そしてまた、ドーナツを

「――あー、兄弟、きょーだい? そろそろ起きや、かおるはん?」

 身体(からだ)()らされた気がして、オレはそっちに頭を向けた。

 サングラスの向こうじゃ、ちいさな影が腰に手を当てて立ち上がってるよ。ちいさなフェレット――いや、タルト、タルやんだね。

「ああ、寝ちゃってたかぁ。悪いね、兄弟」

 出てきた声も、ちょっとしわがれ(・・・・)ちゃってる。ありゃぁ、そんな疲れることしたっけねぇ?

「なんや、気ぃ抜けたんか?

 まぁしゃあないか。ピーチはんで最後やったもんなぁ。みんなの結婚式は」

 結婚?‥‥あぁ、そうか。そうだったっけ。

 オレみたいのが、新婦側のお客さんでお呼ばれだからなぁ。しかも4回も。そりゃ、いくらなんでも気疲(きづか)れするかぁ。でもさ、

「やれやれ、これでようやくひと段落だねぇ――」

 もともと、オレがこの四つ葉町に居ついたのは、あの嬢ちゃんたちに助けられたからなんだよなぁ。

『幸せゲット』なんてさ、ちっちゃな身体で無邪気(むじゃき)に言ってくれる嬢ちゃんたち見てりゃ、少しは幸せな方に押してやらなきゃ、って思うじゃない。それなりに色々やってきたオジサンの、そりゃぁ、ほんのちっちゃな夢ってやつさ。

 だから、オレはここに居続けたんだ。

 あっちこっちからの仕事の依頼を断って、昔取った杵柄(きねづか)をいくつも振り回してね。そのうち、むかしのオレを知ってる連中がオレに協力してくれるようになって、いまじゃすっかり、ふしぎなオジサンだよ。

 嬢ちゃんたちも、たまに魔法使い扱いするんだもんねぇ。ふしぎって言ったら、プリキュア(自分たち)の方がよっぽどふしぎだ、ってのに。

 ただのオジサンが無理もした、無茶もした。無謀なことだってした。それでもなんとか、『幸せゲット』にみんなたどり着けた、か。


「かなったかねぇ、ちっちゃな夢は――」

「――まーた眠ってしもたんか、兄弟? そろそろ、ふとんでちゃんと休まなあかんで?」

 よく響く声ではっとしたら、またちっちゃな身体がオレを揺らしてたよ。ほんとに、疲れちまってたんだねぇ、オレ。

「悪い悪い、兄弟」

 タルやんの長いお腹を両手で支えて隅のテーブルへ。それからオレは、天井見上げながらひとつ深呼吸した。

 そうだねぇ。これから、あのちっちゃな夢は、嬢ちゃんたち自身がかなえていくもんだし。オレの出番は、おしまいかねぇ‥‥


「ちゃんと休まんと、またすぐ来てまうで?」


 ん?

 テーブルに顔を向けたら、タルやんがじっとオレのこと見つめてる。来てまう‥‥来る、だって?

「一番早かったパッションはんとこ、赤さん産まれてんで。こないだ寄ったらとき()うてきたけどな。首すわったら見せに行きたいわー、言うてたわ」

 赤さん‥‥赤ちゃんね。

 そっか、次の世代、次の夢。ちっちゃな夢も、重ねてったら大きくなっちまうかぁ‥‥


「いやぁ。こりゃまだまだ、疲れ足りないみたいだねぇ。ぐはっ♪――」

「――るちゃん、かおるちゃん?」

 んあ? なんか、まぶしい、ねぇ。

「もう、かおるちゃん、って‥‥うわわっ!?」

 かくん、っと身体が倒れる感じで、思わずオレは何かにつかまっちまったよ。細くてやわらかいもの‥‥うで?

「ちょっ、と、かおるちゃ‥‥重、い〜っ!」

 おっとと。なんだ、ラブ嬢ちゃんの腕につかまっちゃったんだ。

「ああ、悪い悪い。ちょっと眠っちゃってたみたいだねぇ」

 腕から離した手で頭をかきながら、オレはこっそり嬢ちゃんを眺めてみたんだよ。

 きょう結婚したはずがない、中学生の(・・・・)嬢ちゃんを、ね。

「夢‥‥か」

「へ?なんか言った?」

 目の前で首をかしげてる中学生を見ながら、オレはそぉっと息をはいてさ、

「いやいや、なんでもないないないのナイアガラ、ってね。滝のジュースと岩のドーナツで乾杯ってなもんさ。げはっ★」

 そのまま目の前にドーナツ置いて、高いとこからジュースをコップに注いであげたんだよ。いつもの調子でね。

「ちょ、ちょっと、ジュースはねるって!」

 とっさに車から離れた嬢ちゃん見てると、夢のなかの白いドレスが重なってくるね。彼女が抱きかかえてる赤ちゃんも加えて、3人声を揃えて言ってる声が聞こえるよ。『幸せ、ゲットだよ』ってさ――


「いやぁ、大きな夢は終わんないねぇ。ぐはっ☆」

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