おねえちゃんないちにち

(まい)、ごめんっ!」

 目の前で、(さき)が両手を合わせてる。なんだか、絵でも見てるみたいに見えるなぁ‥‥


 放課後の教室。窓の向こうには帰りがけの子たち。わたしも今ごろ、あの中に混じってたはずなのよね。いい景色のとこがあるから、って言ってた咲に案内してもらうはず、だったんだけど。

「いいのよ。しかたないじゃない。練習試合なんだから」

 グラウンドの方で練習してる運動部の子たちから、わたしはまたすぐ近くに目をやった。

 まだ頭下げてる咲の後ろに、篠原先生。頭をかきながら、苦笑いしてるわ。

「こぉ〜の不良部員ったら、試合忘れて美翔(みしょう)と約束しちゃってたんだって? ごめんねぇ、あたしも監督できてなくってさぁ」

 言いながら、指で咲の頭をコツコツつついてるの。なんだか先生に見えないな。お姉さん、って感じ。

 あぁ、先生まで片手でおがんじゃって、頭下げようとしてるわ。もう、やめさせなくっちゃ。

「いいえ、気にしてませんから‥‥じゃ咲、わたし先に帰るわね?」

 そのまま咲のわきを抜けて、教室の扉にから出ようとしたとき、背中から声が聞こえてきた。今度は絶対付き合うから、って。


 ほんとに、気にしてない‥‥よね、わたし。

 

「広ぉいなぁ‥‥」

 校門出たとたん、思わず言葉がこぼれちゃった。

 学校をひとりで早く帰るなんて久しぶり。この学校に転校してから、いつも咲といっしょだったものね。

 咲がいないときだって‥‥


 あたりをちょっと確認してから、わたしはカバンに声をかけてみた。

「チョッピ?」

 でも、カバンについてるコンパクトは、ただゆっくり揺れるだけ。お昼食べてから、ずっと眠ってるみたいね。


 そっか。ほんとに、ひとりなんだ。


 春の空が、すこし高くなったような気がする。涼しい、って感じの風に()の葉の匂いが乗っかって、森がいつもより緑に見えてる。

「みどりの里、かぁ」

 この町にいると、チョッピたちがこの世界をそう呼ぶの、よくわかるわ。

「描きたいなぁ‥‥」

 ゆっくりと、あっちこっちのみどりを見ながら歩いてみる。やっぱりあの木が一番目にとまるわ。咲と、チョッピたちと出会った、大きな木。行ってみようかな、ってちょっとだけ思ったけど、でも‥‥なんだか不思議すぎて、いまの気分じゃないのよね。

 いちばん、いちばんみどりなとこ。咲がいれば、きっとわかるんだろうけど‥‥


「舞おねえちゃん、なにやってるの?」


 え!?

 いきなり下から声が聞こえてきた。

 びっくりして見おろしたら、ほとんど真下に赤いランドセルとみつあみおさげ。咲の妹さん、みのりちゃんが、不思議そうな顔でわたしを見上げてるわ。

 うわぁ。わたし、またぼーっとしちゃってたみたい。もう少しでぶつかっちゃうところだったんだ。

「こ、こんにちは、みのりちゃん。わたしはねぇ‥‥いい風景がないか探してるの。絵を描こうと思って」

 わたしがちょっとだけ離れてからしゃがんで言ったら、とたんに、あっ、て顔したみのりちゃんが、こんにちわって言いながら頭さげた。素直なのよね、ほんとに。

「いい場所だったら、きっとおねえちゃんが知ってるよ。おねえちゃんって『のやまをかけるサル』なんだって。ケンタがよく言ってるもん」

 あははは‥‥ 自分の顔が困った笑顔になってくの、わかっちゃうな。胸はってそんなこと言うみのりちゃん見てると、どう反応したらいいのか、わからなくなっちゃうんだもの。

 それにしても、ケンタ‥‥星野くんのことよね? 咲だけじゃなくて、みのりちゃんとも仲いいんだ。ふぅん‥‥

「舞おねえちゃん?」

 ‥‥あ、いっけない。みのりちゃんが、また不思議そうな顔で見てるじゃない。

「そ、そうね、そうしたかったんだけど‥‥咲ね、きょうはソフトボールの練習試合なんだって。急だったし、となり町まで行くから、応援にも行けなくって。
 それで、どこかにいい風景ないかな、って歩いて、た‥‥みのりちゃん?」

 思わず、みのりちゃんに問いかけちゃった。だって目の前の顔が、笑顔になっていくんだもの。どんどん、輝いてくみたいに。

「それじゃ、みのりが案内したげる!」

 え? わわっ!

 わたしは転びそうになるのを、なんとか耐えて立ち上がった。

 びっくりしたぁ。みのりちゃんが、しゃがんだままのわたしの手をいきなり握って引っ張っるんだもの。でも、立ち上がったわたしの手にも、ちっちゃな手がしっかりつながってる。わたしを、引っ張って行こうとしてるのかな?

「おねえちゃん言ってたよ。『ミスしたって、みんなでカバーすればいい』って。だから、しょーがないおねえちゃんのミスは、みのりがカバーするの♪」

 ちらっ、と見上げながら言う声が、なんだかとっても嬉しそう。わたしは吹きださないように、大きく息吸って、

「それじゃあ、お願いね。みのりちゃん

 つないだ手をきゅっ、て握ったら、引っ張ってくれてる手が、少し汗かきはじめてるわ。


 ふふふ。それじゃ一日だけ、お姉ちゃんになっちゃおうかな

 

「あれ? 美翔さん?」

 学校前の坂を降りきった交差点のかどから、よく聞く声が響いてきた。

 メガネに二つしばりのおさげ。大き目のカバンにはいつでも絵本。クラスメイトの、安藤さんね。

「たしか、日向(ひゅうが)さんと一緒に、絵を描きに行くって言ってなかったっけ‥‥?」

 いやみな人じゃないんだけど、けっこう細かいことにこだわるのよね。だからたま〜に、ツッコミたくなっちゃうの。

「ええ。だから、ちゃんと帰ってるでしょ、日向みのりちゃんと♪」

 引かれてない手をみのりちゃんの肩に乗せて、いっしょになって安藤さんを見上げたら、少しのあいだ、口ぱくぱくしてた。成功♪かな?

 まぁ、やりすぎはよくないわよね。

「咲が用事できちゃって。妹さんのみのりちゃんに、いい風景を案内してもらってるのよ」

 安藤さん、ちょっとだけムスっとしてたけど、ひとつ息ついたと思ったらすぐ普通の顔にもどっちゃった。

 さすが、小さい子に慣れてる人は違うな。

「なんだ、それならちょっと言ってくれれば、私が案内したのに‥‥あ、よければいまからでも案内するわよ?」


 きゅ‥‥っ


 安藤さんの言葉が終わる前に、わたしの手が、痛いくらい握られた。

 いまはお姉ちゃんなのに‥‥信用ないんだなぁ、わたし。

「安藤さんは、図書館に行かなくちゃ。みんな、待ってるんでしょ?」

 言いながら、わたしは空いてる手で、ちょっと指さしてみた。

 そしたら安藤さん、すぐぱっ、と後ろ向いて、

「そう?それじゃ、また明日ね」

 そっけなく言って、そのまま歩いて行っちゃった。


 重そうなカバンかかえて歩いてく安藤さんの姿が、だんだん小さくなってく。わたしはしばらく、そのまま見送ってた。

 きっと、もうそろそろ、かな?

 そう考えながら、つないだ手を意識してたら、いきなりその手がくぃっ、て引っ張られた。うん。きたきた♪

 ゆっくり下を向いたら、みのりちゃんがじっとわたしを見上げてる。心配そうな顔で、じぃっと。

「あのおねえちゃんじゃなくて、いいの?」

 わたしはすぐにしゃがんで、まっすぐ目を合わせてあげてから、

「安藤さんは、みのりちゃんじゃないでしょ?
 わたし、今はみのりちゃんに案内してもらいたいの。ね?」

 目の前の顔が真っ赤になるの、わたしはそのままじぃっと見つめてた。

「‥‥うん!」

 咲とおんなじ。ほんと、まっすぐな子なんだわ。

 だから、わかるのよ。次になに心配するかって。

「安藤さんならだいじょうぶ。みのりちゃんの気持ち、ちゃんとわかってるから」

 え? って、びっくりした顔のみのりちゃん見てると、思わず顔がほころんじゃう。なんでわかるんだろう、なんて思ってるんだろうな。

 でも、そんなの簡単。だってさっきわたしが指さしたら、すぐOKサイン出してくるんだもの。髪なおすふりなんてしながら。


 わたしはただ、みのりちゃんと繋いだ手を指さしただけなのに、ね

 

「はい、とうちゃくでーす♪」

 森に囲まれた小さな公園で、みのりちゃんの両手が上がった。

「ここ?」

 わたしは思わず、ヘンな声出しちゃった。みのりちゃんの好きな公園に行くんだとばかり思ってたら、違う公園なんだもの。

 でも、みのりちゃんは思いっきりうなずいて、

「うん、ここだよ。けしきだったら、こっちの方がずっといいんだ♪」

 あぁ、そっか。気をきかせてくれたのね。

 どこにでもありそうな公園だけど、森の中にあるせいか、乗り物もなんとなく緑のにおい‥‥うん、これなら、みどりが描けそう。それじゃ、スケッチブックを取り出して、と‥‥

「あ、まってまって。一番いいとこ行くから。
 この森の奥にね、あたししか、知らないとこがあるの」

 カバンの中をさがしてた顔を上げたら、みのりちゃんがひとりで公園の奥に歩いていってた。急いで追いかけたけど‥‥なにかヘン。なにか引っかかってる。

 なにが‥‥あ!

「みのりちゃんしかって、咲も知らないの?」

 木でできた公園の柵。ちょっとだけ壊れてるとこをくぐって、みのりちゃんが森に入ってく。

「おねえちゃんはさ、ここ来ちゃだめだ、って」

 わたしは柵を乗り越えながら、考えた。

 来ちゃダメ。咲が、みのりちゃんに、来ちゃダメ‥‥

「ちょっと待って、みのりちゃん。どうしてダメか、聞いてみた?‥‥あ痛っ!」

 みのりちゃん捕まえようとしたけど、腰が引っ張られて動けなかった。乗り越えるとき、柵にスカートが引っかかっちゃったんだわ。

「聞いたけど‥‥あぶないから、ダメって」

 きょとん、ってしてるみのりちゃん見ながら、わたしは思わずのど鳴らせた。

 あぶないから?‥‥とにかく、これ以上先に進ませちゃダメだわ。いまのわたしは、お姉ちゃんなんだから。

「ね、みのりちゃん、別のとこにしよ?」

 できるだけ、落ち着いた声だしてみたけど、顔がこわばってるのが自分でわかる。

 焦っちゃだめ、だめなんだけど‥‥あぁ、なんで柵から外れないの!

「だいじょうぶだよ。おねえちゃん、怖がりなだけなんだもん。
 ほら、この木。ここの裏っかわに回るとね‥‥」

「待って、みのりちゃん!」

 早く、早くみのりちゃん捕まえなくちゃ。もう、このスカート‥‥ッ!!

「ほぉら!‥‥ぁれ?」

「みのりちゃん!!」

 くらっ、て、木の向こうに倒れるように消えてくみのりちゃん見た瞬間、わたしは()んだ。


 ほかのことなんて、なにも考えられなかった。

 

 ゆらゆらって、なにかゆれてる。

 もう、朝なのかな。おかあさんが起こしてくれてるの?

 ‥‥ううん、ちがう。

「‥‥おねえちゃん、舞おねえちゃん」

 声。ちっちゃくて、ないてる声。

 ないてる‥‥泣いてる?

「舞おねえちゃん! 気がついた!!」

 ぱっと目を開けたとたん、目の前いっぱいに顔があった。くしゃくしゃの、みのりちゃんの顔が。

「けが、ない?」

 言ったとたん、目の前の顔がぶんぶんうなずいた。痛そうな顔してない、か。ふぅ、ちょっとだけ安心ね。

 ばさばさになっちゃった髪をとかしてあげようとしたけど、腕が動かない。変だなって思ったけど、よく見たら腕の中にみのりちゃんがいるわ。とっさに抱きかかえちゃったんだ。よかった、間に合って。

 ちょっとだけ体を動かしてみたら、なんだかチクチクする‥‥けど、やわらかい地面に乗っかってて、別に痛いとこもないみたい。

 首をちょっと動かしたら、さっき見た大きな木。なんだ、その場で転んじゃっただけだったのね。わたしひとりあんなに慌てちゃって、バカみたい。

 みのりちゃんを抱えたまま立ち上がろうとしたら、なんか足元が変な感じ。地面がすっごくやわらかいの。まるで、土じゃないみたい‥‥ええっ!?


 地面にすき間があいてて‥‥ずっと下に見えるの、あれって、森!?


 そっか。大きな松の木の枝に、いっぱい葉っぱが積もってるんだわ。だからこんなにやわらかいんだ‥‥

 わたしはそのまま、ゆっくり木の方に歩いていって‥‥足が固い地面に触れたとたん、座り込んじゃった。ぺたん、って。

「おねえちゃん! 舞おねえちゃん、どこかいたいの!?」

 あぁ、みのりちゃんの声、なんだか遠くからに聞こえるなぁ。ここでちょっと眠っていきたいくらいだけど‥‥そうもいかないわ。早く、戻らなくっちゃ。とにかく、立ち上がって、と。

「大丈夫よ。さぁ、行きましょ」

 そのまま今度はわたしがみのりちゃんの手を引いて行こうとしたけど‥‥手が、動かない。あら?

「おねえちゃん、あれ!」

 振り向いたわたしの前で、みのりちゃんがまっすぐ指をさしてた。


 みどりの、ひかり。

 松の葉っぱに夕日がさして、きらきら、きらきら。

 まるでみどりの氷みたい。そのまま見るより、ずっと、ずぅっと、みどり。

「きれい‥‥」

「でしょでしょ! 舞おねえちゃんなら、そう言うと思ったんだ。

 おねえちゃんも、きっと気に入るだろうなぁ、って言ってたもん」

 にこにこ顔のみのりちゃんと、指さす先を、わたしの目が何度も往復した。

 ほんと、きれい。‥‥でも。

「行きましょ。みのりちゃん」

 引かれる後ろ髪を振り切ってから、ぎゅっと握った手を、わたしは引っ張った。

「ま、舞おねえちゃん?」

 公園の壊れた柵を乗り越えて、

「絵、かかないの?」

 公園の入り口を抜けて‥‥

「舞おねえちゃん!!」

 手にみのりちゃんがぶら下がってきたところで、わたしはちょっと立ち止まった。

 わかるのよ、わたしにも。なにかしてあげたい、ってこと。なにかできるのが嬉しい、ってこと。

「みのりちゃんにケガさせてまで、描きたい絵なんてないわ」

 まっすぐ見て、ゆっくり言ったつもりだけど、見上げる瞳がおびえてる。何年か前の、わたしの姿を見てるみたい‥‥

 気がついたら、わたしはみのりちゃんの頭をなでてあげてた。

「でも、ありがと。みのりちゃん」

 抱きついてきたみのりちゃんをなでながら、わたしは思わずため息ついちゃったわ。

「わたしってやっぱり、お姉ちゃんに向いてないのかな‥‥」

 

「たっだいまぁ!」

 家中に響く声の後から、とたとた駆けてくる足音が近づいてきた。

 咲の部屋の中では、ちっちゃなくすくす笑いがふたつ。みのりちゃんといっしょに息をひそめてると、それだけでなんだか楽しくなっちゃうな。

 あ。足音がもうすぐそこよ。ドアが開くまで、3、2、1‥‥

「「おかえりなさい、おねえちゃん」」

 開いた瞬間にふたりで言ったら‥‥うふふ。咲ったら、部屋のドアを開けた姿で固まっちゃったわ。成功成功。

「な、なんだ、舞、来てたん‥‥」

 みのりちゃんと右の手のひらパチン、って合わせて喜んでる途中で、いきなり咲の声が聞こえなくなった。あらっ? と思って振り向いたら‥‥なんだろう、咲がヘンな顔してる?

「どうかしたの?」

 わたしがそう訊いたとたん、ちょっとだけむすっとしてた咲の顔がもとに戻った。

「ううん、なんでもない。‥‥あ、ほーら、みのり。まーた汚してきちゃってぇ。お風呂はいっちゃいなよ。あたしもあとから行くからさ」

 言われてみのりちゃんは着替え持って部屋を出てったけど‥‥なんだろう、このヘンな感じ。まるで、部屋からみのりちゃん追い出しちゃったみたい。

 でも、咲がそんなことするわけ‥‥

「ところで、と。ま〜いちゃん♪」

 体が思わずびくっ、てなった。

「な、なに? ヘンな声だしちゃって」

 猫なで声ってこういうのかしら。なんだかものすご〜く企んでる声だもの。

 さっきの仕返し? でも、わたしだけ残してっていうのもおかしいし‥‥

「そこ。スカートのすそ、やぶけてるよ」

 ‥‥えぇっ!?

「こ、これね。絵を描こうとして、ちょっとヘンなとこ座っちゃって‥‥な、なに!?」

 やぶれたスカート、おしりの下に隠そうとしたとこに、咲の手がぱっ、てのびて来た。

「これ、な〜んだ?」

 え?‥‥あぁ、松の葉っぱ?

「この辺ねぇ、葉っぱの大きな木ばっかりで、松ってないんだよ。‥‥()()()()()()()、ね」

 あの公園‥‥あぁっ!

「こ、これはね、そ、その、ええと‥‥」

 ああ、なんだか頭が混乱して、うまく言葉にならないわ。いつもならすぐ出てくるのに、もうっ!

「‥‥ありがとね、舞」

 え?

 わたしは一瞬、なにが起こったのかわからなかった。目の前で、咲が頭下げてる。テーブルに、くっつくくらい。

「みのりがさ、連れてっちゃったんでしょ?ったく、行っちゃダメだ、って言っといたのに」

 ぽけっとしてたわたしの目が、その一言ではっと覚めた。

「咲! みのりちゃんは‥‥」

 思わず腰が上がっちゃうわ。ダメよ、咲。いまみのりちゃん怒っちゃ。いっくらお姉ちゃんでも‥‥!

「わかってるって。舞がちゃんと怒ってやったんでしょ。なら、それ以上言わないよ」

 あ、あれ? ‥‥怒らないの??

 わたし、その場にかくん、ってひざついちゃった。お姉ちゃんな咲なら、きっと怒るだろうって思ってたのに‥‥

「で〜も! ひとりで行っちゃダメだかんね、舞」

 ん?

「舞って、絵を描くこと考え始めるとまわり見えなくなっちゃうんだもんなぁ。あたしゃ心配だよ」

 ちょ、ちょっと待って?

「まぁ、まかせなさいって。行くときは、あたしがロープで落ちないようにしたげるからさ」

 これって、もしかして‥‥

「だから、ひとりで行くんじゃないよ。ね!
 ‥‥それじゃ、おやつ持ってくるから」

 あらら。言うだけ言って、そのまま部屋出てっちゃった。

「ふふふふ」

 思わず、笑いがこみ上げてきちゃう。そうか、あれなんだわ。

「あははは」

 そう、()()がお姉ちゃん、ってことなのよ。

「あははははは‥‥あ〜あ」

 いつでも、どこでもお姉ちゃん、かぁ。


「ふぅ。ほんとに遠いなぁ‥‥『お姉ちゃん』って」

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