タルトたんとん

「はい、チョコとイチゴのドーナツですね。ちょっと待っててくださいね」

 白い車の中で、わたしは走りました。窓で注文きいたら、近くのスイッチ押して。ころん、と出来上がってきたドーナツに、手前にあるチューブにぎゅっ、と抱きついてしぼって。ふぅ、これでふたつ、と。

「フェレットちゃーん、こっちもおねがーい」

「はいはーい」

 ああ、またお客さま。あとなん往復しなくちゃいけないのかしら?

「ねぇ、いつものフェレットちゃんとは違うの?」

「はいー、ちょっと違うんですよー」

 いつもの‥‥はタルトさまね。それで、わたしがつくっても皆さん(おどろ)かないんですか。それにしても、

「あーん、もう。わたしにドーナツ屋さんまかせて、どうするつもりですか〜っ!!」

「どうしたの、タル‥‥じゃなくて、アズキーナさんだっけ?」

「え?」

 顔をあげたら、明るい髪の女の子がこっちをのぞきこんでました。

「えと、ピーチさん‥‥?」

「またかおるちゃんね? しょーがない。ミキたん、ブッキー、手伝おっか?」

 後ろにいた、あのおふたりにそう言ったら、みんなでパラソルよいしょって運びはじめました。あぁ、たすかりましたぁ。それじゃ、ドーナツづくりもおまかせして‥‥

「ちょ、ちょっとアズキーナさん。もどってもどって」

 え?

「わたしじゃ小さくて、おジャマに‥‥」

「でも、かおるちゃんにお願いされたんでしょ? そのドーナツマシンはね、かおるちゃんか、かおるちゃんがお願いした人しか動かせないんだよ」

 え〜〜っ!?

「お客さんの案内はするから。じゃ、お願いね」

 そんなぁ‥‥ あぁ、タルトさま、はやく帰ってきてくださ〜〜いっっ!


 ――たんとん・たんとん‥‥


 ふしぎな音が聞こえてくるなか、くるくる回る椅子に乗って、わいは虹色の景色をながめとった。

 かおるはんが一緒やから、ヘンでも危なくはないんやろうけど‥‥

「大丈夫やろか?」

 わいの口からポツンと言葉がこぼれたんを、

「アズキーナさんかい? あー‥‥うん。だいじょぶよ。あの街の人たちはノリがいいからねぇ。なんだったら手伝って作っちゃうかもしれないね。ぐはっ☆」

 かおるはんが拾うてくれたわ。お気楽やなぁ。

「それ、ええんかいな?」

 わいらは当たり前でも、人間が見ればフェレットやからな。食べもん運んだりして、つまみ出されるんやないか、思うたけど。

「いーのいーの。もともと、そんな感じの店だからね。みんなで作って、オレにぽいっ、って渡してくれたのさ」

 渡した? なんやろ、いったい。

「お、ついたみたいだね」


 ――たんとん・たんとん‥‥


 ふしぎな音がちょい大きなった思うたらすぐ小さなって、周りの景色が元に戻ってった。

 ふぅ。ちょい安心したわ。ドーナツ屋台でいきなり『ちょっと付き合ってんかー』言われてイスに座ったら、いきなりあの『たんとん』っちゅう音やったもんなぁ。まぁ、かおるはんのことやから、いちいち突っ込んどったら身体(からだ)もたんけどな。

 さて、まるっきりもと通り‥‥て、ほんまにもと通りやな。

「そんで、どこ連れてきたんや」

「ん? 移動はしてないよ。クローバータウンさ」

 移動してへん?

 わいはぐるーっとそこら見渡したった。ほんまに、公園も商店街もあんま変わらんなぁ。けど、

「そやけど、ドーナツ屋台あらへんやんか?」

「ん〜、ちょっと行き過ぎたかなぁ‥‥」

 ぼそぼそ言うてるけど、なんのことやろ? て、あれ?なんや、森のとこに誰か横になっとんな。

「‥‥んんっ?ちょ、あそこで倒れとんの、あんさんやないか!? いままでここにおったんに、なんやこら??」

「あ、気にしない気にしない。オレ、そこには声だけしか行けないから。ほら、同じ時間にふたりいるとややこしいからさ。オレは見えないの」

 同じ時間にふたり‥‥っちゅうことは!

「むかしに来たんかい!」

「ああ、そう‥‥だいたい7年前かな」

 7年?

「でもほら、違う世界は、よく行ってるじゃない、タルやんはさ。げは☆」

 相変わらずやなぁ。そやけど、まずは助けんとな。わいは森の方に走って‥‥ん?なんや、走ってるはずなんに、椅子から降りられへん?

「装置の外には出られないからさ。タルやんが思った方に装置ごと動くようにしてあるよ」

 はぁ。複雑なんか単純なんかわからん機械やなぁ‥‥さすがかおるはん、ちゅう感じや。っと、ついたついた。

「‥‥苦しんでる感じやないなぁ。食うてへん、とかやろか?」

「そ。このときはオレが仕事で失敗してね。飲まず食わずでここまで逃げてきたんだけど、倒れちゃってさぁ」

「逃げて、て。なにやらかしたんや?」

 声だけするとこに振り返ったけど、なーんも返ってきいへん。これも相変わらずや。ふぅ。

『あそこ、だれかたおれてる!』

 ドーナツも持ってへんし、どないして助けよか、思てたら、高い声が聞こえてきたわ。声といっしょに、まるっこいのがみっつ、ころころ走ってきとん。

「子供やなぁ」

 ちっちゃい女の子が3人。走ってきてんけど、こっちは見とらんな。わいも見えへんのかいな?

「ああ。3人とも知ってるでしょ?」

 知ってる?言われてみると、なんや覚えが‥‥あーっ!

「ぴ、ピーチはんや。ちっこいピーチはんたちやないか!!」

「正解。あの(じょう)ちゃんたちに、水とお手製のドーナツもらってね。なんとか生きかえったんだよねぇ。
 ま、付き合って欲しかったのはここじゃないし、退散しよっか」


 ――たんとん・たんとん‥‥


 またふしぎな音が聞こえて、目の前が虹色になってくんを、わいはぼーっと見とったんやけど、


『――オジサンなら、もっとうまいドーナツ、作れるぞぉ』

『じゃ、作って!』

『ああ。作ってあげるよ。かおるちゃん特製のドーナツをね。ぐはっ――』


 全部虹色になる前に、声がちっちゃく漏れてきたんや。

「それで、ドーナツ屋はじめたんか‥‥」

 わいが顔をあげたら、かおるはんが笑っとった。

 うなずきもせぇへんけどな。

「はい、オレンジクリーム。どうぞ☆」

 一番遠くのパラソルの下に、クリーム入りのチューブをおいたら、お客さんが目を白黒させちゃった。ふふ。

「ブッキー、それ終わったら、いちごねー!」

 屋台に返事して、わたしはまた、お客さんに向き直ったの。説明しないと、わけわかんないものね。

「すみません。今日はフェレット店長だから、細かいことできないんです。クリームはセルフサービスで、終わったら車にかえしてくださいね。そのかわり、組み合わせ自由でお値段そのまま、ですから♪」

 できるだけ、にっこり笑ってわたしは屋台に向かったわ。ラブちゃんが『たぶん大丈夫』で決めたことだけど、いい人ぞろいのこの町じゃなかったら、大変だよね。

「これなら、いつもの店長さんいなくても大丈夫じゃないの?」

 途中のパラソルから聞こえてきた声に、わたしは思わず首を振って。

「いいえ。クローバータウンには店長――かおるちゃんが必要なんですよ。ドーナツつくってなくても。くはっ★」

 ちょっとかおるちゃんを真似て言ってみたら、パラソルの下のお姉さんたちが目を丸くして見てた。


 うん、なんかいい気分。かおるちゃん気分♪

 ――たんとん・たんとん‥‥


「よぉし、こんどは時間も合ったかな?」

 かおるはんの声の後ろで、ふしぎな音がまた小さくなって、目の前の虹色が薄くなって‥‥

「うぉあっ!」

 わいは思わず飛び退いてもうた。椅子から降りられへんから、気分だけやけど。

『んー、フェレット?』

 なにせ虹色なくなったら、目の前がドーナツ屋台の窓。かおるはんの顔がどーんとあるやから。あー、びっくりしたわぁ。そやけど、

『この町で飼ってる子、いたっけなぁ?』

「フェレットやないわ、かおるはん! かわいいかわいい妖精さんの、タルトやっ!!」

 思わず叫んだわいの顔、かおるはんがじーっと見つめて、

『オレのこと、知ってんの? 有名になったもんだねぇ〜。ぐはっ☆』

 ここのかおるはんには、声が伝わるんやな‥‥って、そや。もうひとりのかおるはんや。時間も合った言うてたし、

「おーい、かおるはーん。わいはなにすればええんやーっ!」

 空に向かって言うたったけど、なーんも返ってきいへんな。ほんま、どないすればええ、っちゅうねん。

『なぁ、タルトくん』

「なんや、かしこまって。いつもみたいに『タルやん』でええわ‥‥て、わいのこと知らんのやったっけ。えろうすんまへん。で、なんや?」

『ここには、パラソルがあるのかねぇ?』

 ん?

「パラソルて‥‥あるに決まっとるやないか。ピーチはん――っとっと。プリキュアのことはまだ知らんのやった――ラブはんたちが、よぉたまり場にしとるんやから。
 ちゅうか、なんでここには置いてへんのや?」

『ん〜、ある? そっか』

 屋台の窓から外眺めてるかおるはんが、ゆっくりぼやけてきよった。また移動するんかいなぁ。

 それにしても、

「どないしたんやろ、ここのかおるはんは?」

「なーに、簡単なこったよ」

 わいが言うた声に、いままで(だま)っとった方のかおるはんが返してきたわ。簡単、やて?

「ここにはパラソルなんてなかったんだ。この時まではね。なのに、オレを知ってるタルやんは、ここにパラソルがある、って言ってる‥‥ってことは、タルやんは未来から来た、ってことになるのさ」

 はぁ。ンな面倒なことせんと、はっきり()いたらええやんか。

「時間は結構面倒でね。仕方ないから、言葉の端っこで見つけるしかないんだなぁ、これが。げはっ★」

 目の前がうすーく虹色に変わって、こっちのかおるはんが、いつもどおり腰に手をあてて笑てる姿も見えてきて。

 あー、はいはい。自称天才やもんな。わいの知らんこといっぱい知っとるんやろうけど、

「んで? わいが未来から来た、ちゅうんがわかっただけで移動て、なにがしたいんや?」

 わいがちらっ、とかおるはんの顔を見上げたら、くいっ、と手ぇが動いて、車の方さした気ぃがした。なんやいったい‥‥


『あ、中佐かい? 久しぶり、かおるちゃんだよ。
 発信場所はわかるよね?この街、オレの管轄(かんかつ)にするから。なんかあっても、いきなりすごい警察とか出さないでよ――』


 な、なんや。えらい物騒(ぶっそう)な言葉が聞こえてきたで?

「お願いする前に、やっちゃうんだもんなぁ。さすがだよ、タルやん」

 虹色が濃くなってくる中、わいの背中がとんとん、てたたかれた。

「嬢ちゃんたちのこと言ったろ? 妖精さんと自分と嬢ちゃんたちが未来じゃ知り合いになってる‥‥それできっと、なにかに巻き込まれるな、って確信したのさ。このときね」

 にやにや笑てる顔みてると、疲れてくるわ。あれ、ちょい待ちや?ちゅうことは‥‥あーっ!

「最初から知っとったんか、ピーチはんたちがプリキュアやっちゅうこと!!」

 わいがぴょん、と飛びつこう‥‥としたけど椅子から動けへん。あー、もう面倒やなぁ!

「タルやんのおかげで、名前だけはね。ちょっと聞き覚えのある名前だったんでさ、派手に暴れても、だれもケガしないようにしといたの。一応オトナだし、オレ。ぐはっ☆」


 ――たんとん・たんとん‥‥


 またふしぎな音が大きくなってきて、まわりはまるっきり虹色になってもうた。

 そんなかで、なんもない空みあげてるかおるはんは、なんや満足そうな顔しとったんや。わいが思わずためいきついてまうくらい、な。


 ――たんとん・たんとん‥‥


 音が小さなって、またまわりが公園になった。3回めやとさすがに慣れたなぁ。

「チョコチューブ、だれ持ってますかー?」

「ドリンク注文した方、どなたー?」

 遠くでドーナツ屋台の声がしとる。ピーチはんたちが手伝ってくれてるんやな。

 それにしても、いままでと違うて、屋台の前やないんか‥‥うわっ!?

「悪いね、タルやん。ちょっとどいてくれる?」

「い、言うまえに追い払うんやないわ!て、ちょい待ちや。その椅子持ち上げて、どないするつもり‥‥うわわっっ!?」


 ガチャン!!


 でっかい音たてて、椅子がバラバラになってもうた。な、なんや??

「できる、ってわかりゃ、悪いこと考えるひとは多いからねぇ。だから、ナイショ。
 ちゃーんと完成したら、使わせてあげるから。そうだ、タルやんから名前もらおう。『タルトたんとん』とかね。げはっ★」

 笑いながら屋台に向かって歩いてく影を、わいは何度かこわれた椅子振り向きながらついてった。

 たったこんだけのために、こんなどえらい機械作ったんか‥‥て思いながら。

「あーっ! かおるちゃんみーっけ!!」

 屋台にもどったわいらを最初に見つけたんは、やっぱピーチはんやったけど、

「おかえりなさい、タルトさま‥‥」

 わいはその脇すりぬけて、疲れきったアズキーナはんのとこで背中貸したった。

 かおるはんは、ピーチはんたちから叩かれながらこっち来とるし、はぁ。とりあえず、終わったかぁ。疲れる日ぃやったなぁ‥‥


『がんばってるね、おとうさん♪』


 んぁ?

 つぶってた目ぇを開けたら、目の前がぼんやーり虹色して、女の子の‥‥アズキーナはんよりちっちゃな子の声が聞こえてきたわ

 顔は見えへん。けど‥‥

花壇(かだん)の手入れ、ちゃんとやっとるんか?」

 大きく息すって、わいがゆっくりそう言うたら、

『かだん?うん、やってるよ。おとうさんがやれって言ったんだもん』

 ちっちゃな子ぉの声が、すぐ返ってきた。

「さよか‥‥」

 うしろにあの『たんとん』いうふしぎな音引き連れて、な。

『じゃ、またね☆』

 その言葉といっしょに、虹色も『たんとん』も消えて、わいの前にはまた、ドーナツ屋台のパラソルが広がってる。

「ん?どしたの?」

 いつもの声で、かおるはんが訊いてとん。けど、そやな。

「花壇なんか、わいの住んでるとこにはないんや。
 ‥‥帰ったら作らんとあかんな。アズキーナはんといっしょに」


 かおるはんの手が、わいとアズキーナはんの背中を軽ぅたたいた。『たんとん』、て。

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