはびっくり顔がふたつ。

 ひかりなんか、体がちょっとビクビクしてる。‥‥なに?

「え、えっと‥‥私、なにかいけないこと‥‥?」

 あ? あ〜あぁ。そういうことね。

 あはは。ポケットから、ポルンが頭だけ出して、あたしをじっと見てるよ。だからぁ、いじめてないってば。

「違う違う。ひかりがどうこうってことじゃなくて‥‥これこれ」

 手に持ったクレープ指さしたら、ポルンの目が輝いた。‥‥ちょっと、隠さないと、ね。

「ポルンはあとで!
 ‥‥いや、ね。注文しといてなんだけどさ、あかねさんのとこ、っていうと、たこやき、ってイメージがあるから。こんなクレープがあるのが、ちょっと違和感っていうか‥‥ねぇ?」

 あはは、われながら、なーに言ってんだろね。でも、こうやってひかりと話できるのは、ちょっといい気持ち、かな。

 ‥‥あ、あれ? ひかり、うつむいちゃった?

「ひかりさん? どうかした?」

 ほのかが心配そうに顔をのぞき込んでる。こーいうのは、あたしよりわかるんだよね。

 ‥‥でも、よくわからない、って顔してるな。しゃあないか。

「まぁまぁ、あたしが悪いこと言ったんならあやまるから。ほぉらぁ! ひかりが落ち込むと、ポルンが怖いんだもん。ね?」

 わざと明るく言ってみたら、ひかりがぱっ、と顔上げて首振った。

「なぎささんが悪いんじゃないんです。ただ、あかねさんも同じこと言ってて‥‥新しくなったんだから、この店らしいメニュー追加したい、って」

 新しくなったから、かぁ。

 あたしがちらっ、と目くばせしようとしたら、ほのかはもうこっち見てた。思わず笑いそうになっちゃうよ。1年もつきあってると、なんとなくわかっちゃうんだよね。

「それならさ、ひかりがメニュー作ってみたら?」

 びっくりして顔あげたひかり見てたら、くすくす笑いが抑えられなくなっちゃう。あ、痛たた。わき腹つつかないでよ、ほのか。

「新しくなったのは、ひかりさんも一緒でしょ? わたしも、それがいいと思うわ」

 ほのかの言葉にうなずきながら、ひかりが車に戻ってった。やっぱちょっと、かかるかなぁ‥‥

「なぎさ、なぎさ」

 呼ばれて振り返ったら、ほのかが下を指差してた。見たとたんに、ぷっ、ってふき出す音。顔を上げたら口元に手をあてたほのか。あたしも、思わず笑っちゃったよ。


 テーブルの上にポルン残してったの、いつごろ気がつくかな、ひかり?

 なぎささんたちが帰ってから、私はメニューのこと考えてた。

 置いてきぼりにしちゃったポルンは、さっきからポケットに入ったまま。悪いことしちゃったけど、考えるのにはちょうどいいわ。あとで、なにか作ってあげましょ。

 ‥‥あ、またお客さま。

「いらっしゃいませ」

 男子部の人たちだわ。‥‥そうね、お客さまは女の子だけじゃないんだし、男の子の意見も聞いてみたほうがいいかもしれない。

「あの‥‥」

 席に近寄って、座ってるふたりの男の子たちの顔、私はお盆を持ったままじっと見つめた。

 ええと、なんて言ったらいいのかしら?

「ど、どうかしたの、ひかりちゃん?」

 ?なんだろう。男の子たちがおどおどしてるわ。変なの。

 でも、ちょっと気持ちが落ちついたわ。普通に聞けばいいのよね。

「なにか、増やしたほうがいいメニューとかって、ありますか?」

 すぅっ、と私が言ったら、ちょっとだけ、きょとんとしてた。けど、すぐに笑って

「あはは。そうだなぁ、ラーメンでもありゃね」

 ラーメン‥‥か。私は目だけ空を見上げて、ちょっと考えた。あの車で、ラーメン‥‥

「ちょっと、難しいかも‥‥」

 大きなナベがないとダメだし、匂いも他のたべものにうつっちゃいそう。それに、ん〜‥‥

「お、おい。冗談、冗談だって!」

「バカ! ひかりちゃん素直すぎんだから、ヘタなこと言うとシャレになんねぇぞ!」

 考えてたら、目の前のふたりがあたふたしてる。おかしな人たちね。

 そういえば、あかねさんが言ってたっけ。へんなこと言われても気にしない、か。それじゃええと、これは冗談、ね‥‥なら、ラーメンは消しとかなくちゃ。

「他には、ありますか?」

 あら? ふたりとも黙っちゃった。ええと‥‥

「たこやきとジュース、ふたつづつ!」

 うわ! 突然大声出したと思ったら、向こうむいちゃってるわ。‥‥しかたないわね。

「はい。しばらくお待ち下さい」

 私はメモ帳に注文を書いて、車の方に戻っていった。


 やっぱり、男の子じゃわからないのかもしれないわ。ちょっと、悪いことしちゃったかな?

「ありゃ?」

 公園に止まってるバンに、準備中の看板がかかってる。

 土曜日の昼過ぎ。化学部の実験資料用に予約しといた本を買ったついでに、ここに寄ってみたんだけど‥‥お昼ごはんかな? せっかく来たのになぁ。

 まぁ、ちょっと待ってみようかな。


 バンの近くにあるパラソルの席に腰をかけて、わたしはメガネを拭きながら、ぼーっとしてた。

 最近の化学部は、わりといい調子。でも、部長がたまに消えちゃうのが問題なんだよね。

 そうなったのは、ちょうどあの子がほのかのそばに来てから。だから‥‥普段のあの子、ちょっと見てみたいんだ。


 ‥‥あ、看板が営業中になった。それじゃ、

「注文い〜い?」

 声を少し張って呼びかけたら、はーい、って声といっしょに、バンの中から女の子が飛び出してきた。

 大きな目をした女の子。長いみつあみがぴょこぴょこゆれて、子犬みたいだな。

「お待たせしました」

 お〜お、息切らしちゃって♪ ほのかがかわいがってるの、わかる気がするよ。

「あ、あの‥‥?」

 でもね〜、部長なんだから、もちょっとこっちも見てくれないとなぁ。

「ええと‥‥たしか、化学部の方――ユリコさん、でしたよね?」

 っととと。いっけない。ついつい、見つめちゃったよ。これじゃ、どこかのヘンタイさんと変わらないね。

「あはは。ごめんね、ジロジロ見ちゃって。‥‥えっとね、たこやき二つとウーロン茶、お願いね」

 ‥‥ん? なんだろ。

 きょとん、とした顔してる?

「どなたか、来るんですか?」

 来る?‥‥あぁ、そっか!

「ちがうちがう、二つともわたしが食べるのよ。ここのたこやき、おいしいからね♪」

 うわっ!

 ちょっと、イスごと引いちゃったじゃない。あぁ、びっくりした。

 目の前で花が咲いたかと思ったよ。

 そのくらい、ものすごく嬉しそうに笑うんだもん。ほんとに、この店が好きなんだな、この子。

 ‥‥あれ? 笑顔のおデコにちょっとしわができたと思ったら、こっち近づいてきたよ。なんだろ? なんだかもじもじしてるけど。

「あの、ユリコさん‥‥私、新しいメニューを作りたいんですけど‥‥なにか、ありますか?」

 顔上げて、胸ににぎった手をあてて、なんか一所懸命だよ。ふ〜ん、メニューねぇ‥‥

 わたしは、メガネをはずして拭くふりしながら、じっと相手の目を覗き込んでみた。

 近眼だから見えないと思うでしょ? ちょっとボケてる分、目の動きとかよくわかっちゃうんだよね。

 ほのかの考えてることわかんないときも、たまにやるんだ、これ。頭のいいほのかも、こればっかりは実感できないから。

 さて、と。この子の様子だと、けっこう悩んでるみたいだけど‥‥

「ん〜、ほのかにも聞いたんでしょ? なんてってた?」

 メガネをかけながら、わたしは訊いてみた。

 ほのかが近くにいるのに、相談しないわけないもんね。

「ほのかさんたちは‥‥私が考えなさい、って」

 うん。わたしは思わずうなずいちゃうの、がまんした。

「なら、わたしも答えは同じだよ。あなたが思ったとおりのもの、出してみたら?」

 ほのかが、なに思ってそういったか、わたしにもわかるよ。ほんと、その場にいたみたいに。

「きっと、なんだっていいはずだよ。あなたが考えたんなら。ね☆」

 難しい顔して手をにぎって、そのまま首かしげた姿、ほんとに子犬みたいだ。

 あ〜あ、しばらくは、ほのかの代わりに、わたしが化学部引っ張ってかなきゃだめかもなぁ。


 ま、それでもいっか。こんな子のためなら、ね☆

 メガネのひと‥‥ユリコさんが帰ってから、なんだかいきなり手が空いちゃった。

 ポケットの中のポルンは、さっきあげたクレープに満足して眠ってる。私はポシェットを閉じて、車の中の流しから、ぼ〜っと、外を見上げてた。

 くもの形、なんだかソフトクリームみたい。あ、今度はホットケーキ。こっちはクレープ‥‥でも、みんなメニューにあるわ‥‥

「まったく、相変わらずだねぇ」

 ぼ〜っと考えてる私の前が、ちょっと暗くなった。あかねさん、車の前に回ってきたんだ。

「ふふん、 さっすが♪」

 え? あかねさんが楽しそうに見てる先を目で追ったら‥‥私の手元。コップがみっつ、流し台に置きっぱなし。

 さすが、って、なんのことだろう??

「くくっ‥‥いや、なんでもないよ。
 ごめんねぇ。ちょっと用事できちゃってさ。1時間くらいひとりだけど、いい?」

「あ‥‥はい」

 窓越しに出てきたタオルが、私の鼻をふいてくれる。あらら、泡がついちゃってたんだ。それであかねさん、笑ってたのかな。

「それじゃ、ちょっとだけよろしく‥‥あ、そうそう」

 流しの中のコップを手に取ったところで、あかねさんが振り返った。

 なんだろう? って思ってても、手はそのまま動いてる。もう、体が慣れちゃったみたい。持ったコップに乾いたタオルを詰めて、逆さにして‥‥

「新しいメニュー、考えてくれてるんだってね。あたしが帰ってきたら教えてくれる? アイディアでもいいから」

 ぴたっ、と手が動かなくなった。まるで、いままでやってたこと忘れちゃったみたいに。

「そんじゃ、よろしく〜♪」

 手をひらひらさせながら歩いてくあかねさんが、だんだん小さくなってく。


 でも、私の手、まだ動いてくれなかった。

「ちょ、ちょっと。また行くの?」

 古着屋で春物の服を見て回った帰り、なぎさについて歩いてたら、いつの間にか見たような場所。

 一段高くなってるコーヒーショップ。階段上がって中に入れば、公園がよく見えるはず。

 大きな公園の奥のほうには、お昼と同じバンがあって‥‥

「歩き回って、おなか減っちゃったしね。ほのかも、のどかわいたでしょ?」

 なぎさがわたしをちらっ、と見る目。それでわかっちゃった。

 さっきから、なんだかぼーっとしてると思ったら‥‥まったく!

「ストーップ!!」

「うわぁっ! な、なによ!?」

 わたしは大声といっしょに、なぎさの手首を両手でつかまえた。

 なによ、じゃないわよ。もう!

「な・ぎ・さ!?」

 振り向いたなぎさの顔に、くっついちゃうくらい近づいて、思いっきり目を見つめて。

 なに考えてるか、なんて、わかってるんですからね!

「う〜‥‥でもさぁ?」

 後ろはコーヒーショップの壁なんだから、逃がさないわ。そんな上目づかいで見たって、ダメよ。

「それじゃ、ひかりさんのためにならないでしょ? これは、ひかりさんの勉強なんだから」

 な、なに? なぎさがいきなり、きょとん、って目をしてるわ。ちょっと、まさか‥‥

「気がつかなかった、とか‥‥?」

「べ、勉強なの、あれ!?」

 あ、あはははは‥‥まぁ、なぎさらしいんだけど、ね。

「あかねさんは立派な大人で、タコカフェの経営者よ? ひかりさんの意見を参考にするならともかく、頼りきっちゃうわけないじゃない。
 ただ、タコカフェのことを考えてほしいだけなのよ。きっと」

 レンガっぽいコーヒーショップの壁の前、ちょっと下向いちゃったなぎさのとなりに、わたしももたれかかった。

 ちょっとしてから、なぎさは顔上げて、じっと公園の中を見つめてる。遠くに小さく見えるのは、ひかりさんの働いてる姿。

 わたしだって、手伝いたくないわけじゃ‥‥


 なんて言えばいいのか迷ってたら、いきなり頭の上から声が聞こえてきた。

「あはは。さっすがだねぇ。なぎさとは頭のデキが違うよ♪」

 なぎさとふたりで見上げたら‥‥コーヒーカップ持った、あかねさん!?

「でもね、それだと50点なんだなー」

 あかねさんが、わたしたちの真上――コーヒーショップのテラスから首をだして、こっちを見おろしてるんだわ。

 なんで、あかねさんがこんなところに? それに‥‥50点って??

「ウチならではのメニューってさ、実はもうあるんだよ。とびっきりのがね。
 自分で気づいて欲しいんだけどさ‥‥宿題には重過ぎるかねぇ?」

「重すぎます!」

 え? また別の声??

「ほのかも! ちょっとあの子を放っぽりすぎよ」

 あかねさんとちょっと離れたとこからひょっこり出てきたのは、いつものメガネの顔。

「ユ、ユリコ??」

 思わず、なぎさと顔を見合わせて、首を振ったわ。わたし、知らないわよ、ここにいるなんて!

「中1ですよ? それもなりたて! 重〜い勉強ばっかさせたら、ぺちゃんこになっちゃうわ!」

 じろっ、って音が聞こえるようなユリコの視線。久しぶりに見る、本気の目だわ。思わずなぎさの肩抱えちゃうほど怖いもの。

 でも、そのなぎさも、ユリコに負けないくらいの目で上を見上げてた。‥‥そうね。わたしもちょっと、厳しすぎるのかも。

「わーかったって。降参、こーさんです」

 あかねさんが、しょうがないって顔で両手を上げてるわ。‥‥うん。これなら、きっと大丈夫。

 さて、それじゃ。

「‥‥ところで、なんでこんなとこでお茶してるのかしら? ね、ユリコ?」

 ふふふふ。さっきまでの怖〜い顔がウソみたい。真っ赤になって咳払いしてるユリコ見てたら、ついついにっこりしちゃうわ。

「み〜んな、おせっかいさん。ね

「ただいまー。ごめんねぇ、ひかり。遅くなっちゃってさ」

 お客さんが途切れたから、また車の中で洗いものをしていたら、ひょいっ、とあかねさんが入ってきた。

 あぁ、もう帰ってきちゃったんだ。あれから1時間、結局なにも思いつかないのに‥‥

「いやー、歩いた歩いた」

 あかねさん、そのまま隅のダンボールに腰かけちゃったわ。ほんとに疲れてるみたい。

 私はコップにお水を汲んで、渡してあげた。

 私にできることなんて、このくらい。このくらいしかないんだものね‥‥

「サンキュ。‥‥ん〜っ、これこれ!! やっぱおいしぃわぁ

 え?

「ん? どうかした?」

「おいしいって‥‥それ、ただのお水ですよ? この公園の、水のみ場で汲んできた‥‥」

 あかねさん、不思議そうな顔で私を見てたけど、いきなり笑い出しちゃった。

「あぁ、違う違う。ひかりからもらう水だからおいしいんだよ」

 私が渡した、お水??

「手が空くといっつも磨いてんだよねぇ、このコップさ」

 あかねさん、コップをすっ、と持ち上げた。

 ちょっとだけ切子(きりこ)が入ったガラスに、夕日がキラキラ輝いてる。まるで、オレンジ色のキャンディみたいに。

「きっちり磨いたコップに、やわらかい手に、あったかい笑顔つき‥‥最っ高のお水じゃない!
 これ以上のお水なんか、どこ行ったってありゃしないよ」

 お水‥‥私の、お水?

「じゃ、これで決まり♪」

 コップを置いたあかねさんが、私の頭に手をのせて、くしゃくしゃ、ってした。

 なにが決まりなのか、わけがわからないわ。

 けど、なんだか気持ちよくて、私はそのまま髪をなでられてた。

「あかね先ぱ〜い」

 日曜の朝。忠太郎の散歩につきあいながら、ほのかと公園に来たときは、あかね先輩がちょうどメニューを出してるところ。

「お。ふたりとも、早いねぇ」

 メニューを車に立てかけて、あかね先輩があたしたちに手を振ってた。

 ぺこっ、とふたりでおじぎしながら近くまで来たけど‥‥あれ? メニュー、昨日と変わってないな。

「ひかりさんのメニューは‥‥まだですか?」

 ほのかが忠太郎を座らせながらそう言ったとたん、あかね先輩、まっ白な歯を出してにかっ、て笑った。

「あぁ、これね」

 メニューをくるっと裏返したら‥‥あはは☆ あったあった。たったひとつだけ書いてある、新しいメニュー♪

「ふふ〜ん。常連さんだけが知ってる、タコカフェの裏メニュー、ってとこかな?」

 先輩ってば、ホントうれしそうに言うなぁ。思わず、ほのかと顔見合わせて笑っちゃったじゃない。

「裏メニュー?」

 不思議そうな声が聞こえて顔を上げたら、ひかりが車から降りてくるとこだった。おなかのポケット――ポルンをなでながら。

「あ、ひかり、おはよ♪」

 ‥‥って、あれれ? なんだか、また難しい顔してる?

「裏メニュー。うら‥‥私たち、見ちゃいけないもの‥‥?」

 子犬みたいな目であたしに近づいてきて、ちろっ、と見上げてきてるよ。な、なんだかなぁ。

 ‥‥って、なに!? いきなり、ぞくぞくっ、って背中が寒くなってく?

 そーっと振り向いたら、視線が合っちゃったよ。とっても怖いの、ふたり分。

「な〜ぎ〜さぁ〜っっ!?」

「また、ひかりさんに変なこと教え込んだわね!?」

 うひ〜っ!そりゃ誤解だって!!

 ‥‥ん? ほのかが、目線で合図してる。あ、そっか。

「誤解だぁ〜っっ!!」

 わざと大声出して池のほうに走るあたしを、ほのかたちが追いかけて来た。やれやれ、世話が焼けるんだから。


 追いかけ回されるふりしながら、あたしたちはちらっと車の方を見た。裏メニューを見たひかりが、真っ赤な顔でメニューを表に向けてるとこ。

 そうだね。裏でいいんだよ、あのメニューは。


 『ひかりのお水‥‥0円』は、ね♪

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