やった!まけた!よかった!

 暗いなぁ。


 気がついたら、オレのまわりは真っ暗だった。

 ついさっきまで、ぜんぜん違う場所にいたような気がしたんだけどな。‥‥あ、そうか。ジャークキングさまが復活されたんだっけ。

 闇が支配すると、慣れてるオレたちでも、真っ暗になっちゃうのか。こりゃ、知らなかった。ビブリスも、そのくらい教えてくれてもいいのになぁ。

 ‥‥それにしても、暗いなぁ。

(ウラガノス! あとはまかせなっ!)

 ‥‥んん?

「なーんか、呼んだぁ?」

 声のした方見ても、真っ暗なまんま。

(せめて、このブレスを!)

 ‥‥ありゃりゃ。まただ?

「ビブリスぅ〜? サーキュラスぅ〜?」

 おっかしぃな。いまの、ビブリスたちの声だと思ったんだけどなぁ。

「ビ〜ブちゃ〜ん? サッキュちゃ〜ん?」

(闇に!)

(還るぞ!)

 ‥‥あぁ、思い出した。

「オレたち、闇に還ったんだっけか」

 最後に見たのは、たしかプリキュアを倒したところだったなぁ。

 いんや、倒したのは見てないか。妙な力出してくる腕輪。そうそう、あの腕輪を、サーキュラスたちが掴んだとこまでだ。

「まぁ、あいつらが掴んだんなら、壊すくらいわけないしぃ」

 倒して、みんな闇に還ったんだ。あとは、ジャークキングさまが支配して下さるだけだなぁ。

「あー‥‥」

 なんだ、これ? プリキュア倒したってわかったら、なんか胸のあたりがヘンな感じだぞ?

「ぼっちゃん、どうしたかな??」

 ぼっちゃん? ‥‥あぇ、いけね。勝手に口が動いちまった。『あのお方』だよな、『あのお方』。

「け〜どなぁ。もうジャークキングさまの復活に力つかわれてるしぃ。なんか、ぼっちゃん、ってか〜んじぃ」

 ありゃりゃ。また口が勝手に動いちまったよ。‥‥まぁ、いい。どうせ闇の支配する世界になったんだし、ぼっちゃんももう、とけて消えたころか。

「――ふぅう〜ぅ」

 な〜んか、さっきより暗くなった気がするなぁ。おぉ、胸の中身まで、真っ暗な感じだぞ。オレもこのまま、闇にとけちまうのか。まぁ、それも‥‥ん?

 いや、真っ暗じゃないな。あそこにひとつだけ、暗くないとこがあるぞ。

 おぉ、なにかわからんが、じっと見てたら、暗くないとこが近づいてきた。歩かなくていいのか、こいつは便利。やはり闇の力は偉大だなぁ。

 ‥‥と、あぁ、ここだここだ。少し明るいとこ。

 お? なんだか窓みたいだな。向こうになにか見えるぞ。なにが‥‥んん!? 向こうに、人がいるだと!

 こりゃ驚いた。なんだ、まだ全部闇支配してないんだ。ジャークキングさまはのんびり屋なのかぁ。オレたち、早く復活してもらうのに苦労してたんだけどなぁ‥‥を、をろろ??


 いや、違う。こいつは違うぞ。

 明るい向こう側で、人が笑っている。

 あのふたりが、窓の向こうで笑っている。あの、プリキュアが!

 いやまて。いやいや、こりゃおかしい。プリキュアだけなら悔しいがまだわかる。だけど‥‥どうなってんだ? オレの目がおかしくなったのか? プリキュアの向こうがわに見えるのは、あの帽子をかぶった子供は‥‥

「ぼ、ぼぼ、ぼっちゃん!!?」

「いらっしゃい、ませ‥‥よいしょ」

 パラソルの下のテーブルに、水の入ったコップがひとつ、もうひとつ。ちっちゃな手で、ゆっくりあたしの前に運ばれてくる。

 テーブルの向こうじゃ、ほのかがなんだかうずうずしてるなぁ。手伝いたいのはわかるけど、もうちょっとなんだから、ガマンしなってば。

「はい。どうぞ」

 お盆を持って、やった、って顔してる小さな男の子。思わず拍手しちゃいそうになるの、こらえるのが大変だよ。

「ひかるくん、お手伝いうまくなったわね」

 ほのかが言ったら、恥ずかしそうに頭かきながら、バンの方に歩いてった。タコカフェの白いコートがちょっとだぶだぶで、遠くからだとコートだけ歩いてくみたい。

「あ〜あ、亮太もあのくらいかわいかったらなぁ」

 言ったとたん、ほのかがあたしの目を見ながらくすくす笑った。はいはい。

「わかってるって、あたしの弟だもんね。‥‥ひかるは、ほんとにひかりの弟だよ、どっから見てもさ」

 バンの扉を開けるひかるに、中からひかりが手を貸してる。なんか、見ててほのぼのしちゃうよねぇ。最近じゃ、ひかる目当てで女の子のお客さんが増えてる、なんてあかねさん言ってたけど、ちょっと気持ちわかるかも。

「ほのかに弟がいても、あんな感じになるのかな‥‥あれ?」

 あれれ? ほのかの方に向き直ったら、目玉がまんまるになってるよ。なんだろ?

「あかおに‥‥」

 へ?

 ぽそっ、と言った言葉に、あたしはどうしていいかわからなくなった。だってさ、

「なに言ってんの、ほのか。豆まきなんて、もう1ヶ月も前に終わってるじゃ‥‥?」

 って言おうとしたあたしの前で、ほのかの手が踊ってる。なにか、どうしても伝えたいことがある、って感じ。

「そ、そうじゃなくって、な、なぎさ‥‥っ!」

 踊ってた手から、人差し指だけが伸びた。まっすぐ、あたし指さしてる。なに? あたしがどうかしたの??

「プぅリキュアぁぁっ!」

 な、なにっ? 背中からいきなり大声で、それもプリキュアって!?

 振り向いたら、あたしの後ろにアイツがいた。真っ赤な顔に、ヘンなヨロイみたいのつけて、ヒゲをピンとのばした大きなヤツ、これ、これってぇ!?

「「ウラガノスぅっ!?」」

「はい、ひかりぃ。あがったよぉ!」

 ひかるをバンの中にひっぱり上げたところで、あかねさんの声が聞こえてきた。

 私はオーダーとトレイの上を見比べながら、いつも通りの指さし確認。

「ええと‥‥なぎささんがたこ焼きで、ほのかさんがりんごのクレープ、と。はい、OKです」

 ‥‥なんだか、なつかしいわ。慣れちゃって、去年の夏ごろにはやらなくなったのだけど。ひかるがいるんだもの、基本通りやらなくちゃ。

「それじゃ、私が運んでくるから。ひかるは、あかねさんのお手伝いね」

 『うん』って言ってうなずくひかるを『はい』に直させてから、私は笑わないようにこらえながらバンを出た。なぎささんに、からかわれちゃったものね。お姉さん風が吹いてる〜、なんて。

 あぁ、笑ってちゃいけないわ。たこ焼き、あったかいうちに食べてもらわなくちゃ。

「お待たせしま‥‥え?」

 一番森に近い――いつもの、なぎささんたちの席――に近づきながら出そうとした声が、途中で止まっちゃった。

 なぎささんも、ほのかさんも立ち上がって、なんだかすごくいやな雰囲気。いったい、どうし‥‥

「ひかりさん、逃げてっ!」

 振り向いてそう叫んだほのかさんの向こうに、赤いのがいた。

「シャイニー・ルミナス! お前もか!!」

 大きな赤い顔。ピンとのびたヒゲが、口を動かすたびにぶんぶん振れてる。

 私はちょっとだけ、ぽかん、としてたみたい。目の前が少し暗くなって、気がつくと私の前になぎささんが立ってた。両手を大きく広げて、私をおおい隠してくれてる。

「ほら、早く! プリキュアじゃなくなったって、ひかりが逃げる時間くらい‥‥っ!」

 でも、私は動かなかった。


(ぼく、赤いおじさん好きだよ)


 頭の中に、声が聞こえてくる。小さいけど、はっきりした声。ひかるの声だわ。

「おまえら3人そろって、ぼっちゃんをどうするつもりだ!?」

 テーブルの奥の森から、大きな体がこっちに向かってくる。でも‥‥


(赤い顔で、おっきなおじさん。ぼくが転びそうになると助けてくれるんだ)


 また、ひかるの声。いつだったか、眠れないひかると、夜中までお話ししたときの声。

「ぼっちゃん‥‥って?」

「まさか、ひかるくんのこと??」

 赤いおじさん――ウラガノスが両手を振り上げるの、なんだか遠くのことみたいに見える。だって‥‥

「ひかるぅ? やっぱりか! ぼっちゃんに光の名前なんぞつけやがって!」

 ‥‥だって、そらは暗くなってないんだもの。

「ぼっちゃんを、そんな車に押し込めて、何をしてやがる!?」

 遠くだけど、ほかの人もちゃんと動いているし。

「ぼっちゃんを、光のちからにする気かぁっ!!」

 それに‥‥それにこの人、さっきから、ひかるのことしか言ってない。大声を出してるのに、殴ろうとしてない‥‥


 コトン


 私は、持ってたトレイをテーブルに置いた。たこ焼きから湯気がのぼって、ソースのいい匂いがふわっ、とやってくる。

「ちがいます。光に変えたりなんてしません!」

 言いながら顔を上げると、ウラガノスのおっきな顔がすぐ目の前。テーブルをはさんでるなんて思えないくらい、すぐ近くに見える顔を、私はじっと見つめた。

「ひ、ひかり!? なんで前に出んのよぉっ!」

「ひかりさん、危ないっ!」

 すぐ後ろで、叫んでるのがわかる。目の前で、ジロっと睨んでるのが見える。けど私の中では声が響いていた。叫び声よりおっきくて、睨む目より心にしみる声が。


(おじさんはね、顔じゅうで笑うんだよ。見てるとすっごく気持ちいいんだ‥‥)


「うん。わかったわ、ひかる」

 目をつむって、ちっちゃく声に出してから、私はまたウラガノスに目を合わせた。

 黒目のない目。まえに見たときは、すっごく怖かった目、だけど‥‥

「もうルミナスじゃありません。もうプリキュアじゃありません。私たちは‥‥ひかるは、普通の人間です!」

 聞いてるわ。じっと私の目を見て、私の言葉、ちゃんと聞こうとしてる。

「にんげん〜ん??」

 テーブルを越えて、大きな顔が近づいてきたわ。私の肩のあたりを、くんくんかいでる。

「ほんとだ、光のにおいが薄いな。ほんのちょっと、闇のにおいもするし。
 う〜ん‥‥にんげんか、みんなにんげんにしたのか。 なんでだ?」

 私の顔のすぐ前で、おっきな目が私を見つめてる。

 そのとき、手首がつかまれた感じがした。ちょっと見てみたら、なぎささんの手。私を心配してくれてるんだわ。握られた手首が、あったかい。とっても、あったかい手。

「どうして人間になったのか、私にはわかりません。けど‥‥」

 引っ張られてる腕に力を入れて、私はまた顔を上げた。

 手首のあったかさが、私に勇気をくれてるわ。

「けどこれで私、やっとひかると手をつなげるようになったんです。もう、握っても倒れなくていいんです。
 お願いです、ウラガノスさん。ひかると‥‥弟と、一緒にいさせてくださいっ!」

 つかまれた腕からちからが抜けた。

「ウラガノスに、『お願い』‥‥?」

 そう言ったっきり、背中の声が聞こえなくなった。正面に、じっと私をみつめる目。ぜんぜん怖くないわけじゃない。けど、

「私もひかるも、誰かのために、虹の園にきました」

 背中でじっと、じぃっと聞いてるのがわかる。ふたりとも、私の言葉を。

「でも、なぎささんたちは、最後の最後まで、私のままでいい、って言ってくれたわ。わたしの方が、ほかのなにより大事だって。
 だから今度は、私がひかるに言ってあげたい。あなたのままで生きていいんだって。あなたの人生をつくっていいんだって」

 自分でも、ムチャしてるって思う。だけど、なぎささんたちは私を信じてくれてるわ。


(また、会えないかな。おじさんに‥‥)


 だから、私も信じる。――ひかるを!

「お願い、ウラガノスさんっ」

「お願い、ウラガノスさんっ」

 ひかりがそう言って思いっきり頭を下げるのを、後ろにいたあたしもほのかも、しばらくぽかん、って見てた。

 おじぎした、ちっちゃい体の向こうに、赤くて大きな体が見える。

 さっきまで大声上げてたのに、いまは黙ってじっとひかり見てるよ。いったい、なに考えてんだろ‥‥ん?

「ん〜‥‥てことはぁ」

 頭を指でかきながら、ウラガノスがまたひかりに顔近づけた。けど、

「ルミナスじゃ、ないのぉ?」

「はい」

 さっきと、雰囲気がちがうな。のんびりした声で。

「クィーンでも、ないのぉ?」

「はい」

 ひかりが緊張した声で答えてるの、ちょっとおかしいくらいに聞こえるよ。

「そんでそんで、お姉ちゃんなのぉ?」

「‥‥はい」

 ちょっとだけ嬉しそうな声がしたと思ったら、ウラガノスがあたしの方向いた。

「プリキュア。オレたちが最後に闘ったとき、お前たちの腕のヤツ、壊したよな?」

 それって、ブレスのこと、だよね?

 あたしが思わずとなりを見たら、ほのかが大きくうなずいてた。そしたらアイツ、いきなりあたしを指さして、

「や〜い。伝説の戦士が負けてや〜んの」

 ――っ! な、なんかムカつく〜っ!!

「待って、なぎさ」

 ひかり押しのけようとしたあたしの肩が動かなくなった。どうどう、なんて声もしてくる。あたしは馬かっての!‥‥まぁ、しかたないからガマンするけどさ。

 そう思ってたら、ほのかがあたしの前に出てきた。あたしの手を握って、真っすぐウラガノスの目を見て、

「でも、わたしたちは生きてます。
 プリキュアじゃなくなっちゃったけど、それでも、みんな希望を持って生きてます。
 だから‥‥わたしたちは、負けてません!」

 あたしも、手を握り返した。そうだよ。あたしたちは負けてない。さぁ、文句があんなら、かかってきなさいよ!

「オレたちは、闇に還った。そっかー。それじゃ、負けだなぁ」

 ‥‥って、あれれ? 地面に座り込んで、頭かいてる。ひかりも顔上げて、ぽかんとしてるよ。なんだか、ひょうしぬけしちゃったなぁ。

「やーい、負けんぼー」

 思わず言っちゃったとたん、チロッって視線がふたつ来た。わかった、わかりましたってば。

 あたしが手を振って視線に答えてたら、目の端で赤いのがぶんっ、って動いた。座ったままのウラガノスが、両腕を大きく上げたんだ。

「やった! 負けた! よかった! っはーっはっはっはっ!!」

 な、なに? いきなり大笑いしちゃってる!?

 となり見たら、ほのかもびっくりした顔であたしを見てるよ。ひかりが、どうしよう?って顔であたしたち見てるし。

「オレたちは、ジャークキングさまを復活させた! やった!
 オレたちは、最後まで生きられなかった! 負けた! ちくしょう!
 だが‥‥だが、ぼっちゃんは生きてる!生きてゆける! よかった!!」

 あ‥‥!

 ウラガノスが立ち上がって、そのままあたしたちに背中を向けた。

 でも、あたし見ちゃったよ。立ち上がろうとしたウラガノスの手が、テーブルにぶつかって、そのまますり抜けたの。そっか‥‥そうなんだ。

「あの‥‥会って行かないんですか?」

 ひかりが背中に声をかけたら、大きな顔がまたこっち向いた。

 ほんのちょっとだけバンの方を見てからしゃがみこんで、ひかりの顔を覗き込んでる。

「ん〜? ん〜〜、なんでか、わかるぅ〜?」

「え、えっと‥‥またさよならだと、ひかるが寂しがる、から?」

 ひかりが答えた瞬間、赤い腕が伸びて‥‥危ないっ!

「ちょ、ちょっとあんた何を!?」

「待って、なぎさ!」

 ほのかに腕ひっぱられたあたしの前で、ぽん、って、赤いおっきな手が乗っかった。

 ひかりのあたまに。さわれるわけないのに、なでてるみたいに。

「あ、あの‥‥?」

 きょとん、としてるひかりの向こうで、ウラガノスが、笑ってた。

「うん、うん。いい姉ちゃんだ」

 今まで何度も見た、ニヤリ、っていう笑い方じゃない。顔じゅうくしゃくしゃにして、本当にうれしそうな笑い方。

 そう、ひかるが見たら、きっと抱きついちゃいそうな、そんな笑顔‥‥あ、あれ?

 なんとなく下向いたら、ウラガノスの足が黒くなってる?

 いや、足だけじゃないや。ひざや、腰まで‥‥だんだん、黒い霧みたいになってる。消えてってる!?

「お? おぉ、やっとか。そんじゃ、闇に還ろっかな」

 

 赤い大きな顔が、あたしとほのかの方に向いた。

「どっかで会ったら、また、やるか?」

 前に見たニヤっ、と笑いでそう言ったけど、もうイヤな感じしないな。

「冗談!」

「もう、こりごり!」

 不思議な感じだよ。こんなこと、笑って言えるなんてさ。

 ほのかも同じ気持ちみたいだね。目が合って、思わず吹きだしちゃった。

 そしたら、もう赤い顔だけになっちゃったウラガノスが、いきなり口を大きく開いて、

「はははは! 充分やった!充分まけた!充分よかった! ふわぁーっはっはっ‥‥」

 楽しそうな笑い声が、黒い霧と一緒にゆっくり消えていった。

 いつもの、小さな森。ウラガノスが消えたあとを、しばらく見つめてる。ひかりも、ほのかも。

 あたしは、そんなほのかの様子をそぉっと見てた。

「ほのか‥‥」

 思わずばっ、と口押さえたあたしに向かって、ほのかが笑いながら首を振った。

 闇に消えてくとこ見て、思い出しちゃったかな、なんて思ってたの、ばれてたか。

「さっきから考えてたの。どうして、消えたはずのあの人がここに出てこれたのか。きっと‥‥」

「‥‥きっとあの人、ひかるが大好きなんですよ」

 森のほうを見つめたままのひかりが、ちっちゃく言った。

「本当に好きで好きで‥‥だから、闇に還りきれなかったんです」

「ええ。でもいま、還っちゃった‥‥」

 ほのかの言葉に、ひかりがこくん、ってうなずいた。でも、まだじっと森の方を見つめてる。

 あたしとほのかは、その背中に手を置いた。ここにいるよ、って思いといっしょに。


 遠くから、お姉ちゃん、って呼ぶ声がする。みんなして声のほう見たら、バンの扉がちょこっと開いて、ひかるが手を振ってるな。

「私‥‥」

 ひかりがぽつん、と言いながら、バンに手を振った。あたしたちに向き直って、

「なります。私‥‥きっと!」

 きっぱり言って、しっかりうなずいて、そのままバンの方に走っていった。

「なれるよ」

 あたしの口から、勝手にことばがこぼれてった。

「ええ。いいお姉さんに」

 ほのかの声聞きながら、あたしはバンの方を見た。バンの扉の前で、ひかりとひかるがなにか話してる。

 両手上げて、抗議してるっぽいひかるに、両手を腰に当てて答えてるひかり。‥‥あ、いま指で小突いたな?

 あたしはそれ見て、ゆっくり首を振った。


「ううん、『いい姉ちゃん』に、だよ」

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