いっぽんこみちのすれちがい

 9月7日、晴れ。

 学校から帰って、いつもみたいにタコカフェのおてつだい。

 でも、くる人たちみんな、つかれた顔してるな。

 ちょっと前まで、もっと楽しく笑ってたのに。お姉ちゃんも、みんなみんな‥‥

「ひかる、はい。1番のテーブルね」

 手の上に、おぼんが乗っかった。

 それを見てぼくは、なんかへんだな、って思ったんだ。

「‥‥ひかる?」

 去年より、すこしちっちゃくなった‥‥ううん、ぼくがおっきくなったんだね。

「ひかる、どうかしたの?」

 顔をあげたら、お姉ちゃんの顔があった。心配そうな顔。

 だめだよね。こんな顔。

「だいじょぶだよ、ひかりお姉ちゃん。すぐ行くから」

 ぼくのお姉ちゃんはひとりだけだけど、タコカフェの車の中では『ひかりお姉ちゃん』ってよんでる。

 もうひとり、お姉ちゃんって言わないと悲しい顔するひとがいるんだもん。悲しい顔は、だめだよね‥‥


 おぼんの上のものをこぼさないようにしながら、ぼくはちょっとだけ早く歩いて1番のテーブルに行った。

 おぼんをテーブルに乗せるのも、もう頭の上まで持ちあげなくていいや。ぼくが、おっきくなったんだ、よね。

 おっきくなって、いろんなことができて、でも‥‥

「‥‥ぼく、どうすればいいんだろ?」


 お客さんに食べ物わたして、タコカフェの車の方向いたら、いきなり声が聞こえた。


 ぼくの声だ、ってすぐにはわからなかった。

 新学期になってもうじき一週間。あたしは、タコカフェでジュース飲んでた。

「なぎさ?」

 あたしは、か。ついさっきまで、あたしたち(・・)は、だったんだけど‥‥

「な・ぎ・さー?」

 まだ暑いし、外で座ってたくもないんだけど、お互い部活で忙しくて会えなかったらなぁ。

「なーぎさー?」

 ああ、もう2日しかないよ。ひかりの‥‥

「なーぎーさー

 ‥‥って、もお〜ぉっ!

「えぇいっ、ほのかっ!頭によじ登るなぁっっ!!」

 ぶるぶるっ、とほのかふるい落としたら、腰のあたりにしがみついて止まった。

 まったく、もう!

 高等部に入って、最下級生になってもモテモテだから、部の先輩からいろいろ言われてストレスたまってンのは知ってたんだよ。

 だからあかね先輩に相談して、気が晴れるようなジュースまで作ってもらったんだけど‥‥梅酒入りは逆効果だったかなぁ。。


 さて、と。今日タコカフェでほのかと会ってるのには、気晴らしだけじゃなくて、ちゃんと理由があンだよね。

 ひかりの誕生日、あさってなんだもん。高等部に上がって学校じゃ会えなくなっちゃったから、ここは先輩として、なにかいいプレゼントでも‥‥

「なーぎーさーちゃぁ〜ん

 って言い出したのはこいつなんだけど、これじゃなぁ‥‥はぁ。

「またため息ぃ〜。もう、そんなにわたしじゃけん(・・・・)にするなら、藤村くんとくっついちゃえばいいのにぃ」

 むっ!

 あたしにしがみついて、足をぶらぶらさせて、甘えたいほうだいぐらい許すけど、

「そ、そういうこと言うと、ほんとにくっついちゃうんだからねーだ!」

 いくらほのかでも、ふれて欲しくないとこはあるんだよ!

 ‥‥って、あれ? ほのかの目が大きくなった?

 なんだかゆらゆらしてるし‥‥あ、ヤバっ!

「くっついちゃう? なぎさ、くっついちゃうの?
 ‥‥やーだぁ〜〜っ! い〜や〜だ〜ぁ〜っ!!」

 あ〜あ。ヘンなこと言っても忘れてあげな、ってあかね先輩は言ってたし、そんくらいの覚悟はできてたけどさぁ‥‥こんなのどーすりゃいいのよ、あたしはぁっ!!


「せぇ、のぉ‥‥よいしょっ!!」

 ばしゃっっっ!!


 へ?

 一瞬、あたしはなにが起こったのかわからなかった。

 いきなり目の前で、ほのかの頭がずぶ濡れになってるんだから。

「え? え? ええぇぇっっ!?」

「あの‥‥よってる人には、こうしろって‥‥」

 よくよく見たら、小さな男の子。ひかるが、バケツ持って立ってる。

 ぎゅっ、と手を握りしめて。固い表情であたしたちをまっすぐ見つめながら、大きく口あけて、思いっきり息すって‥‥


「お姉ちゃんに、かなしい顔、させないで!」


 小さいけどすっごくよく通る声が、あたりに響いた。

 お姉ちゃんって、ひかり‥‥? あっ!

 本当だ。バンの前で、ひかりが心配そうな顔してこっち見てるよ。

 まいったね、こりゃ(かん)(ぺき)にあたしらが悪いわ。言い訳しようがないや。

「ほら、ほのか。起きなって。『ごめんなさい』くらい、できるでしょ?
 ‥‥あー、いや。どっちかって言うと、ひかるに『ありがとう』かな」

 まだ頭がくるくるしてるけど、とりあえずあたしはそれだけ答えた。助かったのは間違いないし。

 あとのフォローは、あたしの役目だよね。

「ありがとう、って、いいね☆」

 え?

 ひかるにいきなり言われて、あたしはちょっとぽかんとしちゃったよ。

「ひかる‥‥?」

 にっこり笑って、うなずいて‥‥バンに戻ってくひかるを見ながら、まだあたしがぽかんとしてると、

「いいわね、ひかるくん。ひかりさんが羨ましいわ」

 手で顔の水を払いながら、ほのかが言った。さっきまでとちがって、しゃんとした声で。

 うらやましい、か。そうだね。

「あーあ。自分がどんなに恵まれてるかなんて、わかってないんだろうなァ、ひかりってばさ」

「あの‥‥大丈夫、ですか?」

 ひかるが戻っていったバンから、今度はひかりがタオル持って走ってきた。

「ああ、へーきへーき。正気になってくれて助かったくらいだよ」

 ぽん、って隣のほのかの肩たたきながらあたしが言ったら、

「正気って‥‥まぁ、そうね。心配かけちゃってごめんなさい、ひかりさん。
 そういえば、ふたりのお誕生日って、あさってよね?」

 ああ、まだちょっと正気じゃないか。誕生日プレゼントの相談してんのに、本人に誕生日確認するってさぁ。

「あ、はい‥‥」

 あれ? なんだろ、ひかりのこの反応。いや、ちょっと待てよ‥‥

「ふたり? そういえば、ひかるの誕生日って‥‥」

「ひかりさんと同じ、でしょ?」

 ほのかの言葉に、あたしはちょっと考えた。

 いいや、今までそんな話いちども出なかったはずだけど‥‥

「ひかるの誕生日、ですか。その‥‥ない、ですね」

「「ない!?」」

 思わずふたりで顔見合わせてハモっちゃった。なによ、ない、って?

「ええ。わたしたち、もともと誕生日ってないですし‥‥わたしの誕生日だって、ほのかさんたちから頂いたものじゃないですか」

 ああ、そっか。思い出した‥‥でも!

「でも、ひかるも学校行ってンでしょ? 誕生日なかったら‥‥」

「そこは、大丈夫みたいです。なぜか、だれも気がつかないんですよ。わたしのときも、そうでしたから」

 あー‥‥ うん。

 ちょっと痛くなって、手で頭おさえちゃった。そうだ、そうだったよ。このふたり、居るだけでまわりにみょーな影響だしてンだった。

「‥‥ちょっと、ひかるくんに訊いてみた方がよさそうね」

 あたしにだけ聞こえるように、こっそりほのかが言った。うん。ちょっと締め上げ‥‥じゃなくて、話きこうか。

「あの、なぎささん?」

 目の前で首かしげてるひかりに、あたしは顔上げて言ったんだ。

「バケツの水で薄まっちゃったし、ジュースもうふたつ追加ね。氷いっぱいで。お願いっ!」


 でっきるだけ笑顔作ったはずなのに、気味悪そうに歩いてくひかりの姿が、ちょっとカンにさわるな。ま、いいけど。

「おまたせしましたー」

 しばらくほのかと話して、だいたいまとまったところで、ひかるがジュース持ってやってきた。

 テーブルの上にひとつづつ、あたしのと、ほのかのと‥‥あれ?なんか今までと違う?

「ひかるくん、テーブルの奥まで手が届くようになったのね」

 あ、そっか。なんか違うなー、って思ったんだけど、背が伸びたんだ。ちゃんと成長してるんだよねぇ‥‥んじゃ、いきますか。

「ひかる。ひかりの誕生日があさってにあるけど、ひかるの誕生日っていつ?」

「たんじょうび?」

「そう。あんたが生まれた日」

「‥‥ないよ」

 きょとん、って目が、あたしたちの間を行ったり来たりした。

 さっき、ひかりに言われはしたけど‥‥

「ない、か」

 ‥‥本人から直接聞くと、やっぱショックだなぁ。

「たんじょう日、べつにいらない。お姉ちゃんがいればいい」

 あ〜っ、もう!

 言ってることはカワイイんだけど、意味が重過ぎるっつーのっっ!!

「たんじょう日って、だいじなの?」

 って、思わずテーブル叩いちゃう寸前で、言葉が響いた。ひかる?

「だいじよ。この世界にやってきた日だもの。その日がなかったら、その人には会えないんだもの。とっても、だいじよ」

 ほのかの言葉が、ふわっと広がった。

「‥‥そっか。だから、おねえちゃんの誕生日はお祝いするんだね」

 ほのかはあたしの向かい側の席に移って、余ってる椅子にひかるを座らせてる。ほのかに任せて正解だったね。あたしじゃこうはできないから。

「ひかるくんは、ひかりさんの誕生日、お祝いしないの?」

「お祝いしたい。けど‥‥おねえちゃんは、なにもいらないから、そんなむり(・・)しないでって」

 むり‥‥無理、ねぇ。

 あたしがちらっとテーブルの反対側を見たら、目を合わせたほのかが頷いた。悪いクセがでたかな、こりゃ。

「道は一本だってのに、なんでわざわざすれ違うかねぇ‥‥」

 ほのかに最後まで任せるつもりだったけど、少し考えちゃってる顔のひかる見てたら、思わず言っちゃったよ。

 あとで、ひかりをとっちめ‥‥話した方がいいかなぁ?

「ねぇ、なぎさ」

「ん〜?」

 どうやってとっちめ‥‥とか考えてたから、ちょっと生返事になっちゃったけど、

「いっぽん道の相手をまっすぐ見てなくても、道の脇ならよく見えるわよね?」

 ん? ん〜‥‥わかンない。どーいう意味?

「だからね、なにもいらないなら、なにもあげなければいいのよ。直接本人には、ね
 ねぇ、ひかるくん。あかねさん呼んできて欲しいんだけど、いい?」

「あかねお姉ちゃん? いいけど‥‥」

 不思議そうな顔でバンに歩いてくひかるを見ながら、あたしはヘンだなぁと思ってた。

 まぁ『あかねお姉ちゃん』もヘンなんだけど、それ以上に、


「あかね先輩呼んでなにしようっての、ほのか??」

「なーるほどぉ。喜んで欲しい弟に、負担になりたくない姉、ね」

 腕組みして立ってるあかね先輩を、あたしたちはじっと見つめてたんだ。


 ひかるが呼んだらすぐに来てくれたんで、ひかるの言葉をまとめてちょこっと言っただけなのに、あかね先輩はすぐわかってくれた。苦笑いつきで。

 そりゃそっか。あたしらよりずーっと一緒に見てるんだもんね。で、問題はどう思ってるか、なんだけど‥‥

「誕生日だから、タコカフェ休みにして、パーティでも開こうか、ってあたしも言ったんだけどねぇ」

「止められたんですね?」

 ほのかが言ったら、こくんと頷いて、

「普通にお店やんなくちゃダメだ、って怒られちゃったよ。あんまり景気よくないからねぇ、ははは」

「ひかるくんにも、なにもいらない、無理しなくていい、ですからね」

 はぁ、ってため息が、周り中から聞こえてきた気がするよ。

「言い出したらガンコだからなァ‥‥まったく」

 やっぱ、あかね先輩もあたしたちと同じかぁ。なにか知ってるかなぁ、ってちょっと期待したんだけど‥‥

「ところで、あかねさん。ひかるくんが笑うときって、どんなときですか?」

 ん? ほのか?

「ああ、そりゃ簡単だよ。ひかりがほめられたときさ。
 自分がどんなにほめられても笑わないのに、ひかりがほめられるとすっごく喜ぶんだよねェ‥‥ほんと、お姉ちゃんっ子だわ」

「ですよ、ね♪」

 え? なんでそんな?

「ほのか、一体なにを‥‥」

 ってあたしが言おうとしたとたん、口の前に手が出てきて、それ以上言えなくなっちゃった。

「だから、こんなのはどうですか‥‥?」


 ほのかが話すのを、あたしとあかね先輩の二人でしばらく聞いて、たん、だ、けど‥‥えええっっ!!?


「へ〜ぇ。ほのかちゃんも、ずいぶんなぎさに毒されたもんだネぇ」

「ちっが〜う! ほのかの意地の悪さは会ったときからだよっ!!」

 いや、確かにうまく行きそうだけど。でも‥‥

「ふふふ。意地が悪くて結構ですよーだ。
 それじゃ、あかねさん。ひかるくんの許可、おねがいしますね

 あかね先輩が、任せなさいって笑って言って車に戻ってくのを、あたしはじっと見送った。

 いいのかなぁって思ったけど‥‥保護者(あかね先輩)がいいって言うんだもんね。うん。


「よぉっし、そんじゃいっちょ、やりますかっっ!!」

 今日は、9月の9日。日曜日で、わたしの誕生日。

 学校の友達は、お祝いしてくれる、って言ってくれたのだけど、わたしは全部断った。

 だって、タコカフェのお仕事があるんだもの。

 特に昨日のタコカフェは午前中だけ営業で、午後はお休みだもの。今日はちゃんとやらなくちゃ。

 昨日のあかねさん、お出かけだから休みって言ってたけど‥‥やっぱり、プレゼント買いに行ったのかな?

 うれしいけど‥‥でも、大事なのはお店を続けることだもの、わたしはその次、次の次、ね。

 ようやく涼しくなってきた朝の間に机と椅子を並べて、ひと息つけたわ。

 じゃあ、もうすぐお客さんが来そうだから、コップとお盆用意して‥‥

「ああ、ちょっと待った。ひかり」

 そう思って、休んでいた車のシートから立ち上がろうとしたわたしに、あかねさんの声がかかったの。

「はい?」

「今日は一日、ひかりはバンの中ね。運ぶのはひかるオンリー。いい?」

「え?でも‥‥」

 うん、っておもいっきり頷いてるひかるを横目に、わたしは言ったのだけど、

「い〜〜い?」

「あ‥‥はい」

 顔を思いっきり近づけて笑顔で言われちゃったら、しかたないわ。

 ‥‥誕生日だから、仕事少なめってことかな?

 そんな風に考えてたから、見逃したの。

 よくよく思い返せば、このときのあかねさん、ちょっといつもと違う笑い方してた。


 わたしより小さい子、いたずらっ子の笑い方‥‥

 ‥‥はじめは、声だけだったの。

「おめでとう!」

「ありがとう☆」

 お昼ごろになって、お客さんが増えてきたころに聞こえてきた、お客さんとひかるの声。ずいぶん喜んでる声ね、って、そう思っていたんだけど。

「おめでとう!」

「ありがとー☆」

 また別の方から、別のお客さんとひかるの声。それも、まったく同じやりとり‥‥??


「どうかしたのかしら、ひかる‥‥」

 わたしが車の横の小さな窓から覗こうとしたら、

「‥‥そうだね、そろそろかな。
 ひかり、ここはいいから、ちょっと外出てきな。ただし、お客さんのとこ行っちゃダメだからね」

 え‥‥?

 あかねさんの顔を見上げたら、にっこりの笑顔があった。

「いいから、いいから。さぁ、行っといで


 なん、なのかしら? でも、そう言われちゃったら、行くしかないし‥‥

 なんて考えながら車の外に出た瞬間、考えてたことが吹っ飛んじゃったわ。

「ひかるくーんっ」

 だって、席からあふれるくらい女の子がいるし、

「ひかるくん、こっちもーっ」

 それに‥‥なんなのこの『ひかるコール』!?

「はぁーい!」

 ひかるはコールに応えて走っていって‥‥ああ、なんであかねさん、お客さんのとこ行っちゃダメなんて言ったのかしら。これじゃあ、ひかるが壊れちゃ‥‥

「せぇ、の‥‥おめでとぉーっ

「ありがとー♪」

 え? な、なに!?

 お客さんのところに行って、挨拶してる、だけ??

「ひかるくーんっっ」

 ‥‥ああ、また呼ばれてるわ。わたしの正面にある席のお客さんのところに行って‥‥

「お誕生日、おめでとぉーっっ!」

「ありがとーっ☆」

 うわぁ‥‥


 わたしは一瞬、まばたきできなくなった。

 なんて、なんてきれいな笑顔! ひかるって、こんなに笑えるんだったかしら?

 ‥‥ああ、また別のお客さんのところ行くみたいだわ。

お姉さんの(・・・・・)お誕生日、おめでとう!」

「あ、ありがとぉー

 また、見れた。不思議、だけど、とってもきれいな笑顔だわ。

『花が咲いたみたい』って言い方を読んだことがあるけど、本当にまわりが花でつつまれたみたい‥‥

「きて、よかったね」

「うん 雪城さんの言ってた通りだわ」

 いま挨拶してたお客さんが、ひかるの後ろ姿を追いながら話してる。

 雪城さん‥‥ほのかさん!?

「おっ、いっぱい来てるねぇ」

「ほんと、頑張った甲斐があったわ」

 あっと思って横を見たら、なぎささんにほのかさん。すぐ隣まで来ていたのに、全然気が付かなかった‥‥あら?いま、なんて?

「頑張った‥‥って?」

「まぁいいからさ、よく聞いておきなよ」

「そうそう。みんな、あなたをお祝いしてるんだもの

 わたしを?

「そう。みんなひかるくんに『おめでとう』って言ってくれてるの。ひかりさんの誕生日を、ね」

 言われて、わたしはお客さんの方を見た。

 ひかるがあっちこっちに駆けまわりながら、お客さんの『おめでとう』を聞いて、あの笑顔で応えて‥‥

「部の先輩がたや、クラスの子たちに言ったのよ。『今日、タコカフェの男の子におめでとう、って言ったら、とっても喜んでくれますよ』って」

「あたしもラクロス部と‥‥あと、ちょっと弟使って初等部にもうわさ(・・・)流したんだ。なんでか中等部にも伝わったみたいだけどね」

 なぎささんたちの声が、ちょっと遠くに聞こえる。

 そんなに多くの人たちが、ひかるのために集まったんだわ‥‥

「さぁ、それじゃわたしたちも行きましょ、なぎさ」

「よぉし。よーく見てなよ、ひかり♪」

 って、なんで?

「ええぇっっ!? だって、わたし目の前にいるんですよ? まっすぐお祝いしてくれれば‥‥あ痛っ!」

 コツンっていうげんこつが、軽くわたしの頭にあたった。

「それが言えるンだったら、弟に遠慮なんかすンじゃない、ってのよ。んじゃ、そこでしっかり反省しなね」

 くるっと振り向いて、歩いていこうとするなぎささんの背中に、ひかるの顔が浮かんでくるみたいに感じるわ。


 そっか‥‥ひかる、わたしをお祝いしたかったんだ。あんな笑顔になるくらい、本当に、心から‥‥


 なんだか、ちょっと顔が熱くなってきて、わたしは下を向いてたんだけど、

「ああ、またお客さん来たよ。初等部に中等部に高等部に‥‥ありゃ、OLさんも!?
 いやぁ〜、あかね先輩の友達にも、ひかるファンっているんだなぁ」

「急ぎましょ。さぁ、なんて言ったら喜んでくれるかしら

「一番喜ばせてくれた子には、ありがとうのキス、だったっけ?」

 え? いま、なんて!?

「そう! あかねさんが、ひかるくんのOKもらってたのよね。本人は、あまりよくわかってなかったみたいだけど‥‥」

 ち、ちょ‥‥

「狙ってる子、結構多いみたいだよねぇ」

 ちょ、ちょっと‥‥

「そうね。あっちの初等部の子たちなんか、ちょっぴり殺気を感じるもの。ふふふ、もてもてね」

 ちょっと、ちょっと!ちょっとぉっっ!?

 ひかるの方に駆け出していくなぎささんたちの背中に、わたしは思わず走り出した。


「だめーっ!! お、お姉ちゃんは許しませんっっ!!!」

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